<神になった怒りん坊将軍>
「突然だが皆に聞いてもらいたい。私は『神』になるんだ」
愛紗の唐突な発言を聞いて蜀漢の領袖(りょうしゅう)たちは
それぞれ個性的な表情で愛紗を見た。
そして、一同の考えを代弁するかのように国主 桃香は言った。
「愛紗ちゃん……今日は暑かったからね。……熱中症?」
桃香の言葉を聞いて皆 哀れんだ目で愛紗を見ていた。
「とっ、桃香様、違います!
それと皆 何故私を哀れんだ目でみるのです。 私はいたって健康です」
「では、愛紗 どのようなことから自分が『神になる』と言うのだ」
星は面白い見世物が出たので愛紗にチャチャを入れた。
愛紗はわざとらしく咳きをして、厳かに一同に言った。
「昨晩、夢に玉帝が現れ
『羽よ。オメー カミさんになれや』
との有り難いお言葉を賜ったのです」
玉帝?
この蜀漢の朝議に列席していた三国同盟の象徴である
天の御遣い北郷一刀は隣に座っていた博学の朱里を小突き質問した。
ご主人様、玉帝というのは道教における事実上の最高神のことですよ。
朱里が小声で一刀に答えている間に、愛紗の演説は粛々と続いていた。
「……故に、
『山東のひとり春秋をつくり、山西のひとり春秋を読む』
というように晴耕雨読を実行していたからです。
それだけではなく桃香様からはぐれ、曹操の元で抑留生活をした際にも
多額の金品等が贈られましたがそれらを全て拒んだりなど、
私が清廉だからこそ玉帝からこのようなお言葉を賜ったのです」
これを聞いていた鈴々は何気なく一言いった。
「愛紗が神様なら、天の御遣いであるお兄ちゃんと一緒なのだ」
鈴々のたわいのない一言でこの大広間の空気が一気に冷えたような感覚を一刀の本能が感じた。
愛紗の言葉に最初に異を唱えたのは馬超こと翠であった。
「そっ、そんなら愛紗が神になれるなら、
アタシだって神になれるぜ。
なにせ民草から『錦馬超』と畏敬の念で呼ばれているんだから」
「ほぅ、『失禁馬超』の間違いではないのか?
まあ確かに愛紗が神になれる位なら我ら五虎大将軍とて神号を賜ってもおかしくはなかろう」
翠の先走りを権勢しつつ他の者をも祭り上げる星の毒舌に周囲は殺気だった。
「にゃにゃー 星、それなら鈴々も神様になれるというのか?」
「あらあら、
私も五虎将の一人ですから愛紗ちゃんと同じ神になる資格はあることになりますのね」
星の言葉に反応して鈴々と紫苑も参戦しだした。
これを聞いた愛紗は険しい顔つきで皆に言った。
「ええぃ、静まれ!皆の者 そもそも玉帝から神になれとお言葉を賜ったのは私なんだぞ」
「愛紗、そもそも玉帝からお言葉を賜ったというがその証拠がないではないか」
星の執拗な攻撃に愛紗はたじろいた。
「たっ、確かにこれという証拠はない。
しかし、逆を言えば他の者はこのような夢を見たものはいるのだろうか」
一同は顔を見合わせた。
何故ならそのような夢を真に受ける者はいないからである。
愛紗は勝ち誇るように一同を見た。
このとき、一人沈黙していた蒲公英がボソッと言った。
「愛紗、そういうけど神様になってなにするの」
翌日 朝 蜀屋敷
一刀は昨日の朝議から蜀から随従した地元有力者との謁見から
各種の同盟間の均衡をとるための会議をして何時しか
そのまま蜀屋敷に泊り込んでしまった。
(-……ご主人様、……ご主人様)
何時もなら月が優しく起こしてくれるはず?
今日はやけに力づよく身体を揺さぶられていた。
『ご主人様いつまで寝ているのです』
愛紗に布団を引っぺがされて一刀は寝ぼけ眼(まなこ)で愛紗を見た。
「……えーと愛紗おはよう、それとなんでメイド姿なの」
愛紗は何時もの服ではなく月や詠が着ているようなメイド服を着ていた。
「ああ、これですか。私もご主人様に相応しい神となる身。
しかし昨日蒲公英から何の神になるか聞かれ、
考えた末に、家事を守る娘々(女神)を目指す為にこうして
月や詠たちの戦闘服である 『冥土服』 を身にまとい心身を引き締めているのです」
一刀は何か根本的に違うような気がしたが寝ぼけて頭が働かなかった。
「さあ、ご主人様、朝食を用意しましたので早く着替えてください」
愛紗に促されるように一刀は服を着替え始めた。
猛暑が過ぎ過ごしやすくなった日々であったはずが、
蜀の屋敷では台風が降臨していた。
どす黒く炭化した米と得体のしれないオカズといった朝食は当たり前、
掃除と称して朱里と雛里の集めた貴重な八百一の木簡を全部焼き捨てられ、
洗濯の樽がないから星が塩抜きしていたメンマの樽を使い
服がメンマ臭など蜀屋敷の住人たちは右往左往していた。
「はわわっ!はわわっ!桃香さま! 愛紗さんを天にかわって誅伐すべきです!!!!」
朱里と雛里は半泣きしながら執務机に座る桃香に怒り狂い進言していた。
その横で星は愛用の槍の穂先を砥石で研ぎながら何やらブツブツ言っていた。
また椅子にもたれかかっていた一刀はメンマ臭のする一張羅の服を着て放心状態であった。
