はじめに
この作品の主人公はチート性能です。
キャラ崩壊、セリフ崩壊、世界観崩壊な部分があることも
あるとは思いますが、ご了承ください。
一刃・愛紗・鈴々VS徐栄・牛輔
激しい攻防を繰り返す愛紗・鈴々と牛輔、それとは逆に全く動きのない一刃と徐栄。一刃は先程の舞華の姿を見て、虎牢関での徐栄とのやり取りを思い出していた。
――――――――――――――――――偽りの正義を翳しておいてなにが弱きものを守る、だ。貴様らのしていることは賊と同じ。俺は絶対に貴様らなどに屈せはせぬぞ。俺は守ってみせる、愛する者を!
(そうだ、俺は弱きものを守るということに固執し過ぎて、物事の本質を知らぬままに己の力を振るってしまった。その結果、弱きものを守るどころか新たな悲しみを生み出してしまった。舞華のような人たちを・・・・。)
反董卓連合での戦の後で一刀に紹介された舞華。その時はあまり意識することなく接していたが、2人で飲んだあの日、賊を相手にした時に舞華が言ってくれたこと・・・・・・・。
――――――――――――――――――知っていますか、『刀」には『鞘』が必要なのだと。
――――――――――――――――――あなたがいつまで人を斬り続けるのか、私は見届けたい・・・・・・・・この目で確かに。
一刀より授かった『飛天御剣流』の力は、一刃に大きな『力』を与えた。しかし、齢若い少年にはそれを使いこなすだけの『心の強さ』が備わっていなかった。それ故に、戦で人を斬るたびに心の奥底で蠢く『人斬り』としてのどす黒い狂気に自分自身が飲み込まれそうになっていた。殺めた多くの命の重みが、一刃をどんどん苦しめていった。そんな一刃を救ってくれたのが舞華のその言葉であった。『人』として踏み外しそうだった自分の凶刃を抑えてくれる『鞘』として舞華がいてくれたから、今日まで自分でいられたのだと・・・・。だがその後、一刃は舞華の過去を知った。自分が反董卓連合での戦で討った将が舞華の許婚だったこと、あの戦の後で祝言をあげる筈だったこと、そんな舞華の幸せを奪ってしまったのが他ならぬ自分だったこと、そんな恨みを飲み込んで平和な世界を築いていくために自分の傍にいてくれたこと。その事実を知って一刃は苦しんだ。自分がいたせいで舞華を苦しめることになった、自分のせいで舞華の幸せは奪われた、と。そして、天下分け目の戦いであるこの最終決戦の地で再び合間見えることになった徐栄を前にして取り乱した舞華を見て、一刃は徐栄に構えていた刀をそっと下ろした。
「義兄上?」「お義兄ちゃん?」
そんな一刃の行動に牛輔と戦っていた愛紗と鈴々は困惑の表情を浮べる。そんな2人の態度を気にすることもなく一刃は目の前の男・徐栄に向かって話し始める。
「俺にはあなたを討つ事は出来ない。俺にそんな資格はない。だからあなたが許せないと思うのならここで殺してくれて構わない。」
そんな一刃の言葉に愛紗、鈴々をはじめ北郷軍の他の将や舞華も驚いてしまう。
「・・・・・一刃、何を言っているの?」
そう問う舞華に一刃は黙って首を振って徐栄の方へ向きなおし
「だけど、舞華の傍にいてあげて欲しい。劉璋のところではなく舞華の傍に・・・・。」
そういうと一刃は徐栄に頭を下げる。一刃の本音での言葉に舞華は何も言えないでただ涙を流している。だが、そんな一刃の覚悟に愛紗が食ってかかる。
「義兄上、何を馬鹿なことを言っているのですか!その者は劉璋に加担する輩。そんな者に頭など下げないでください。それでは兵への示しがつきません!それとも義兄上も義叔父上同様、兵のことよりも敵将の方だと言うおつもりか?」
そんな愛紗の叱責にも似た問いかけに一刃は何も応えない。さらに捲くし立てようとする愛紗を諌めるように孫権が声をかける。
「関羽、今はそんな言い合いをしているときではないぞ。目の前の戦に集中しなけ・・・・」
「うるさい!部外者は黙っていろ!!」
「なっ・・・。」
孫権の提言に全く耳を貸そうとしない愛紗は睨みつけるような視線を孫権に送る。そんな愛紗の態度に甘寧や周泰は怒り顔で睨み返す。だが愛紗は我関せずと取り合おうとしないで言葉を続ける。
「敵だった者と馴れ合っていてはいつか自分の首を締めることになる。義兄上も義叔父上のように自軍の兵をないがしろにするようでは上に立つ資格など・・・・・。」
バキッ!
