●イナメ イナメ美鷹に会い白無垢を脱いで水軍に参加するの巻
(背景:汚い米屋)
店主「いらはい、何のようでごわすか?」
美鷹「米を買い取ってもらいたい、一俵」
店主「みせて、たもっせ。うーん、こんなところかいね」
(SE:そろばんの音)
美鷹「安いな」
店主「赤星の米じゃどん、こんなもんだいね。嫌なら出て行きたもっせ」
美鷹「まあ、しかたが……」
イナメ「ちょっと」
店主「な、なんでごわす」
イナメ「赤星の難民さんから安く買いたたくのが、薩摩隼人の心粋なの? おじさん」
店主「しょ、商人は隼人ではなか、商売でごわすから」
イナメ「ちょと、そろばん貸して」
(SE:かちゃかちゃ)
イナメ「これでどう?」
店主「そ、それは、今は赤星米が市場にあふれとってな」
イナメ「嘘つかない、赤星米なら薩摩の米よりよっぽど上質じゃない、どうせ、上米に混ぜてかさ上げするんでしょ」
店主「渡海の嬢さんにはかなわないでごわすのぉ。それでよろしいか、お客はん」
美鷹「いや、嬉しいが。いいのか?」
店主「よかよか、置いていってくなっせ」
(背景:鹿児島市街)
美鷹「助かった、礼を言う。儲かった分を少し持って行ってくれ」
イナメ「いりませんよ、赤星の方でしょう、お金はいくらあっても足らないと思います。それに国の商人があさましいマネをするのが嫌だっただけで、お礼が欲しかった訳ではないのですよ」
美鷹「悪いな、助かる。急に金がなくなってな」
イナメ「沖合の軍艦の方ですよね、急にってどうして」
美鷹「なんだか、もの凄く食べる幼児が仲間に加わるは、科学者はなんだか鉄が欲しいと言うし、水手の給料も払わねばだし、こんなにお金が飛ぶように無くなるとは思わなかった」
イナメ「出納の係の人がいるのでしょう?」
美鷹「いない。わしがやってる」
イナメ「そうですか、帳簿はつけてますか?」
美鷹「帳簿?」
イナメ「か、会計とかの知識は?」
美鷹「わしは武将だ、商人みたいな事はしない」
イナメ「し、しないじゃありませんよっ!! は、破産しますよっ!!」
美鷹「まあ、人間立って半畳、寝て一畳だ。気にしない」
イナメ「気にしてくださいっ! 誰か会計の出来る人を雇ってっ」
美鷹「大丈夫だ、あの舟に物資を積み込んで明とか行けば、飛ぶように売れるそうだ。心配はない」
イナメ「物資って」
美鷹「なんか、良い物」
イナメ「考えてないんですね」
美鷹「商人に言えば、なんか揃えてくれるだろう」
イナメ「はあ、騙されます、きっと」
美鷹「そ、そうかな」
イナメ「絶対に騙されますっ!!」
美鷹「赤星美鷹だ、君は商家の者か? 武家に見えるが」
イナメ「渡海イナメです。家は島津家の勘定方をやってます」
美鷹「おおっ! 勘定方の娘か、これは天の助けだ、わしと一緒にこい」
イナメ「あ、その……」
美鷹「わしらはこれから海の王国を目指して出発する。あの最新鋭戦艦風雲丸を城として、唐天竺まで広がる大海原を領地として、幸せな国を作るのだっ! イナメも来いっ! そして、そろばんとか、会計をするんだっ!」
イナメ「すごい……、でも……」
美鷹「嫌なのか?」
イナメ「私、明日、結婚するんです」
美鷹「おや」
隆信「ふむ、それはおめでたいといわざるは得ないだろうっ!」
美鷹「ななっ! おまえっ! どうしてっ!」
美鷹、あたりを見回すが、隆信は一人。
美鷹「兵隊は?」
隆信「はははっ!! 馬鹿な事を言うな、わが愛する美鷹!! いくら我らが剛毅な龍造寺といえど抗戦相手の首都に軍勢を入れれば、そく開戦になってしまうではないかっ!!」
美鷹「一人で何をしにきたのだ」
隆信「お前の顔を見にだっ!! 一日に一度、お前の顔をみないと、俺は寝ることができないっ!! 心がうずいて、枕を涙で濡らしてしまうっ! だから、一人で来たっ!!」