「確かに愛紗ちゃんに家事は………………ムリ?」
「あわわっ、桃香さま…戦略的撤退を進言します」
「戦友(とも)と言えどもメンマを粗末にしたこと……万死に値する!」
これから愛紗関係の苦情が沢山くることを考えると桃香は頭を抱えてしまった。
「……けど、けど、愛紗ちゃんだって悪気があって……」
桃香が話をしている最中に一人の女官が慌てて入ってきた。
「国主様、大変です関羽将軍が国主様のお気に入りの服を切り裂いてしまいました」
「……まあ、針仕事に不慣れ……だから…」
と桃香は怒りを堪えて愛紗を弁護していたが
「服一着ではなく数着です」
と言われた瞬間、桃香は咆哮した。
「同じ神様なんだから、ご主人様なんとかしてよね!」
キレれた桃香の言葉に一刀はため息をついた。
「愛紗は火事の神様だ……」
それから数日後、
一刀は魏の華琳の元に使いを出しある人物をこちらに派遣してくれるように頼んだ。
そして一刀から連絡を受け愛紗は、上機嫌で一刀の玉殿に来た。
「ご主人様からのお手紙にあった私を神として拝見したい人がいるなんて……
この私、 家事の娘々としてのご利益で家内安全になるでしょう」
一刀は喜ぶ愛紗に言った。
「その人は忻州木児村の生まれで、姓は任、名は紅昌と言う人なんだ」
「ほほぅ、そんな遠くからわざわざ来てくれたのですね」
玉殿の扉が開き
愛紗は「遠くからわざわざようこそ任殿。歓迎しよう……?!」
と言い終える前に愛紗は固まってしまった。
「あ~ら、貴女が関羽ちゃん♪」
愛紗は顔を動かすことなくご主人様に質問をした。
「ご主人様、この面妖な筋肉ダルマは何です」
一刀は愛紗から顔を背けるように洛陽の舞姫で若い兵士達の間で『勇名』な貂蝉だといった。
きわどいビキニをはき、鍛えぬかれた尻を引き締めて貂蝉はこちらに近づいてきた。
更に一刀は、
「愛紗 家事の娘々(女神)になるなら……
この洛陽一の美人 貂蝉に家事とは何かを伝えるべきだ―――!
逝け! 愛紗!」
と言って愛紗の背中を強く押し扉を閉めた。
「チョットご主人様 きゃー!」
ウインクし妖艶に、腰をカクカクと振りながら接近してきた
『ハード 芸!』
目の当たりにした愛紗は思わず腰にあった長剣を抜き
人外の化け物 貂蝉に切りかかった。
「私は武人だ! 美人にようはない!」
しかし、貂蝉のムダ毛処理を施されたつるつるのおみ足に長剣を弾かれた。
そしてすかさず、貂蝉に剣を蹴り飛ばされてしまった。
貂蝉は
固いのよ 太いんだわさ 暴れん坊なのよ
と股間をいきり立たせ、
ずーごーずーごーと猛牛のように粗い呼吸をして愛紗にせまってきた。
ヒッ!
愛紗は身の危険を感じた!
フッははははははははははははははは・・・ゲホゲホ
天井の梁から哄笑する声が聞こえた。
三人は天井を見上げると純白の衣をまとい蝶の仮面をした痴女が仁王立ちしていた。
「主、ここはホコリだらけだ。たまには天井も掃除をした方がいいぞ。
……とそんなことはいいとして愛紗よ」
「我が真名を語るとは何ヤツだ、この女郎」
愛紗はいきなり真名を呼ばれ激怒した。
「そう怒る出ない。
我は美と武の化身 華蝶仮面 九天玄女娘々(戦の女神)から
汝にこれを渡すように申されて参上した。受け取れ!」
ドスという重い音と共に何かが石畳に突き刺さった。
青龍偃月刀
「これは、私の青龍偃月刀!これさえあれば100人力。行くぞバケモノ!!」
でぇやー!
という掛け声と共に貂蝉に突貫していった愛紗を尻目に
何時の間にか華蝶仮面は一刀の横に来ていた。
「ふむ。主。はたしてこれでよかったのでしょうかな」
「うん。曹操が愛紗を懐柔させる為に貂蝉を嫁入りさせる話があったなー
と言うの思い出して華琳に貂蝉を来るように連絡したけど。
やはり二人は相性がよくなかったようだね」
華蝶の仮面を取った星は愛紗と貂蝉の立ち回りを見て言った。
「このあと、どうされるおつもりで」
「疲れれば馬鹿な考えもなくなるでしょ」
一刀はそう言って玉殿の鍵を閉め、立ち入り禁止の札を立てた。
数日後……
「……か、勝った」
不眠不休でボロボロになった愛紗は
指を咥えながら眠る無傷の貂蝉を見ながら 青龍偃月刀を杖に立ちながら眠った……
こうして、洛陽で後方不敗として勇名であった貂蝉を破ったということが広まり
愛紗は民衆から念願の
『武 神』
として後世に名を残すのであった……
……あれ?…
Tweet |
|
|
33
|
1
|
追加するフォルダを選択
恋姫†夏祭り 最後の投稿 蜀漢の国編です。
字数制限や独特の書き方をしておりますので読みづらいかもしれません。
本編は、恋姫†夏祭り用ですので限定作品ではありません。多くの方が楽しんで頂けたら何よりです。
金髪のグゥレイトゥ!様の作品をインスパイヤ元にさせて頂きました。
この場を借りて金髪のグゥレイトゥ!様に御礼申し上げます。
続きを表示