No.171030

人工少女

勘太郎さん

100匹の『竜』を倒し、その逆鱗を集めるため旅をする少年と、その傍らに寄り添う人工少女のお話。
未来ファンタジー小説です。

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2010-09-07 17:58:31 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:624   閲覧ユーザー数:602

 文明がピークを迎えて荒廃し、衰退した――「現代」。人類が築き上げた文化・技術のそのほとんどは失われ、彼らはまた一から歴史をなぞるようにその文明を作り上げた。過去の文明の大消失の際、何があったのか知る人間は一人もいない。その置き土産といえば、今も地上を跋扈する機械仕掛けのドラゴン――それだけである。

 ドラゴン達は金品を収集し、人間に敵対的で、なおかつ無類の戦闘力を誇る。人間達は彼らの目を恐れ、逃げ惑う生活を強いられている。しかし、それを良しとしない人間もいた。そんな彼らはハンターと呼ばれ、逆にドラゴンを狩る仕事を生業としていた。普通の人間なら逆立ちしても敵わない存在であるドラゴンに対し、ハンター達はどこから発掘してきたのか、前時代のオーパーツ……科学技術の粋を結集した武具で戦うのだ。

 この物語の主人公の青年、リアもそんなハンターの一人である。ただしリアのオーパーツは他のハンター達が持つような異質な剣や銃ではなく、人語を解する少女の形をしたアンドロイド。名をイブキという。

 これは、そんな二人にスポットライトを当てた物語である――。

 

<登場人物紹介>

・リア:この物語の主人公。イブキを「人間」にするため、100枚の逆鱗を集める旅をする青年。

 

・イブキ:リアと共に旅をする、アンドロイドの少女。

 

・ルシア:イブキの開発者。リアをけしかけた張本人。現代では不可能とされる、オーパーツ解析を可能とする数少ない人間。

 

 

 星の綺麗な夜だった。ようやく五十七枚目の逆鱗を入手し終え、適当な岩陰で一息ついていた頃。イブキが、じっと俺を見つめていた。

「……ん? どうした、イブキ」

 イブキの蒼い瞳には、少し笑った俺の顔が映っている。……イブキの瞳。初めて出会った頃、イブキはそれこそ人形だった。何の感情も浮かべず、その無機質な瞳にただ風景を映し出していただけ。しかし俺と旅に出て、その実イブキはその胸に様々な感情を持っている事を知った。それはルシアの技術による作り物の感情なのかもしれないが、けれどこうしてイブキは生きている。それが作り物で何が悪い。ルシアの行為はある種、生命の創造だと思っている。意志を持ち、笑ったり泣いたりする事に違いなんてないだろう。だから俺は、あの男を尊敬していたりする。こんな事、本人の前では口が裂けても言いたくないが。

 そんな事を思いつつ、イブキを眺める。イブキは先程から俺の顔を凝視したまま、動かない。……一体、何だというんだ?

「何だ、イブキ。俺の顔に何かついてるのか?」

 ここで、ようやくイブキは俺の言葉に反応した。はっとしたように顔を上げ、しばらく何かを言おうと逡巡した様子を見せる。

「……イブキ?」

「いえ、何でもありません。明日の天気について思案をしていました」

 ことさら無表情になり、「私は怪しい者じゃありません」と言わんばかりのお手上げポーズをとるイブキ。……うわあ、胡散くせぇ……。

「リア、何ですかその顔は。さては私の言葉を信じてませんね? ならば証明してあげましょう、空気中の水分と季節風向経緯の測定に占星術を加え、私の天気予報の的中率は何と百%です。まず明日の天気は晴れるでしょう。明後日は曇り後晴れ、明々後日は曇天……」

「いいから。もうそれはいいから」

 天気予報を続けるイブキをとりあえず黙らせた。このままだと一年後の天気まで当てかねない勢いだった。

「喜んでください。私にはリアのためになるような機能が満載です」

「……その割に苦労が絶えない気がするんだが」

「気のせいでしょう。そんな事気にしてたらハゲますよ」

 ……諸悪の根源が何を言うか。しかし、会話が途切れるとまたイブキは先程のように俺を凝視するのだ。……俺、何かコイツの気に障るような事したかな? もう埒が明かないので、思い切って尋ねてみる事にした。

