No.168347

真・恋姫†無双~愛雛恋華伝~ 08:胸のうちを支えるもの

makimuraさん

槇村です。御機嫌如何。


これは『真・恋姫無双』の二次創作小説(SS)です。
『萌将伝』に関連する4人をフィーチャーした話を思いついたので書いてみた。

続きを表示

2010-08-26 22:13:12 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:5440   閲覧ユーザー数:4564

◆真・恋姫†無双~愛雛恋華伝~

 

08:胸のうちを支えるもの

 

 

 

 

 

対峙したふたりは始まりの合図と共に駆け出す。

 

「っふ!」

 

先に武器を繰り出したのは、趙雲。

己の相棒たる直刀槍・龍牙の間合い、そして向かって来る関雨の速さを見越して、一閃。薙ぐ。

足の速さを僅かに殺し、関雨は襲い掛かるその槍をすぐ目の前でやり過ごす。

すぐさま、彼女はもう一歩踏み込もうとするもそれは叶わない。

それよりも先に趙雲が一歩踏み込んだ。振りぬかれたはずの槍が、恐ろしい速さで切り返される。

関雨はそれでも慌てることなく、青龍偃月刀の鋒先を僅かに合わせるだけで往なしてみせた。

それでも、趙雲の身体が流されることはなく。まだ自分の番だとばかりに彼女は槍を振るい、突き続ける。

関雨はそれをただひたすら受け続けた。

 

一合、三合、五合、十合と、ふたりは連撃を重ね合いその数を更に増していく。

無言のまま成される仕合。耳を打つのは、ふたりの武器が弾き合う金属音と微かな呼吸音のみ。

静かに、しかし激しく、幾合もの連撃を交わしながら互いに一線を越えていない。届いていない。

趙雲の手がことごとく、往なされ、かわされ、弾かれ、やり過ごされるがゆえに。

関雨に至っては、受けに徹してまったく手を出していないがゆえに。

傍目には激しい攻防に見えなくもない。

だが実際には、趙雲の攻撃すべてがしのがれ続けているに過ぎなかった。

 

 

 

「……貴殿はなんのつもりか。武の劣る私をからかうのはそれほど楽しいか?」

 

ことごとく届かない自分の攻撃に、趙雲は苦々しい表情を隠そうとしない。

己の武が、この関雨という女性に届かないことは分かった。悔しいが、彼女は理解した。

実力差のある者に対して手加減をするのはいい。余裕から自分があしらわれるのならば仕方がない。

だがやる気の見えない輩に、どうでもいいような対応をされるのはどうにも我慢がならない。

 

「確かに、実力の差があるのだろう。だが面倒であるなら、さっさと私を叩きのめせばよいではないか。

仮にも同じ武人として、その態度は私に対する侮辱ではないのか?」

「……」

「手加減と手抜きは別物だぞ」

 

趙雲は再び、愛槍たる龍牙を構え直す。

 

「参る」

 

言葉と同時に彼女は跳んだ。

 

「つッ……」

 

より速さの増した一撃。

その薙ぎを受け止める関雨。ただ先ほどよりも余裕の欠けた表情で。

 

「けしかけたのは私だが、仕合を受けたからにはしっかりと相手になってもらわねば困る」

 

まだ行くぞ。

というや否や、趙雲は更に槍の速さを上げていく。

己が槍の間合いに立ち、右から下から上から左から、薙ぎ、払い。

その最中にもう一歩もう半歩踏み込み、ひとつふたつみっつと神速のごとき突きを見舞う。

関雨はまたも、ただ愚直に受けるのみ。だが、ひとつひとつ捌いていく様が少しばかり強張って見える。

 

「なるほど。これだけしてもまだ届かぬか」

 

ひたすら攻める趙雲。止まることなく繰り出していた連続攻撃に、彼女の息もさすがに上がり出す。汗も流れる。

 

「たいした武才だ」

 