愛紗の言葉は最後まで紡がれることはなく、頬への強烈な痛みと衝撃に吹き飛ばされた。
「いいかげんにせんか!馬鹿者が!!」
そんな怒声が戦場に響き渡った。そこには憤怒の表情をした趙雲の姿があった。そんな吹き飛ばされた愛紗に向かって牛輔が襲い掛かろうとしたが、趙雲はそんな牛輔の一撃を軽くあしらって吹き飛ばすと愛紗へ掴みかかっていった。
「愛紗よ、お前が目指す『平和』とは何なのだ?敵である全てを憎んでそれを打ち倒して築き上げるものがお前にとっての『平和』なのか?散っていった兵たちの命を偲ぶお前の気持ちはよく分かる。だからといって敵であったものをずっと憎むのか?曹操や孫権たちとは確かに剣を交えた。が、今はこの世界の『平和』のために共に戦っている。そんな者たちを拒絶して自分たちだけの『平和』を築くことがお前の望みなのか?散っていった兵たちがそれを望んでいるというのか?どうなんだ、答えろ愛紗!」
趙雲の言葉に何も言い返せない愛紗。そんな愛紗に趙雲はさらに言葉を続ける。
「お前、北郷様に『兵たちのことを軽く見ている』と言ったそうだな?本気でそう思っているんだったらお前はとんだ大馬鹿者だな。」
「・・何だと?」
「愛紗、知っているか?孫呉との戦の後、徐州にて散っていった兵たちの家族の前で泣きながら頭を下げて謝罪していた北郷様の姿を・・・・・。」
趙雲のそんな言葉に愛紗は驚いて言葉を失う。
「北郷様は今までの戦いで傷つき倒れていった兵たちのことに誰よりも心を痛めていた。そしてそんな兵たちの家族のことを誰よりも気になされていた。愛紗よ、それを聞いてもまだあのようなことが言えるのか?」
「・・・・・・・・・・。」
趙雲の口から語られる事実を愛紗はただ呆然と聞くことしか出来なかった。
「北郷様はおっしゃっていた。兵たちは理想実現の『駒』なんかではなく、理想を叶える為共に戦う『同志』だと・・・・。北郷様は一度たりとも兵たちを部下だとは思っていない。立場の同じ『同志』だと思っている。だが、お前はどうだ?散っていった兵たちの為という口実で己の力を振るっているだけではないのか?」
「それは・・・・・・。」
趙雲の言葉に歯切れが悪くなる愛紗。
「どうして舞華殿の気持ちになって考えてやろうとしないのだ?お前だってもしこの場に死んだ兄が出てきたら割り切ってその武器を向けることが出来るのか?打ち倒すことが出来るのか?」
趙雲の瞳にはうっすらと涙が溜まっているように見えた。そんな感情的な趙雲に愛紗は何もいえない。
「お前は反董卓連合での戦いで何を学んだ?間違った正義で舞華殿の許婚をはじめ多くの罪もない命を奪ったお前は何を学ばなければならなかったのだ?お前と違って一刃殿はあの時の教訓をしっかり心に刻んでおられる。だからこそ、奪ってしまった舞華殿の許婚を再び奪って舞華殿を悲しませたくない一心であのようなことを言っているのだ。舞華殿同様、一刃殿も傷ついている。どうしてそれを義妹のお前が分かってやれないのだ?」
趙雲の言葉には一刃、舞華それに元董卓軍の兵たちの気持ちが詰め込まれていた。その言葉の重みと、自分が今まで発してきた言動や行ってきた行動を振り返ると愛紗は呆然としたまま膝を落とした。その瞳からは涙が次から次へと溢れ出してくる。
「・・・わたしは・・・・・・わたしは・・・・・・。」
そんな愛紗を後ろから舞華が抱きしめた。言葉は交わさずにただ優しく。そんな舞華の優しさに触れて愛紗は今まで溜め込んでいた感情を全て吐き出すかのように泣いた。一刃や鈴々もその光景に視界がぼやけてくる。そんなやり取りを見ていた劉璋は笑いながら
「戦の最中に友情ごっことは笑える。おい、お前!さっさと奴らを片付けろ。」
そう徐栄に命令する。しかし、徐栄を見るとその瞳からは一筋の涙が零れていた。その光景に劉璋は驚き、その様子を見ていた舞華たちも驚いていた。
