No.170949

真恋姫無双 短編 √秋蘭

米野陸広さん

どうもです。
長編の息抜きに読み切り短編書いてみました。
この秋蘭は俺の好きな部分を勝手に改造した秋蘭です。
デレさせたかったけど、まだ、……まだなんだ!

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2010-09-07 05:23:41 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:9691   閲覧ユーザー数:8004

 

 

真恋姫無双 魏書 女としての幸せを

その日は珍しく華琳の叫び声から一日が始まった。

「一刀、一刀はいる!?」

「ど、どうしたんだよ華琳!?」

ノックもなしに華琳は一刀の部屋へ飛び込んだ。そこには書簡を丁寧に片付けている一刀がいた。別段普段と変わらぬ光景である。

しかし、様子が変だったのは華琳であった。

「ど、どうしたんだよ、じゃないわよ。あなたねぇ、いったい何をしているのかしら?」

「え、何って、いつも通り仕事を」

「そんな場合じゃないでしょ!」

「は?」

呆気にとられた顔をした一刀を見て華琳は嘆息する。そして何かに気づいたかのように厳しく眦を上げた。

「あなたまさか、何も知らないんじゃないでしょうね」

「何もって、何を?」

首をかしげた直後、また遠くから大声とともに一人の女性がやってきた。

「ほ・ん・ご・う~~~~~~!!!」

こんな呼び方をする人間は一人しかいない。魏武の大剣こと春蘭であった。

反射的に一刀は今までいた場所から横っとびしてすぐに華琳の背中に隠れた。

一瞬遅れて、今まで彼が座っていたイスと机が真っ二つになる。

「しゅ、春蘭、お前、今俺を本気で殺すつもりだったろ」

「当たり前だ!! 華琳様今すぐそいつを私の前に。上半身と下半身を真っ二つにしてやります」

「そうね、そのほうがいいかもしれないわ」

と言って華琳はすぐに一刀を春蘭の目の前へと差し出した。

「か、華琳、ちょっと待ってくれって。俺何かしたのか?」

「何かした、だと? 貴様、私の妹を身籠らせておいて、よくもそんなことをぬけぬけと」

今にも七星餓狼を振り下ろしそうな春蘭を目の前に、一刀は呆然とする。

「子供? ができた。秋蘭に?」

「ええ、今朝なんだか調子が悪そうだったから、聞いてみたのよ。そしたら……って、あなた本当に何も聞いていないの?」

「ああ、で、間違いじゃないんだな。その、秋蘭に、子供、しかも、俺の」

現状を把握し始めたのか、一刀は軽くガッツポーズをする。瞬間、一刀の目の前を何かが横に通り過ぎた。

ハラリ、と前髪が斬られたのを見て、先ほどと構えが変わっていない春蘭の目が凍っているのを確かめる。

「次は確実に首を飛ばす。希望があれば今のうちに言っておけ」

一刀は、何度も命の危険を感じてはいたが今日ほど死を覚悟した日はないと感じた。しかし、次の瞬間彼は救われることになる。

「姉者、そのあたりで勘弁してくれないか。生まれてくる子供に父親がいないというのも可哀想だからな」

一刀の危機を救ったのは話題の人である秋蘭だった。みるみる気が小さくなっていく春蘭に刀を下させる。

「秋蘭、あなた、動いても大丈夫なの?」

華琳は先ほどまで安静にさせていた秋蘭に声をかける。

「まだ、激しい動きさえしなければ問題ないとのことですから。それより北郷、報せるのがこのような形になってしまってすまなかったな」

やわらかな笑みを浮かべる秋蘭。それに対して春蘭は不服そうな表情だ。

「やっぱり本当、なのか」

