桂花視点
「さて、どうしようかしら」
私は街に出ていた。
なぜなら、これから北郷一刀に謝罪の気持ちを伝えるために、何か物と一緒の方がいいと思ったからだ。
「ったく、どうして私が北郷のためなんかに・・・・・いけないいけない。もっと素直にならなくちゃ。それに北郷じゃなくて一刀。そうよね?一刀」
私は手に持っている一刀を模した人形に話しかけた。これは、私の一刀に話しかける練習のために真桜に造らせた、カラクリ一刀。今日出来てばかりの新品だ。これに話しかけることにより、本番への耐性をつけるのよ。
一刀に「もう話しかけない」と言われて以来、私はとても落ち込んだ。男なんて・・・・と思いながらも、とても悲しくなった。だから私は、充分に時間をかけて、気持ちの整理をつけることにした。
そして、私が出した結論。
恋・・・・と呼んでいい物かは分からない。でも、もしこの気持ちが恋であっても、私は後悔しない。と、思うほど一刀のことを信頼もしていたし、そして異性として意識していたことに、私は気がついた。
それが分かった私は、まずは普通に話しかける練習をすることにした。
部屋の枕に一刀の似顔絵を張り、それに話かけるのだ。
でも、普通の女の子はどういった風に話かけるのかしら。
それが分からなかった私は、女の子っぽい沙和や数え役満シスターズの言動を勉強し、そして年頃の娘が買うという『阿蘇阿蘇』も買い、私は来る日も来る日も特訓した。
そして、ついに私はマスターしたのだ!
まずは、謝り方。
ごほん、と軽く咳払いして、カラクリ一刀に話しかける。
「あのね・・・・この前はごめんね?桂花たん、悪い子なの。てへっ♪」
・・・・完璧ね。さすが私よ。
そして次、自分の気持ちを伝え方。
「あのね・・・あのねあのね?桂花たんね?一刀君のことを想うと、お胸がきゅんってするの。これって何かな?」
・・・・身震いするほど完璧ね。
そして最後は甘え方。
「一刀君・・・・桂花たんをた・べ・て♪」
・・・・最高よ。私。
「どうかしら?一刀、私の気持ちは伝わったかしら」
「『あぁ!キチンと桂花の気持ちは伝わったさ!僕も君が大好きさ!』
「もぅ、一刀ったら♪」
「『愛してるよ。桂花』」
「私もよ」
うーんちゅ、と軽くカラクリ一刀に口づけをする。
「何かしらあの人。人形に話かけて、それで自分で答えてるわ。病気かしら(ひそひそ)」
あれ?何かしら、周りの人が変な視線で見てる気がするけど・・・・気のせいよね。
「それよりも、一刀。あなたは何を貰えば嬉しいの?」
「『僕は桂花から貰えれば何でも嬉しいよ!』」
「もぅ♪この正直もの~。やっぱり、お菓子とかかしら」
「『出来れば、永遠に形として残る物が嬉しいな!その方が、桂花との愛を感じられるから!』」
「一刀ったら、そんなに照れるようなこと言わないでよぉ・・・それじゃあ、何かしら。服?それとも、武具かしら」
「『桂花!忘れているのかい?僕の国のことを』」
「天の国?・・・・そう言えば、仲のよい男女はお互いに指輪を交換しあうって言ったたかしら。それじゃあ、それにしましょう」
さっそく私は、近くの貴金属店へと向かった。その最中も、一刀に話しかける練習は止めない。せっかくここまで練習したんだから、この感触を忘れたくない。
でもどうしてかしら。すれ違う人が、変な眼で私をみるけど・・・・あ、そっか。人形を持っているからね。そうよねぇ、私ほどのないすばでぃーな大人の女性が人形を持っていたら変よね。さすがに。
「でも安心して。少しぐらい変に見られてもいいわ。一刀と一緒なら」
「『あぁ!それは僕もさ!君は本当に最高の女性だ!』」