「――なあ、イブキ。さっきから気になってたんだが、そんなに俺の顔が気になるのか?」

 やはり図星だったのか、イブキは目を見開いた。

「……ばれてしまいましたか」

「気付いていないとでも思ったのか?」

「……そうですね。先程のようなぶしつけな視線では、リアにばれる事くらい分かっていたはずなのに。今の私は、その程度の演算処理もできないみたいです」

 ふう、と自嘲気味に肩をすくめるイブキ。いつものイブキらしくない動作に、俺は少し動揺しつつ聞いた。

「……なあイブキ、どうしたんだ? 何か悩み事でもあるのか?」

「…………」

 イブキは少し夜空を見上げ、俺の方に向き直った。

「リア。私とあなたがドラゴンを倒しに旅に出たのは、何年前ですか」

 そうだな、もうあれから随分経った。二人で初めてドラゴン退治に出たのは俺が十四の頃だった。あれから多くのドラゴンを倒し、百枚の逆鱗集めも折り返しに差し掛かった。

「……もう、六年になるかな。早いもんだ」

「六年……」

 その言葉を噛み締めるように、イブキは再び夜空を見上げる。ガラスのようなイブキの瞳には今、無数の星が映っている。その姿はどこか神秘的で、俺はイブキに声をかける事ができなかった。

 やがて空を仰ぐのを止めたイブキは、こちらに歩み寄ってきた。

「――リア、お願いがあります」

 こんな真剣な顔のイブキを、俺は見た事が無かった。ドラゴンとの戦闘とはまた違う、何かを悩みつつも決意を秘めた表情。きっと、これから告げられるイブキの願望はとても難しい事なのだろう。しかし、イブキにとって大切な事に違いない。なら、俺の答えは一つだ。

「――いいぜ。お前の願い一つ聞き届けられず、何がマスターだ。言ってみろ。万難を排してでも、叶えてやる」

 不敵に笑う俺を見て、イブキはわずかに、わずかにだが優しく笑った。滅多に見ないイブキのこの笑みを見れただけ、この願いを聞き届ける甲斐があったというものだ。イブキの笑みはすぐ引っ込んだものの、安堵と嬉びの雰囲気は伝わってくる。イブキはそのまま俺の側まで近寄って、

「リア――私を抱いてください」

 と、さらりととんでもない事を言った。言いやがったこの野郎。

 

 

 口論する事二十分。イブキが言ってたのは、もちろん体の中から武器を出せという意味ではなく、女としてここで抱けという事だった。どうしてイブキが突然そんな事を言い出したかというと、成長しない自分の体に悩んでいるんだそうだ。言われてみれば、確かにその通り。俺は人間で、イブキは機械。六年前は少年だった俺も、今ではいい大人になろうとしている。一方、イブキは今も昔も外見は十五歳前後の少女なわけで。成長していく俺を見て、否応にも時の流れを見せ付けられ、今でも俺と繋がっている確かな絆が欲しかったんだそうな。

「そんな物――今更求める事でもないだろうに」

「何を言うのです。リアは自分で気が付いていないだけです。世界は刻一刻と変化し、同じ存在であり続ける物などありません。……私のような、機械を除いては」

 イブキは、やや顔を俯けて話を続ける。

「私は定期的にアップデートという名の変化を自身に促す歪な存在です。人間となるためのはずのアップデートなのに、それを行う度に私は人間でないと突きつけられる矛盾……。リアに理解できますか?」

 イブキが……こんな悩みを抱えていたなんて。六年も暮らしていながら分からなかったのか? いや、だからこそわざと目をそらしていたのかもしれない。俺が答えに窮していると、イブキがゆっくりと近寄ってきた。そのまま彼女は手を掲げ、俺の髪に触れる。……六年という歳月は、俺とイブキの身長差をここまで広げてしまっていた。

「――リアの、髪」

 ゆっくりと、さらさらとイブキは俺の髪を撫でる。しばらく風呂にも入っておらず埃を被った俺の髪だが、イブキはそれを愛おしそうに撫で続けていた。

「リアの髪も、日に0.3mmずつ伸びています。私には、その些細な変化すら羨ましい。機械の私には、それがありません――」

 イブキは俺を見る。俺もイブキを見る。俺達の瞳には、互いの顔が映し出されている。

「リア。証を。私がここにいるという証を下さい。私は時間に隔絶された人工少女。しかしリア、あなたのお陰で時間に追いつく事ができる。時の流れを生き、誰よりも私を知るあなただからこそ、私は世界と繋がっていると認識できるのです。……マスター、お願いです。この私の悩みをかき消して下さい」