「轟伎様?」
徐栄の視線は変わらず舞華を見つめていたが、先程までとは決定的に違うのはその目の雰囲気だった。何の感情も篭っていなかった先程までと違って、その瞳は舞華の知っている徐栄の瞳だったのだ。そんな徐栄に苛立ちを見せた劉璋の怒声が響き渡る。
「おい!何をやってるんだ。早くその者どもを殺さんか!!」
そんな劉璋の方を振り返った徐栄は首を横に振って短く一言
「・・・・出来ない。」
と告げた。その言葉に劉璋は激高すると同時に、天蓬より言われていた事を思い出していた。
――――――――――――――――――劉璋殿、実は注意しておいていただきたい点があるのですが・・・。
「注意?なんじゃ。それは。」
――――――――――――――――――はい、実はこの者なのですが、北郷軍にいる者と強い関わりがありまして・・・。その思いが強すぎて時に暴走する危険を孕んでおります。
「なんと。それでは使えんではないか。」
――――――――――――――――――ですので、もし命令に背くような時はその原因となった者を殺すか、この術符を破ってください。そのままで劉璋殿に何かあってはいけませんからね。
「うむ、忠告いたみいる。」
(ということはあの女か・・・・・。)
「おい!あの女を殺せ!」
劉璋は牛輔をはじめ部下にそう命令する。牛輔たちは一斉に舞華へ向けて襲い掛かってきた。趙雲と愛紗のやりとりに気が向いていた北郷軍の面々は突然の舞華への襲撃に慌てて対応の姿勢を見せるが、牛輔が隙をついて舞華へと襲い掛かる。一刃、愛紗、鈴々、趙雲はその襲来の迎撃に対処できない。他の者も劉璋の兵たちの対応で対処できない。
「っ、舞華!」
一刃は舞華に向かって叫んだが、その前に牛輔の剣撃が舞華を捕らえようとしていた。
ガキン!
しかし、それを阻止したのは徐栄だった。目の前のことに何が起こったのか分からず混乱する舞華。そんな舞華の前に出てきた徐栄は小さな声で一言
「・・・舞華は殺らせない!」
そういうと牛輔を斬り伏せる。牛輔の身体は燃え上がり焼け焦げた術符だけが残った。徐栄の行動に目を丸くする舞華であったが、振り返った徐栄の顔はあの日、連合との戦へ出かけるときに見せていた自分の大好きな徐栄の顔そのものだった。再び見ることが出来たあの優しい笑顔に舞華は涙を流す。そんな舞華の様子を見つめる北郷軍の面々。徐栄に抱きつこうと駆け出した舞華だったが、そんな舞華を徐栄は止めて首を横に振る。徐栄の行動が理解できない舞華。徐栄は屈んで舞華と視線を合わせると静かに
「・・・君の周りにはこんなにも君の事を思ってくれる人たちがいる。この人たちになら安心して君を任せられる・・・。」
「・・・何を言ってるんですか?轟伎様。」
問い返した舞華の言葉に徐栄は何も答えなかった。見つめ合う2人に声をかける者が・・・・。それは劉璋だった。劉璋は激高した顔で手には術符を持っていた。
「貴様、傀儡の分際で儂の命令を無視するとは・・・。貴様の行動は万死に値する。愛した女の前で死ぬがいい!!」
そういうと劉璋は持っていた術符を破った。北郷軍の面々は劉璋の行動を不思議そうに見ていたが、徐栄はその光景に目にして、慌てて舞華の元から遠ざかった。
「轟伎様?」
そんな徐栄に視線を移した舞華が見たものは、身体中が燃え上がっていく徐栄の姿だった。
「・・・っ、嫌ぁ・・・・轟伎様ぁ!」
燃え上がる徐栄の元へ駆け出そうとしている舞華を一刃が止める。しかし、舞華は抵抗を止めない。そんな舞華と一刃に向けて燃え上がる徐栄から声がかかる。
「・・・舞華、俺は君を遺して死んでしまったことを後悔した。それはこの世界で君を一人ぼっちにしてしまうんじゃないかって思ったからだ。でも再び君に会って俺は安心した。君の周りには君の事を大切に思ってくれる人たちがこんなにも沢山いたからだ。だから舞華、これからは君の幸せだけを考えて生きて欲しい。俺のことに囚われることなく・・・・。」
