それは、とある夏の日の事。
一刀
「…暑い、だるい、無理、死ぬ」
ろくに手を付けていない政務を投げ出し、俺は机に顔を突っ伏した。
今日の暑さを例えると、コンクリートで肉が焼けるレベルだ。
貂蝉
「んもぅ、ご主人様はオーバーねぇ~」
そう言って、何故か俺の部屋でクネクネしている筋肉達磨を目の前にして、
一刀
「何故、お前が此処に居るんだ…!! 失せろっ…!!」
俺は奴の顔面に、
全身全霊の殺意と、暑さへの怒りを籠めて、
渾身のストレートを妖怪の顔にお見舞いした。
貂蝉
「んぎゃあぁぁぁぁ!?」
ガシャーン。
後で、業者に修理を依頼しておこう。
妖怪を窓から外に吹っ飛ばしたは良いものの。
一刀
「…うぅ、余計に暑くなった」
だ、ダメだ、干からびる……。
そう思い、再び机に顔を突っ伏そうとした時―――。
愛紗
「…ご主人様、いらっしゃいますか?」
愛紗が入ってきたのだった。
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~真夏の絆~
一刀
「あ、愛紗…!? さ、サボっていた訳じゃナイヨ!? 俺は、今から始めようと…!!」
と、言い訳の弁を、思いつく限り口から垂れ流そうとして、
ふと俺は彼女の様子が、いつもと違う事に気付いた。
一刀
「愛紗…?」
愛紗
「う、うぅ………」
パタリ。
一刀
「あ、あい…しゃ??」
愛紗が俺の目の前で倒れた。
「お、おい!! 愛紗!! しっかりしろ!!」
愛紗
「ゴホッ、ゴホッ!! はぁ…はぁ…!!」
愛紗の額に手を当てる。気付けば顔は真っ赤だった。
一刀
「!! ……ひ、酷い熱だ!! だ、誰か、誰か華佗を呼んでくれ!!」
数分後、華佗が飛んできて手際良く処置をしてくれた。
そのお陰で、愛紗はすやすやと寝息を立てている。
診断結果は夏風邪だった。
華佗
「日々の過労に、加えてこの暑さだ。体が限界に達してしまったのだろう」
一刀
「そうか…。…ありがとう。華佗のお陰で助かった」
華佗
「これが俺の務めさ、気にするな。…それよりも暫くは彼女を休ませてやれ。良いな?」
一刀
「ああ、分かってる。絶対に安静にさせるから」
華佗
「おう。それじゃあ、次の患者が待っているから、後は任せたぜ!」
一刀
「ああ」
バタン。
華佗は急いで次の患者の元へと向かっていった。
その後、何人かがお見舞いに来てくれたが、
事情を話し、面会謝絶にさせて貰った。
特に鈴々を納得させるのは時間が掛かった。居合わせた紫苑に感謝だな。
愛紗
「すぅ……すぅ……」
一刀
「………」
何刻過ぎただろうか、俺は華佗の言葉を思い起こす。
―暫くは彼女を休ませてやれ―
何故、彼女が無理をしている事に気付かなかったのだろうか?