あぁ、やっぱり一刀は最高ね。こんなことなら、もっと前から素直になるべきだったわ。
「ごめんください」
「はいよ。何かお探しで?」
「えぇ。指輪を探してるのよ。男用で・・・・そうねぇ、どんなのがいいかしら」
「『頑丈な物にしよう!僕と桂花の愛も頑丈だからね!』」
「そうね、私たちの愛のように頑丈なのにしましょう。ということで、頑丈な男用の指輪を頼むわ」
「は・・・・はぁ・・・・・」
やっぱり変な眼で見てくる。そんなに人形を持ってるのが変かしら。ねぇ?一刀。それにしても一刀は格好いいわねぇ。男は嫌いだけど、一刀は別よ。そうよ、私分かったわ。世の中には3つの人種が居て、男、女、一刀の3つなのよ。だから、私は一刀を愛せるんだわ。あぁ、なんてことかしら。そのことに早く気がついていれば・・・・。
「へ、へい。お持ちしました。これです」
そう言って店主が私に渡したのは、銀色に輝く指輪。シンプルだけど、とっても綺麗。
「これにするわ。お代はいくら?」
「あ、あの・・・・これは差し上げますよ」
「えっ?そんなの悪いわよ」
「い、いえ。これはその・・・見舞い品ですわ。だから頑張ってください」
見舞い品?もしかして、一刀が記憶喪失になったのを知っているのかしら。情報早いわね。でも、いいわ。貰えるものなら貰いましょう。
「ありがと。それじゃあ、失礼するわ」
「へ、へい。頑張ってくだせぇ」
「えぇ。ありがと」
なかなかいい店主じゃない。でも安心して、私はきっと成功させてみせるから。
「さて、贈り物も買ったし、帰ろうかしら」
「『桂花。せっかく二人っきりなんだから、どこかに遊びに行こうよ!』」
「それもそうね。せっかくの二人っきりなんだから・・・あ、ちょっと待って。流琉―!」
とりあえずお茶でも飲もうかしら、と見渡した時に、私は何やら大きな荷物を背負っている流琉を見つけた。
声をかけると、そっちも私に気がついたようで、走って寄って来た。
「こんにちは。桂花さん。お買い物ですか?」
「えぇ。そうよ。流琉は?」
「わ、私もです・・・・将来のための買い物です・・・・えへへ。えへへ。兄さま、驚くだろうなぁ・・・」
何か一人でブツブツ喋って変ね。流琉。頭、大丈夫かしら。
「それじゃあ、私は行きますね?」
「えぇ。気をつけなさいよ」
手を振って流琉を見送ると、さっそく茶屋に入り、注文をした。
「とりあえず、お茶を二つ。お菓子は・・・・一刀。何がいい?ふふ、そうね。私もあなたと同じものがいいわ・・・・」
流琉視点
「ふんふんふーん♪」
「お、ご機嫌だねぇ。何かあったのかい?」
「あ、居酒屋のおじさん!そうなんです!」
「ははーん、もしかして天の使いの兄ちゃんと何かあったな?」
「えへへ、分かります?もしかしたら、私、武将を辞めるかもしれません!」
「へっ?そりゃあ、どうしてだい?」
「内緒でーす!」
不思議そうなおじさんに手を振り、私は市場を抜けていく。だって、まだキチンと住む場所も決まってないし、それに華琳さまの許可も貰ってない。でもまぁ、もし華琳さまのお許しがなかったら、兄さまと駆け落ちでもいいかも。
「よいしょ」
背中には様々な本屋で手に入れた料理の本と、私が実際に勉強して記録した料理やお店の経営方法など書かれた巻物がいっぱいに詰まっている。
「やっぱり、自分でお店を持つって大変なんだなぁ・・・でも、兄さまとの生活のためだし、キチンと勉強しないと・・・・それにしても・・・えへへ・・・・」
思わず笑みがこぼれる。
だって、まさか兄さまから結婚を申し出だしてくるなんて・・・。私はずっと前から兄さまが大好きだし、それに結婚するなら、兄さまって決めてたから、迷いもしない。でも、季衣に悪いかな?