「・・・そんなの・・・・・出来る訳ありません!私には轟伎様が、あなたが必要なんです。だから・・・逝かないで・・。」
涙を流してそう話す舞華を見て、燃え上がる徐栄の瞳からは涙が溢れていた。
「舞華、俺はもう『人』ではない。君の知っている徐栄はあの日、虎牢関での戦で死んでしまった。今ここにあるのは生前の記憶を持ち合わせただけの人形。俺では君を幸せには出来ない。でも君には傍で君を守ってくれる人がいるじゃないか。素晴らしい『仲間』が・・・。だから俺は安心して逝けるんだ。」
そういうと徐栄は一刃の方を向いて
「舞華の事、幸せにしてやってくれ。それが俺に対する償いと思って・・・・・。」
そう呟いた。その言葉に一刃は小さくしかししっかりと頷き
「舞華は俺の命にかけても守ります。彼女のために、そして貴方のためにも・・・・・。」
そう徐栄に宣言した。その言葉を聞いて徐栄は笑顔で
「それを聞いて安心した。・・・・舞華の事、頼みます。」
燃え上がる炎は勢いを増していく。燃え尽きそうな身体の徐栄は最後に舞華に向けて
「・・・最後に君に会えてよかった。・・・・・愛していたよ・・・・・舞華。」
そう言葉をかけると炎は徐栄を飲み込んで消えていった。一枚の術符を残して・・・・・。
「・・・轟伎様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
舞華の悲痛な叫びが戦場に木魂した。泣き崩れる舞華をそっと抱きしめるように支える一刃。そんな様子を見ていた劉璋は場違いな笑い声を上げていた。
「ふん、人形風情が・・・・。貴様らもすぐに後を追わせてやる。覚悟するがいい。」
そんな劉璋に一刃は見たこともないような形相で劉璋を睨みつける。その手は怒りで震えていた。
「・・・劉璋、貴様ぁぁぁぁぁ!!!」
駆け出した一刃の前に劉璋軍の兵たちが立ち塞がる。これにより中央戦線は混迷を極めることになった。
文醜VS????
中央での戦いから本陣へ戻ってきた劉璋の元に伝令の兵が飛び込んでくる。
「劉璋様、南蛮軍の勢いが止まりません。今にも本隊との交戦に入ろうとしております。」
その報告に劉璋は苦い顔をしていた。そんな劉璋の元を訪れたのは文官の鄭度(ていたく)だった。
「劉璋様、南蛮軍なら私が出向いて参りましょう。必ずや退けて見せましょう。」
「出来るのか?文官のお前が・・・。」
「先日拾った『者』を共に向かわせます。蛮族相手なら同じ『蛮族』が最適でございましょう。」
そういって不敵な笑みを浮べる鄭度に劉璋も笑みを浮かべ
「成る程、『奴』を使うのだな。確かに武力ならかなりのものであろうからな。よし鄭度よ、南蛮の孟獲を討ち取って参れ。」
「御意。」
そういって鄭度は天幕を後にした。
「劉璋!何処だ!」
斬山刀を振り回し劉璋軍を圧倒しているのは文醜だ。そんな文醜の後ろにはヘトヘトになりながらも金光鉄槌をもってついてくる顔良の姿もあった。そこへ本隊の袁紹と孟獲たちも合流する。
「猪々子、劉璋は見つかりましたの?」
そう問う袁紹に首を横に振る文醜。
「きっとみぃ達の恐ろしさに震え上がってんだにゃ。」
揚々と語る孟獲に妹の孟優が釘を刺す。
「姉者、油断は出来ませんぞ。数では奴らの方が上なんです。気を抜いたら飲み込まれることにもなりません。」
「美緒(みお)は本当に気が小さいにゃぁ。あんな奴らに負けるみぃじゃないのにゃ。」
孟獲は自信満々にそう言い放つ。そんな孟獲の姿に孟優はため息を吐いた。そんな一同のところにミケ・トラ・シャムが駆け込んできた。
「大王しゃま、こちらに『鄭』の旗を掲げた部隊が向かってきてるにゃ。」
「凄いいっぱいいるにゃぁ。」
「・・いっぱいだにゃぁ・・・。」