俺は自分に腹が立っていた。
最近は色々な所に顔を出すが故に、
愛紗と過ごす時間がガクっと減ったのは事実だ。
でも―――。
愛紗
「ん……」
そんな事は言い訳にならない。
何がご主人様だ、俺のバカ野郎が。
一刀
「…こんなになるまで、気付かないなんて、ホント馬鹿だよな」
彼女の髪を手で梳く。
「ごめんな、愛紗…」
ぽそりと出た言葉に反応するかのように、愛紗の目蓋が開く。
愛紗
「ん、…ごしゅ…じん様…?」
一刀
「あ、ゴメン、起こしちゃったな」
愛紗
「私…?」
熱は若干残っている所為か、まだ少々寝ぼけているようだ。
一刀
「この暑さと過労が祟って倒れたんだ。ビックリしたよ」
愛紗
「そうなのですか…。ご心配をおかけ致しました」
一刀
「んな事は良いから、まだちゃんと寝てな」
額のタオルの水を付け直して絞り、また額に当てる。
愛紗
「ですが、ご主人様に目を通して頂きたい案件が…」
一刀
「ちゃんと見たよ。大丈夫、今日の分は全部終わらせてあるから」
勿論、嘘だ。とてもじゃないが今日で終わる訳がない。
愛紗
「本当に?」
一刀
「勿論。…それより、愛紗」
愛紗
「え?」
一刀
「限界が来るまで、無理しちゃダメだ」
愛紗
「…別に無理をしていたつもりは―――」
一刀
「…例えどんなに戦が強くても、政務がこなせても、愛紗は人間なんだよ?」
愛紗
「…はい」
一刀
「愛紗はすっごく頼もしいし、頑張り屋さんだからな、ついつい任せっきりにしちゃう俺に大分非があるけど…」
愛紗
「そんな事は…!!」
無いと、彼女は絶対言うだろう。優しいから。
でも、俺は彼女の言葉を遮り、続ける。
一刀
「聞いて。…俺は、自分で言うのもあれだけど、政務も半人前だし、腕っ節も人並。…でも、女の子に無茶をさせる奴にはなりたくないんだ」
愛紗
「………」
一刀
「俺が頼りないのは分かる。でも、今は皆が居るんだから。一人で抱え込まないで? ね?」
愛紗
「…はい」
シュンと俯く様を見て、俺は慌てて続ける。
一刀
「あ! 誤解しないでな? これはお説教じゃない。只、愛紗は本当に良い子だから、今日みたいな事があると肝が冷えるんだ。今日の案件だって、其処までの急ぎの物じゃなかったし」
愛紗
「…はい」
一刀
「…愛紗?」
愛紗
「…(本当は、ただ構って欲しくて部屋に行ったなんて言えない…。しかし、よもや倒れるとは…!! 関雲長、一生の不覚…!!)」
一刀
「…愛紗?」
愛紗
「…(確かに、朝から怠さが有ったが、まさか風邪を引くなどとは…。ご主人様に何と情けない所を…!!)」
一刀
「…愛紗? 大丈夫か?」
愛紗
「ひゃい!? だ、大丈夫ですっ!! ご心配なくっ!!」
一刀
「?? なら、良いんだけど」
くぅ~……。
愛紗
「……!?」
一刀
「ははっ、お腹空いたか?」
愛紗
「…はい」
一刀
「待ってな。今、持って来るから」
愛紗
「そ、そんなご主人様の手を煩わせる訳には…!!」
一刀
「い~から、い~から!!」
俺は部屋を出ると、急いで厨房に向かった。
愛紗
「…はぁ」
何をやっているのか、私は。
「…ご主人様の負担を何とか軽くしようと思って張り切った結果が、これだ。…情けない」
「…いや、それは嘘では無いが、本心ではない。本当は…」
本当は、もっとご主人様と一緒に居たい。その口実が欲しかった。
それに、もっとご主人様に褒めて欲しくて、もっと振り向いて欲しいだけたった。
こんな不純な動機だと知られたら、きっと私はご主人さまに幻滅される。
「…これでは臣下失格だな…。……はぁ……」
自分の不甲斐なさに二度目の溜息を付いていると―――。
ヒュンッ!!
「……!?」
凄い勢いで何かが私の枕元に刺さった。
「誰だっ!!」
タッタッタッ………。
「ちっ……」
直ぐに足音は去って行った。
体調が万全ならば、直ぐにでも追いかけたものを…!!
