No.169307

真・恋姫†無双 黄巾√ 第五話

アボリアさん

黄巾党√ 第五話です
今作はなんだかまとまりの無い話しになってしまいましたが、楽しんでいただけたら幸いです
誤字脱字、おかしな表現等ありましたら報告頂けると有難いです

2010-08-30 21:19:35 投稿 / 全10ページ    総閲覧数:8607   閲覧ユーザー数:7038

あの後俺達は、若干ではあるが元気を取り戻した村人達と協力し、亡くなってしまった人達の埋葬を行った。

だがそれが終わる頃にはもう日も暮れてしまっていて、俺達は村人のご好意に甘え、その日は焼け残った宿の部屋を借り、泊まらせてもらう事になったのだった。

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

一人寝床に寝そべった俺の口から、重たい溜息が漏れた。

体は疲れていたが、とても眠れそうに無い。

それというのも、色々なことがありすぎて、何を考えたら良いのかすら分からなかったからだ。

官軍への憤り、賊への怒り、そして……人生で、初めて体験した、親しかった人間の死の、悲しみ。

先程までと違い、部屋に一人だけでいるからだろうか。そんな事ばかり考えてしまった。

 

「これが……乱世の、現実なのかな」

 

誰に問いかけるでもなく呟く。

今まで天和達と旅をしてきて、楽しかったから……だから、今がどんな時代かを忘れていたのかもしれない。

知っている歴史通りに進んでいくとしたら、これからもこんな悲しい事が起こるだろうし、それこそ群雄割拠の時代ともなれば、大陸の覇権をめぐった戦い、という名の殺し合いが繰り広げられてしまうのだろう。

そうなれば、この村の比ではない規模の惨劇だって起こってしまうのだろうか……そんな、嫌な気持ちが、グルグルと心の中で渦を巻いて締め付けられるような気分だった。

 

「……こんな事、一人で考えてたってしょうがないか」

 

これ以上考えていたら、悩みで押しつぶされてしまいそうだ。

そう思い、無理矢理にでも目を閉じて、眠りにつこうと思った矢先、コンッコンッ、という音と共に、聞きなれた声が聞こえたのだった。

 

「人和です。一刀さん、起きてますか?」

 

「ごめんなさい、こんな遅くに」

 

「いや、構わないよ。俺も眠れなかったところだし。……それで、どうしたんだ?」

 

そういって俺は人和を部屋へと招き入れ、彼女と対面になるように座る。

人和はなにやら言いにくそうな、悩んだ表情をしていたのだが、暫くすると、おずおずと話し始めた。

 

「……一刀さん。始めて会った時、未来から来たって言ってましたよね?」

 

「え?……ああ、うん」

 

急にそんな事を聞いてくる人和に、間抜けな声が出てしまったものの、肯定の返事を返す。

 

「それなら、これから起こる事も知っている、って事ですよね。……教えてください。これからもこの乱世と呼ばれる時代は続いていくんですか?そして……この村のような、悲しい出来事が、これからも起こるんでしょうか?」

 

そう聞いてくる……その問いに、俺は直ぐには答える事が出来なかったが、それでも答えないというわけにはいかなかった。

 

「……うん。これからも、こんな事が大陸の各地で起きる。それが収まっても、今度は漢王朝が弱体化しているのを悟った権力者同士の抗争や、豪族たちの戦いが続いて……沢山の、血が流れる」

 

「……それを、止める方法は?」

 

人和の問いかけに、俺は無言で首を振る。

すると人和は落胆の表情を浮かべ……ふと、意を決するように言ったのだった。

 

 

 

「……だったら、太平要術書の力を使えば、なんとかなるんじゃないですか?」

 

 

 

ドクンッ、と、心臓が跳ね上がった。

「……え?」

 

あまりの驚きに俺がそれだけ聞き返すと、「すみません」と前置きしつつ、人和が語りだす。

 

「昔、地和姉さんの使う妖術について調べた事があったんです。その時偶然見た文献に、読むだけで大規模な妖術……気象を操り、病を治し、人を操る。そんな力が備わる書がある、と載っていました。名前を、太平要術書、と」