でもいっか。だって、兄さまが決めたことなんだから。
「もぅ、兄さまったら・・・・えへへ・・・・えへへ・・・・」
「何かしらあの子。一人で笑ってるわ。大丈夫かしら(ひそひそ)」
あれ?何か周りの人から変な眼で見られてる・・・・あ、そっか。こんなに大きな荷物背負ってるからか。でも、それぐらいなら別にいっか。
「さてと・・・次は表通りで物件探しをしないと・・・・そうだ。ついでだから、採譜について少し教わろうかな?」
表通りには私が昔、お世話になった定食屋さんがある。そこのおじさんとおばさんに教わろう。
そう思って、私は表通りの定食屋さんへと急いだ。
その最中、兄さまと私の将来を想像すると、どうしても笑みがこぼれてしまう。だって、夢みたいなんだもん。いいなぁ、仲良く定食屋を営んで、夜は一緒に寝るんだ・・・・あ、そうだ。大きいベッドも買わないと。
「こんにちはー!」
ガラっと定食屋の扉を開けた。
あれ?お客さんがいない。閉店の看板はなかったから、営業中だと思うけど・・・・どうしたんだろう。
そう思っていると
「ちょっとあんた!分かってるの!?」
「だから謝ってるだろ!?」
と、おじさんとおばさんの怒鳴り声が聞こえた。びっくりした私は、荷物を置くと、声の聞こえる厨房へと向かった。
そこには、言い争っているおばさんとおじさんがいた。おばさんの手にはおたまがあり、それでおじさんを叩いている。
「ど、どうしたんですか!?」
「あ!流琉ちゃん!聞いてよ!この人、酷いのよ!今日は二人の結婚記念日だから、二人でゆっくりと旅でもしようって話をしてたのに」
「へぇ、いいじゃないですか。今の大陸は平和ですから。でも、それで?」
「この人!その約束を忘れて、その旅行のためのお金を全部お酒にしちゃったのよ!信じられる!?」
「だから謝ってるだろ!」
あぁ、それはおじさんが悪い。きっと、おばさんは大好きなおじさんと二人っきりで旅行が出来ると思って、楽しみに準備してたんだろうな。でも、肝心なおじさんが約束を破るなんて・・・・ほんとに、酷い。
「・・・おじさんが悪いよ」
「だ、だけどね流琉ちゃん。私は何回も謝ってるんだよ?」
「おじさん・・・・おばさんの気持ちを考えたことある?おばさんは、とっても楽しみにしてたんだよ?それなのに、約束を破るなんて・・・・」
「・・・そうだな。あぁ。これは私が悪い」
「・・・・・」
「すまないお前。今からお酒を売ってくる!足らないかもしれないけど、いつか絶対に行こう!」
「おまえさん・・・・」
そう言って、おじさんは大きな樽を抱きかかえると、店から出て行った。
「ありがとね。流琉ちゃん」
「・・・・何を言っているんですか」
「えっ?」
「全然だめですよぉ。謝って許される問題じゃないですよぉ。えぇ。だって約束を破ったんだもん」
「で、でもあの人も改心してくれたし・・・・」
「それでも駄目ですよぉ。もう二度と裏切らないように、キチンと教育しないと。えぇ。私がもし兄さまに裏切られたら・・・・」
想像すると、胸の奥から何かが生まれてくる気がした。
ううん。兄さまは絶対に私を裏切らない。もし裏切ることがあれば、きっと周りの女の子が邪魔したに違いない。だって、兄さま格好いいもん。素直に私と兄さまの幸せを喜んでくれるわけがない。
「でも駄目・・・・絶対に邪魔はさせないよ・・・・だって、兄さまと私の幸せのためだもん」
もし、邪魔されるようなことがあれば・・・・・ね。
「あ、あの・・・流琉ちゃん?」
「・・・・あっ、私はこれで失礼しますね」
そう言って、私は荷物を持って、店から飛び出した。
こうしては居られない。もっともっと、勉強して、夢を実現しないと・・・・。それでもし邪魔してくる人がいれば、何としても阻止しないと。それがもし、季衣だったとしても・・・。
あ、そこに居るのは桂花さんだ。・・・あれ?何か人形を持ってる。それで、その人形に話かけてるよ・・・・大丈夫かな?ここは、そっとしておこうかな・・・。
「流琉ーー!」
声かけられちゃった。無視することも出来ないし、取りあえず、挨拶に行こうっと。
「こんにちは。桂花さん。お買い物ですか?」
近づいてみると、桂花さんが持っている人形は、どことなく兄さまに似ていた。あ・・・・そっか、本物の兄さまは私の物だから、人形で寂しさを紛らしているんだ。そっか・・・ごめんなさいね、桂花さん。兄さまは私だけのものなんです・・・えへへ。
「えぇ。そうよ。流琉は?」