悔しさを歯噛みしながら、枕元に刺さっているモノを見る。
「風車…? コレは文か? こっちは…飴?」
其処には、こう書かれていた。
『阿呆へ この機会を有効に使って、たまには主に甘えたらどうだ?』
『同時に添付した飴は、まぁ舐めてみれば分かる。良い結果を期待する。 美と正義の使者より』
「こんな回りくどいやり方をするのは、あいつ位か…。 フンッ、大きなお世話だ。…ありがとう」
私はコレをよこしたお節介な友人に感謝しつつ、掌の飴玉を口に含む。
「ふむ、変わった味の飴なのだな…。ん…?」
何だか体が暖かくなってきた気がする。私はそのまま枕に頭を沈めた―――。
一方、その頃―――。
星
「ふっ、貸し一つだぞ」
雅を愛する蝶は、一人城壁の上で月見酒を楽しんでいた。
「この橋渡し的な立ち位置…。ふっ、やはり私は正義の使者だなっ」
相変わらず、何処かすっぱ抜けている彼女だった。
コンコン。
一刀
「愛紗~ 入るぞ~」
俺は料理を載せたお盆を持ちながら、部屋に入った。
ちなみに温めのお粥と、リンゴと摩り下ろし機だ。
愛紗
「す~…す~…。むにゃむにゃ……」
一刀
「…ありゃりゃ、寝ちゃったか」
「…リンゴでも摩り下ろしてるか」
愛紗
「…うみゅ~」
一刀
「およ?」
寝ぼけてるのかな?
擂り終わったリンゴを卓の上に置き、俺は愛紗に近付く。
愛紗
「ご主人さま…」
一刀
「ん?」
どんな夢みてるのかな?
興味本位で口元まで、耳を近づけると―――。
愛紗
「抱いてください…あむっ」
一刀
「!?!? !!!! っ!! っ!! ~~~!!!」
今、起きた事をありのまま伝えるぜ…。
俺を抱きしめた愛紗が、俺の耳たぶを唇でハミハミして、抱いてくれって言ったんだ。
お前は何を言っているんだって思うだろうが、俺も自分で何を言っているかわからない。
あ、でも、何かすっごく気持ちいい…。恐ろしい物の片鱗を見たぜっ…!!
愛紗
「はみはみ」
うおっ!? そ、そんな風に噛まれたらっ…!!
一刀
「dkfjらぎうjりあdヴぁ(悶絶中)」
愛紗
「んぐんぐ」
うおっ!? そ、そんな笑顔でぇぇぇ…!!
一刀
「wくぃkじzぢうvljぎじゅrg……!! …うっ、まだまだぁ!!」
俺は昇天しそうだった意識を引き戻したっ!!
愛紗
「…うみゅ?」
平常心、俺! 煩悩退散、俺!! 落ち着け、俺!!! 冷静になれ、俺!!!!
一刀
「ほ、ほら、愛紗。ご飯持ってきたんだ。食べるか?」
愛紗
「…食べまふ」
ふぅ~…、何とか正気になったか…。
一刀
「よし、お粥とリンゴがあるぞ? どっち食べたい?」
愛紗
「ん~…ご主人さまが食べたいですぅ~」
一刀
「!? まだ寝惚けとるわー!!」
愛紗
「ん~♪」
一刀
「あっ、ちょっと、愛紗、やめっ、アッーーーーーー!!!」
その後、俺は愛紗に口移しでお粥とリンゴを食べさせる事になった。
終わったら、今までの愚痴を聞かされた。でも、彼女の本音が聞けてホッとした。
と言うか、さっきの愛紗。何処と無く酔っていたような気もしたが…。
まぁ、これで何はともあれ、一件落着だな。俺は愛紗の隣で寝る事になった。
(※作者から:ちなみに掲載出来ないような内容の事も、やっちゃったZE! そこは皆さんの豊かなご想像にお任せします)
チュンチュン…。
小鳥の囀りで、私は目を覚ました。
…昨日何となく恥ずかしい夢を観たのだが、これは私だけの秘密だ…。
愛紗
「んー!! 清々しい朝だっ!! すっかり体調も良くなったぞ!! ん?」
ふと、隣を見ると。
一刀
「…ぐ~…ぐごー」
ご主人様が居た。
愛紗
「○×△↓↑⇒□%&!?」
ま、まさかっ!? 昨日のアレはっ!!
