No.166783

漢女は姫(私)に恋してる

MiTiさん

皆さん久しぶり。そしてすいません…
作者であるMiTiは再び続きが書けない一作品を書いてしまいました…

それでも良いと言う方はどうぞ、楽しんで頂けたら幸いです。

2010-08-19 19:39:46 投稿 / 全23ページ    総閲覧数:3920   閲覧ユーザー数:3306

「ハァ~…」

 

学園へと続く桜並木で、一人の生徒が溜息をつきながら歩いていく。

漂う哀愁も、他の生徒にとっては美点と映り、一部の者は顔を赤らめながら挨拶を投げる。

 

「姫!おはようございます!!」

 

「姫兄様!おはようございます!!」

 

「あ、あぁ。おはよう」

 

正直、今呼ばれた呼称には未だ慣れずにいるのだが、立場ゆえに、選ばれた責務があるが故に無碍に出来ず、

引きつりそうなのを抑えながら何とか笑顔を浮かべて挨拶を返す。

 

「やっべ~、笑顔で挨拶返されたぜ!?」

 

「あの笑顔…たまんねぇな~」

 

「ああ。あれで丼三杯はいけるぜ」

 

そんな会話をしながら早足気味に、挨拶をしてきた生徒達は去っていく。

それを見ながら再び溜息を吹く。

そこにまた声を掛けるものがいたが、今度のものは口調も態度も異なっていた。

 

「どうした?そんなに溜息をついてたら健康も幸せも離れていってしまうぞ?」

 

「…あぁ」

 

先ほどのように、アイドルか何かに対するものではなく、友人に対する口調にいくらか安らぐことが出来たが、

それでも自分の立場は変わらない現実に溜息を止めることができない。

 

「溜息を出したくもなるさ。何故、私がこのような…」

 

「何を言っているんだ。俺はお前が選ばれて良かったし、お前以上の者なんていないと思うぞ。

 それに、このことは全学園生徒が認めているんだ。誇ればいいじゃないか!」

 

輝かしい笑顔と共に、世辞を一切含まない本心を告げてくれるが、

それを見聞きしても、納得し開き直ることが出来るほど彼、いや…彼女は器用な心の持ち主ではなかった。

 

「ハァ…何故このようなことになってしまったのだ…」

 

思わずもれた呟きに答えてくれるものはこの場にいない。

何故彼女…華雄がここ、真戦場(しんいくさべ)学園(男子校)にいるのか?

それは二週間前にさかのぼる…

 

 

~二週間前~

 

中学卒業後、とある理由で武者修行の旅に出ていた華雄は、実家からの呼び出しを受け帰宅していた。

華雄を呼び出し、実家で待っていたのは朱里。

長く続く武家である華雄の一族を支えて来た一族の一員で、現党首お抱えの弁護士でもある。

挨拶を済ませた二人は早速話しに入る。

 

「遺言?」

 

「はい。先日お亡くなりになられました華雄さんのおじ意様が、数日遅れて届くように残していたらしく…

 確認しましたが、間違いなくおじい様のものです」

 

「そうか…それで、遺言には何と?」

 

「はわゎ…えと、見てもたったほうが早いですので。どうぞ」

 

急に自信なさげになった朱里を不思議に思いながら、華雄は封筒を受け取り、

中に入っている数枚の紙を一遍に取り出す。そして、書かれているものを見て首を傾げる。

そこにはでかでかと”真戦場学園 入学書”と書かれていた。

 

~真戦場学園~

 

かなり古くからある少々普通の学校機関とは異なった男子校。

戦場という名が表すとおり、ここで学ぶことの殆どは戦闘に関することだ。

クラスは普通科、政戦略科、武芸科と大きく三つに分かれている。

一般の学校と同じ事を学ぶ普通科。

政治・戦略・軍略などを学ぶ政戦略科。

戦術・戦闘技術を学び鍛える武芸科。

学園の特色からか、通う生徒の殆どは代々続く武家やその関係者である。

 

~~

 

「…おい、これは何かの冗談か?」

 

「はわわ…信じ難いと思うと思われますが…

 既におじい様の働きで、後は荷物をまとめて遺言に書いてある、ここの学生寮に向かうのみです」

 

「…いや、今更学校機関に通うことは、まぁいいとして…

 戦場学園というと確か…男子校、だったな?」

 

「は、はい…」

 

「はわ!?そ、それ以外に手紙が入っているので、そちらを読んでください!?」

 

言われて、上の方で数枚ホチキスでまとめられている入学関係の書類を除けると、

華雄が見間違うはずの無い、祖父の実筆が見え、食い入るように読み始める。

 

 

『華雄よ。入学書を見て驚いたであろうが、これは夢でも嘘でも冗談でもない。

 

 お主が、力で女は男に勝てないと嘆き、それを挽回せんと修行のたびに出て二年。

 

 その果てに、ワシから見ても男と同等かそれ以上の力を付けることが出来たな。

 

 数多くの有名な道場に手合わせ試合を申し込み、そして勝利を収めたという報告を聞くたびにワシは心底喜んだ。

 

 そんなお主を、ワシは誇りに想う。

 

 のじゃが…ワシは一つ心残りがあった。

 

 それは、伴侶となるもの…婿に関する報が一切なかったことじゃ。

 

 別に男が嫌いであるというわけで無いことは分かっているが、

 

 手合わせし、そして敗してきた男を、お主は挽回し超えることが出来た壁としか見ておらず、

 

 また、男達もお主のことを、自分を敗した者としか見ておらなんだ。

 

 このままでは、婿を受けられず、伴侶を得ることが出来ず、代々続く我が一族は絶えてしまうだろう。

 

 そう思い、ワシはお主を戦場学園に編入させることにした。

 

 お主のばあさん、つまりワシの妻が、ワシと出会い恋仲になった、この学園に。

 

 教師生徒全員男子女子禁制の中に、一人女であるお主が暮らすにはいろいろと大変であろうから、

 

 ここに通っており、同じ寮生である友人の華陀君に助てもらうよう頼んである。

 

 後のことは朱里と華陀君と相談すると良い。

 

 それでは、ワシの愛しい孫よ。良い伴侶を得られることを願って折るぞ』

 

 

最初の部分で少々嘆き、次の部分で自分がどれほど祖父に大切に想われていたかを改めて実感し喜び、

続きを読むうちにだんだんと表情が歪んで行き、最終的にうな垂れてしまった。

 

「…どうしますか、華雄さん?今なら入学を取り消すことも何とかできますけど…」

 

「…いや、じぃやが私を想ってやってくれてことだ。無碍には出来ん」

 

それなりに名のある家であれば、よくあるパターンだと親が勝手に相手を決め、望まぬ結婚となるだろう。

だが、祖父はそうせず、場所の指定はしたが、相手は自分で選べといってくれた。

それも、自分達の思い出の場所で。知らなかった祖父母の出会いにかなり驚いたが…

決心した所で扉がノックされた。入室を促すと、そこには手紙に書いてあった華雄の友人、華陀がいた。

 

「やぁ、華雄。久しぶりだな!」

 

「ああ。華陀が入学してからは会っていなかったから、2年と少し振りと言ったところか」

 

「そうだな」

 

華陀とは武者修行をしているときに出来た友人だ。

毎度の如く、名門道場に挑み、その時の試合相手は相当手強く、

互いに吹き飛ばしたり吹き飛ばされながらと、いつの間にか試合の場は場外へ、屋外へと変化して行き、

最終的に、屋敷の近くにあった公園にて華雄の勝利で終わった。

互いに熱くなり過ぎて自分達が公園まで来てしまっていたことに気付かずにいた。

本来なら試合終了して直ぐに、試合中に負った傷の手当を行うのだが、自分達を追ってきた者達の中に医師がおらず、

戻って傷の手当をしてもらおうとしたが、想った以上に傷を負っていたらしく、痛みで満足に動けずにいた。

 

そこに現れたのが華陀だ。彼は世界中の医療技術を学び得ようと旅をしており、

行く先々で病や怪我と相対し、自分の持つ技術を高めていった。

 

華雄と試合相手を治療した後、互いのことを紹介し、お互い自分を高める為に修行しているという共通点から、

華雄と共に行けば、自然とケガ人と相対することに成り、華陀と共に行けば意思の心配が無い。

ならば暫く一緒に旅をしないかということになり、二人は友人になった。

因みに、お互い熱血である所為か、恋愛感情は無く、気が合う友人どまりであった。

 

「それで、もう手紙は読んだんだな?」

 

「あぁ。正直未だ完全に納得できてはいないが、ここで断ってしまってはじぃに会わせる顔が無い」

 

「そうか。それは膳は急げだ!早速準備しよう!!」

 

「とは言っても、衣服と道着、それから戦斧だけだからそんなに大変ではないが」

 

「いーや!あともう一つ重要なことがあるぞ」

 

「ん?なんだ」

 

「華雄、これから行くのは男子校。つまり…男装が必須だ!!」

 

と言う訳で始まった変身タイム。

男勝りではあれど、男について試合相手としか見てこなかった華雄はどのようにすれば良いかわからなかった。

と言う訳で、男である華陀と、何故か的確にアドバイスが出来る朱里が手伝った(彼女は隠れ801好きです…)。

 

 

着替え等の際、異性がいるとやり辛いのが普通だが、華陀本人には女性に対する性の関心が無く、

女性を見るというより診ると取れるので、その点において華陀は全く無害であると分っているので気にしていなかった。

 

一番の課題となるのは、男には無く女にあるもの。それは胸。

身体を鍛えている所為か、一般の女性よりも小振りなものであるが、

彼女は確かにある。所謂美乳という奴だ、多分。

これに関しては、さらしを巻くことであっさり解決できた。

さらしを巻いてもごく僅かに膨らみは残るが、この程度ならば胸筋として取れる。

ちなみに、腹筋は割れ目が分る程度に割れています。

 