 イブキが懇願する。俺の行為を、待っている。

 俺はイブキの肩を優しく抱え、そのまま――

 

 

 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

 

 

「ヘタレです。リアは何てヘタレですかあのフニャ○○野郎」

 三日前の事を思い出しただけで、また苛立ちが募ってきました。あの後、リアはキス一つしただけでその行為を終わりとしたのです。私の方からあれだけ迫ったのに、ドラゴンと戦う時はもっと激しく行うのに……。はっきり言って甲斐性なしですあの男は。

 今、リアは「ちょっとした用事」という事で宿を出ています。私も付いて行こうと申し出たのですが、リアはどうしても一人で出かけたいと私を置いて行ったのです。何て可哀想な私でしょう。そして、健気な女の子を一人置き去りにするリアの神経も知れません。あんな男は豆腐の角にでも頭ぶつけてくたばるべきです。

「……どこか焦っているのかもしれませんね、私は」

 そもそも、なぜ私はあんな事を言い出したのでしょう。私が機械である事など、百も承知だったはずなのに。……でも、あの夜。月明かりに照らされるリアの横顔を見、リアの鼓動や体温をセンサーで感じ取るうちに、私とリアは種として決定的に違うのだという事を改めて思い知らされたのです。……私は機械。リアの所有物。逆立ちしても、人間になる事などできません。だからこそ、リアの温もりが欲しかったのかもしれません。

「でも、百枚の逆鱗は不可能を可能にしてくれます。私はいつか、人間になる事ができる。そして、それは実現しつつあります」

 人間になる。それは私の確かな願いです。ですが……。

「人間になって、私は何をしたいのでしょう――」

 答えのない問いは宙に消え、私の思考を乱し続けます。このまま演算装置に重度の負荷をかけ続けると、ショートするかもしれません。いい加減踏ん切りをつけるべきなのに、私は止められません。

 ――ああ、やはり私はこんなにも不完全です。リア、リア。とにかく今は、あなたに会いたいです。あなたの顔を見れば、この迷宮のような思考から抜け出せるような気がします。リアの事を思うだけで、私はこんなにも救われるのですから――

 

 

「ただいま、イブキ」

 突如、背後から声がかけられました。慌てて振り向けば、そこに買い物袋を手提げたリアが立っています。いつの間にか部屋の扉は開いており、思考に没頭していた私はここまでリアが来ているのに気付かなかったのです。会いたいと思っていた人物が目の前にいる事で、私は焦りました。その挙句、出てきた言葉は

「乙女の部屋に入る時はノックくらいするものです」

 といった照れ隠しでした。今、私の顔は演算装置が過負荷のために高熱を発し、赤くなっている事でしょう。我ながらなんと無様な姿でしょうか。情けない。

 リアは、そんな私の態度に気付いているのかそうでないのか、袋の中をゴソゴソと漁り、一つの物を差し出してきました。

「ほら、イブキ。これをお前にプレゼントだ」

「……腕輪、ですか?」

 リアから受け取ったのは腕輪と思しき物でした。金属製のリングには花模様が施されており、裏側にはスターチスと彫ってあります。確かにこの花はスターチスと思われます。花に見える紫の部分はがくで、本当の花は白いわずかな箇所しかありません。ドライフラワーにするといつまでも色褪せないところもポイントです。

「……渋いですね。私もこういったのは嫌いではありません」

 しかし、リアはどうして突然これを私にくれたのでしょう。そう思いリアの方を向くと、「それを探すの苦労したんだぜ」と彼は照れ臭そうに頭をかきつつ答えてくれました。

「スターチスの花言葉は『永遠に変わらぬ思い』だそうだ。……イブキ。俺は機械であるお前の苦悩を本当に理解してやれなかった。六年も一緒にいたのに、情けない話だよな。だから、これはせめてもの俺の償いだ。その腕輪と共に、俺の心をお前に伝えたい」

 そこでリアは言葉を切り、私をまっすぐに見つめてきました。私の緊張はそれでピークに達しました。フリーズしないよう制御系を駆動させるので精一杯です。

「――イブキ。何があろうと、俺はお前と共にあり続けたい。お前が俺との絆を求めるのなら、それも構わない。むしろイブキが俺を求めてくれている事が分かって、嬉しかった」