その報告に孟優は得物を握り向かってくる部隊へと駆けて行く。袁紹たちもそんな孟優の後を追っていく。目の前の部隊から一人の人影が現れた。
「貴様が南蛮の大王か?なんだまだガキじゃないか。」
「むぅ、失礼なことをいうにゃ。みぃはガキなんかじゃないじょ。」
「・・・姉者、その返答がすでに子供っぽいと思いますが・・・・。」
ムキになって言い返す孟獲の姿に孟優は冷静に突っ込む。だが、すぐに相手に向かい直って問い直す。
「劉璋は何処だ?」
「なんでお前らのような蛮族如きに我が主の居場所を教えねばならんのだ。そんな事を聞く必要はない。貴様らはここで死ぬんだからな。」
鄭度の言葉に孟優はクスクスと笑い出す。
「お前如きに我等を倒せると思っているのか?本気で思っているのなら笑い種だな。」
「ふん、私ではお前たちには敵わぬだろうが戦は力ではない。貴様らのような単純な頭のつくりでは分からぬだろうがな。」
「ほざけ!」
鄭度に向かっていく孟優だが、その一撃は鄭度に届くことはなく衝撃により吹き飛ばされる。
「美緒!」「美緒さん!」
孟獲と袁紹は吹き飛ばされた孟優の元へと駆け寄る。文醜と顔良は鄭度の方へ視線を移す。そして目の前の光景に呆然とする。鄭度の前には白髪で隻腕の巨躯が立ちはだかっていた。その身体は鱗で覆われ手には巨大な戦斧が握られていた。だがそんな巨躯に驚かされたのではない。文醜たちが驚いたのは目の前の男が、あの日文醜たちの目の前からいなくなったあの男だったからだ。
「・・・・兀ちゃん・・・・?」
文醜の瞳からは涙が溢れ出してきた。もう二度と会えないと思っていた男が目の前にいるのだ。髪の色が白くなっていることと隻腕になっていること以外はあの日の兀突骨にかわりがなかった。気がつくと文醜は兀突骨の腕に抱きついて泣いていた。
「兀ちゃん・・・・・兀ちゃん・・・・・。」
そんな文醜を見て顔良の瞳からも涙が零れだす。顔良も文醜と兀突骨へと近付いていく。が、顔良を待っていたのは強烈な蹴りの洗礼だった。
「・・・っ、がはっ。」
あまりの衝撃に吹き飛ばされた顔良は気を失って倒れる。
「斗詩!」
文醜は吹き飛ばされて動かなくなった顔良の元へと駆け寄る。顔良は気を失っていてピクリとも動かない。
「・・・兀ちゃん、どうして・・・・。」
文醜は信じられないといった表情で兀突骨を見つめる。顔良を吹き飛ばしたのは他でもない兀突骨だった。そんな文醜の姿を見た鄭度は卑下た笑みを浮べて
「敵に攻撃するのは当たり前のことだろう。その男は我が蜀の兵なのだからな。」
「・・・・そんな・・・・。」
その事実に文醜は呆然とする。そんな文醜を指差し鄭度は号を発す。
「兀鬼(ごうき)よ、南蛮の者どもを血祭りに上げ劉璋様への手土産とするのだ。行け!」
その号令に兀突骨は南蛮兵に向かって駆け出していく。巨大な戦斧が次々と南蛮兵たちを吹き飛ばしていく。
「・・・やめて・・・・やめてくれよ、兀ちゃん!」
しかし、文醜の悲痛な叫びは兀突骨には届かない。兀突骨の凶刃は次々と南蛮の兵たちを斬り刻んでいく。
(・・アタイが止めなきゃ。)
文醜は得物を持つと兀突骨の元へと向かっていく。兀突骨の目の前には震えながら固まっているミケ・トラ・シャムの姿があった。そんな3人に向かって兀突骨は戦斧を振り上げる。
「「「ひっ、ひぃ・・・・・。」」」
3人は諦めたのか目を瞑る。襲い掛かる戦斧の一撃を震えながら待つ。兀突骨はそんな3人に向けて戦斧を振り下ろした。
ガキン
しかし、それを文醜の斬山刀が受け止めた。
「くっ、斗詩のところへ!早く!」
文醜の言葉に3人はその場を離れ顔良の元へと向かう。
「兀ちゃん、アタイたちのこと忘れちゃったのかよ?アタイだよ、猪々子だよ。」
「・・・・・・・・・」
