”敵は強大だが皆の力を合わせれば倒せないハズはない、みんなかかれーーー”
と、大号令をかけているのは”みんなのご主人様”こと北郷一刀その人、但しここは戦場でもなけれ
ば”敵”もいない・・・いや正確には襲い掛かってくる”敵”はいない。物言わぬ大軍がいや大群が
そこにはいた。梅雨が過ぎて誰も手入れをしていない裏庭の雑草集団である。そう今日行うのは夏の
風物詩でもある”除草作業”である。
”おらおらおらー”
掛け声勇ましく自慢の斬山刀で雑草を刈り取っていくのは”文ちゃん”こと文醜その人
『猪々子さん輝いていますわ、やはり武器を振るってこその将ですものね。』
斗詩「文ちゃん、ちゃんと根元から抜かないと、意味がないよ~。麗羽様も日陰で休んでないで手
伝って下さい~。」
『相変わらず斗詩さんは状況判断が抜群ですわね。視野も広いですし・・・でも出来れば一緒に日陰で休んで欲しいですわ。最近調子がよくないみたいですし。』
麗羽「力仕事は猪々子さんの十八番じゃありませんこと。私はあえて猪々子さんに見せ場を譲って差し上げてますのよ。
おーほっほっほ。」
と、斗詩さんの心配をしていた事を表に出さずごまかす為に高笑いをしながら斗詩さんに返す私。
麗羽「私がしゃしゃり出ない方が上手くいってご褒美の”一刀さんとの小川で楽しむ半日券”を猪々子さんと斗詩さんに。」
そう、ただでさえ誰も暑い日の下除草作業なんてやりたくもない。
そこで我らが”はわわ軍師”こと朱里(諸葛亮)が考えついたのが武将達を班分けして一番最初に
担当区域を終わらせた班にはご主人様といちゃつける券(権利)を賞品とする事である。
麗羽「斗詩さんや猪々子さんが一刀さんにゆっくり構って頂けるいい機会なんですし。私は邪魔をしないように。裏方作業等を・・・」
と、斗詩と猪々子の為に冷やした飲み物と濡れ布巾を用意しながら呟く。
麗羽「しかし、これだけ暑くなりますと斗詩さんは勿論のこと働きっぱなしの猪々子さんも大丈夫かしら?」
一人獅子奮迅状態の猪々子さんを見ながら心配していると
猪々子「斗詩ーーーーー 斗詩大丈夫ーー?。」
猪々子さんが離れた所から斗詩さんに向かって大声で呼び掛けている
『恐れていた事が現実に、斗詩さんが倒れてしまいましたわ・・・私の出来ることは北郷さんに連絡して速やかに事後の処理を行えるようにするだけですわ。』
そして急いで北郷さんの所に走り出す私。
猪々子「斗詩ーーーー。しっかりしろ斗詩ーーーー。」
猪々子さんが倒れた斗詩さんに駆け寄っていくのを横目で確認しながら
麗羽「北郷さん、斗詩さんが倒れましたの、もうすぐ猪々子さんが運んで来ますので処置をお願いしますわ。ハァハァ。」
麗羽が息を切らしながら俺の所に駆け寄って知らせてくれた。
一刀「そうかわかった。急いで処置の準備をしておくよ。それより麗羽も大丈夫か?大分息が上がってるけど。」
と、心配して声を掛けると
麗羽「私の事より斗詩さんの事を心配してあげて下さいな。それではお願いしますわね。」
そう言って立ち去る麗羽と入れ違いに
猪々子「アニキーーーーーっ!!斗詩が斗詩が死んじゃうよーーーー。」
倒れた斗詩を抱きかかえながら猪々子がやってきた。
除草作業現場に戻ってきて
『さてと、ここからは袁家当主自ら出陣となりますわね。』
と、気合を入れて一人黙々と作業に勤しみ始めた。
麗羽「猪々子さんが戻ってきたら斗詩さんのお見舞いに一緒に行けるように在る程度終わらせておかないと。」
と、その白い肌が日に焼けるのも構わずその白魚の様な手が土で汚れるのも構わず作業を続けた。
そこへ猪々子さんが戻ってきたので
麗羽「猪々子さん斗詩さんの具合はどうですの?」
と、作業をしていた手を止めて猪々子さんに訊ねた。
信じられないものを見て思考が止まっているのか返事が無い。
『今までの私でしたら考えられませんものね、ほんとに我ながら世間知らずでしたわ。』
と内心苦笑しながら、
麗羽「猪々子さん?聞いてますの?」
我に戻ったのか
猪々子「あぁ大事は無いけどアニキが看ててくれるって。任せとけって言ってくれましたよ。」
麗羽「そう、北郷さんがそう言うのでしたら大丈夫でしょう。猪々子さんちゃっちゃっと作業を終わらせてお見舞いに行きますわよ。」
と、言いながら作業に戻る。
猪々子「はい、ちゃっちゃっと終わらせましょう麗羽様。」
『ご褒美は残念ですけど斗詩さんが大事無くてよかったですわ。猪々子さんもどうやら吹っ切れたみたいですし。』
伊達に二人の君主をしてるわけではなく、斗詩の不調が原因で悩んでいた猪々子にも気づいていた。
作業を終わらせて最小限の身だしなみを整えて二人で斗詩さんが休んでる部屋に向かった。