「ああ、二ヶ月目だそうだ」

その言葉に一刀は天を仰ぎ見た。

「一刀、どうしたの」

「いや、その嬉しくて、思わず……」

「そう、……じゃあ、あなたの仕事分かっているわね?」

「へ?」

「軍部のことはあなたには荷が重すぎるだろうから、春蘭に任せるわ。その代わり、政務については全てあなたが肩代わりしなさい」

「あ、あの華琳さん? それは少しばかり……」

返そうとする言葉にきつい目が突き刺さる。

「それともなにかしら、あなたは自分の妻になる人間の手助けもしないぐうたらなのかしら?」

「いや、喜んでやらせていただきます」

断ることなどできるはずもなかった。

「それでは、春蘭、戻るわよ」

「はい、華琳様! ……おめでとう、秋蘭」

「二人とも、祝福するわ」

まるで嵐のようであったが、机の残骸が残る部屋に取り残された二人は幸せな空気に浸っていた。秋蘭にしてみればこれ以上ない祝いの言葉だった。自らの姉と主君に祝われたのだから。

「ありがとう、姉者」

「ありがとう、華琳」

部屋を後にする二人に、秋蘭と一刀はそっと言葉をかえした。秋蘭の頭が一刀の肩に乗せられる。それに合わせて一刀は秋蘭の肩を抱き寄せた。

 

その日から秋蘭は言ってしまえば暇になった。

華琳の命によって、仕事を取り上げられてしまったのだ。そのため愛すべき夫の部屋にお邪魔することにしたのである。

気兼ねなくいられるという理由もあるが、なにより自分の子供に父がどういう姿でいるのか知ってほしかったのである。もちろんまだそんなことが分かるはずもないのだが。

「……なぁ、秋蘭」

「ん、どうした北郷?」

新しくした机と椅子で書簡を片付けている一刀が秋蘭に語りかけてきた。その調子はどこか申し訳なさそうだった。

「暇、じゃないか?」

「……とはいっても、することがあるわけでもないからな。せいぜい私は旦那様のそばにいることにするさ」

「そ、そうか」

彼女の言葉に頬を染める一刀。そんな彼の姿を秋蘭は笑みを浮かべながら眺めていた。

(まったく、閨の中ではあれほどまでに強引になれるくせにこういうときはまるで、初心な娘のようだな)

「私のことは気にせず、仕事を続けてくれ」

「あ、ああ」

応えると同時にだんだんと一刀の意識がこちらから離れていくのがわかった。するとどうだろうか、秋蘭は自分がふと場違いな存在になったような気がした。

そこで思い返す。そういえばこうして二人きりで一日中一刀の部屋で過ごすのは初めてであることを。

すでに陽は暮れたが、座っている寝台からは干したばかりなのだろう、布団が太陽の香りを漂わせていた。

姉の部屋とは違い物は必要最低限で整っている。壁には天の衣がかかり、きらきらと光り輝いている。

間違いなくこの部屋は魏にあるのだが、どこかこの部屋自体はまるで魏にないように思えるのだった。

平和な空間。戦をしていたことなどなかったようなそんな感じすらする空間。そんな空気を発している男が彼女の眼前にいる。

(天の御遣い、か。天の国は本当に平和なところだったのだろうな……。できることなら私たちの子供が暮らす世界もそうであってほしい)

そんなことを秋蘭が考えていると、ふと一刀は筆を置き彼女に話しかけてきた。

「なぁ、秋蘭。これから平和になるよな?」

「どうした北郷。突然」

先ほどまで自分のたどっていた思考を急になぞられたようで驚く。

「いや、なんだか自分の子供ができたとおもうと、な」

そう言って頭をかく一刀のことを秋蘭はいとおしく思った。彼女は知っていたからだ。平和な世界から来た彼だからこそ、この時代で平和を守りぬくことがいかに難しいかを理解していることを。

