それから二週間の間、白星は白蓮の頼みで、星とともに義勇兵の調練をした。
星とはあの後に行われた、白星を歓迎する宴のときに話した。敗北を乗り越えた後は、またあの妖艶な微笑みを浮かべながら、何も無かったかのように話しかけてきたのだ。
何も聞かずに手合わせしてくれた礼にと、自分の真名を預けてくれた。星が預けるなら、と白蓮も一緒に預けた。白蓮というのが公孫賛の真名なのだ。
兵の調練は白星自身も行ったが、美月にもやらせた。最初は不満気だったが、すぐに自ら積極的に調練に励んだ。やはり、武将としての血か、と苦笑するほど、様になっていた。
「ほぉ、姜維も中々やるな。これは一度手合わせをしてみたいものだ。」
星がニヤニヤしながら白星の隣で呟いた。
「俺は構わんが、あいつはまだお前を満足させるほどの腕を持っていない。」
「まだ、ということはいずれ私を抜くということか?」
星が得意の妖艶な微笑みを浮かべた。白星は肩をすくめて反応した。お好きなように捉えてくれと無言で言ったのだ。
美月の容赦ない調練を眺めながら、久しぶりに美月以外の人間とまともな会話をしていることに、白星は戸惑いを覚えつつも、少し心地よさを抱いていた。
「星、白星、私と一緒に来てくれ。紹介したい人間がいる。」
振り向くと、白蓮が来ていた。どうやら義勇兵として白蓮の古い友人が来てくれたらしい。数は三人だが、三人とも強さに関しては白蓮が保証してくれるそうだ。
玉座の間には三人の女性がいた。
一人は長い黒髪をサイドテールにし、良い姿勢で青龍偃月刀を抱えている。
その横に見た目は赤髪の子供だが、手にその体型には巨大すぎる蛇矛を持っている。
その真ん中に、のほほんと平和そうな微笑を浮かべている少女がいた。
劉備、関羽、張飛だな。自分が知っている歴史の登場人物とまるで容姿が違うことに苦笑しながらも、関羽と張飛がかなり強いというのは、纏っている覇気からもわかった。
「おお、待たせたな。こっちが私の客将の趙雲と白星だ。二人とも、こっちが・・・。」
「劉玄徳、関雲長、張翼徳の三人だな。」
白蓮が紹介する前に、白星が三人の名前を言い当てた。
劉備はポカンと驚いた表情をし、張飛は、んあー、と間抜けな表情を浮かべ、関羽のみ警戒心を露にした。三人だけでなく、星も、ほぅ、と軽く驚いたふりをした後すぐに、いつもの妖艶な微笑みを浮かべ、白蓮は、やれやれと肩をすくめた。
「公孫賛殿、こちらの御仁は何者でしょうか。私たちはそのような御仁と知り合いではありませんが。」
関羽は警戒心丸出しな表情で質問をした。そして、悟られないように偃月刀の握りを持ち替え、いつでも飛びだせる姿勢になった。
「まぁまぁ、落ちつけよ。こいつの悪い癖なんだ。」
「左様。この白星は、本人は認めぬが、巷で話題になっている天の御使いだと、私たちは思っている。おそらく貴殿たちの名前を当てたのも天の知識だと思われる。」
星の言葉を聞いて、三人はお互いの顔を見て、それから白星を値踏みするかのようにじろじろ見た。
「あの、天の御使い様って、都で管輅さんって占い師が『空に白き流星流れるとき、天の御使い大陸の混沌を鎮めんとす』って言っていたやつですか?」
「あぁ、そうだ。白星の話によると、こいつは気がつくと、荒れ地で気絶していたそうだ。そこを近くの村の村長さんが拾ってくれて、養ってくれたそうだよ。記憶はあったのだが、名前だけはどうしても思い出せなかったようで、白星っていうのは村長さんが、白い流星を見たあと、そこに行ってみたら、こいつが寝ていたらしかったから、そこから名付けたらしい。最初は私も信じられなかったが、こいつは天の国の知識で様々なことを知っている。桃香たちの名前を知っていたのも、たぶんそれだと思うんだ。」
白蓮が白星のこれまでの事を簡単に説明してくれた。
面倒な話なので、自分がぐだぐだと話すよりも助かると、白星は微笑した。
それに対して、三人の反応はバラバラだった。劉備は信じたらしく、目をキラキラさせながら、白星のことを見つめている。関羽はあからさまに怪しいという目で白星を睨んでいるし、張飛は興味ないような感じにボーっとしていた。
「まぁ、俺は自分がそんな大層なものだとは思っていない。名前についても俺が見たわけではないので、何とも言えない。」
「ほぅ。それを言うなら、先ほどの話自体怪しいものだな。その村長とやらの話を聞いてみたいものだ。」
関羽がわざと挑戦的なことを言った。さすがの劉備も肩を揺すって窘めたが、星と白蓮は顔を少し暗くした。
「義父の話は残念ながらもう聞けないな。義父は一年前に黄巾賊の獣どもに殺されたからな。俺の目の前で。」
白星は無表情のまま言った。
さすがにまずいことを言ったと思い、関羽も、それは済まなかった、と素直に謝った。
白蓮は場を取り持つように、やや大きめの声を出して、せっかくこの三人が来てくれたから、今日は宴を開こう、と言った。それで三人と白星と星との顔合わせはお開きになった。
白星は白蓮とすれ違う時に、気を遣わせてすまないと言った。気にするな、と笑顔で答えてくれた白蓮のさり気ない気配りに、白星は素直に嬉しかった。
宴の前に調練中の美月を迎えに行くと、置いてきぼりにされたと、美月から散々泣きながら怒られたのは、また別の話である。
あとがき
第六話の投稿です。
まず、嘘・恋姫無双の投稿もそれ程進んでないのにも関わらず、新シリーズを始めてしまったことについて、不快に感じた方に、この場を借りてお詫びします。
どちらの話も中途半端に終わらせることは絶対にしないので、今後ともこの駄作製造機の事を温かく見守ってくれると幸いです。
第六話は、白星と劉備たちの出会いです。彼はこれから、様々な英雄たちと出会い、自分の役割を見出していく予定です。
さて、劉備たちとの出会いが彼にどう影響するのでしょうか。
また、ナレーションにおいて、趙雲と公孫賛が、星と白蓮のように真名に変わりましたが、これは二人が白星に真名を許したからです。白星に真名を許している人間は、ナレーションでも真名になります。
次回は、物語は進めず、彼らの日常的なシーンを描きたいと思います。
誰か一人でもおもしろいと思ってくれたら嬉しいです。
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第六話の投稿です。
今回は次の展開のための導入部分ですので、淡々とした感じになってしまいました。
誰か一人でもおもしろいと思ってくれたら嬉しいです。