 けどな、と一言置いて、リアは続けます。

「今のイブキは、どこか危うい感じがするんだ。ちょっとバランスを損なうと、そこから一気に崩れていくような……。何か間違うと、取り返しのつかない事態になりそうで……。だからその、お前を抱くのは少し性急かなと思ったんだ。何も焦る事はないさ。……それともイブキ、俺がお前の側にいるのは嫌か?」

 私は慌てて首を横に振ります。リアが側にいない未来など考えられません。

「なら問題ない。安心しろ、イブキ。俺とお前は求めるまでもなく、確かに繋がってるよ。互いが互いの側にいたい、これ以上のつながりなんてないだろう? ……まあ、それでも目に見える物がないと『想い』ってものはふやけてしまう時もあるだろう。先日のお前のように、な。だからイブキ、その腕輪をやろう。もしこれから先、お前と俺の距離がおかしくなったら――それを見て、思い出せばいい。俺はいつでも、お前と共にありたいんだと」

 こちらに微笑むリアの顔。それを見て、ようやく私は得心しました。

 ――なんだ。私はリアを愛していたんですね。

 人間になりたいのも、よりリアと近しい存在となるため。リアと子を成し、共に老いたいという私の願望だったのでしょう。幸い、その願望は叶いつつある。……なら、リアの言う通り焦る事などありませんでした。私達の想いが、確かなものなら。

 手に取った腕輪が、心なしか温かいように思えました。これは、きっとリアの心の温かさなのでしょう。

「――リア、今の言葉はプロポーズと受け取ってよいのですか?」

 そう尋ねた途端、リアは一気に顔を赤くし挙動不審に陥りました。……ああ、本人も改めて自分の言葉の意味を理解したようです。何というか、リアはこういった事は鈍感だと思います。

 やがて落ち着いたリアは、咳払いを一つして言いました。

「……いや、今のは俺の本心だけど。プロポーズは今度改めてさせてくれ。どうせなら、プロポーズには腕輪よりも指輪を送りたいからな」

 という事は、いずれリアは私に求婚をしてくれるそうです。機械に求婚など、聞いただけで呆れてしまいます。……なのに、頬の緩みが押さえられないのはなぜでしょう。

「リア。いずれ人間になるとはいえ、私は機械です。ついに頭がトチ狂ってしまったのですか?」

「構わないさ。イブキはイブキで、俺はそんなお前が好きだから」

 全く、我がマスターの馬鹿さ加減には言葉を失ってしまいます。プロポーズの約束をすること自体、プロポーズをしているようなものなのに。リアは、その事に気付いているのでしょうか?

 笑いを堪えきれなくなった私は、珍しく声に出して笑いました。嬉しい、幸せといった感情が胸に込み上げてきます。

私はイブキ、人工少女。一から十まで作り物の私は、しかし。この幸せだけは作り物ではないと知りました。

 

 

 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

 

 数日後、何度目になるか分からないアップデートをルシアの家で行った。いつもはイブキのアップデートに俺も付き添うのだが、「今回ばかりは秘密だ」とルシアは俺を家の外に追い出した。理由を尋ねても「後で分かる」の一点張りだったので、俺は仕方なく外で時間を潰す。小一時間ほど経過し流石に待ちくたびれた頃、ルシアが家の中から出てきて言った。

「待たせたな。中に入るといい」

「遅ぇよ、外で待ってる身にもなってみろ」

 俺の悪態にも奴はちっとも動じず、「悪かったな」としか言わない。……そう、ルシアってのはこんな奴だ。責めるだけ無駄だというのは俺もよーく知っていたので、ルシアの相手も程々にさっさと家へ上がらせてもらう。俺を外に出してまで見せたくなかったというアップデートの結果も気になる事だったし。

 しかし部屋の中にいたのは――見た事もない、ドレスを纏った大人の女性だった。ここにいるはずの、イブキの姿はどこにもない。

「何だ、お前……?」

 彼女は何も言わず、こちらをじっと見ている。全てを写すような、ガラスのような蒼い瞳。……俺はそいつに、見覚えがあった。この女性の雰囲気を、体が覚えていた。

「――ま、まさか……?」

 黄金のような長髪。雪みたいな白い肌。それらはまるで人形のような繊細さで、しかし人形というにはあまりにも存在感がありすぎて。極めつけは、彼女が腕にしている金属製のリング。それは俺がよく知っている――