つぶやきながらも、その手が治まることはない。

 

「だが」

 

また一歩踏み込む。幾度となく繰り出された突きが、関雨の正中線に沿い襲い掛かる。

ひとつ、ふたつ。身を捻ることで辛うじて凌いだ速く鋭い突き。その二突き目が戻らぬうちに、下から上へと逆袈裟懸けが疾る。

 

「っ、つ」

 

初めて見せる表情。だがそれさえ避けてみせた関雨。

まだ終わらない。趙雲が更なる一手。振り上げた直刀槍・龍牙の勢いに乗り身を起こし、そのまま関雨の鳩尾に渾身の蹴り。

 

「ぐ、は」

 

辛うじて腕を挟みこんだもののその衝撃は受けきることが出来ず、身中の息を吐き出される。

刹那、関雨の動きが止まる。だがその瞬きほどの間であっても、達人にとっては大きな隙。

身を縮めた相手の傍らで、舞うがごとき趙雲の槍は止まらない。

立つ姿を崩すこともなく、美しい円を描いた槍は関雨の頸を奪うべく頤(おとがい)を解き襲い掛かり。

直前に、動きを止めた。

 

「……あるのが武才だけならば、さほど怖くもない」

 

速く、大きな身の運び、槍を手に踊る、舞のごとき武。

その姿は天に挑み舞い上がるかのごとく激しく、美しいもの。まさに、昇り竜のごとし。

趙雲の手にした直刀槍・龍牙が、関雨の首筋に当たった状態で、時が止まる。

 

この仕合は、趙雲の勝利で幕を閉じた。

 

 

趙雲は思う。

これだけの武。生半可なことで得られるものではない。

見通しの通り、彼女の実力は相当なもの。本来ならば、今の自分では敵いはしないだろう。

ならばなぜ、勝つことが出来たのか。

武が錆付いたという言葉も、彼女は煽り文句として使ったに過ぎない。

思うに、関雨の中のなにかが、武を振るう腕を鈍らせているのではないか。

それゆえに、彼女は武を振るうことに迷いを見せている。そう見えたのだ。

もちろん、それがなにかなど趙雲には分からない。

理由は知らぬが彼女は迷っている。いや、持て余しているというべきなのか。

 

「なにを迷っている」

 

趙雲は、彼女がその身になにを抱えているのかは分からない。

だが、相応の武才を持つ者ならば、そこにまだ至らぬ者のために毅然としているべきだ。

少なくとも、趙雲はそう考える。

まだそこまで至らぬはずの自分に負けるなど、あってはならないのだから。

 

「貴殿は。その武において何某かを成し、それで満足してしまったのかもしれん。

だがそれゆえに、なんでも出来ると思い上がっていないか?」

 

彼女の武才を培った想い。関雨はそれを見失っているのか、それともただ慢心しているだけなのか。

後者ならば、もういい。その程度の武であるなら、今は及ばずともすぐに手を掛けてみせる。事実、勝利を収めているのだから、そこまでの道は容易かろう。

だが前者ならば。

 

「確かに、武才には秀でているのかもしれん。だが、今の貴殿に背中を預けようとは思わんな」

 

趙雲は、あえて棘のある言葉で突き放した。

 

 

「貴殿がそこまでの武才を積み重ねた想いは、その身からもう尽きているのか?」

 

趙雲のその言葉に、関雨は思う。

かつて、自分の背を託しかつ自分に背を預けてくれた武将、趙子龍。

自分の知る彼女・星と比べれば、同一人物とはいえ、目の前の彼女はあまりに未熟に見える。

それでも、今、地に足を付いているのは自分であった。

慢心していたつもりはない。手を抜いたつもりもなかったが、身体が萎縮していたのは自分でも分かる。

ならば、何故?