常に嘘偽り隠し事の無い自分を見せることを心情としているので、化粧は元々していない。

それでも素肌にはしみ一つ無く、旅を続けていたにも拘らず肌荒れの一切ない肌であったが、

わざわざ男のようながさがさとした肌に見せる必要も無いだろうということで放置。

 

声に関しては、華陀のお得意の針術で声帯を少々いじくって変えることが出来るとのことだが、

男の中でも高い声の者もいるし、華雄の声ならばそれで通るだろうということで変化なし。

 

口調に関して、一人称が私であるが、これは古風な家柄ゆえに身についた口調ということに。

他については、仕草含めて、言っては何だが華雄は女らしさよりも男前なところがあるため問題なし。

 

まぁ、要するに…さらしを巻いて男物の服を着た以外に余り変化は無いということだった。

暗に自分が女の子らしくないといわれているようなものだが、

元々男を超える為に旅に出ていただけに、特に気にしなかった。

 

 

その翌日、華雄は”真戦場学園”とでかでかと書かれた校門をくぐり、桜並木を歩いて目的地の寮へと向かっていた。

世間一般の学校の始業式から一月たっているが、ここの桜は少々遅咲きであるお陰で、

華雄は満開の桜に心を癒し清めながら歩くことが出来た。

 

やがてたどり着いた生徒寮。長く続く学園である為、少々ぼろいのを想像していたが、

新装されたのか、外観は真新しいもので目立った傷や汚れも見当たらない。

と、暫く外観を眺めていると寮の扉が開き、中から華陀が出てきた。

 

「やぁ華雄。時間通りだな」

 

「ああ」

 

「それにしても…これ一人で全部持ってきたのか?」

 

「私のほかに人がいないのだ。当たり前だろう」

 

華雄の左手は長期旅行用のトランクが、右手には彼女の背の倍近くあるケースが抱えられていた。

単体だけでもそれなりの重さがあるのに、その中に洗濯などもろもろの事を考慮に入れた、

一年分の衣類や洗面用具など生活用品をぎっしり詰めたトランク。

とあるケース、これには彼女の魂とも呼べる武器が入っている。

長い柄の先には片方に斧がついており、もう片方にはその1/3程の刃が、そして先端には両刃の短刀がついている。

所謂ハルバードと呼ばれるものだが、和風な呼び方を好むのと、斧として使うことが多い為華雄は戦斧と呼んでいる。

校門まで車で来たが、そこから寮までの1kmはある距離をその身一つで抱えてきたのだ。

 

「相変わらず凄い体力だな!とは言っても流石に疲れただろう?案内するから部屋に行こう」

 

「ああ。頼む」

 

内装は和と洋を混ぜ合わせた感じで、庶民的なところもあってどこか安心できるものだった。

 

年代を感じさせる未改装な木製の階段を、音を鳴らし香りを楽しみながら上っていき、

二階に上がり廊下を歩いて突き当たり、角部屋に到着する。

 

「ここが華雄の部屋だ」

 

「そうか」

 

トランクを一端降ろして扉を開けてみると、中からは懐かしさと安心感を感じる雰囲気が漂ってきた。

部屋は意外にも和風な内装で、床は畳張り、各種収納場所として襖と棚、箪笥が設置されている。

 

「今からどうする?俺はこの後ちょっと用事で部室に行かなきゃ行けないんだが」

 

「ああ。とりあえず荷物の整理をしようと思っているが、その前に一通り寮内の案内を頼みたいのだが」

 

「それくらいの時間ならあるな、それじゃ行こう!」

 

寮に住んでいる華陀含めて他3人の部屋、屋上へのルート、トイレ、風呂、キッチン、談話室と寮内の施設設備を案内した後、

華陀は宣言どおりその場を去って学園に向かう。

自室に戻った華雄はトランクを開けて中身を取り出しては棚や箪笥に移して行き、最後に専用の台を設置して戦斧を置く。

 

一通り荷物を整理し終えた華雄は、少々疲れた身体に風を当てようと寮を出て桜並木に向かった。

 

 

見る者を落ち着かせる茜空、身体に優しく揺れながら通り過ぎていく夕方の涼しげな風、

そして風に乗って舞い踊る桜吹雪。

 

祖父の遺言で男しかいない場所に一人女である自分が突入することになってしまい、

これからどうなるか全くわからずにいるが、少なくとも、この見事な桜を暫く見ることが出来ることには喜んでいた。

 

夕日を、風を、舞い踊る桜の花びらをその身に浴びて、心を穏かにする華雄。

そこでふと近付いてくる人の気配を感じた。

 

振り返ってみると、そこには、瞳を閉じながらゆったりとした足取りで歩く男子生徒がいた。

ついいつもの曲で、身体全体を見て自分との差を測ってしまう。

それなりに鍛えてはいるようだが、筋力体力共に自分の方が上で、

武力に関してはそれ程強いというわけではないが、弱いとは絶対にいえないというどこか不鮮明な所がある。

 

後数歩で接触する所で、男子生徒は目を開いた。

その瞳を見た途端、華雄は今までの人生で感じたことの無い感覚に陥った。

一寸の淀みなく清んでいて、真っ直ぐとこちらに向けられる眼光。

直視されていると心の内を読まれ、吸い込まれていくような感じがしたが、何故かそれを不快に思うことはなかった。

 

華雄が暫くどう対応すればよいか迷いながら見つめていると、男子生徒の方から話しかけられた。

 

「やぁ。君も日光浴?それとも風浴か桜浴?」

 

「あ、あぁ。そんなところだ」

 

「そうか、俺もなんだ。特にこの時間が一番心地よくてね」

 

言いながら男子生徒は再び瞑目する。言葉の意味を図りかねていると、答として少しだけ強い風が吹く。

身体を打つようなものではなく、ボタンを外していた為に前が開いており、そのお陰で制服が浮く程度のもの。

 

微笑を浮かべながら瞑目し、身体を撫でる風を、降り注ぐ夕日の光を、頬を撫でる桜吹雪を、

それら全てをその身に受けて、言葉通り心地よさそうにしているその姿に、

華雄は、どこか幻想的に感じ、魅入っていた。

 

暫く華雄が男子生徒に向ける視線を外せずにいると、やがてその風が止んだ。

すると、男子生徒は余韻に浸りながら、どこか名残惜しそうにしながら、目を開けて華雄を見る。

 

「…フゥ、終わっちゃったか。それじゃ俺はもう帰るよ」

 

「う、うむ…」

 

未だに、未知の感覚から抜け出せていなかった華雄は、なんとか返事を返す。

そんな華雄の心中を知らず、しかし不快にさせることの無い微笑を浮かべながら、

男子生徒は華雄の直ぐ横を通り過ぎようとする。その際、華雄の肩をぽんと叩きながら、

 

「またな」

 

そう言いながら、男子生徒は悠々と去っていった。

 

その後姿が見えなくなるまで、華雄は動くこともなく、ずっと男子生徒を見続けていた…

 

 

硬直から立ち直った華雄は、腕時計を見てそろそろ夕食の時間だと思い出し、寮に戻ることにした。

寮の扉を開けてまず目に入ったのは、一人の少年が、どれだけ飲み食いするんだ?

と突っ込みたくなる程の菓子や飲み物を乗せた、肩幅の三倍はあるだろうお盆を、

頭上に掲げながらよたよたと階段を上がっている光景。

 

一瞬何処の子供だ?と思ったが、学園の制服を着ていることから、にわかに信じられないが、

彼が0~2年の差しかない同じ学び舎に通う学生であると考えられる。

 

と、しばらく外見少年について考えていると、件の彼は、段を踏み外して転げ落ちようとしていた。

慌てて駆け出し、階段を数段すっ飛ばして跳び込み、お盆は何もこぼすこともなく、

少年?は地面と水平になった所で支えることが出来た。

 

「にゃあ!?…た、助かったのだ~」

 

「大丈夫だったか?」

 

華雄が見下ろしながら問いかけると、少年?は天井を見上げるように華雄を見る。

 

「兄ちゃんのお陰で菓子も飲み物も無事だったのだ!」

 

「いや、そちらを気にかけているのではないが…まぁ良い。

 それで、これは何処に運べばよいのだ?」

 

「にゃ!?そんな悪いのだ!!」

 

「気にするな。この程度どうということはない。

 それよりも、こんな状況になってしまうのだから、それこそ放っておけん」

 

「…それじゃよろしくお願いするのだ」

 

結局、少年?の方が折れ、少し落ち込みながら申し訳無さそうに頼んだ。

 

「ああ、承った。それで、どこに?」

 

「二階西側の角部屋に…」

 

「…私の部屋?」

 

「にゃ?てことは…兄ちゃんが新しい入寮生なのか!?」

 

「そうだが」

 

「やったのだーーー!!」

 

「?何が嬉しいのか知らんが、とにかく運ぶぞ」

 

そう促して、二人して華雄の新居へと向かう。部屋に入り、盆を置き、

何か飲みたいかという問いに対してウーロン茶を所望し、少年?が二人分用意し、

それを飲んで一息ついたところで話し始める。

 

「まずは始めましてなのだ!李は鈴李(リン・リー)って言うのだ!」

 

「華雄だ。一年に満たないが、今日よりこの寮で暮らす。以後よろしく頼む」

 

自己紹介の後、この寮の制度、下級生が上級生の世話役をする旨を話す。

それを聞き華雄は、世話をしてくれるのはありがたいが、

先ほどのように危険な状況に成りかねないことはしないように注意をする。

言われた李は少し落ち込むが、それ以上にどこか嬉しそうにしていた。

 

何故嬉しそうにしているのか問うと、もう一人の李と同学年の寮生は華陀の世話係で、

兄弟のように仲の良い二人を羨ましく思っていたとの事。そして今日、華雄という自分が世話する人物がやってきて、

早速兄のように注意してくれたことに喜んでいたのだと言った。

 