愛紗
「ん…!?」
卓を見ると、其処には空になった皿と、何かを摩り下ろす道具が。
愛紗
「!!!!!!!!!!!」
一刀
「…ん? んん~!! あ、愛紗…!! お、おはよう…」
愛紗
「…!! お、おはようございます…」
一刀
「た、体調はどうかな…? はは…」
愛紗
「え!? え、えぇもうすっかり良く、ふふ…」
一刀
「…い、いや~それは良かった良かった!!」
愛紗
「…え、ええ!! 本当に有難うございますっ!!」
一刀&愛紗
「あ、あはははは!! ははは、はぁ……」
乾いた笑いが響き渡る。
一刀&愛紗
「………」
気まずい沈黙。ここは、やはり―――。
一刀
「…唐突だけど、今度、二人で出かけよっか」
やっぱ、こういう事は俺から言うべきだよ。
愛紗
「え? よ、宜しいのですかっ?」
一刀
「昨日の一件で、愛紗さんの本音が聞けたし」
愛紗
「…!!!」
一刀
「俺も、愛紗とたまには二人っきりで遊びに行きたいなぁって思ってたし、ね?」
愛紗
「…約束ですよ!!」
一刀
「あぁ!!」
俺は彼女と指きりをした。そして口付けを。
一刀
「あ、昨日の事、内緒にしとく?」
愛紗
「も、勿論ですっ!! もうっ、ご主人様の意地悪っ!!」
一刀
「はははっ!! 冗談冗談!!」
愛紗
「もう…! ふ、ふふっ」
うん、やっぱり愛紗は笑顔が一番可愛いな。
真夏に起きた珍事のお陰で、俺と彼女の絆はより一層深まった。
余談だが、その後皆の間で、俺の耳たぶをハミハミするのが流行った。
女の子情報網、テラヤバス…。んで、今、俺の目の前で。
愛紗
「星ー!! 貴様~!!」
星
「はーっはっはっは!!! 甘い、甘いぞ愛紗!!」
星と愛紗が追いかけっこをやっている。
まぁ、大体察しは付くが。あの事件の裏側を皆にリークした事だろう。
後にこの出来事は【夏風邪愛紗のハミハミ事件】と命名され、しばらく弄られる事となる。
愛紗
「この性悪女めー!!」
星
「はーっはっはっは♪」
一刀
「今日も平和だな~」
皆も、夏風邪には気をつけるんだぜ!!
<真・恋姫†無双~萌将伝~発売記念 恋姫†まつり!参加作品>
~真夏の絆~ <了>
~後書き~
どうも、柳瀬っす!! 見切り発車で何とか此処まで漕ぎ着けたよ!!
フリーズしてデータ保存してなかった時は泣きそうになったけど、なるようになったぜ!!
他の乙女達も書きたいけど、も少し待ってね。ネタが出てこんのよ。
今回、生まれて初めてコミケに行くんっすけど(13日の金曜日のみ)、
ワクワクが止まらないっす!! 聞くとすっごい混むらしいっすね!!
俺が行くのは当然、恋姫ブースっ!! 多分、其処に私が居る。
「あ、黒いオーラ出てる」と思ったら、多分私です。
なんてったって、『やさぐれ男』の称号をもっているのですからねっ!!
いつかは、コミケに出てみたいな。力量的に金魚の糞で付いていくのが精一杯だけど。
さて、時間だ。グダグダはここまでだ。
(近況)
萌えもん動画、現在データが吹っ飛んで、頓挫中。
魏志和人伝、ネタが出なくて、頓挫中。
一発屋的な事、天啓がくれば出来なくもない。だから、しばらく此方のサイトで頑張るつもり。
んじゃ、出来ればコメント沢山くださいね!! では、再見!!
※ちなみに俺は逆にハミハミする派。どうでもいいか。
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なにっ!? 恋姫が、夏祭りで、ドンドコドーン!?
よろしい、ならばワッショイだ。
と言う事で、毎度お馴染み、見切り発車の私が通りますよー
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