文醜の悲痛な気持ちを込めた言葉に兀突骨からは何も返ってこない。あるのは戦斧を通じて分かる兀突骨の力強さだけであった。
「何を言っても無駄だ。その者は過去の記憶を失っているからな。今では我らの忠実なる僕(しもべ)。貴様が何を言ったところで変わるもんでもないわ!兀鬼、その女を殺して首を取れ。それを南蛮の愚か者どもに見せ付けて我等に牙を剥いたこと後悔させてやるのだ!」
鄭度の命令に兀突骨は戦斧を握る手に力を込める。受け止めている文醜にグイグイと迫ってくる。あまりの力に文醜は斬山刀を離してしまう。丸腰になった文醜に向かって兀突骨は戦斧を構える。
(・・・ここまで、か。でも兀ちゃんに殺されるんなら・・・仕方ないかな・・・。)
頭の中でそんな事を考えていた文醜は知らぬ間に穏やかな表情で兀突骨を見つめていた。そんな文醜に兀突骨は容赦なく戦斧を振り下ろそうとしていた。
「「猪々子!!」」
袁紹と孟獲が叫ぶ。文醜の首を狙って兀突骨は得物を振り下した。しかしその時、目の前の文醜の顔を見て兀突骨の頭の中には在りし日の記憶の断片が映った。
――――――――――――――――――兀ちゃん。
「っ!!」
その言葉とともに映し出されたのは目の前の文醜のとびっきりの笑顔だった。振り下ろされた戦斧の一撃は文醜の首の直前でその動きを止めた。目を瞑っていた文醜はゆっくりと瞼を開けてみるとそこには涙を流して蹲る兀突骨の姿があった。
「・・・・・兀・・・・ちゃん・・・・?」
そんな兀突骨に文醜は恐る恐る近付いていく。すると兀突骨は小さな声で何か言っていた。
「・・・・猪・・・・々・・・・・・・・・・子・・・・・。」
「っ!兀ちゃん!アタシだよ、猪々子だよ!」
「・・・・・・・・よかった、・・・・・・・・また・・・・・・・会えた・・・・・。」
そんな兀突骨の言葉に再び文醜は号泣すると兀突骨の胸に飛び込む。鱗だらけの身体は少しだけ痛かったが、今はその痛みが心地よかった。
「うぅ、兀ちゃん、兀ちゃーーーーん。」
懐かしい兀突骨の温もりを感じている文醜だったが、何か様子がおかしい。兀突骨の身体から少しずつ温もりが失われているような気がした。気になった文醜が兀突骨を見るとその背には1本の矢が突き刺さっていた。
「っ!兀ちゃん、どうしたんだよ?その矢。」
その質問に答えることはなく兀突骨はそのまま地面へと倒れこんだ。倒れこんだ兀突骨の後ろには弓矢を構えた一人の男の姿が見えた。それは敵将・劉璋の姿だった。
そんな劉璋の行動に鄭度は困惑の表情を浮かべ問う。
「劉璋様、これは一体・・・・。」
そんな問いに劉璋は笑みを浮べて
「鄭度、ご苦労だったな。お前は知らなかったかもしれんが、儂は蛮族が大嫌いなんじゃ。貴様が拾ってきたあの男は確かに素晴らしい武力の持ち主ではあったが、敵の将一人殺すことが出来ないんじゃ役立たずじゃ。だから儂自らが始末したのじゃ。感謝するがよい。」
そう言った。その言葉に鄭度は呆然としていたが、すぐに劉璋の元へと戻っていく。
「しかし、この『毒』の効果は凄いのう。あんな巨躯の武人をたった一発の矢で仕留める事が出来るんじゃからな。ぎゃはははは。」
そんな劉璋の笑い声など届いていない文醜は必死に兀突骨の背に刺さった矢を抜く。しかし、矢の刺さったところは毒によってどんどん変色していく。兀突骨の表情は苦しそうだ。
「兀ちゃん、しっかりしてくれよ。もうアタイを遺していなくなったりしないでくれよ。」
「・・・・猪・・・々・・・・子・・・・・。」
「・・せっかく、会えたのに・・・・・こんなのって・・・・・・ないよ・・・・。」
瞳から溢れる涙は粒となって兀突骨の顔に落ちていく。そんな文醜の瞳の涙を大きな手で拭ってあげると笑みを浮べて小さく
「猪・・々・・・子、泣かないで。・・・・・猪々子は・・・笑顔が・・・一番・・・・。」
そう告げた。その言葉を聞いても文醜の涙は止まることがなかった。