女である自分が兄と、男と見られていることに、変装が見破られていないことには安堵したが、

どこか釈然としない所もあるが、一人っ子であった為に、年下から慕われる経験が余りなかった華雄は、

悪く無い気持ちであった。

 

「ふむ…ならば李、いまから杯を交わさないか?」

 

「…にゃ?」

 

「一つ屋根の下で一緒に暮らし、そして私の世話をしてくれるとは、いわば義弟のようなもの。

 兄弟などいなかった故、なにかと不甲斐無いかもしれぬが、私でよければ義兄弟の契りを交わさないか」

 

言いながら、微笑みを浮かべながら、華雄は杯ならぬ茶碗に、酒が無いのでウーロン茶を注いで李の前に持ってくる。

暫く華雄と前に出された茶碗を交互に見ていた李は、やがて僅かに涙を浮かべつつ、

自分の茶碗にこちらもウーロン茶を注いで華雄のほうへ持ってくる。

 

互いに杯を軽く当てて、その杯に込めた想いを、誓いをその身に受けるかのごとく、

注がれた茶を一気に飲み干す。

 

ここに、華雄と李の義兄弟の契りが交わされた。

 

 

茶の杯を交わし、義兄弟の契りを結び終えた所で、扉がノックされ華陀が入ってきた。

 

「やぁ、華雄。李もここにいたのか…って、どうしたんだ李?目が赤いが」

 

「な、なんでもないのだ!」

 

「そうか?まぁいいか。二人とも、夕飯が出来たから呼びに来たぞ」

 

それを聞いた李は、流しそうになっていた涙を誤魔化すように、いつも以上にはしゃぎながら退出した。

そんな李を不思議に思い、本当に何があったのかと視線で問うが、華雄は苦笑を返すだけだった。

が、李に向ける視線からは優しさが感じられたので、悪いことでは無いだろうと判断し、深く問わないことにした。

 

三人でダイニングキッチンへと向かうと、食卓には既に色取り取り豪勢な料理が並べられており、

更にもう一品追加で持ってくる少年?もいた。

 

「琉、もう準備できてるみたいだな」

 

「ハイ!これが最後の一品です。それで…そちらの方が?」

 

「ああ。今日から入寮することになった、俺の親友だ!」

 

「華雄だ。以後よろしく」

 

「初めまして。自分は琉、流琉(リュウ・ルー)といいます。こちらこそ、よろしくお願いします!」

 

ハキハキとした口調と声、そしてまぶしいまでの笑みに、華雄も好感を持ち笑みを返す。

挨拶を済ませ、四人はそれぞれ席について、互いのことを話しながら夕飯を食べる。

 

華雄と華陀については、華雄が武者修行の時からの仲という紹介で終わった。

続いて、李と琉の紹介が行われたのだが、そこでは華雄が驚くことがいくつもあった。

 

彼等が、同じとある中国人が院長の孤児院の出身であること。これについては特に驚かなかった。

二人とも、自分と一つしか歳が離れていないこと。李も琉も少年にしか見えないのでかなり驚いた。

制服を着ていなかったら、真っ先に「ここは君達が来るには早すぎるよ」と言っていただろう。

 

用意されていた料理は、パッと見十人くらいでパーティーしても大丈夫ですよ?ってくらいの量があったが、

その6割を一人で食べてしまう李に、華雄は唖然とする。その小さな身体の何処にそんなスペースがあるのだろうか?

 

寮の食事は、基本寮母が作ってくれるのだが、休日は自炊しなければならないとのことで、

自分は修行のたびをしていて、野戦料理レベルならば出来ると言い、華陀は華雄らしいなと笑い、

李と琉は、その言い回しに漢らしさを感じ、尊敬の眼差しを向けてきた。

まぁ、とにかく、普通に出来ると認識された。問題はその後…

それぞれの料理の腕を聞いたところ、華陀も普通に出来る・李は味は微妙だが普通に食べられる。

問題は琉…良い意味で。

琉の腕を聞いたところ、二人が絶賛。具体的に問うと…

なんと、今目の前に並べられた料理の数々(大半が李に食されているが…)、これら全てを琉が、

それも一人で準備したとの事。料理は和・洋・中・デザートまでどれも一級品で店で出しても問題ないだろう。

それを、目の前にいる、見た目少年の琉が全て行った。驚かずにいられなかった。

 

 

デザートを食べ終え、食後のお茶を飲みながら明日の予定について話し合った後、四人は解散。

 

入浴の際、李が義弟として背中を洗ってあげたい!と迫ってきたが、

自分は鍛錬があると戦斧を掲げながら誤魔化そうとしたが、それならば自分も!と引かず、

取りあえず鍛錬をし、自分はもう少しやるからと言って李に入浴を促しても、

華雄がやるなら自分も!と一行に引かず、どうしようかと悩んでいる所で、

華陀がやってきて、二人で何とか誤魔化して、一緒に入浴は避けることが出来た。

 

最後の最後で必要以上に疲労を抱え、華雄は明日に向けて就寝するのであった…

 

 

早朝、部活動などで早めに登校する生徒よりも少し早くに学園の校舎へと赴いていた華雄と華陀。

職員室に隣接する学園長室まで案内した華陀は、教室に行くには少し早いので部室に行って来ると言って別れた。

去り際に残された華陀からの応援と、祖父の手紙から伝わった自分への愛を胸に、華雄は扉をノックする。

 

「入るが良い」

 

中から野太い声で入室を促され、それに従い「失礼します」と言いながら扉を開けて入室する。

 

「来たか、ようこそ我が学園へ。ワシがこの学園の長を務める卑弥呼だ」

 

「華雄です。一年に満たない期間ではありますが、よろしくお願いします」

 

入室し、学園長である卑弥呼を見た華雄の感想は…”この老人、只者では無いな”であった。

白くなった髪や髭からは歳を感じさせるが、醸し出されあふれ出ているいろんな気(オーラ)が只者で無いことを告げている。

特注であろうかなりでかいスーツを難なく着こなす広い肩幅、服越しでもわかる隆々節々とした筋肉、

衣服で隠れていない箇所から見れる褐色に染まっている肌、ただ筋肉があり褐色肌であれば強いと言うことではないが、

目の前にいる人物のそれは本物である。

 

もはや習慣と成り、相対した人物の武がどれほどのものかを判断する華雄。

無意識の内に挑戦的な視線を送っているが、それを受けた学園長卑弥呼は、

それを不快と思わず、どこか懐かしそうに思いながら話し始める。

 

「フム…その視線、その気…華楠と非常に似ておるの」

 

「…学園長は、祖母をご存知なので?」

 

「うむ。お主は知らんじゃろうが、ワシはこの学園のOBで、華楠とは同級生であった。

 懐かしいの。華楠とは幾たびも手合わせをし、互いに武を高めあった好敵手同士でもあったからの」

 

それを聞き、華雄は驚愕した。祖父からは常々、華雄が生まれて直ぐ他界してしまった祖母は自分よりも強かったと聞いていた。

その祖母と同級生であり、好敵手でもあったという人物が目の前にいる。

祖父よりも強かったとされる祖母と好敵手であったとされる人物から、祖母に似ていると評され、華雄は嬉しく思っていた。

 

その後しばらく、今後のことについて話し、それが終えたところで扉がノックされる。

 

「入ってよいぞ」

 

「失礼しまぁす」

 

入ってきたのは、これまた華雄が一目見て只者では無いと感じさせる人物。

はげ頭にもみ上げを伸ばして三つ編にし更には口紅をしていると言う妙な頭だが、

学園長同様、スーツの舌からでもわかる隆々節々とした筋肉と褐色に染まった肌、

醸し出しあふれ出す気が、彼は強いと告げていた。

 

「華雄よ、こ奴がお主の転入するクラスの担任じゃ」

 

「始めましてぇ、担任の貂蝉よぉん。よろしくねぇん♪」

 

「華雄です。よろしくお願いします」

 

「後のことは貂蝉から聞くとよい。貂蝉、頼むぞ」

 

「任っせて下さぁい学園長。それじゃ華雄ちゃん、行きましょうか?」

 

「はい」

 

 

二人が退室した後、卑弥呼は呟く。

 

「フム…あの祖母譲りの容姿、そして持っている武。これはまた…今回もそうなるかの?」

 

彼女、華雄に何がありどうなるのか。それは転校してきた華雄には知り得ないことであった…

 

 

学園長室から教室までにある各施設教室の紹介をしながら歩き、ついに教室の前まで来た。

 

「そぉれじゃ、私が呼んだら入ってきてちょうだいねぇん」

 

「わかりました」

 

貂蝉が入室し扉が閉められ、挨拶や連絡通達が行われる。

やがて、その時が来た。

 

「今日からうちのクラスに転校生が来るわよん。そぉれじゃ、入ってきて頂戴ん」

 

入室を促され、華雄は扉を開き堂々とした足取りで驚愕の横まで歩く。

そして生徒のほうへ向き告げる。

 

「今日よりこのクラスの一員となる華雄だ。よろしく頼む」

 

堂々としているが、彼女はあることを懸念していた。

華陀や事情を知る卑弥呼・貂蝉からは大丈夫と言われているが、

30人前後の男子の視線、中には鋭い者がいてばれるかもしれない。

生徒の中で唯一華雄を知る華陀は残念ながら別クラス。

正直不安の拭えずにいた。が…それは杞憂だった。

 

「すっげー、美形だな」「見ただけで強ぇってのがわかるぜ…」

「今年は決まりかもな」「…イィ」

 

等と囁かれていた。中には華雄には分らないことや、別の意味で不安になる言葉もあったが、

とりあえず、自分が女であると分る者がいないことに安心した。

 