 

「……そっか、知ってたのか」

 

今思えば、あの時人和の様子がおかしかった気もするが……気付いていたのなら、それも納得できる。

……でも、そうだとしても、人和の問いに対する答えは決まっていた。

 

「それだけは駄目だ。俺は絶対反対だよ」

 

「どうしてですか?その力があれば、こんな悲しい事を二度と起こさないで済むじゃないですか」

 

そう、悲しげにいう人和だったが……だからといって、認めるだけにはいかない。

 

「そんな、生易しいものじゃないんだ。人智を超えたような不思議な力は、使う人も滅ぼす事になる。……俺の知っている歴史で、人和のように要術書を使って人を集め、叛乱を起こして世の中を正そうとした人物がいた。でも、それは失敗に終わる。要因は色々あるけど……妖術に、大きな力に振り回されて、叛乱を制御できなかったんだ。結果、それから派生した賊によって、乱世を深めることになってしまった」

 

だから、と俺は続ける。

 

「要術書に頼るのだけは、絶対反対だ」

 

「そう、ですか……」

 

俯いて、そう呟く人和……その顔は、今にも泣き出しそうな表情をしていた。

「……じゃあ、なんの力も無い私では、どうしようもないんでしょうか」

 

次第に嗚咽交じりになりながらも、人和は更に続ける

 

「優しくしてくれた人達が、私達の歌を楽しみにしてくれてた人達が、苦しんでいるのに……何にも、出来ないで、それが悲しくて、……これから先にも、こんな事が起こるのに、どうする事も出来ないなんて、悔しいです」

 

人和の気持ちは俺も痛いほどに分かった。

 

目の前で人が死んでいって、だからといって自分の力では助ける事が出来なかった、という無力感に襲われて。

 

官軍や、賊に対する怒りはあっても、無力な自分一人ではそれを正す事も出来ない。

 

そんな気持ちが渦巻いているのだろう。

 

でも、

 

「……何にもできないなんて事は無い。人和には、歌があるだろ?」

 

「……え?」

 

俺の言葉に、人和は泣き腫らした目でこちらを見てくる

 

「何にも出来ないなんて事は無いよ。少なくとも、長老さん達は君達の歌に救われたと思う。嘆いてばかりだった村人達も、君達の歌に元気付けられたはずだよ。」

 

彼女達の歌は……その、真心から歌った歌は、人の心に響くものだった。

そんな彼女達だからこそ、この乱世に苦しむ人達の苦しみを、痛みを……心を、救う事が出来ると、俺は思う。

 

「でも、沢山の人達が傷つくのを、黙ってみているなんて……そんなの……」

 

そういって、俯いてしまう人和。

 

そんな彼女の姿を見て……俺は、ある、決心をした。

「人和。一つだけ、乱世を起こさないで済むかもしれない方法がある。」

 

こんな事は話すべきではないのかもしれない。

 

これが失敗すれば、それこそ大勢の人達に迷惑がかかるかもしれないし、何より彼女達自身も危険にさらすことになるだろう。

 

彼女達の無事を考えるならば、旅を続けながら、戦火を避けて生きていくのが賢いやり方だとも思う。

 

でも、……俺だって、あの光景を見て、何もしないままでいる、なんてことは出来なかった。

 

人和が、太平要術に頼ってまでどうにかしたいと思ったように、俺だって、この……未来の知識で、乱世を未然に防げたら、と思ったのだ。

 

「ただし、危険な目に遭うかもしれない。悪名がつくかも知れないし、最悪命を落とすかもしれない。……それでも、聞きたいか?」

 

そういうと、彼女は涙を拭うと、しっかりと俺の方を見据え、

 

「はい、教えてください。一刀さん」

 

そう、答えたのだった。

 

「……分かった。それじゃあ……」

 

 

 

 

 

 

「「ちょっと待った~!!」」

 

 

 

 

 

 