猪々子・麗羽「「斗詩(さん)は大丈夫か?(ですの?)アニキ(北郷さん)!!」」
ドアを開いて二人が駆け込んできた。
パっと離れた二人。でもしっかり服の裾を掴んでる斗詩。
『斗詩さんはすっかり北郷さんの虜みたいですわね。そしてそれを見て複雑そうな猪々子さん・・・北郷さんは罪作りな方ですわね。』
と、心の中で呟いた。
その夜、皆が寝静まる時間に一人中庭に出ていく猪々子さんに気づき
『こんな時間に一体どうしたのかしら?猪々子さんは』
そっと後をつけると中庭にその姿を発見した。
何か思い悩んでいる様子の猪々子を見て
『こういう時に相談に乗ってあげられるような君主ではなかったですわね。私は。』
そして、猪々子が一刀に相談をしにいく様子を見届けて自分の私室に戻った。
-明けて次の日-
麗羽「北郷さん、あなたは斗詩さんと猪々子さんの事どう思っていますの?」
朝餉を頂こうと食堂に向かっている途中で北郷さんを見かけたので率直に聞いてみた。
一刀「いきなりだなぁ・・・とりあえず俺の部屋でいいかな?流石に廊下で話すような内容じゃないしね。」
そして部屋に戻って椅子を勧めるが
麗羽「結構ですわ、それよりも私の大事な斗詩さんや猪々子さんの事をどう思ってるんですの?」
一刀「大事な女性だと思ってるよ二人とも・・・いや違うな。」
麗羽「違う?それはどういうことですの?」
一刀「麗羽も入れて三人とも大事な女性と思っているよ。」
と、ニッコリと心温まる笑顔でそう言ってきた。
麗羽「な・何を言ってるのかしら、冗談はおよしになって。」
慌てて言いながらその頬はほんのり赤い
一刀「えー俺、麗羽の事好きなんだけどなぁ。麗羽は俺の事キライ?」
麗羽「あ、当たり前ですわ。私は四代連続で三公を輩出した袁家の当主ですわ。あなたとは身分が違いますわ。おーほっほっほ。」
最後は高笑いで誤魔化しながら。
一刀「それだったら俺は”天の遣い”だし三国平和の立役者だよ・・自分で言うのもなんだけどね。」
麗羽「わ・私を好きになった理由をお聞かせ願いませんこと?適当に言っているのなら思いつかないでしょうけど。」
一刀「まずは外見からいくと綺麗な金髪と”胸中の麗羽 尻中の蓮華”と呼ばれているその胸でしょ。」
麗羽「か・体だけが目当てですの?」
自慢の胸を隠すようにしながら
一刀「斗詩や猪々子に気遣って俺の事を”一刀さん”から”北郷さん”に呼び方を変えたとことか。」
ギクっ
一刀「暑い中作業をする二人を気遣って冷たい飲み物や濡れ布巾を用意するとことか。」
ドキッ
一刀「猪々子が戻ってきた時に少しでも楽をさせてあげようと、その白い肌が日に焼けるのも構わず手が汚れるのも構わず黙々と作業したりするとことか。」
一刀「そして何より二人の為に自分の気持ちを犠牲にしようとしてるとこかな。」
『あぁ、この人は本当に”麗羽”である私を見ててくれている”袁家の当主袁紹”ではなくて』
もう涙が止まらなかった。
一刀「まだ理由はいるかい?」
泣いている麗羽を抱きしめながら
麗羽「いいえ、十分ですわ。ありがとうございます一刀さん。」
一刀「あぁ、やっと名前で呼んでくれたね。嫌われたかなって思ってたよ。」
言いながら更にギュッと抱きしめる。
一刀「麗羽が斗詩や猪々子の事を大事に思ってるのは知ってるし、二人を大事に思ってる心ごと麗羽を好きになったんだよ。」
麗羽「三人とも大事にしてくれますか?一刀さん。」
胸の中に顔を埋めてその表情は見えないが、
一刀「任せておけって。それこそ三人が愛情に溺れそうだって言うくらい注ぐからさ。だから・・・俺の傍で三人一緒に居てくれよ。」
そう言いながら顔を近づけて、唇を重ねた。
斗詩・猪々子「「ご主人様(アニキィ)麗羽様が失礼な事してませんか?(ない?)」」
と、言いながら飛び込んできた。
斗詩・猪々子「「あーーーーーー、ご主人様(アニキ)が麗羽様とキスしてるーーー。」」
麗羽「好きな人とキスするのは当然じゃありませんこと?」
慌てふためく二人にそう言いながら。
麗羽「これからは臣下の間柄じゃなく恋敵ですからね。よろしくね斗詩さん。猪々子さん。そして最後の命令です。一刀さんの傍を離れることは許しませんわ。」
そう言われた二人の顔も笑顔だ。
も?勿論二人にそう言った麗羽がとびきりの笑顔だったからさ。
私の居場所はあなたの居るところ -麗羽side- -完-
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この作品は誤字脱字無知遅筆駄文製作者による”私の居場所はあなたの居るところ”を麗羽視点で描いたものです。間が空いたのは萌将伝をやっていたからです。