「イブキ……」

 俺がその名を口にすると、彼女は正解と言うように笑みを浮かべた。

「ようやく分かりましたか。相変わらずリアは鈍いと言わざるを得ません。そんな事では、これから先が不安です」

 この人を食ったような口調は、間違いなくイブキだった。驚きで呆然とする俺に、背後からルシアが説明をした。

「逆鱗も十分数集まってきたため、インターフェイスにも手を加える余裕が出てきた。変化したのは外見だけではなく、イブキの筋力や体力も大幅に向上させることに成功した。……そうだな、もうイブキは立派な成人として扱える。この調子でアップデートを続ければ――いずれ、イブキは人間となるだろう」

 頑張れよ、とルシアが肩に手を置いた。俺はというと、大人になったイブキに何て声をかけてよいか分からず、立ち尽くしたままだった。

 そんな俺に対して、もはや俺とほとんど変わらぬ目線となったイブキが尋ねてくる。

「リア……できれば感想をお願いします」

 感想、と言われても。漠然と頭に浮かぶのは、

「綺麗になったな――」

 ……はっ、しまったっ! つい考えなしに本音を漏らしてしまった! イブキの事だ、こんな事を言ったが最後調子に乗って……。

「リアの言葉は確かに録音しました。私は綺麗になったと。やはりリアもこのボディにメロメロになったようです。今の言葉は最上層メモリーに保存され、これから事あるごとに再生するでしょう」

 うわあああやってしまった! どんなに成長しても、やはりイブキはイブキなんだと確信させられた。……けれど、それで安心している俺がいる。急激な体の変化に、イブキはきちんと付いて来れているのだ。イブキの言った通り、あいつの体は時の流れに取り残されたかのように変化がない。けれどこうしてアップデートを繰り返すことで、少しずつだが時を追いかけている。歪な形ではあるが、イブキはそうして生きているんだ。そのためにも俺は、逆鱗を集め続ける。いずれイブキを、完全な人間としてやるために。

「ほらリア、もっと私の美しさに酔いなさい。『綺麗になったな――』」

「いきなり再生してんじゃねえっ!」

 

 永遠に変わらぬ思い。機械でも、人間でも、少女でも、大人でも。イブキだからこそ、俺はあいつの側にいたい。

 俺と戯れるイブキの腕輪が、そんな俺の思いを受け止めたかのようにキラリと光った。

 

 

 

 終

 

 

ここから先は楽屋裏、おまけコーナーです。

本編のキャラクターが著しくブレイクしますのでご了承下さい。

 

リ「リアと」

イ「イブキの」

二人「「あとがきコ~ナ~!(ぱちぱちぱちぱち)」」

 

イ「『綺麗になったな――』」

リ「いきなり羞恥プレイかよ!? ……で、イブキ。今回はせっかくのファンタジーながら戦闘の一つもなく、むしろお前の成長シーンだったわけなんだが」

イ「『綺麗になったな――』」

リ「まだ続くのそれ!? お願いですもう止めてください。羞恥で死にそうなんで」

イ「ふう、仕方ないですねリアは。私を褒め称えるのも畏れ多くてできないとは、私はなんて罪深き美を持ったのでしょう」

リ「(誰もそんな事言ってないが、ツッコむとまた羞恥プレイを食らいそうなので流そう)何だかんだと、いきなりコアな設定持ち出されてTINAMI読者が混乱しそうな話だったわけだが」

イ「設定など二の次です、そんなものは犬にでも食わせればいいのです。今回は私の揺れ動く儚いオトメゴコロを表現できれば、それで十分なのです。偉い人にはそれが分からんのです」

リ「…………。で、だ」

イ「何ですかそのリアクションは」

リ「(無視)作者はその際のキーアイテムとして腕輪を出したが、あの花言葉は実在のものらしい。ぴったりの花言葉を探すのは存外に難しい、との事だった」

イ「でもある意味、この話で私達の関係が決定してしまいましたね。永遠の愛を誓った仲なんですから(ポッ)」

リ「さらりと心臓止まるような事言わないでくれる!? しかもそれちょっと誇張入ってるしっ!?」

イ「チッ、既成事実を作ろうと思ったのですが失敗しました」

リ「チッって、おい……。何というか、ここではイロモノだよな俺達……」

イ「それにしても今回の事ですが、あのまま私を押し倒さないとはやっぱりリアはヘタレですね。やーいやーい」

リ「それを言うなよ、少し気にしてるんだから……。何か嫌な予感というかだな、焦り過ぎって気がしたんだよあの時は」

イ「ほほう、つまりバッドエンドフラグの匂いがしたという事ですね。フラグ回避、おめでとうございます」

リ「やめてその胡散臭い表現! あのな、一応これは全年齢対象の健全な小説をモットーとしてるんだぞ。それに、そんな18禁まがいの行為を作者が書けるはずないじゃないか」