美鷹「衛兵ーーーっ!! 龍造寺の嫡男がここにいるぞーっ!!!」
隆信「ば、馬鹿なっ! なんて事をするのだ、我が愛する心の中の暴風雨よっ!!」
衛兵「なにいっ!! みな、出会え、出会ええっ!!」
隆信「くそうっ! 覚えておけっ!! 必ず、お前の心を俺への気持ちで一杯に満たしてやるからなあっ!!」
隆信逃げる。
イナメ「なんですか、あの人」
美鷹「気にするな、ただの馬鹿だ」
イナメ「愛されてるんですか」
美鷹「うむ、愛されている」
(美鷹:ちょっと赤面)
イナメ「き、気持ちに応えてあげれば良いのでは? 龍造寺家は勢いがありますし。とっても大事にしてくれそうですよ」
美鷹「あれは馬鹿なのだ。自分の好きなようにわしを愛したいだけで、わしの気持ちなぞ一つも気にすることはない」
イナメ「でも、女性の幸せとはそういう物ではないのですか? 旦那様に愛されているだけで、世の中の女性の中でも幸せな部類に入ると思います」
美鷹「わしはな、わがままなのだ。自分の足で地に立って居たい、お姫様だっこされて可愛がられるのは性に合わん」
イナメ「美鷹さまは、凄いですね」
美鷹「そうか?」
イナメ「海の上に国を作っちゃうとか思いついても、実行できる人はそんなに居ないでしょう。とても愛されているのに、そんな彼を振って、夢に向かって進んでるんですね」
美鷹「あの馬鹿は、彼、であった事はないっ!」
薩摩隼人「ちぇえええっす!!」
美鷹「は?」
イナメ「……」
薩摩隼人「りゃりゃりゃりゃりゃりゃっ!」
薩摩隼人、奇声を発して通り過ぎる。
美鷹「なんだあれは?」
イナメ「二才の人ですよ」
美鷹「にせ?」
イナメ「二才の人は、女性の姿を見るだけでも汚れると思ってます」
美鷹「はああ?」
イナメ「極力目を向けるのを避けます。しゃべりかけることもしません。しかたなく近づく時は、ああやって気合いを入れて足早に通りすぎます」
美鷹「なにそれ」
イナメ「この国は徹底した男尊女卑なんです。だから、あの彼の人の言葉、すごくうらやましいです。私にあんなことを言ってくれる人がいたら……」
(立ち絵:イナメ赤面)
美鷹「ひょっとして、イナメは結婚相手と喋ってない?」
イナメ「この国では旦那さんと会うのは結婚式の時ですよ」
美鷹「わしは姫だったが、一応馬鹿と見合いはしたぞ。気持ち悪い事を言いおったので、蹴り飛ばしてやったが」
イナメ「自由であこがれてしまいますね」
美鷹「じゃあ、来い。こんな面倒な国からは女は全員逃げるべきだ」
イナメ「そうはいきません、私は普通の人間で、決められた事からは逃げられません」
美鷹「そうなのかー」
イナメ「もし良かったら、結婚式が終わった後、誰か会計の出来る人をさがしてあげますよ」
美鷹「そうか、それは助かる。でも、わしはイナメが良いのだがなあ」
イナメ「私などより、ずっといい人が居ますよ」
(背景:イナメの家)
イナメ(寝れない……)
立ち上がり窓を開ける。沖合に停泊している風雲丸の灯が見える。
イナメ「ふう……」
(回想)
美鷹「わしらはこれから海の王国を目指して出発する。あの最新鋭戦艦風雲丸を城として、唐天竺まで広がる大海原を領地として、幸せな国を作るのだっ! イナメも来いっ! そして、そろばんとか、会計をするんだっ!」
イナメ「そんな事、できない」
イナメ「私は、親の決めた男性と家庭を持って、子供を産んで、家系をもり立てて、おばあさんになって、桜島の麓に葬られる。そう、決まっていて……」
イナメ「でも行きたいなあ……。美鷹さんと舟にのって、海の向こうへ。行きたいなあ……」
(背景:白昼の道。白無垢のイナメが馬にのって道行きをしている)
