No.168043

真・恋姫無双 刀香譚 ~双天王記~ 第三十四話

狭乃 狼さん

刀香譚、三十四話。

博望坡にて、緒戦に勝利した一刀たち。

そしてついに、華琳率いる本隊が荊州へ。

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2010-08-25 11:43:34 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:13929   閲覧ユーザー数:11827

 「華琳が宛に入ったか」

 

 「はい。その数およそ三十万。もともと宛に入っていた、先行部隊の残りとあわせて三十五万が集結しています」

 

 新野城の玉座の間。そこに一刀たち荊州勢の面々が揃い、軍議を行っていた。

 

 その顔ぶれはというと、

 

 一刀、劉備、関羽、張飛、劉封、黄忠、周倉、陳到、諸葛亮、龐統、の襄陽組。

 

 董卓、賈駆の新野組に呂布、陳宮の元宛勢。

 

 そして江夏から合流した公孫賛と妹の越、華雄。

 

 以上である。

 

 「こちらの戦力は、合流した白蓮どのたちを含めて、約八万。結構な戦力差ですね」

 

 言いながら一刀を見る関羽。

 

 「まともにやり合ったら、相当な被害が出るでしょうね。かといって、博望の時のような手は、二度も通じないでしょうし」

 

 腕組みをして、厳しい表情で言う賈駆。

 

 「向こうの顔ぶれは?」

 

 「曹操さんを総大将に、その妹である曹仁、曹洪の二将軍。親衛隊の許褚・典韋。夏侯淵さん、張遼さん。それと参謀として荀彧、程昱、郭嘉の三名。以上です」

 

 龐統が魏軍の将たちの名を、一気に羅列する。

 

 「よくかまずに言えたな、雛里」

 

 「あわわ~」

 

 龐統の頭をなでこなでこする、劉封。

 

 (可愛い……。協とは大違いじゃの~)

 

 「……え~と。なんか、懐かしい名前もあった、ね」

 

 「うん。程立さん、いや、今は程昱って名乗ってるんだっけ。それと郭嘉さんに」

 

 「……霞もいる」

 

 ポツリと言う呂布。

 

 「そう、ね」

 

 

 「ね、詠ちゃん。霞さんを説得することできないかな?」

 

 そう言って、親友である賈駆を見つめる董卓。

 

 「無理でしょうね。ああ見えて霞は、芯の通った矜持の持ち主よ。二度も主君を変えるなんてこと、決してしないでしょうね」

 

 「そう……だよね」

 

 賈駆にそう答えられ、肩を落とす董卓。

 

 「なら、やっぱり正面から当たるしかないか」

 

 「切り崩しがが無理な以上、それしかないと思います。策としては、先陣を出来るだけひきつけたのち、両翼を混乱させ、本陣を強襲して曹操さんを抑える。これが一番の理想でしゅ。はわわ」

 

 一刀の発言に続く諸葛亮。

 

 「確かにそれが一番の理想だけど、そううまく行くかしら?相手はあの曹操よ?ましてや伏兵を置けるような場所は、この辺りには無いわけだし」

 

 そう。

 

 新野城周辺は広い平原が拡がっているのみで、遮蔽物になるようなものは一切無かった。

 

 賈駆が呈した不安を聞いた一刀は、

 

 「……華雄、鈴々、恋」

 

 「ん?何だ一刀」「にゃ?」「……何?」

 

 名を呼ばれ、一刀に顔を向ける三人。

 

 「君たちの部下の中から、特に優れた騎兵を、五十づつ選別しておいて欲しい」

 

 「それはいいが、何をする気だ?」

 

 華雄の問いには答えず、今度は陳到に対し、

 

 「蘭さん、明日の朝、いや、早ければ早いほどいいけど、工兵隊を使って、こことここ、あと、こことここに、騎馬が五十騎入れるだけの穴を掘って欲しい」

 

 地図上の十ヶ所ほどを指し示しながら、そう指示する。

 

 「は。それ位でしたら、朝までもかからないと思いますが」

 

 「何?落とし穴……にしては、位置が変だよね?」

 

 首をかしげる劉備。

 

 「朱里。華琳たちがここに着くのは、いつぐらいだと思う?」

 

 「そうですね。宛に入ったのが二日前ですから、兵に休息を取らせたり、策を練ったりで、早ければ明日の夜半。遅くても明後日の昼前には来るかと」

 

 「ん。そんなところだろうな」

 

 一人納得する一刀。

 

 「義兄上、いったい何をなさるおつもりで?」

 

 たまらず一刀に問いかける関羽。

 

 「確かに、ここ新野の周辺は平地が拡がっていて、兵を伏せるようなところは無い。けど、無いなら造ればいい」

 