 

「貴殿は、武を振るう理由とやらに依存し過ぎなのではないか?」

 

狙ったかのような、趙雲の鋭い言葉が関雨を刺す。

 

「志が高い者ほど、他を蔑ろにし易いのかも知れぬな。

遠くを見過ぎて、それを見失い、足元がおぼつかなくなったというところか」

 

ひとつ、苦笑いを浮かべる。少し喋りすぎたな、と。

趙雲はそのまま踵を返し、関雨を気にすることなくその場を離れ、公孫瓉たちの下へと歩み寄った。

 

その後姿を見送ることなく、関雨は思考の渦へとはまり込む。

自分が、依存している? 足元が見えていない?

いわれてみれば、まさにその通りだった。

北郷一刀と劉備。想いを寄せる主人と、敬愛する義姉。ふたりの側で武を振るうことこそが、これまでの自分のすべてだった。

それがこの過去の世界へと流されたことで、なによりも愛しいふたりを失った。

寄る辺をなくした彼女は、胸のうちにあった確かなものがポッカリと空いてしまったような、虚脱感を得る。

 

あぁ、そうなのか。

 

関雨はここでやっと気付く。

自分は、あのふたりがいないから、武を振るう理由が見出せないのだ、と。

だから、劉備に、桃香に会いたいと思ったのだ、と。

 

この世界にいるであろう劉備は、おそらく関雨の知る劉備とは異なるのだろう。

そしてかつて自分がいた、義姉の隣という場所には、自分とは違う関羽が立っているのだろう。

そう、この世界の北郷一刀が散々指摘していたこと。

そこに自分の、関雨の居場所はないということを。だからこそ、自分の立ち位置を自分で決めろと。

そして、自分がなにをしたいのかを考えろ、と。

 

"こちらのご主人様"は、気質は同じかもしれないが、随分と人が悪いのではないか?

 

それでも自分を導こうとしてくれている北郷一刀という存在に、関雨は少しばかり笑みをこぼした。

 

 

静寂。声が出ない。出せない。

長くはない仕合だったが、その内容の質は実に濃いものとなった。

 

「……いやこれは、凄いものを見たな」

「……趙雲さんが強いのは分かってたつもりだけど、これほどとは」

 

強いとかのレベルが違う。一刀は心底そう思っていた。

そして、"武"というものに対する認識を改めた。

こんなものを見てしまったら、「多少は武に自信が」などといえない。いえたものじゃない。そう思わずにはいられない。

自分の隣に立つ公孫瓉様でも驚くほどなのだ。今目の前で繰り広げられた攻防は、さぞ凄いものだったのだろう。

 

「実際のところ、今の仕合はどの程度のものなの?」

 

これまた隣に立つ華祐に、一刀は小声で尋ねる。

 

「あれだけの立会いは、そうそう見ることは出来ん。素直に喜んでおけ」

 

華祐は続けて、関雨についても触れる。

 

「関雨の武は私よりも上だ。

だが今のあいつは、いろいろと囚われすぎて本領を発揮できていない。

そこを趙雲に突かれてしまい、あの結果となった。

趙雲の武才も、今はまだ未熟ではあるが相当のもの。

でなければ、鈍った関雨だとてそう簡単に勝つことは叶わん」

「悩みは深いのかねぇ」

「なに、周りが見えていない猪なだけだ」

 

かつての彼女を知る者なら「お前がいうのか」と突っ込むような台詞を口にしたところで。

彼と彼女らのところに趙雲がやってくる。

 

「伯珪殿」

 

公孫瓉の前に立ち、彼女は進言する。

 

「このような結果にはなりましたが、あの者の武は本物です。仕官そのものは私も歓迎いたす。

ですが、一将として立たせるには多少不安がある。ゆえに、私の下に副官として付けていただけないだろうか」

 

お願いする。

と、自分がいうべきことだけをいい、彼女はその場を離れていった。

少々疲れました、と、呟きつつ。疲れたから食事を振舞えと、片手に一刀の腕を掴みながら。

 

