はじめに
この作品はオリジナルキャラが主役の恋姫もどきな作品です
原作重視、歴史改変反対な方
ご注意ください
明かりの消えた夜の街
昼間は多くの町人が行きかい、露店が並ぶ通りも
この時間帯は人々は疾うに寝静まり、しとしと降り続ける雨の音だけが辺りに木霊する
「そこの二人!止まれ!」
静寂に響く声が人気の無い通りを歩く二つの影の歩みを止める
「こんな夜更けにどこへ行く?」
声の主は街の警邏を司る一人の兵
まだ年若く、この仕事にも就いたばかりであり、今も他の古株から夜の警邏を押し付けられしぶしぶと通りを見張っていたところだった
そんな彼の目の前を通り過ぎらんとした二つの影
一人が馬に跨り
一人がその手綱を引いていた
(やっぱり引き受けるんじゃなかった)
酒瓶を抱えながら彼に警邏隊の槍を押し付けてきた古株連中に内心で悪態をつく
『こんな夜中に出歩く奴なんかいねえさ』
ガハハと笑いながら酒場へと消えていった仲間達…今頃は酔い潰れて鼾でもかいているのだろうか
溜息と同時に舌打ちという妙な荒業をかまし、立ち止っている影に改めて視線を送る
目深に被っているフードの端から雫をポタポタと垂らし
暗闇にあってその表情は読み取れない…が
若き兵の声を無視するでもなく立ち止まり、此方を向いている
静かに佇む影に内心ドキドキしながら近寄る兵士
(夜盗だったらどうする)
心臓の音が高くなり体に響く
もしかしたらこの音も向こうに聞こえているのではないか錯覚するほどに
明かりを持つ手を馬の手綱を引いていた影に向け、震える自分を叱咤するように声を上げる
「…顔を見せろ」
正直顔を見たところで何が解るわけでもない
夜盗にせよ、時間に無神経な行商にせよ
結局のところ
自身の震えを隠すために凄んで見せたのだ
手綱を引いていた影が馬上の影に何やら呟いた
(む…逃げる算段か)
一人が此方の気を引いているうちに一人が馬で逃げ去るのだろうかと
一瞬視線が馬上に向けられる
そして
視線を戻したとき
被っていたフードを外した影が此方を見つめていた
いつの間にか雨は止み
雲の切れ間から月の光が射し
影を
男の顔を照らしていた
「貴方様は…」
ごくりと
冷たい息が通り過ぎていく
視線の先に映るのは
かつて街角で見かけたことがある人物
凱旋の度、歓喜の声で迎えられ
自身もああなりたいと渇望の視線を向けていた人物
「お戻りに…なられたのですか」
心臓の音がさらに高くなっていくのを
彼は感じていた
宿舎に彼が戻ったのはそれから間もなくのこと
息を切らせ呼吸もままならぬ間に酒臭い食堂へと転がり込む
ドバン!!
勢いよく開かれた扉の音に酒をかっくらっていた男達が一斉に目を覚ます
「「「うるせえぞ!!」」」
「それどころじゃないんだよ!」
膝に手を当てぜいぜいと息をする彼に男達が怪訝な表情を浮かべる
「なんだよ」
「なにがあった」
吐く息も酒臭い男達が詰め寄る
「帰ってきたんだ」
「あ?」
息も絶え絶えに声を絞り出す
「張郃将軍が帰ってきたんだ!」
未だ自分でも信じられないことのように叫ぶ
「…なんだと?」
その場にいた誰もが互いの顔を見合わせる
「だから張郃将軍が帰ってきたんだ!でもこんな夜更けだから宮中に入るのは明日の朝にするって言って…」
「将軍は今何処に居られる!?」
先頭に立っていた男
今夜の警邏を彼に押し付けた男が彼の肩を揺さぶる
「え…広場の通りの角の宿」
男の勢いに面食らった彼がぽつりと呟く
「そうか!」
よしよしと頷き男がポンポンと肩を叩いた
「あ!…でも袁紹様も他の将軍も戦に出たってこと言うの忘れちまった…俺慌てていて」
しまったと扉へと振り返る彼の肩を再度掴む手
「なんだよ?」
「よくやった」
足下に広がる赤い液体が
自身の腹に突きささる剣から流れ落ちるの物だと理解した時
「え?」
彼は意識を失い、二度と目覚めることはなかった
冷たくなった彼の体に毛布を掛ける
「悪い奴じゃなかったんだがな」
足もとから顔へと毛布をかけていく
「そうか…お戻りになられたか」
顔へと毛布をかける直前
彼の見開いたままの瞼へ手を乗せ、閉じる
「急ぎ準備をしろ…将軍が泊っている宿を包囲する」
そういって立ち上がり
今だ血がついた剣を振ってその血を落とした
「ようやくお布団で寝れますね♪」
二人が泊まった宿の部屋は寝台と椅子が一つあるだけの簡素な部屋だがその部屋は隅々まで掃除が行き届いており、月は腰掛けた寝台の布団の柔らかさに顔を綻ばせていた
この三日間の道中にはもちろん寝台などは無く、毛布に二人で包まりながら夜を過ごしてきたのだがやはり人間疲れを取り除くには寝台に横になるのが一番なのだろう
背伸びをすればコキコキと鳴る体も今夜はゆっくり眠れると歓喜を上げているようにも思えた
「明日、宮中に入れば風呂にも入れる…暫くゆっくりすればいいさ」
そう言って水の入った杯を傾け喉に流し込む比呂
彼もまた三日間歩き詰めたせいで足が棒になるとはこのことかと感じていた
(大分体が鈍っているな)
以前であればこれぐらいで悲鳴を上げることもなかっただろうに
濡れた布で脚を拭いているとその脚が震えていることに気づいた
そんな比呂の言葉に手の甲を鼻先に付けスンスンと嗅ぐ月
「うう~お風呂入りたいです」
連日の雨のせいで川で行水もできず我慢してきた彼女だが此処に来てその欲求が溢れ出てきた
顔を顰める彼女に比呂も頷き
「明日までの我慢さ」
「へうう」
月が思わずため息を吐いたその時
比呂が近づきスッと人差し指を彼女の唇に押し当てる
「っ!?」
驚いて目を見開く彼女の視線の先で比呂が首を振り
窓際に立て掛けていた剣を握り扉へと歩み寄る
扉の横の壁へと背を押し当て
「…誰だ」
外の気配へと一瞬殺気を込めて言い放つ
一泊の沈黙の後に返って来たのは男の声
「逢紀の手の者が包囲せんと迫っております…お逃げを」
部屋の中の二人は顔を見合わせて首を傾げた
あとがき
ここまでお読み頂き有難う御座います
ねこじゃらしです
あれ?
がんばって書いたのに何か短いな…
まあいいか
それでは次の講釈で
Tweet |
|
|
32
|
4
|
追加するフォルダを選択
第46話です。
最近手に書いたメモを見ても何のことだったか思い出せない