「はぁい静かにしてねん♪華雄ちゃんは事情があってこんな中途半端な時期に転校してきちゃったから、

 いろいろわかんないことがあると思うから、皆な~かよくするのよん!」

 

「ウッス!」(全員

 

「い~ぃ返事ねん。それじゃ華雄ちゃんの席は…って、あらん?」

 

新学期が始まってあまり経っていないので、席替えは行われていない。席については出席番号順に左から右へと並んでおり、

特殊な事情が無い限り、出席の番号が大きいほど右後方へと向かう。そのシステムを華雄は当然知らない。

最後の右端には華雄の席が用意され、その横にも席があるが、何故かそこに生徒はいなかった。

 

「休みの連絡は来てないけれど…遅刻かしらぁ?」

 

貂蝉が空席を見ながらそう言っていると、扉が開いた。

そこには一人の男子生徒が立っていた。その男子生徒を見て、華雄は放心していた。

目の前にいるのは、昨日の夕方会った男であった。何故かは知らないが、胸の鼓動が早くなる。

 

「あら北郷ちゅわん、遅刻なんて珍しい。どぅ~したのかしら?」

 

「ちょっと来る途中交通事故に出くわしてしまいまして」

 

「そぉれは大変だったわねん。事情は分ったから許すわ。

 あ、そうそう。彼は転校生の華雄ちゃんで、北郷ちゃんの隣の席よ」

 

「そうか、始めまして。俺は北郷一刀、これからよろしく」

 

「あ、あぁ。よろしく…」

 

名前を知れたのは良かったが、”始めまして”と、まるで初対面であるように言われてしまった。

北郷一刀、彼は間違いなく昨日桜並木でであった男である。

その彼に”始めまして”と言われ、なぜかは分らないが華雄がとても残念に感じていた。

 

二人して自分の席へ向かい、席に座ったところで貂蝉が話し始める。

 

「どぅふ♪それじゃ、連絡事項も伝え終わったすぃ~、皆一限目ぐぁんばってちょうだいねん」

 

言いながら、貂蝉はウインクしながら唇を思いっ切り突き出して、生徒の中心に向けて投げキッスを発射。

不可視の魔弾に対処が遅れた生徒数人は、その散弾式投げキッスの直撃を喰らい意識を失った。

華雄・一刀含め、中心から離れていた生徒達は辛うじて被害を免れた…

 

 

1限、教科書が未だ届いていない為に、隣の一刀に見せてもらうことになったのだが、

ページを捲る際やその他、予期せず一刀の手や肩に触れてしまい、

一瞬慌てると言う初々しい反応を時折見せてしまう以外、特に問題なく過ごす。

 

その後の休み時間、転校生への質問攻めという、まぁ在り来りなイベントが起こる。

質問やそれに対する返答も、返答に対する反応も特に変わったところはなかった。

気になっていたのは、隣にいる一刀は質問攻めには参加していなかったが、

始終穏かな笑みを浮かべながら、その光景を眺めていたこと。

特に気にする必要は無いはずなのだが、一刀の視線は何故か見破られているのでは?

と思わせ、表には出さなかったが、華雄は不安になった。

 

2限、この授業の教科書は早めに届いていたので、一刀と机をあわせて二人で見る必要はなかった。

が、休み時間に抱いた不安が拭えず、時々一刀に視線を向ける。

華雄の視線を感じて一刀も華雄を見て、その度に笑みを返されるので、

華雄はいろんな意味で気が気でなかった。

 

休み時間、抱いた不安から来る生理現象を払えず、華雄はWCへ。

この学園は男子校である為、少々不安だったが、幸い便器は様式であった。

それは良かったが、男子用WC独特の臭気に少々顔をしかめ、

これからしばらくこれと向き合わなければならないと落ち込むが、それは耐えれば済むこと。

 

3限、この時間も別段問題なく過ぎていったが、その休み時間は違った。

 

 

昼休みの一つ前の少し眺めの休み時間。

何時までも怯えていては逆に怪しまれると思い、自然にいようと落ち着かせた所で、声が掛けられる。

 

「落ち着いた?」

 

華雄が声の方を向くと、一刀が微笑を浮かべながら見ていた。

 

「ああ。中学以来の学生生活、どうなるか分らなかったが、特に問題無さそうだ」

 

「そうか」

 

落ち着いた後だったので自然に対応できた。

この分なら目の前の男子生徒とも普通でいられるだろうと思った。

が、次の言葉で一変する。

 

「朝から何か不安に思っていたことがあったみたいだけど、

 昨日みたいに落ち着けたみたいで良かったよ」

 

「…昨日?…やはり昨日桜並木で会った?」

 

「そうだよ。もしかして気付いていなかった?」

 

「いや…気付いていたのだが、ここに来て最初の言葉が”始めまして”だったからな」

 

「ああ、ごめん。なんだか昨日見た時と比べると大分違ったから」

 

「む…そんなに違ったのか?」

 

「まぁ、ね。桜並木では凄く落ち着いていたのに、今日は何に対してかは分らないけど、

 何かに対して不安に思って落ち着きがなかったから」

 

確かに。昨日の夕方は、まだ華陀以外の学園の生徒に一人も会っておらず、

ただ寮に荷物を置いて整理し終えて一息ついていた所だったので、

少々溜まった疲労をねぎらうこともかねて、心を落ち着かせていた状態だった。

なので、一刀と会ったときは言うなれば何も考えず、ただ自然を感じていた状態であった為、

不安以前に何も考えていなかった。

 

そして今日、いよいよ学園に通うことになり、

華陀の太鼓判と、昨晩の李や琉の反応から女とばれないだろうと思い臨んでいたつもりだった。

だが指摘されてみれば確かに、教室にて多数の男子生徒の前に立つより早く、

この男しかいない建物に入ることを、不安に感じていただろう。自分でも気付かないうちに。

 

その、自分でも言われるまで自覚できていなかった不安を、一刀は見ただけで看破した。

一人が気付けばほかも気付く、そして下手すれば自分が女であるとばれてしまう。

そうなってはいけないと思い、聞いてみることにする。

 

「…確かに不安を感じていた所もあったが…顔に出ていたか?」

 

「いんや、なんとなく」

 

「…なん、となく」

 

「俺って、なんというか人の心情とか感情、雰囲気とかに敏感でね。

 家族からは一点を除いて敏感すぎるとも言われてるし。

 だからかな。立ち振る舞いとか態度とかは凄い堂々としてたけど、なんとなく感じたんだ」

 

「そうか」

 

それを聞いて安心した。少なくとも外見上は大丈夫であるのだと。

同時に、人の心を感じられる一刀を尊敬した。

 

 

「ところで…その一点とは?」

 

「女性に関して。なんか俺が褒めたり撫でたりとかしたら、

 その娘達が俯いたり顔を背けたりしてね。理由聞いても誰も答えてくれなくて…」

 

「そ、そうか…」

 

恐らく、例に出された娘達は共通して顔を赤くしていたであろう事が容易に想像できてしまった。

 

 

昼休み、周囲で学食・購買・弁当組でそれぞれ分かれていく中、華雄は少々途方にくれていた。

昼食のことを華陀から聞きそびれていた華雄は弁当などなく、

資材教材等は学園から支給待ちなので必要ないだろうと、財布も持ってきていなかった。

 

「どうしたんだ、華雄?」

 

「ああ、一刀。いや…昼食のことを失念していて、弁当もなく財布も持ってきていなくてな」

 

「ありゃ、それはそれは…どうする?俺でよければ一食分くらい貸すけど?」

 

「いや、それは一刀に悪いだろう」

 

「別に気にすることは無いよ。それよりも、華雄が昼を食べ損ねる方が問題だ」

 

「ムゥ…それでは、甘えても良いか?明日必ず返そう」

 

「うんうん、どんどん頼ってくれていいよ。それじゃ行こうか」

 

と、言うことで。二人して学食に行こうと席を、立とうとしたところで声が掛けられる。

 

「ぉおーい華雄はん、二年のモンが面会に来てんで」

 

「二年?」

 

「赤い髪の坊ちゃんや」

 

「李か、ありがとう。あ~…」

 

「わいは及川や。このクラスの総合的な連絡係みたいなもんやっとるわ」

 

「そうか、よろしく」

 

「ん、よろしゅうな。じゃ、お客さんに会ったりや。なんや荷物持っとるみたいやし」

 

「わかった」

 

促され廊下に出ると、多分弁当と思われる包みを下げた李がいた。

 

「李、どうかしたのか?」

 

「兄ちゃん、弁当の注文簿に名前が書いてなくて。多分知らなかっただろうから、李が持ってきてあげたのだ!」

 

「そうか。丁度財布も持ってきてなくて困っていたところだ。助かったぞ」

 

「良かったのだ~。李も弁当だから一緒に食べてもいいのだ?」

 

「私は構わないが「おっ、弁当が来たのか。良かったな華雄」 一刀」

 

「にゃ!北郷様なのだ!?」

 

一刀と食べにいくつもりだったので、一緒に行こうかと聞こうとした所で本人が出てきた。

丁度良いと聞こうとするが、李の言葉に気になる部分があった。

 

「…様?」

 

下級生が上級生を呼ぶ場合、名前の後ろに先輩をつけるか、

仲がよければ兄上や兄さん等つけると聞いていたが、様は聞いていない。

視線を向けて問うと、苦笑しながら「ちょっとね…」と返された。

どこか言い辛そうにしていたので、深く問わない方がよいだろうと判断し聞かないことにした。

 

気を取り直して、一緒に食事に行かないかと聞くと、一刀は快く了承し、

李お勧めの場所と言うことで、三人で中庭の一画へ移動し、木陰で昼食をとって過ごした。

 

 

午後の授業と休み時間、HRと問題なく過ぎていく。

荷物をまとめ、さぁ帰ろうかと言う所で、一刀が声を掛けてくる。

 