「わ、私もです・・・・将来のための買い物です・・・・えへへ。えへへ。兄さま、驚くだろうなぁ・・・」
あ、そうだ。こんな所で時間を無駄にしちゃいけない。さっそく、安い物件を探しに行かないと。
「それじゃあ、私は行きますね?」
そう言って、私は桂花さんに背を向けてお城へと向かった。
「それにしても・・・・うふふ、桂花さんも可愛いところありますね。人形を兄さまに見立てるなんて・・・本当は、妄想でも兄さまを使うことは少し嫌ですけど・・・まぁ、それぐらいなら許してあげますよ・・・・えへへ、兄さま・・・・待っててくださいね」
一刀が華琳とラブラブな時間を過ごしている間、桂花と流琉はこんなことをしていた。
しかし実際、一刀が戻ってきた時には、二人とも思うように一刀に接することが出来なかった。
本当はもっと可愛らしく、素直に指輪を渡そうとした桂花だが、すぐそばに華琳がいることに気がつき、ついいつもの癖でそっけない態度を取ってしまった。
そして流琉も同じだ。
兄さまは裏切らない、と言いながらも、実際に約束を忘れた一刀に、流琉は耐えきれずに怒りを爆発してしまった。
だが、せめて覚えていてほしい。あんな態度の二人だが、それでもこんなにも頑張っていたことを。
終わり。
おまけページ
『居酒屋 紫苑』
その居酒屋は、人生経験豊富な年増・・・もとい、お姉さまによって経営されている居酒屋である。今日も、悩める乙女が相談しにくる。
雛里の場合
「(ごくごくごく)・・・・・あわわ!ほんとーにやってられないですよぉ。あわわ」
「あらあら、どうしたのです?」
「あわわ・・・・ご主人様ですぅ。いっつも他の女にばっかり目が行って、全然私を見てくれないですぅ・・・」
「まぁ!でも、ご主人様はモテるから仕方がないわ」
「あわわ、あわわ、それでもですぅ。紫苑さん・・・・何か案はありませんかぁ?」
「そうねねぇ・・・いっそうのこと、自分以外の女の子をどうにかしたら?そしたら、雛里ちゃんだけしか見ないわよ・・・・うふふ・・・・冗談よ」
「・・・・あわわ、とってもいい案なのですぅ」
「えっ?雛里ちゃん?」
「あわわ、飛んでるハエを潰しても、罪にはならないですぅ・・・・ありがとうございます。紫苑さん。では、これから害虫退治に行ってくるですぅ・・・・」
バタン、と、ドアが閉まる。
「・・・・えっと・・・・・ま、いっか♪」
今日も悩める乙女を救ったのだった。
その日の蜀では
⇒雛里 ( ´∀`);y=ー(゚д゚)・∵. ターン
⊂⌒~⊃。Д。)⊃
⊂⌒~⊃。Д。)⊃
⊂⌒~⊃。Д。)⊃
亜莎の場合
「(ごくごく)ぷはぁ!・・・まったくやってられませんよ!」
「あらあら、どうしたの?」
「どうしたもこうしたもないですよ!私、軍師の中で地味じゃありません?」
「えっ・・・そうかしら」
「だって、蜀には、はわわとあわわ軍師。魏にはマゾっこ桂花たんと鼻血軍師と唯一の魏の良心の風さん。呉にはメガ周喩砲の冥琳さん。そしてたわわ軍師・・・・わ、私には何があるんですか!?胸もなければ、軍略にもそこまで優れていない!」
「えっと・・・・そうよ、ごま団子があるじゃない」
「私がいつもごま団子を食べてると思ったら大間違いですよ!あうぅ・・・・可愛いもダメ。綺麗もダメ・・・・私はどうしたら・・・・」
「そうねぇ、そうよ。アホっこはどうかしら?」
「アホっこ?ってなんですか?」
「えっとね・・・・確か、変なことをして、周りから「変わってるなぁ」って注目を受けることよ。きっと。そうすれば、個性が生まれるわ」
「そうですね・・・・そうですね!分かりました!私、アホっこになります!ありがとうございました!」
バタン、と、ドアが閉まる。
「うふふ。また良いことしちゃった」
その日の呉では
亜莎
↓
(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル ξミヽ(・∀・)ノξ ウンコナゲマクリ
↓
(゜∀。)ワヒャヒャヒャヒャヒャヒャ
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魏√の一刀が、華琳といちゃラブしている間、他の乙女たちは一刀のために努力していた。番外編では、その乙女たちの出来事を書きます。
別にこれを読まなくても、本編には何も影響ありませんので、暇な人は読んでみてくださいねー。
あと、番外編のみの特別おまけがあります。興味ある人はついでで良いのでよんでくださいねー。