「ふふふ、そう思ってくれるならこの子も嬉しいだろうさ。それにな、北郷……」

「ん、何だ秋蘭」

「平和になる、じゃなくて私たちでするんだよ」

その言葉を聞いて一刀はにかっと笑った。

「それは、そうだな」

一刀と話すとき秋蘭はこの部屋に自分が溶け込むのを感じた。一刀という存在は自分の空間に相手を引きずりこんでしまう魅力があった。魏の将皆から愛されるほどの魅力が。

ふとそのことが頭に過ると、秋蘭は心が痛むのを感じた。

(一刀は皆の一刀でもある。私だけ独占するわけにはいかない。でも、今この時だけは私だけの一刀であってほしい)

「なぁ、秋蘭」

「ん? どうした北郷」

「んっとさ、今日はこの部屋に泊っていかないか?」

恥ずかしそうに誘う一刀。秋蘭はそんな彼の表情を見ながら頬笑み、頷いた。

一緒の寝台で行為をするわけでもなく、ただ見つめあっていた。

窓からは月光が差し込み、一刀の部屋を自然の明かりだけが照らしていた。

お互いの瞳にはお互いの顔しか映らない。

「不思議だな」

「どうした?」

「いや、こんなそばに秋蘭がいるのに、全然いやらしい気持ちにならない。でもすごく惹かれてる」

「ふふふ、私もだ。とはいってもいつも抱かれるときは姉者がいたからな。こうして二人でいるだけでも、ずいぶんと気持ちが違う」

「秋蘭、春蘭のこと好きだもんな。俺だって春蘭のこと好きだけど、秋蘭ほどじゃないとおもうよ」

「ふふふ、この気持ちは華琳様にも負けるつもりはないよ。というか北郷、今は私しかいないんだ。たとえ姉者であってもほかの女の名前を逢瀬の時に出すのはいかがなものかと思うぞ」

「あ、ごめん」

「だが、それがお前らしいのかもしれないな」

そういって二人は笑いながら軽く口づけを交わした。

「あまり、夜更かししちゃだめだよな」

「そうだな、寝るなら寝たほうがいいだろう」

「俺じゃないよ、秋蘭がだよ。俺たちの子供のためにも」

「ああ、そうか……」

「それじゃあ、秋蘭。おやすみ」

「ああ、北郷おやすみ」

まどろみはまだおとずれない。しかし幸福というものがあるとすれば、確かに今この時のことなのだろうと秋蘭は思っていた。

自分がいて、子供がいて、夫がいる。

(一刀が来るまでは考えたこともなかった)

秋蘭は戦乱の世において達観していた。自分は武人であり、また武人である限り主君に忠誠を誓いまたそのために命を散らすのだろうと。

だが今、その繋ぎきった人生で新しい命を育もうとしている。

武人としてではなく一人の女として。

 

隣で寝静まっていく相手のことを思う。

 

静かなる月光。

 

微かに香る彼の匂い。

 

共に戦場を駆け、自分の命を救ってくれたその男は何とも無防備で……。

 

「ん……。ゅうらん、愛してる」

まるで赤子のように眠る顔から発せられた寝言に頬を少し赤らめ、自らの腹部に彼女は両手をあてた。そしてその手で彼の髪をかきあげると、一言つぶやく。

「私もだよ、一刀」

 

その呼称で彼を呼んでいることを誰も知らない。彼すらも。ただ、彼女だけが知っている。その時間こそが、武人の一人としての自分でも、家臣の一人としての自分でもない、彼女が一人の女としての証であることを。

ごきげんよう!

最近よくわからない時間に生活をしている米野です。

朝というか、夜中の一時から二時の間に起きて、夜は九時に寝ます。

はい、割と効率はいいです。昼間少し眠いですけどね。

 

今回の作品は、秋蘭が好きなので秋蘭メインで書きました。

つか、そうなんだよ。一人でキャラ立ちするくせに、常に姉とセットだとこちらとしては楽しみがいが無いんだバカヤロー。

ほかにもあわわとはわわとか。

割かし多いですよね恋姫。

その割には春蘭優遇されすぎだし。

今度は稟で書く予定。そのうち風も書きたい。

呉はいいやぁ、長編でいっぱい出てくるし。

てなわけで、失礼たします。

 


 
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