なにかを喚く一刀が、趙雲と共に城の中へと消えていく。

その場には、公孫瓉と華祐、鳳灯、そして関雨だけが残される。ちなみに呂扶は一刀についていった。

 

 

 

 

相変わらず、開かれた中庭の中心で蹲る関雨。

彼女に近づくでもなく、残された三人は立ち尽くしていた。

 

「……なんとなく、愛紗さんの雰囲気が柔らかくなった気がするのは、気のせいでしょうか」

「吹っ切った、というわけではないだろうがな。あやつなりに、腑に落ちたものがあったのだろう。

同じように眉間にシワを寄せていても、暗さが少しばかり取れている気はするな」

 

鳳灯のつぶやきに、華祐が応える。ふたりの声は少しばかり明るいものだった。

 

「趙雲殿の進言には、私も賛成です。今の関雨は少々危ういところがある。

あやつ個人の悩みで、兵を危険に晒すことはない。かといって一兵としては使いきれぬ。副官程度の扱いが妥当かと」

 

華祐は趙雲の進言を支持してみせ、改めて公孫瓉に上申する。

 

「私にはそうは見えないんだが。でも長く付き合ってる華祐がいうなら、そうなんだろうな。

分かった。そうしよう。

でも本来なら、将としての才も充分なんだろ?」

「それはもちろんです」

「なら精神的に復活してから、本格的に働いてもらうことにするさ」

 

公孫瓉はそういってまとめてみせ。

 

「多分、趙雲に引きずられたまま北郷が料理を作らされてるだろうから。

関雨も誘って腹ごなしといこう」

 

落ち込んでいるのを盛り立てようとしているのか、それとも空気を読んでいないのか。

微妙な誘いをかけ、この場を引き上げるようとするのだった。

 

 

「……正直なところ、死ぬかと思いましたぞ」

 

ひとまず自分秘蔵のメンマを貪りながら、先ほどまでの立会いを一刀に語る趙雲。

張り詰めていた空気はどこへやら。まさに憔悴しきったというような表情を浮かべて見せる。

ここまで素っぽい彼女も珍しい。いや、彼は初めて見たかもしれない。

ちなみに呂扶はなんとか彼女が追い出した。武人には聞かれたくないという、せめてもの矜持だろうか。

とりあえず、メンマ増量を約束させて、いいたいことを全部吐き出させてやろうと考える一刀だった。

 

 

・あとがき

「趙雲」と打つ際に、時折「張遼」と打っていた自分が油断なりません。

 

槇村です。御機嫌如何。

 

 

 

 

話の流れで趙雲趙雲いっている中で、一箇所二箇所「張遼」が混ざってたりするとか。

終いには頭の中で、関雨の相手をしているのがいつの間にか張遼になっていたり。

いやいやおかしいでしょ。

おかげで名前以外にもところどころ文章変える羽目になったりね。

恐るべし張遼。(明らかに槇村のせいです)

 

 

それにしても、戦闘シーンが難しい。

一対一でこれだよ。合戦シーンなんてどうするんだよ。くっ。

……精進します。

 

あと、愛紗の扱いがひどいと思われるかもしれませんが。

あれですよ、高く飛ぶためには一度大きく屈まないといけないのです。

そんな感じで。はい。

 

 

 

・追記

この話の中で関雨関雨と連呼しているのを誤字だと思われた方もいらっしゃいましたので、補足。

現在作中にいる関羽・鳳統・呂布・華雄は、自ら偽名を名乗っています。

 

四人が外史の過去世界に跳ばされた。

 → そこには同じ自分がいるはず。

  → じゃあ同じ名前だとまずいよね。

   → 偽名を名乗ることにしよう。

 

性・字・真名は同じ、名を漢字だけ変えて読みは一緒にした、という設定になっています。

そのうち、関羽同士バッティングするシーンも出します。はい。

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
58
0

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択