「どうだった華雄。1日過ごしてみて」

 

「実技科目がなかったからまだなんともいえないが、

 授業は少々不安だったが、この分なら何とか大丈夫そうだ」

 

「そうか、良かった」

 

と言ってくれるが、なぜかは分らないが何か言い難そうなことがある表情だ。

 

「どうかしたのか?」

 

「うん…ちょっと言い辛いんだけど…」

 

いいながら近寄り、他に聞こえぬよう耳元で小声で話す。

 

「…さらしがずれて大変なことになってるよ」

 

「っな!?」

 

言われて、慌てて自分の胸回りを確かめる。こんな中でさらしが取れたらばれてしまう。

触れてみても特にずれはなく安心するが、一刀が真横にいるのを思い出して硬直する。

指摘されて動くと言うことは心当たりがあり、その内容を肯定することになる。

そして、その指摘に含まれる意味は…

 

「やっぱりか…」

 

「か、一刀…」

 

「ちょっと屋上までいいか?」

 

もはや誤魔化しようもなく、華雄は一刀の後について屋上まで上がる。

 

 

屋上に出る重い扉を開けて手摺へ近付く。昨日と同じ茜空と風、時々舞い上がってくる桜の花弁。

無言で手摺に手を掛け風を感じる一刀の背を、華雄は気まずい思いで無言で見つめる。

暫く無言のときが続き、やがて一刀が華雄の方を向き話しかける。

 

「それで…華雄ってやっぱり」

 

「…あぁ、私は女だ」

 

「理由を…聞いてもいいかな」

 

華雄は嘘偽りなく全てを語った。目の前にいる一刀には女性であることもばれており、もはや誤魔化すだけ無駄だった。

中学を卒業してからの武者修行の旅、祖父の遺言、友人の助け、そして入学。

語り終えるまで、一刀は一切口を挟むことなく真剣に聞いていた。

 

「なるほど、そういうわけだったんだ」

 

「ああ。…それで、これから私はどうなるのだ?」

 

「どうって?」

 

「事情はどうあれ、女である私が男に混ざって男子校に通っているのだ。

 このことを他の者にばらしたり…」

 

「…なんでそんなことしなきゃいけないんだ?」

 

「え?い、いや。だって…」

 

「折角…友人が出来たと思ったのに」

 

「え、ゆ、友人?」

 

一刀の自分の評価に驚愕し、そして歓喜した。

入寮・入学した、たった二日だけで終わってしまうかと思わずにはいられなかった学園生活。

それが続けられる、それも自分が何故か惹かれる男性の友人として…惹かれる?うん、深い意味は無いはずだ…

 

その後暫く会話し、女装がばれないようにする他、改めて学園生活のサポートをしてくれることになった。

丁度その時、華雄を探していた華陀が現れついでに今までのことを話す。

意外なことに、一刀と華陀は仲が良かったようで、華陀がいないときのサポートは全面的に一刀が請け負うことになった。

 

 

時間は飛んで学園2日目の4限目。昼食の前の運動と言うことで武術の時間(所謂体育ですね)。

 

この学園に来て以来、最大ともいえる試練が訪れた。

武術の授業自体は良いのだが、その準備に問題があった。即ち…着替え。

男子校の戦場学園には、当然更衣室は男子用のものしかない。

つまり…数十人の男子が集まる、そこまで広くない一室の中で、華雄は素肌を晒さなくてはならないのだ。

不安を感じずにはいられなかった。

 

「どした、華雄?」

 

「一刀…この時間をどうすればよいのかと」

 

「と、言うと?」

 

「分るだろう。私は、その…」

 

「…ぁあ、そうだったね」

 

不安と羞恥を混ぜた表情から心配してきた一刀に、自分が女性であることを思い出させる。

 

「授業自体は良いのだ。むしろ楽しみにしていた。だが…」

 

居心地悪そうに進退をちぢ込ませた華雄の心情を察して、一刀は安心させようと告げる。

 

「大丈夫、着替え中は俺が壁になるよ。勿論見ないし」

 

「ああ、助かる」

 

「とは言っても、一人じゃ不安だな。もう一人くらい欲しい所だけど…」

 

言いながらクラスを見回していると、扉が開いて華陀が入ってきた。

 

「やぁ華雄、一刀様!一緒に行こうぜ!」

 

「華陀!?一緒とは?」

 

「武術の授業は二クラス合同だからな。俺も一緒なんだ」

 

「なるほど、そうなのか」

 

「良かったな、華雄」

 

「ああ」

 

「?何のことだ?」

 

自分を見て安心している二人に首をかしげながら理由を問うてみると、華陀も納得し、

壁役になることを了承した。

 

普通であれば、一刀も華陀も男性である為に肌を見せるのを躊躇するところであるが…

華陀は治療目的で”診る”ことはあっても、邪な目で”見る”事はしないやつであると分かっているので抵抗は無い。

一刀に関しては、会って間もないが、彼が信を置ける人物であると認めている。

ので、彼であれば邪な気持ちで自分を見ることは無いだろうと判断する。

 

 

 

更衣室へやってきた三人はなるべく奥の方、ロッカーの扉を開けて人が二人並べば完全に壁になる位置を取る。

 

「これなら周りからは見えないな!」

 

「ああ。すまんな、二人とも」

 

「気にしないでいいよ。仕方の無いことだし、それに友人の助けになれるなんて嬉しいしね」

 

「…ありがとう」

 

そして華雄は窓の方を向いて、二人は万が一見られることが無いようにと反対側をそれとなく見張りながら着替える。

女とばれない為に、少しでもふくらみなどを誤魔化す為に、常に制服は全てきちんと着ていた華雄がその一着一着を脱いでいく。

上着を、シャツをと脱いで行き、胴着に着替えようとしたところで視線を感じる。視線の元を向くと、一刀と目が合った。

目が合った一刀は顔を赤らめながら慌てて顔をそらす。華雄も思わず胸元を隠す動作をする。

 

「ご、ごめん!」

 

「み、見ないでくれと頼んだのに…い、一刀が見てどうするのだ」

 

「ほ、本当にゴメン!悪気はなかったというか…」

 

「意外だな…俺の場合はそんな反応しないのに」

 

「華陀は…なんというか別だ。お前は、その…男女の仲とか性欲的観点で人を見たりしないだろう」

 

「もちろん!」

 

華陀は断言した。所謂”男の性質(さが)”というものをこうまではっきりと無いと言う華陀にそれはどうだと思うが、

華陀のこういう所が、華雄が彼を信頼する所なのだろうと理解した。

 

「…一刀もやはり男なのだな」

 

「否定は、出来ないね。目の前にこんな美人がいるんだから」

 

「っな!?」

 

一刀の言葉に、華雄は心底驚いた。武道の道を歩み、男顔負けの力お有する華雄は、

それ故に女性と見られる前に武人として見られていた。なので、一刀のように言ってこられるのには意外と慣れていなかった。

 

「な、そ、わ、私がびびびび美人などと」

 

「いや、だって…武者修行してたって言うけど、肌とかしみ一つなくキレイな白い肌だし、

 筋肉とかついてるかもなんて思ったけど、なんというか女の子らしく柔らかくて気持ちよさそうな感じだし、

 立ち居振る舞いとか凛としててかっこいいなって思うし、

 瞳は真っ直ぐでなんというか落ち着くと言うかすがすがしくなると言うか」

 

「待て待て待て!///ひ、評価は嬉しいが、は、恥ずかしすぎる…」

 

「ご、ごめん…」

 

気まずく思いながら二人は着替えを済ませていく。一連のやり取りを見ていた華陀は特に気にすることなく着替えている。

 

その光景を他の生徒達はなんのこっちゃと思いながらも、話題の転校生と仲良く会話する彼等を若干羨ましく思っていた。

そして一部…世間の偏見で、男子校にはいるんじゃないかと思われる、所謂ホモの方。現実ならばそうでもないのだが、

この戦場学園…その長たる卑弥呼、そして華雄や一刀達の担任である貂蝉なのだが、まぁ…原作と同じな性格なのだ。

その影響か、全国の腐女子が喜びそうな奴が少なくはなかった。

その者達は一様に、三人のやり取り(会話)を鼻息を荒くしながら見聞きしていた…

 

 

 

全員が着替え終え、各自の武器を持って道場へ。和洋中大中小様々な武器を60人以上が携え立ち並ぶ様は壮観である。

中でも目立っているのは、やはり華雄であった。

 

道着に関しては、皆細かな違いは多々あれどそこまで特殊なものはなかった。ごく一部鎧なんてものが見えたがそれは除外。

華雄が目立っているのは、彼女の武器、戦斧ハルバードにあった。

60人以上がそれぞれ自分にあった自分専用の武器を持っているのだが、

華雄の戦斧は柄の部分だけでもこの場にいる全員の身長よりも長く、

刃の部分は片方が斧、もう片方が小斧、先端は両刃の短刀とかなりの重さであることが分る。

それを軽々と持つ華雄に皆驚きを隠せずにいた。

 

「う~ん、何時見ても凄いな。戦斧もそれを使う華雄も」

 

「華陀も凄いではないか。私にはそんな細かいもの逆に難しすぎる。それを武でも医でも使いこなすのだからな」

 

「ありがとうな」

 

華陀つ武器は長さ20cmほどの、細いものは縫い針ほどの、太いものは親指ほどまである飛針だ。

両腕の手首から肘までを薄い手甲で装い、その表面全体を飛針が埋め尽くしている。

 

「ハルバードなんて、実物初めて見るけど、実際それを使いこなす人がいるなんてね」

 

「一刀も、その刀。中々の業物と見るが」

 

一刀の武器は日本刀。形状は打刀、刃紋は綺麗な直刃、そして他と違うのが刀身が黒く?が通常のものよりも長い。

黒い刀身は頑丈であることの証、?が長いのは抜刀の鞘走りを補助する為のもの。つまり抜刀術を主体とするものだ。

 