「「……は?」」

突然聞こえてきた声に呆気に取られる俺達が、声のしてきた扉の方を見ると、そこには……

 

「人和ちゃんも一刀も、二人だけで勝手に話を進めないでよ~」

 

「ちい達をのけ者にしようとしたって、そうはいかないんだから!!」

 

そういって仁王立ちする、天和達の姿があった。

 

「え、何で姉さん達が……」

 

「人和ちゃん」

 

驚く人和の言葉を遮りつつ、天和は彼女の前に立つと……その体を、優しく抱きしめた。

 

え?と驚く人和を尻目に、天和は囁くように話し始める。

 

「もう、人和ちゃんはいつだって自分だけで思いつめるんだから。ちょっとくらい、お姉ちゃんを頼ってくれたって良いじゃない」

 

「お姉ちゃんだけじゃなくて、お姉ちゃん達、でしょ?」

 

あ、ごめん、と地和に謝る天和……っていうか、

 

「え?いつから聞いてたの?」

 

さっきまでの、真剣な空気との落差に戸惑いつつも聞くと、「ん~」と天和が首を傾げつつ答える。

 

「人和ちゃんが~、『これからも乱世は続くのか?』って言ってた所から?」

 

「いや、疑問系で返されても」

 

っていうか、本当に最初からじゃないか……って事はナニか?人和との真剣なやりとり、全部聞かれてたって事か!?

 

人和もそれに気付いたのか、天和に抱きつかれながらも耳まで真っ赤になっていた……うん、気持ちは分かる。いくら大事な話だったからとはいえ、真剣な話を隠れて聞かれてたら恥ずかしいよな。身内なら尚更。

 

「で、一刀。さっきの話の続きは?もちろんちい達にも話してくれるんでしょ?」

 

そう地和が切り出してきて、俺は答えに窮してしまう。

「あ、あのな!!これは真剣な話なんだぞ!?聞いてたなら分かるだろうけど、本当に危ない目に遭うかも……」

「だから、だよ」

 

俺の言葉を遮り、天和が言う。

 

「人和ちゃんや、一刀が危ない目に遭うかもしれないのに、私達だけ仲間はずれなんて寂しいよ。二人は、大事な妹と、大事な楽器係なんだから」

 

「ま、一刀はおまけだけど。あ、それに人和?」

 

地和に呼ばれた人和が、え、なに?というような表情をするが、全く気にせず続ける。

 

「あんただけが悲しい思いしたわけじゃないのよ?私達だって、色々と思うところがあったんだから!それなのに私達に相談せずに一人で抱え込むなんて水臭いじゃない」

 

え?お姉ちゃんも一刀に相談しようと思って一刀の部屋に来たら、ちいちゃんが一人で先に部屋を覗いてたんじゃ……? な、何言ってんの!!ちいはたまたま通りがかって、って!お姉ちゃんのほうが先だったじゃない!! え~、ちいちゃんが先だったよ~ ……以下、喧々轟々。

 

そうして言い争う二人を見ていると、不思議と力が抜けて……気がつくと、俺も人和も笑っていた。

 

「ははっ、……二人を見てると、なんだか気が楽になるよ」

 

「そうですね……ふふ」

 

そうして、二人の言い合いがひとしきり収まるまでの間、俺と人和は笑って見守っていたのだった。

「……それで一応確認しておくけど、天和達も乱世をどうにかしたいって思ってるんだな?」

 

あの後、天和と地和を交えて話をする事になった為、確認の意味を込めて聞いておく。

俺は、二人が頷くのを確認すると、俺の考えについて話し始めた。

 

「さっき、太平要術書を使って、世の中を正そうとした人がいた、って話はしたよね。……俺の考えは、それの真似をする事だ」

 

「待って一刀さん。それはたしか、失敗したって言ってなかった?」

 

「そう。その人の叛乱は失敗に終わるんだけど……だからこそ、なんだよ」

 

「……?どういう事?」

 

意味が分からないといった風に首をかしげる天和と地和だったが、人和だけは理解できたのか、「なるほど」と呟く。

 