イ「分かりました、訂正します。ヘタレ野郎は作者なのですね」

リ「(可哀想に……)で、イブキ? ところで今、お前は何を描いてるんだ? 見たところ漫画みたいなんだが」

イ「みたい、ではなく漫画です。私の機能をもってすれば、プロ顔負けの漫画を描くなど朝飯前です」

リ「ほぉー……それは凄いな。その有り余るほどの無駄な機能に少し眩暈を覚えるが。ちょっと読んでみてもいいか?」

イ「どうぞ。できれば感想もお願いします」

 

×××××××××

 

先輩ハンターのクリフ(男)とリアが、ひょんな事で二人きりに。

 

リア「ああっ、クリフ先輩! 止めてください、そ、そこは……」

クリフ「……ふふ、もうこんなになってるのか。最近だらしねぇな」

リア「せ、先輩の……すごい……」

クリフ「俺の大剣を味わってみろ。破壊力バツグンだぜ!」

 

▲※◇#&%$!〒*@★㊥∞♂♂⊿♂♂♂

 

×××××××××

 

リ「うぎゃああああああっ! 何で俺がクリフの野郎とおおおぉっ!?」

イ「ほら見てください、このページ。リアを巡ってクリフとレニ(やっぱり男)、二人の先輩が決闘するんですよ。でもリアの心はクリフにあって、最後はレニが自ら身を引くんです。典型的なクリ×リアなんですが、個人的にはレニ×リアでもご飯三杯はいけます。ああ、受けだけでなく攻めなリアも開発すべきでしょうか」

リ「やめろ! やめてくれ頼むから! 俺は至ってノーマルなんだ、そっち方面には間違っても開花したくねえんだよおおっ!」

イ「そうですか……残念です。でも、この作品は必ず仕上げて次の夏コミに参加しますのでそのつもりで」

リ「……なあ、その手の知識ってやっぱり……」

イ「ルシアです。アップデートの度に新たな『萌え』の概念を学習しています」

リ「やっぱりアイツかよ!」

イ「そういえば、この前ルシアのパソコンのデスクトップをちらっと見かけましたが、画面一杯にアニメの女の子の画像を飾っていました。確かあれは某リリカルな魔法少女でした」

リ「俺、今回の冒頭でアイツを尊敬してるって言ったけどアレ嘘! もうあんな野郎と話したくもねえっ!」

イ「それだけではありません。ルシアの戸棚の奥には、等身大のフィギュアやギャルゲーのポスターがたくさん埋まっています。巧妙に隠されていたため、リアは気付いてないようでしたが」

リ「…………(絶句)」

イ「いい加減現実を認めましょうリア。ところで、私は一番のヒロインたろうと色々努力していましたが、それだけでは読者の人気は集められません。そこで思いついたのが、私自身が新たな萌えを生み出せばよいのです。それがこのやおい漫画であり、同人作業なのです。どうですか、この画期的なアイデアは。私は同人界の神になる!」

リ「……ものすごくダメな方向に走ってると思うぞ、それは」

イ「くそっ、やられた!」

リ「…………」

イ「とまあ、ページも尽きてきたので今回はこの辺りにしておきましょう。漫画も完成させてませんし」

リ「……マジで描きあげるのか、それは」

イ「何を言っているのです。リアも手伝ってください」

リ「何が悲しゅうて自分のやおい漫画を手伝わにゃならんのだ!」

イ「……『綺麗になったな――』」

リ「ぎゃーやめろやめろ止めてくださいそれだけは! 分かった分かった、手伝えばいいんだろ手伝えばようおうおう……(涙)」

 

 その後、自己嫌悪のあまり「あはは、クリフ先輩~」「レニ先輩の馬鹿~」とリアが焦点の合わぬ目で呟くようになったというが、真相は定かではない。

 

 

 

 ――色々なものが完!

 


 
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