互いの武器を見せ合い評価しあっていると、自分達の番が回ってきた。

この日の授業は演武を見せること。各自の武器を使用し2~3分演武を披露する。

人数の都合上3人ずつ行われた。これは演武の最中隣にいるものに気を取られないようにする鍛錬でもあるのだ。

 

飛針という投げる・刺すしか出来たいと思われた華陀だったが、鋼糸を使うことで全く予想だにしない演舞を見せた。

糸に繋いだ飛針を左右に五本ずつ持って振るい、飛針はまるで羽虫の如く飛びまわり、

時折擦れ弾ける鋼糸からは弦楽が奏でられる。

 

一刀の演武は完全な静の武。動作は少なく、しかし一撃一撃が重く、力強く、鋭く、それでいて美しい。

 

最後に、華雄の武は完全な動の武。絶え間なく、しかし一時も全く力を衰えることなく振るわれ続ける戦斧。

暴風の如く振るわれていながらも、速く鋭く一切の無駄なく振るわれ続けいるため、

余分な風は起こらず、発する音は足を運ぶ音と空を切る音のみ。

 

やがて全員が終える。この時間、噂の転校生の演武を楽しみにしていた生徒達は、

その演武に感動し、あれほど激しく動き続けたにも拘らず余裕を見せ、

良い汗とさわやかで清清しい笑顔を見せる華雄に、何かに対する期待の眼差しを向けていた。

 

 

午後の授業も問題なく過ごし、HRの時間。

前日と同じく連絡事項が行われ、もう少しで帰宅だと思っていたところであることが告げられる。

 

「あ、さ~いごに。来週は”姫”の当選日だかるぁ。い~まから配る投票用紙に良ぉく考えて名前を記入して、

 当選日前日の昼休みまでに提出してねん♪」

 

全く聞きなれぬ単語に、華雄は混乱する。男しかいない男子校に何故に女性に評するはずの姫?と…

 

「華雄ちゃんは”姫”については皆に聞いて頂戴ねぇん。それじゃ以上で解散☆」

 

解散が告げられ、華雄は早速一刀に”姫”について聞こうとするが、それを遮るようにクラスメートに囲まれた。

口々に「応援する」だの「頑張れ」だの「華雄に投票するぜ」だのと言われ、事情を知らない華雄の混乱は増していくばかり。

波が収まったのは数十分経ってからであった。

 

「一体なんなのだ、これは?」

 

「まぁ、姫制度なんて、普通の学校じゃまず無い制度だもんね。分らないのも無理ないよ。で、姫制度っていうのは…」

 

~姫~

最上学年の中からむっさい男子の集団の癒しとなって貰う者の称号。

仕事と言えば、各種イベント時女装してもらい生徒の目の保養になってもらうこと。

そして、常日頃から全生徒の見本となるべく振舞わなければならない。

なので、選考項目は容姿だけでなく、対人関係においてその見本となれることが自然と出来るものであるとする。

なによりも重要なのが、全校生徒の半数以上から認められなければならないのだ。

 

「…てわけだよ」

 

「なるほど……それで、何故私が?」

 

「何故って、それは皆が認めているからでしょ」

 

「しかし、私など…」

 

「華雄は知らないのかもしれないけど、華雄って今凄い人気だし有名だよ」

 

「それは…私が転校生で珍しいというだけなのでは無いか?」

 

「まぁ、それもなくは無いけど。たった二日でも皆が華雄の武や礼儀・態度・振る舞いをみて、考えて決めてるんだ。

 俺も華雄ならって思ってるし」

 

「しかし…いや、全員がそうと決めているわけでは無いしな。今慌てても仕方ない。

 私は私で自然にしておけば良いな」

 

「うん、それが良いよ。無理に違う自分を見せたら後が大変だしね」

 

「そうだな。所で、私としては一刀の方がふさわしいと思うのだが?」

 

「…………」

 

華雄としては、何も悪意などなく、素直に思ったことを口にしただけであった。

が、それを聞いた一刀は何故か、華雄が初めて見るつらそうな表情になった。

 

「ど、どうした!?私は何か言ってはいけないことでも言ってしまったか?」

 

「………とりあえず、投票用紙の注意書きの所読んでみて」

 

「注意書き?」

 

姫という制度と当選項目ばかりに気を取られていた為に用紙全体を見ていなかったが確かに下の方に※マークがあった。

読んでみると、最上学年からしか選ばれない、いたずらで選ばない、自己上位三人までと特に変わったことはなかったが、

最後の所”武芸科三年○組北郷一刀は投票できません”と書かれていた。

 

「なっ!?こ、これは一体…」

 

「…ちょっと屋上まで良いか?」

 

華雄の返事を待たずに一刀は歩き出す。ここで聞かないというわけには行かないので、華雄は黙ってその後を追った。

 

 

昨日と同じく涼しげな風が吹く茜空。しかし、漂う空気は心地よいものではなく重苦しい。

柵に寄りかかりながら風を受け夕日を受ける。それほど長い時間立っているわけでは無いのに、ひどく長く感じる。

 

何分ほどそうしていただろうか。一刀が話し出さずにいるので、華雄も何も出来ずにいる。

暫くすると、一刀が話し出した。

 

「…うちのクラスの席の配置、どういった感じになってるか華雄も知ってるよね?」

 

「あ、ああ」

 

「で、名前順からして最後でも無いのに俺が転校生の華雄を除いて一番後ろにいた理由…

 俺は昨年の”姫”だったんだ」

 

「!?」

 

それだけを聞いて考え至った。姫は最上学園から選ばれる。

昨年そうだったということは、一刀は留年して今ここにいることになる。

 

「去年の冬休み手前にね、俺は実家の道場に挑戦してきたほかの道場と勝負があったんだ。

 武家として他の道場からの挑戦は受けないわけなかったから受けたんだけど…

 木刀同士の試合だったのに、相手のほうがどうしても勝ちたかったからか、木刀の中に真剣を仕込んでいたんだ。

 

 長く打ち合ううちに外装の木刀が剥がれていって、相手もそれなりの腕だったモンだから、

 止めようとしたけど、相手は構わず切りかかってきて、木刀で対処してたけどそれも長く持たなくて、

 俺は身体を切られた。その手術のために長いこと欠席せざるを得なくて、それで出席日数が足りなかったんだ。

 

 内臓にまで至ってたそこ傷は、厄介なことに完治には至れなくて、今になってもその影響でね、

 以来激しく動いたり気を張ったりすると傷口に影響が出るんだ」

 

「…武芸の授業のときで見せた演武ではそんなこと微塵も感じなかったが」

 

「見たとおり、あれは静の演武で。落ち着いた状態、落ち着かせる為のものでもあるんだ。

 だから静の武なら…というより静の武しか出来なくなった。

 

 まぁ、それは置いておいて…

 単に留年しただけならともかく、去年と同じ人が”姫”をやるわけには行かないからってことで、

 俺は投票されてはいけないんだ」

 

語ってくれた一刀に対して、いろんな考えや思いが渦巻きすぎて華雄は何も言えずにいた。

自分はこれから、一刀とどのように接していけばよいのか?これまでと同じように接しても良いのだろうか?

そんな華雄の葛藤を察したのか、一刀が微笑を浮かべながら声を掛ける。

 

「俺が留年生ってことだけど、できれば華雄にはこれまでと同じように接してくれないかな。

 正直、去年の姫をやってたことで、周りの人はほぼ全員が俺のことを姫だった人って、

 なんというか雲の上の人物みたいな感じで接してこられて、あまり友人て者ができなかったんだ…

 

 だから、華雄がこの学園にきてくれて。そして友人になってくれて本当に嬉しかったんだ。

 これは俺の我侭なんだけど…華雄にはこれからも友人でいて欲しい」

 

「一刀…」

 

微笑を浮かべたまま、しかしこの学園に来てから初めて見る一刀の不安げな表情。

それを見て華雄は理解する。自分が自分のことだけを考えて旅をしている間、

自分の知らないところで、こんなにも強さと弱さを併せ持つ一人の男子が悲しんでいることを。

 

「一刀、私はこれからも一刀の友人でいよう。だがそれは今の話しを聞いて同情したからじゃない。

 私が心から一刀の友人として、一刀の傍にいたいと望んでいるからだ。

 だから…今後自分を過小評価するようなことを言うな。断言する。

 一刀は、私がこれまで会った男の中で一番良い男だ」

 

堂々と言い切る華雄の言葉を一身に受けた一刀は暫く放心する。

しばらくして、少々顔を赤らめながらも嬉しそうに笑みを浮かべる。

 

「ありがとう、華雄。それにしても…女の娘の華雄にそこまで言われると流石に照れるね///」

 

「なっ!?い、いまはそんなことを言うシーンでは無いだろう!ぇえい顔を赤らめるな!!///」

 

二人して顔を赤くしながら騒いでいると、屋上の扉が開く。一体誰かと見てみると、出てきたのは華陀であった。

 

「こんな所にいたか華雄。…って、一刀もか。てか、二人は何で顔が赤いんだ?」

 

「いや、な、何でもない!それよりも、華陀こそどうしたのだ?」

 

「部活も無いから華雄と一緒に帰ろうと思ったら教室にいなかったから、

 他のクラスメイトもいないし、適当に回ってて、華雄はここにきて余り経ってないから、

 行く場所は限られてくるなって考えて、思いついたのがここだったってわけさ」

 

「そうか。所で…華陀は一刀のことを”一刀”と呼んでいるのか?」

 

今まで会った生徒は全員、同学年であろうと、留年生である一刀のことを様付けで呼んでいた。

が、同じ立場であるはずの華陀は普通に呼び捨てであった。華雄としては、そのところを気にせずに入られなかった。

 

「ああ、華陀は俺の学園にいる間の主治医みたいなものなんだ。

 学園の立地上保険医とか片道30分は掛かる所にいる医者よりも、

 華陀の一族の医療武術は学園にいる俺達にとって最適なものなんだ。

 元々うちと華陀の一家は知らない間柄じゃなかったから、今年の始業式前にお互い紹介されたんだ。

 で、歳が近いこととそういうことに華陀がこだわらないこともあって、華雄と同じく友人でいてくれてるんだ」

 

「なるほど」

 

そんな感じで、迎えが来たのだから解散か。と思ったが、不意に一刀が話し出す。

 

「あ、そうだ。華陀も出来れば協力してくれないかな?」

 

「協力、なんにだ?」

 

「華雄を姫にしようかなって」

 

「なっ、一刀!?」

 

「おお、それはいい考えだな!