「その出来事を知っているからこそ、その問題となる部分を直していって叛乱を成功させる……そういうことね」

 

「ん、その通り」

 

太平の世を目指した張角の問題点……この時代では絶対的な存在である帝、つまり天子を奉戴するのではなく、新王朝の樹立にこだわった為に離反者を生んでしまった事、官軍にこそ勝っていたものの、地方の太守達の実力を侮っていた事などがあるが、それさえなければ事実、叛乱は成功していたのではないかと言われていたほどだ。

だけど、と人和が聞いてくる。

 

「その人は太平要術を使って人を集めたんでしょう?要術書を使わないとそもそも成功どころじゃないんじゃない?」

 

「うん、それもある。……だけど、さっきも言ったけど要術書を使うのだけは絶対ダメだ。その力が強すぎて制御できないのもあるし、その力を悪用しようと近づいてくる奴だって出てくるかもしれないからね」

 

「じゃあ、どうやって」

 

「そこが一番重要な所なんだけど……そこで、天和達の出番だ」

 

俺の言葉にきょとんとする三人だったが、気にせず俺は続ける。

「君達の歌で、人を集めるんだ。もちろん表向きにじゃなく、秘密裏にだけどね」

 

「それって、前言ってた『ふぁん』って奴?そんなの上手くいくの?」

 

天和がそう聞いてくる。

 

「俺は、大丈夫だって確信してる」

 

彼女達の歌……特に、今日の歌を聞いた俺には冗談なんかではなく、本気で確信できていた。

それでも三人は少し不安そうだったので、俺は少し、挑発するような口調で言う。

 

「それに、三人は大陸一の歌い手になるんだろ?それなら、そんな事朝飯前だよな?」

 

二ッ、と笑いながら言うと、

 

「ムッ、一刀、馬鹿にしてるでしょ~」

 

「ふふっ、そこまで言うならやってやろうじゃない!!ちい達が本気になれば、皆めろめろよ!!」

 

「……簡単に乗せられる二人については心配だけど、今は私も乗せられてあげるわ」

 

そういって、三人もこの話に乗ってきたのだった

 

「よしそれじゃあ、詳しい話だけど……」

 

俺が話を続けようとすると、「あっ!!」と地和が声を上げる。

 

「これ以上遅くまで起きてるとお肌が荒れちゃうじゃない!?ッてわけで、話はまた明日の朝にってことで!!」

 

「そうだね~。お姉ちゃんも、ふぁ~、ねむ~い」

 

「……へ?」

俺が呆気に取られているうちに、二人はさっさと自室へと帰っていってしまう……自由人すぎるだろ。

 

「はぁ~……ごめんなさい、一刀さん」

 

「……いや、いいよ。こんなのも慣れてきたし」

 

そんな事もあり脱力してしまった為、話は明日、という事で今夜は解散する事になった。

 

「あ、一刀さん」

 

自室へと戻る為、ドアに手をかけていた人和が俺の方に向き直る。

 

「……今日は、ありがとうございました。また、明日」

 

そういって微笑み、帰って行く人和を見て……少し、心が安らいだ。

その顔は、やっぱり彼女は笑っているのが一番だ、と再確認できるほどに、かわいらしい笑顔だった。

 

 

 

人和が出て行くのを見届けた後、一人きりになった俺は寝床へと体を投げ出す。

 

「……なんか、今考えてみるととんでもない事言っちゃったんじゃないか?」

 

誰に言うでもなく呟くが……問わずとも、答えは決まっていた。

俺は所詮、特別なわけでもない唯の人間だけれど……いやだからこそ一般市民の気持ちが痛いほど分かるからこそ、この現状をどうにかしたいと心から思った。そんな自分の気持ちに嘘をつくなんて事は出来なかった。

 

「ま、それも全部また明日から、か」

 

そうやって瞼を閉じる。

先程までとは違って、今度はしっかりと眠りにつけそうだ、などと考えつつ、俺の意識は遠のいていったのだった……


 
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