 一刀の言葉に、はっとする賈駆。

 

 「……あんた、まさか」

 

 にっ、と。笑みをこぼす一刀であった。

 

 

 

 そしてその二日後。

 

 太陽が中天を少し過ぎた頃、新野城の北に拡がる平原に、魏軍三十五万と、荊州軍八万がそれぞれに展開。対峙していた。

 

 「劉翔北辰、前に出なさい」

 

 「ああ」

 

 曹操と一刀が、それぞれの軍の先頭に立つ。

 

 「まずは久しぶり、というべきかしら?」

 

 「そうだね。洛陽であんなことがあった時は、どうなることかと思ったけど」

 

 曹操に笑顔で答える一刀。

 

 (?……ふ~ん)

 

 「……あら?そこにいるのは、元相国さまじゃない。ご無事で何より」

 

 目ざとく董卓を見つけ、笑顔のまま語る曹操。

 

 「運が良かっただけ、って。本人は言ってるけどね」

 

 「そう。……それで、本物の一刀はどこにいるのかしら?桃香?」

 

 「(ぎくっ!)な、何言ってるの華琳。ほら、こうして目の前に」

 

 「春蘭たちならいざ知らず、私の目をごまかせるとでも?子供の頃、一体何度、あなたたちの入れ替わりを見たと思ってるのかしら?」

 

 (そう。一刀の笑顔を見て、どきっとしないなんて、そんなことがあるわけ無いもの)

 

 悔しいけどそれは認めざるを得ない。と、曹操は思った。すべての者(特に女性)を引きつけてやまない、あの笑み。

 

 けれど、あれは本人も無自覚で発動するから、制御なんて出来やしない。

 

 目の前にいる一刀の笑顔からは、それを感じなかったのだ。

 

 「あ、あは、あはは」

 

 引きつり顔の一刀(?)。そこに、

 

 「やれやれ、もうばれたか。さすがは幼馴染というやつだの、姉上」

 

 一刀、いや、一刀に扮した劉備の横に、劉封が並ぶ。

 

 「?……あ、貴女は!!」

 

 「久しぶりじゃの、曹孟徳。協は元気にしとるかえ?」

 

 ばばっ、と。慌てて馬を下りる曹操。

 

 

 

 「か、華琳さま?!どうされたのですか?」

 

 その突然の行動に、荀彧をはじめとする魏の面々が困惑する。

 

 「あなたたちも控えなさい!……生きておいででしたのですね、少帝陛下」

 

 『!!』

 

 曹操の言葉に驚愕し、全員が慌てて馬を降り、礼を取る。

 

 「……本来なら、妾はもう、こうして表に出るべきではないと思う。じゃが、この場はあえて、少帝・劉弁としてそなたに問う。此度の南征、これは協の意思か?それともそなたの意思か?」

 

 さすがに元皇帝である。その王者としての風格は、いまだに失われていなかった。その気迫に押されつつも、曹操が口を開く。

 

 「……臣の判断にございます。協陛下の御心、大陸に安寧をもたらすため、臣が選んだ術にございます」

 

 「なれば今すぐ軍を退け、孟徳。荊州は一刀おじに、揚州は孫家にそれぞれ任せ、それぞれが協の名の下で、大陸に安寧をもたらせば、それで良いではないか」

 

 「……」

 

 曹操は言葉を失った。

 

 劉封の言葉は、すべからく真実であり、的を射ていた。だが、

 

 「……お断りいたします」

 

 す、と立ち上がり、はっきりと劉封に答える曹操。

 

 「何故じゃ!そなたとて戦を望んでいるわけではなかろうが!」

 

 曹操に詰め寄る劉封。

 

 「黄巾の乱より、乱れに乱れたこの天下は、一度、一つに纏まり直さねばいけないのです。そしてそれは、漢の帝の名の下で行われなければいけないのです。私の役目は、それを為すための覇道。そして」

 

 一度言葉を切る曹操。

 

 「我が覇道なりし後は、すべてを一身に背負う”悪”として、善たる協陛下に裁いていただく。……それが私の選んだ、曹孟徳の道です」

 

 劉封、いや、その場にいるすべての将兵に、自身の”覚悟”を語り聞かせる曹操。

 

 その強い意志の宿ったを瞳を見た劉封は、

 

 「……姉上。これは、この場に一刀おじがいても、説得できなんだかも知れませんな」

 

 「そう、だね」

 

 と、残念そうに言うに言い、劉備も残念そうな顔をする。

 

 「話は以上です。……桃香、一刀がどこにいて、いつ出てくるのか、楽しみにさせてもらうわよ?」

 

 ふわり、と。再び馬にまたがり、本陣へと戻っていく曹操。

 