 

「華陀まで!?」

 

一刀の過去話を聞いてシリアスだったのに、忘れていた姫の話題。

その上こういうことに無頓着と思われた華陀までもが乗ってきて、華雄は軽く絶望した。

 

「いや。華雄が姫になったら、むしろ性別を偽ることなく女性の格好が出来るんじゃないかって思って」

 

「俺は純粋に、華雄に姫になって欲しいからね。姫になる華雄と元姫だった俺ならいろいろ力になれるし」

 

と、無効は悪意など皆無だから性質が悪い。結局華雄が折れることになった。

 

とりあえず、時間が時間なので今日はもうお開きにしようと言うことになり、三人は帰路に着く。

その間一刀と華陀は、華雄が姫になる為に有利になろうとあれやこれやと相談しており、

傍らで聞いていた華雄は勘弁してくれと呟いた。無論聞き入られなかったが…

 

 

姫の投票期間が始まって数日経った、”生徒会室”と書かれた一室にて…

 

「左慈会長、よろしいでしょうか?」

 

「なんだ、干吉?」

 

それなりの広さのある一室の窓際の真ん中辺りにある立派な机で書類整理そしていた生徒会長左慈に、

その横に控えてある件について言おうか言うまいか悩んでいた副生徒会長の干吉が意を決して話しかける。

 

「最近生徒の間である転校生について話題になっているのですが…」

 

「転校生?こんな中途半端な時期に転校とは珍しいな」

 

「ええ。珍しいだけならば特に問題は無いのですが…」

 

「なんだ?」

 

「実は…生徒の間ではその転校生を"姫"にという声が上がってきています」

 

「…何?」

 

生徒会長である左慈にとって、その情報は聞き捨てなら無いものであった。

姫の選考は、全校生徒の半数以上に達しなければ自動的に生徒会長が姫となる。

左慈としては、前任から選ばれ生徒会長であることに誇りを持っている。そして、姫になれたら誇りには思うが、

仮に選ばれなくても生徒の半数以上が認めるならば喜んで姫を任せようと思っていた。

だが、干吉が話す者が転校生という珍しい存在であるだけで姫に選ばれるということは許しがたいことであった。

 

「その転校生とやらは実際どうなんだ?」

 

「容姿に関しては、女装させたら違和感が無いだろうと姫にはおあつらえ向きのものらしいです。

 武に関しては、武芸の授業では群を抜いた強さを有すると。

 勉学に関しては少々苦手みたいですが、それすらも親しみやすいとむしろ公表で。

 対人や礼儀立ち居振る舞いに関しては直接見ていないのでなんともいえません。

 ですが、広められる噂を聞くに悪くはなく、むしろ姫に最適であるとか」

 

「…その噂を広めているのは?」

 

「三年の華陀先輩と、それと…北郷様が」

 

「何、北郷様が?」

 

「華陀先輩はどうやら転校生とは旧知の仲らしく、

 そして転校したクラス先は北郷様のクラスである為仲良くなるのに時間はかからなかったとか」

 

「…………」

 

干吉の言葉を聞いて、左慈は考え込む。”あの”北郷様が珍しいからというくだらない理由で姫に推す等ありえない。

だが、自分で直接見たわけではないので、話を聞くだけでは転校生のそれが本物であるかは分らない。

 

「…見極めてやる」

 

その低く小さな呟きを干吉は聞き取れなかったが、見えない相手に向けて睨む視線を傍らで見ていた。

 

 

その後数日、自分のクラスの授業や姫の投票期間により増える生徒会の業務の合間や、

選択授業などで一緒に受けるときなどで、件の転校生、華雄を見張る。

一時声を掛けるときがあり、つい口調が強くなってしまったが、相手はそれに僅かにも怯む様子は無かった。

 

 

姫の投票期間が始まって一週間、ついにやってきた姫の当選日。

 

当選会が行われる体育館には全校生徒が整列し、全教職員が両脇に列を成している。

華雄達三人を除く生徒達の殆どは”誰が今年度の姫になるのか?”について談笑している。

耳を済まして聞いてみるとあちらこちらから今年の最有力候補とされる華雄のことを話しているのが聞こえてくる。

 

「…本当に、私が選ばれてしまうなどということがあるのか?」

 

「皆が噂してる通り、華雄が最有力候補であることはあるかな」

 

「………」

 

「まぁ、あくまで候補は候補。今から心配して無いで結果を待とう」

 

「そうだな」

 

隣にいる一刀と話していると、やがて時間がやってくる。壇上には何故か貂蝉が上ってきた。

 

「…何故、貂蝉先生が?」

 

「こういう朝礼だったり何かの会の際の司会進行はだいたいがあの人だから。特に深い意味は無いかな」

 

「そうなのか」

 

挨拶諸々が行われていき、いよいよその時がやってくる。

 

「さぁって~。いよいよ皆が待ちわびている姫の投票結果を発表するわよん☆」

 

ほわ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!

 

普通こういう行事などでは静かに行われるのでは?という華雄の予想をはずして生徒達が騒ぎ立てる。

一刀にこれは何事?と視線で問うと、男子校だからってことで納得してくれと返された。

 

「結果は、ぬわんと!?全校生徒の8割の投票を占めた生徒が出ちゃったから、

 この時点で姫は決定よぉん!」

 

ざわ…     ざわ…

    ざわ…     ざわ…

 

流石にこの数字は予想外であったのか、全員からどよめきが上る。

 

「8割か…凄いね」

 

「ああ」

 

華雄も軽く驚いていたが、流石にポッと出てきた自分にこれほどの数字は出ないだろうとどこか安心していた。

が…

 

「それでは、み~んなが気になる姫はと言うと~~~~~~~~~~~~~~~

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 三年○組の~…華雄ちゃんよぉおん!!」

 

…ほわ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!

「っな!?」

 

先程と同様な反応を見せる生徒達、それに反して心底驚愕の当事者たる華雄。

呆然と立ち尽くしていると肩が叩かれる。そちらを向くと一刀が笑顔でいた。

 

「さ、華雄。壇上に行って挨拶しないと」

 

一刀に促されてやっと我に帰り、言われたとおりに壇上へと向かう。

中央に設けられた階段近くに行くと、しゃがみこんだ貂蝉に手を差し伸べられたが、

華雄は未だ呆然としているのか、それとも無意識の拒否なのか、その手を取らずに壇上に上がる。

壇上中央に立って振り向くと、全生徒が期待を込めた眼差しを向けていた。

 

「さっ、新姫として挨拶をお願いねん♪」

 

そう言いながら華雄にマイクを渡して貂蝉は舞台脇に控える。

マイクを受け取り、数百に及ぶ視線を受けながら暫く立ち竦んでいた華雄は、

とにかく何か言わなければと意を決してマイクを口に近づける。

 

その時…

 

「待て!」

 

生徒達の一画から、会場全体に響き渡るほどの声が発せられた。

 

 

声のした方向を向いてみると、一人の生徒が周囲を押しのけながら壇上へ向かっていた。

見覚えがあった。言葉は少なく話した時間は少なかったが、合同・選択授業などで何回か会っていた。

壇上を一足飛びに上がり、あっという間に距離を詰めるとひったくるように華雄からマイクを取る。

 

「俺は生徒会長として、今回の姫の当選に意義を申し立てる!」

 

望んだわけではないが、全校生徒の8割が選んでいるにも拘らずに、それに異議を申し立てるなど異常と思ったが、

生徒会長であったならば、確かに何か思う所があるのかもと思い、華雄は黙っていることにした。

 

「姫制度とは、我等が学園に代々続く伝統的なものである。

 それを、転校生だから珍しいという理由で、外見が姫に合っているのではという理由で、

 少しばかり武が強いからという理由で選ぶなど言語道断!

 よって生徒会長である俺は、姫の再選を申し立てる!」

 

静まり返る会場。言い終えた左慈は、振り返って華雄を睨む。

 

「貴様には悪いが、俺はこの当選結果を認めるわけにはいかない」

 

その言葉に、華雄はどう返せばよいのか悩み迷っていた。

自分が選ばれているというのも事実だが、左慈の言うことも正しくもある。

何か言わなければ、しかし何を言えば…

そう悩んでいるその時、

 

「待て」

 

低くそれ程大きくはなく、しかし力のある一声が会場に響いた。

声の主を華雄は確認しなくても分る。一刀だ。

 

彼がいるところを見ると、まるでモーゼの十戒のように生徒が左右に分かれ壇上へと続く道が出来ていた。

その道を、一刀が静かにしかし堂々と歩いて向かってくる。その光景には言い表せない迫力があった。

直ぐ横でも、実質生徒内での最高権力者とも言える左慈が息を呑んでいるのが分る。

一歩一歩、一段一段を強く踏みしめながら壇上中央へと向かう。

 

「マイク、いいか?」

 

問いかけ。しかし紡がれた言葉、差し出された手には言い表せぬは区気迫があった。

逆らうなどという選択肢は浮かぶはずもなく、左慈はマイクを渡す。

マイクを受け取った一刀はゆっくりと振り向き、一度深呼吸をしてから会場を見渡す。

 

「今の意見に、左慈会長の投票に対する意見に俺は異議を申し立てる…

 全校生徒の8割の投票を得る結果を出しか今回の投票、

 確かに左慈会長が言ったように転校生だからという理由で選んだものもいるかもしれない。

 

 だけど、生徒全員がそんな理由で選んでいるはずが無い!