イナメ「はあ」
ばっちゃ「これ、浮かない顔するでねえだわ。綺麗な嫁御さんがだいなしじゃあ」
イナメ「はい……」
(遠く、イナメの視線が風雲丸に向かう)
(SE:ひゅうう)
イナメ「あっと」
(SE:とん)
イナメ「……」
(SE:する)
ナレーション「意図した動きではなかった。イナメは風にあおられ、馬から下りてしまった。なんとなく、打掛を脱いでしまった。そして、駆け出すのは、そこから大して遠い所にある気持ちではなかった」
ばっちゃ「こ、これっ!」
ナレーション「イナメは文鎮高島田を解いた。白い草履を蹴飛ばし脱いだ。浜へ向かって走った」
イナメ(ああ、なんか、馬鹿な事をしてるなあ。でも……。気持ちいい)
父親「こら、イナメ、どこへいくでごわっそうっ!」
イナメ「海っ!! 唐天竺よりももっと向こうっ! 南蛮も見てくるっ!!」
母親「よめ、嫁入りはどないせう? 帰るっといでっ!!」
イナメ「嫁入りはやめますっ!!」
(SE:ジャバジャバ)
(背景:風雲丸)
イナメ「そろばん出来る人を探してきました」
美鷹「うん」
イナメ「私です」
美鷹「おお、大歓迎する!」
イナメ「まず、帳簿を作ります、現在の残金とそれぞれの賃金などを教えてください」
ちひろ「これは助かります。この舟みんな数字に暗くて……」
美鷹「良し、早速だな。すばらしい」
ヨヨミ「およめさんきたー」
――イナメ美鷹に会い白無垢を脱いで水軍に参加するの巻 終わり――
●オマケ
イナメ「なんですかーっ!! この状況はああっ!!」
美鷹「ひ、ひどいのか?」
イナメ「このまま水手さんに日給をはらうと、あと三日で破綻します」
美鷹「そ、そうなのか」
イナメ「水手さんは月給制とします、あと一ヶ月の間に交易でお金を作らないと」
香苗「でも、お金をもらえないとさ」
イナメ「舟の上で毎日お金がいるんですかっ! 鹿児島にいるうちはこれまで溜めたお金で遊んでください」
美鷹「つ、使っちゃって、すかんぴんになってる水手も、い、いるし」
イナメ「使っちゃう人が悪いんですっ!!」
香苗「す、すいません」
イナメ「ヨヨミちゃんは食べ過ぎですっ!! 減食っ!」
ヨヨミ「えー、そんにゃー」
ちひろ「あ、あの、研究用に鉄がほしいの……」
イナメ「却下しますっ! まずは交易でお金をつくります。話はそこからですっ!!」
ちひろ「はい……」
美鷹「うんうん、これが主計長というものだな」
イナメ「美鷹さんっ! お酒をしばらく禁止ですっ!!」
美鷹「ううう」
●キャラスケッチ雑感
・いがいにイナメも動くな。
・ちひろとは噛むけど、東シナ海にでるとちひろは秘密基地の留守番だから、それほどでもなかろう。
・敵国に単身潜り込むとは、馬鹿はすごい行動力だ。
・美鷹がどんどん駄目な人に。
・人が初めて出会う話は自然に盛り上がるね。
・これでメインキャラはおしまい。つぎはライバルのカレン嬢のスケッチ。
・薩摩方言指導の人募集中。イナメも方言で喋らせたかった所。
●わこうっ! の面白さ予定
・とりあえずは萌えキャラ立ち。
・あとは超人戦闘。剣の美鷹、大筒のヨヨミとが中心、もう一人いてもいいのだが、なんかイナメとちひろは武力なさそう。
・帆船砲撃戦をやりたい。帆船というものは凄く運動が不便な物で、なかなか大砲を撃つチャンスが無いそうだ。上手回ししたり、下手回ししたりで、くるくると回り合って操船で近づき、片舷にある大砲を一斉にぶっ放すのが乗法らしい。波とかも使うらしい。表現できれば面白そう。
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わこうっ! のキャラスケッチ三本目。
経済担当のイナメさんのおはなし。