 「……やるしかないんだね。朱里ちゃん。作戦通り、みんなを展開させて」

 

 「はい、桃香さま。みなさん!丁字陣を!」

 

 『了解!』

 

 諸葛亮の指示を受け、見る見るうちに陣形を整えていく荊州軍。

 

 

 

 それを本陣で確認した曹操は、

 

 「丁字形の陣形ね。先頭中央に関と周、右翼に董と黄、左翼に二つの公孫」

 

 「中央真ん中に劉備の旗ですね。その後方にもう一つ、白地に劉……少帝さまでしょうか?」

 

 「そうね。けど、桂花?あそこにいるのは亡くなった少帝さまじゃないわ。劉封という、一刀の配下の一人よ。みなにもそう徹底させて」

 

 「……御意」

 

 頭を下げる荀彧。

 

 「それより問題は、どこかしらに伏兵がいるかもしれないってことね。……けれど」

 

 周囲を見渡す曹操。あたりには広い平原が拡がっている。視界を遮るような物は何も無い。

 

 「隠れるところなんて無いですね~。伏兵のしようが無いと風は思うんですが?」

 

 曹操にそう意見をする程昱。

 

 「一刀のことよ。何かしら突拍子も無いことを、考えていてもおかしくはないわ」

 

 「では、こちらの対応は?」

 

 夏侯淵が問う。

 

 「まずは当初の予定通り、包み込んで押しつぶす手で行くわ。けど、万が一に備えて、霞、貴女には遊軍として後方で待機しててもらうわ。もし伏兵がいたら、あなたの判断でそちらに対応して頂戴」

 

 「はいな。……ま、愛紗や恋とやれんのは寂しいけど、しゃーないわな」

 

 頭の後ろで手を組み、曹操にそう答える張遼。

 

 (一刀あたりがどっかにいたら、おもろいんやけどな。……ま、伏兵なんぞ居るわけ無いわな。隠れようがないやん)

 

 「聞け!魏の精兵達よ!陛下の創られる、新たな天下を安寧に導くために、われらはこれより修羅となる!全軍、攻撃開始!」

 

 おおーーーーーーーー!!

 

 

 

 その戦場のとある場所。

 

 「……始まったみたいだな」

 

 「にゃ。地響きが聞こえるのだ」

 

 真っ暗闇の中、わずかに射す光を頼りに、一刀と張飛が小声で話している。

 

 「ところでお義兄ちゃん。なんで小声でしか話しちゃいけないのだ?」

 

 「……こんな狭いところで大声を出してみなよ。一発で鼓膜が破れるぞ?」

 

 「うにゃ。それもそうなのだ。鈴々はぜんぜん気づかなかったのだ」

 

 にゃははは、と、朗らかに笑う張飛。

 

 「お前たちももう少し辛抱してくれな。あとでうまいもの、たらふくご馳走してやるからさ」

 

 ぶるるる、と首をなでられて機嫌よく答える、蒼炎。

 

 「さて、と。外の様子は、と」

 

 ほんの少しだけ腰を浮かし、小さな窓から外をうかがう一刀。

 

 「……どうやらうまく言ってるようだな。華琳たちの目は完全に、正面の桃香たちに向いてる」

 

 「後は合図と同時に飛び出すだけなのだ。う~、うずうずするのだ~」

 

 「はは。もうちょっとだけ我慢な、鈴々。よし、みんな、心の準備は出来てる?」

 

 周囲の者たちが無言でうなづく。

 

 それを見て一刀もうなづき、自身の相棒にまたがる。……ちょっと体勢がきついが。

 

 また、別の場所では。

 

 

 

 「何か久しぶりだな。こうしてお前と二人というのも」

 

 「……ん」

 

 華雄にうなづく呂布。

 

 「外はどうやら、かなりの激戦のようだ。……月さま、白蓮、どうか無事で……」

 

 ぎゅっ、と。こぶしを握り締める華雄。

 

 と、その手に呂布の手が重ねられる。

 

 「恋?」

 

 「……大丈夫。愛紗も、みんなもいる。だから、恋たちは恋たちのすることを、ちゃんとする」

  

 そう言って華雄を励ます呂布。

 

 「……そうだな。我らは我らの、為すべきを為す。全力で、な」

 

 「ん!」

 

 「お前たちも頼むぞ」

 

 周囲の者たちに、小声で檄を飛ばす華雄。

 

 「は!華雄将軍!!」

 

 それに威勢良く答える兵士たち。だが、

 

 「……っのばかったれども。でかい声を出すな……。痛ぅ~」

 

 「……耳、痛い」

 

 耳を押さえ、悶絶する華雄と呂布であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、

 

 荊州の戦いは、まもなく佳境を迎えようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

                            ~続く~

 

 


 
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