 

 会長自身が言ったとおり、姫制度とは伝統ある制度だ。

 だからこそ、投票するものは心からその対象を選ぶ。

 これが自分の目標であると、これが自分が目指す未来の姿であると。

 

 武において、華雄は現段階でもこの学年、いやこの学園において上位に立つだろう。

 だが、華雄はそれを驕ることなく、更に上を目指している。

 それは、誰もが認め、見習うべきだろう。

 

 人と接するとき、華雄は相手が誰であろうと、自分と対等に、差別なくわけ隔てなく接している。

 誰もが簡単に出来ることではない。だからこそ、その人となりを見習おうとする。

 

 勉強においては、少々皆より遅れているところがあるかもしれない。

 だが、それがなんだ。華雄はその短所を自覚し、そしてそれを克服しようと励んでいる。

 諦め、開き直るということをしようとしない。

 

 その姿を見て、どうして華雄を姫に選んではいけないのか!?」

 

全てを言い終え一息空いた一刀はゆっくりと左慈の方へ向き、マイクを返す。

差し出されたマイクを、左慈は苦虫をかんだような表情をしながら受け取れずにいた。

 

「左慈の言うこともそうかもしれないけど、全員がそうであるわけでは無いだろう?」

 

「くっ…」

 

「認めてやろうよ。左、じ…」

 

微笑とともに左慈を諭していた一刀は、額から汗を流し苦しげな表情になっていく。

やがて、耐えられなくなったのか、身体を抑えながら倒れた。

 

「一刀!?」

 

慌てて駆け寄ると、苦しげな表情を隠せず、汗も体温も異常であった。

そこでやっと思い出す。一刀の過去に負った傷のことを。

 

「っく!直ぐに医務室へ連れて行ってやる!」

 

叫びながら華雄は一刀を、所謂お姫様抱っこで抱え、

壇上を飛び降り、先程一刀が通る際に出来た道を一気に駆け抜け、扉をけり破る勢いで開け放ち医務室へと向かう。

 

 

医務室へと駆け込んだ華雄は、一刀をゆっくりと寝台へと乗せる。

出来るならば傷の応急手当をしたいところであるが、一刀の傷は身体の内部にある。

専門で無い華雄には手の出しようが無い。が、最低限のことはしておくことにする。

汗を拭取り、水でぬらしたタオルを絞り額に置く。そこで一刀が気がついた。

 

「ぅうっ」

 

「一刀!」

 

「…華雄」

 

「大丈夫か?」

 

「あぁ。大分楽になったよ」

 

華雄の問いかけに一刀は笑顔で答える。だが、額から落ちる汗は消えていない。

先程よりましになってはいても、華雄は安心できなかった。

不安そうに見つめてくる華雄に、一刀は苦笑をこぼしながら話しかける。

 

「倒れてしまうかもしれないのを承知であそこに立ったつもりだけど…

 それを華雄が助けてくれたのは嬉しかったけど、まさか女の娘の華雄に男の俺がお姫様抱っこされるなんてね」

 

「そ、それは仕方が無いだろう。あの抱え方が一番一刀に負担がかからないのだから。

 と、言うか頬を染めながら言わないでくれ。こちらまで恥ずかしくなってくる///」

 

間然に徒は行かないが、つい先程まで漂っていた重苦しい雰囲気が払拭された。

それを感じ取った一刀は華雄に語りかける。

 

「なぁ、華雄。会場に戻りなよ」

 

「いや、一刀を置いていくわけには…」

 

「華雄のお陰でもう大丈夫だよ。今は俺よりも華雄だ。

 ごたごたしちゃって当選がどうなったかはわからないけど、結果はどうあれ華雄は見るべきだ。

 それが華雄を選んでくれた人たちと、こう言っちゃなんだけど俺の為でもあるんだ」

 

「一刀…………わかった。後でまた来る」

 

「うん。いってらっしゃい」

 

扉が閉まるまで、お互いを見合い、姿が見えなくなった後華雄は一刀に言ったとおり会場へと向かう。

華雄にはもう迷いはなかった。結果など関係ない。だが、ここで迷い立ち止まることは、

身を削ってまで壇上にて叫んだ一刀に申し訳が立たない。

 

そして、会場の扉の前までたどり着き、深呼吸して改めて覚悟を決めて扉を開け放つ。

そんな華雄を待ち受けていたのは…

 

歓声だった。

 

 

「な、なんだこれは?」

 

余りの展開に、華雄はその場で立ち竦んでしまった。

扉を開け放ち入場したとたんに浴びることになった注目と歓声。

暫くその場で動けずにいると、人ごみを掻き分けて華陀がやってきた。

 

「お帰り華雄、いや…姫」

 

「華陀、これは一体…それに、私が姫だと?」

 

「ああ。8割だった投票が変わって満場一致で決定だ」

 

「だが、私は当選会を途中退場…」

 

「そんなの関係ないって。むしろ、人の目を気にせずに一刀の為にあそこまでした華雄をだれも認めないはずが無いだろう」

 

「………………」

 

「とにかく行って来いって!」

 

そう言いながら背中を押されて、華雄は壇上へと向かう。

壇上には、先程と変わらぬ位置に左慈がいた。

 

「…全校生徒のほぼ全てが貴様を認めている。ならばそれを無碍には出来ん」

 

「生徒会長…」

 

「だが、俺はまだ完全には認めていないからな。そのことを肝に銘じておくように」

 

マイクを押し付けながらそういい捨てて、左慈は壇上から去っていった。

マイクを受け取った華雄は、就任に当たって何か言わなくてはいけないと考える。

 

が、少し考えた後、華雄はマイクを降ろした。

下手な言葉など不必要。いるのは自分を選んだ生徒に対する感謝。

それを示すべく、華雄は壇上の中心に仁王立ちして軽く会場を見渡し、

無言で頭を下げた。

 

再び、会場に歓声が沸いた。

 

 

翌日。場面は最初のページ、溜息を漏らしながら桜並木を歩くシーンへと戻る。

 

今更ながらに嘆く華雄を華陀が励ましながら校舎へと向かう。

その二人の後方から声がかかる。

 

「兄ちゃーーーん!」

 

振り向くと、李がこちらに向けて走ってきていた。

その後ろには琉もいる。

 

「李に琉か、どうかしたのか?」

 

「兄ちゃん、今日も弁当の注文してなかったけど、学食で食べるの?」

 

「何?書いておいたはずだが…」

 

「やっぱり、昨日弁当を食べようって言ってたのに忘れてるのだ」

 

「ぬ、すまんな。どうも未だになられていないようだ」

 

「そういうことだろうと思って、僕と李で弁当を作ってきました」

 

「おお。わざわざすまんな」

 

「いいですよ。一人分も二人分も、作る手間はそれ程かかりませんし」

 

「それでもだ、二人とも感謝する」

 

言いながら華雄は二人の弟分の頭を撫でる。

年齢的に恥ずかしがる所だが、孤児院で育った二人は気持ちよさそうに受け止める。

 

「仲が良いね。寮生ってそんな感じなのかな?」

 

「おお、一刀。おはよう」

 

「ああ。おはよう華雄、華陀も。それから後輩君たちも」

 

「おはよう、一刀」

 

「「おはようございます、北郷様」」

 

互いに挨拶を交し合った後、五人は仲良く校舎へと向かう。

雑談しながら華雄は思う。ここに来てから間もないのにいろんなことが起こったが、

ここにいる者達と一緒であれば、きっと楽しく乗り越えていけるだろうと…

 

 

~あとがき~

 

『漢女は姫(わたし)に恋してる』いかがでしたでしょうか?

 

うん…ショタ一刀、チェンジ、SHUFFLE!シリーズそのいずれでもない妨害電波ネタ。

 

しかも、今回はとある強烈なウイルス付き…その名も”漢女ウイルス”

 

はじめは、女装した一刀が恋姫のヒロイン達が通う女子高に転校ってネタが出たはずなんだ…

 

なのに、書こうとしたとこで、そういえばゲームでは乙女て書いてたけど、同じ読み方で漢女てかけるんだよな~。

 

なんて思い出してしまったのが運の尽き…

 

妨害電波を排除しようと執筆しようとキャラクターと考えたら、祭さんあたりを学園長にと考えていたのに、

 

何故か卑弥呼しか頭に浮かべなくなっていた!?

 

それを皮切りに、教師陣・生徒など、登場人物のほとんどが男に!!?

 

振り払おうにもそれが出来ず、女性で上書きしようとしても漢女ウイルスのせいでことごとく排除されてしまう。

 

そうして出来てしまったのが今回の作品です。

 

今回一番やってしまったと思ったのは、恋姫ヒロインキャラの男性化です…

 

自分の中では、ロリ化やアダルト化、獣耳化は良いんですが、男性化は禁忌としていたはずなのに…これもウイルスのせいだ!

 

 

男装キャラとして華雄、男性化キャラとして鈴々と流琉が選ばれたのは…体型からですwww

 

後者二人は原作でも見て分るとおりロリツルペッたんだから…って、武器を投げないでーーー!?

 

華雄に関しては、体型のこともあるが、最近Tinami内で彼女の株が急上昇しているのでそれにあやかろうと。

 

 

さてさて、この辺で。前書きにも書いてあるとおり、申し訳ないことに続きが全く考えれません。

 

故に、オトボク原作だとプロローグに当たる話だけでしたが、楽しんでいただけていたら幸い。

 

それでは、また次回更新にて…


 
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