「こんな時に・・・・笑えないよ・・・・・。」
「・・・もう、・・・・お別れ・・・。だから・・・・・猪々子の笑顔を見て・・・・逝きたい・・・・。」
「・・・そんな事・・・・・そんな事・・・・・。」
首を横に振る文醜に後ろから袁紹と回復した顔良が近付いてくると、文醜の肩に手を当てて小さく頷く。袁紹と顔良の言いたいことが分かったのか、文醜は瞳の涙を拭ってぎこちない笑顔を浮べると兀突骨の方を向く。そんな文醜の笑顔を見て兀突骨も笑顔で
「・・・・やっぱり・・・・・猪々子は・・・・笑顔が一番・・・・・かわいい・・・・。」
力なく呟いた。
「・・・猪々子のこと・・・・好きになって・・・・・・よかった・・・・。猪々子の傍で逝くことが出来て・・うれし・ぃ・・。」
その言葉は完全に紡がれることはなく、文醜の頬に添えられていた兀突骨の手は力を失い地面へと堕ちていく。
「兀ちゃーーーーーーん!!」
兀突骨の胸に顔を埋めて泣き続ける文醜。それを見つめる袁紹と顔良。その瞳からもとめどなく涙が溢れ出る。しかし、そんな南蛮軍のもとへ劉璋軍の兵たちは容赦なく向かってくる。
「猪々子、行きましょう。今は兀突骨さんを奪った劉璋を倒すのが先ですわ。」
怒りの光をともす袁紹の瞳は向かってくる劉璋軍へと向けられていた。そんな袁紹に呼応するように南蛮軍の者たちも立ち上がる。
「みぃはもう怒ったのにゃ!みぃたちの『絆』の力を奴らに見せ付けてやるにゃ!!ミケ、みぃの虎王独鈷を持ってくるにゃ。」
「はいにゃ!」
「姉者、久しぶりに肩を並べて戦うとするか。」
孟獲の決意に孟優が呼応する。南蛮の王と武の化身が共に得物をもって劉璋軍へと向かっていく。そんな仲間の姿を見た文醜は泣くのをやめると兀突骨の唇に最初で最後の口付けをそっとして立ち上がり
「兀ちゃん、アタイたちの戦い見ててくれな。」
涙を拭って得物を持つと、ふぅと息をして大きく叫ぶ。
「っ、畜生、畜生、ちくしょーーーーう!!!!!!!」
文醜の叫び声は戦場へ高く高く木魂していく。
北郷軍・本陣
敵将はあらかた討つ事が出来た北郷軍であったが、兵の消耗が思った以上に厳しい状況だった。そんな戦況を見ながら朱里と詠は頭を抱える。
「敵将はなんとかなりましたが、兵数の差はいかんともしがたい状況です。このままでは押し切られてしまいます。何か『楔』となるものがあるといいのですが・・・・。」
そういいながらうんうんと頭を唸らせている2人のもとに血相を変えて飛び込んできたのは伝令兵だ。
「しょ、諸葛亮様、賈詡様、申しあげます。な、南西に砂塵を確認。数はおよそ20万!」
「っ!何ですって!・・・旗は?劉璋軍なの?」
「・・いえっ、それが・・・・・どうやら『五胡』のようです。」
「「!!」」
伝令兵の言葉に朱里も詠も言葉を失う。
「ここまでだというの・・・・・。」
その報告は今の現状の北郷軍には絶望的な報告であった。
あとがき
飛天の御使い~第参拾六幕~を読んでいただきありがとうございました。
10日以上経ってからの投稿ということで
お待たせしてスイマセンでした。
リアルに時間がないのと、イメージを文章で表現することが出来なかったため
本当に遅くなりました。その結果、未だに最終決戦が終わらずといったところで
グダグダになってきています。今回の展開もかなり作者のご都合主義が前面に出ているような
感じで申し訳ないです。
もっと文章力を向上させねばと思う今日この頃です。
拙い作品ではありますが、少しでも楽しんでいただけたなら
幸いです。
Tweet |
|
|
22
|
2
|
追加するフォルダを選択
北郷軍VS蜀軍 最終決戦後編その2です。
今回は一刃&南蛮編です。
この作品は恋姫†無双の二次創作です。
拙い作品ですが、少しでも楽しんでいただけたら
続きを表示