記憶奪還作戦、一人目
挑戦者 愛紗。
「私はご主人様の昔の感覚・・・・つまり、戦の空気を思い出していただこうと思います!」
自信満々に、胸を張って宣言したのは愛紗だった。手には青龍刀を持ち、一刀に向かい合っている。
「これから、私はご主人様と試合を行いたいと思います。分かりましたか?ご主人様」
「は、はい・・・わかりました・・・・あ、その前にいいですか?」
「ん?どうかされましたか?」
「はい。ちょっと死んできます」
「いっちゃらめぇぇぇ」
激しく怯えていた一刀をなだめるのに、多大な時間を費やしました。
「まったく・・・どうしてそんなことを言うのですか」
「ぼ、僕・・・痛いの嫌いだし・・・・それに・・・・傷つけるのも嫌だ・・・怖い思いするくらいなら・・・死んだほうがましです」
「うっ・・・確かに優しいのはご主人様の良いところですが・・・・でも、私たちのことも考えください!私たちは少しでも早くいつものご主人様に元に戻って頂きたいのです!」
「は、はい。心配してくださってありがとうございます・・・・」
「うっ・・・・(可愛い・・)では、少しは頑張っていただけますね?」
「う、うん。僕、頑張る」
そう言って、一刀は刀を構えた。その剣先は手の震えに同調するかのように、激しく揺れていた。
対して愛紗はいつものように構えた。
愛紗の作戦ではこうだ。
自分は気合いだけ大声をだし、いかにも本気であるかのように見せる。そして、切りかかってきたご主人様に、あえて負ける。そうすることで、本気の武将に勝てるぐらいの実力がある、と自信を持たせることが出来る。そうすることにより、多少のことでも逃げ出さなくなるだろう。そうすれば、後は後頭部に一発どかーんとすることにも、多少なりとも立ち向かえるだろう。
「それでは・・・・行きますよ!」
「は、はい!」
愛紗はすぅっと息を吸い込むと気合いを叫んだ。
「はぁぁぁぁあ!」
ビリビリと空気を振動して伝わる気合い。しかし、それを受けても一刀は勇敢にも剣を構えていた。愛紗は内心、作戦が成功したのだと喜んでいた。
しかし、
「お母さん、お父さん・・・・ごめんなさい」
「いっちゃらめぇぇぇぇ」
持っていた剣を自分の首元に添えたところで、ぎりぎりにも止めることが出来た。
だが、激しく怯えていた一刀をなだめるのに多大な時間を費やしました。
「まったく!いい加減にしてください!ご主人様!」
「だって怖いんですもん。うわぁぁん月さぁん」
「はいはい。でも、もう少し頑張ってくださらないと、いつまでたっても記憶が戻りませんよ?」
「・・・月さんは、嫌?」
「へぅ?」
「僕が月さんの傍にいること・・・・嫌?」
うるうる、と瞳を潤ませ、月を見る一刀。
普段なら、自分が一刀について回る立場である月が、今は逆。自分が一刀に必要とされている。それは、積年の夢でもあった。
「へぅ・・・私は・・・・ご主人様の傍にいたいです・・・・」
「月さん・・・・」
「ちょっとまったーーーー!」
手を重ね、お互いに見つめあう二人に、突出してくるメイドあり。眼鏡軍師のぼくっこ娘、詠だった。
「何よあんた!さっきから我慢してたけど、もう限界よ!こら!ぼくの月から離れなさい!」
「詠ちゃん・・・・駄目だよ。ご主人様は記憶を失ってるんだよ?優しくしてあげないと・・・」
「いやしかし、月よ。ずっとこのままではご主人様はいつまでたってもこのままだぞ?ならば、あえて月から引きはがすことにより、自立をさせるというのはどうだろうか?」
もっともらしいことを言いながらも、本音ではこれ以上、一刀が月と良い雰囲気になることが許せない愛紗は、努めて平常心を装いながら、そう進言してきた。
「ですが・・・・」
「月もそう思うであろう?ならば、ここは私と詠に任せて・・・・」
確かにこのままではいけないと思っている月。だけど出来ることなら、このまま傍に居たいとも思っている。どう、答えるべきか、と悩んでいると、今度はずっと黙っていた一刀が喋った。
「・・・・分かりました」
「ご主人様!?」
「いままでありがとうございます・・・僕、頑張りますから・・・・だから月さんは詠さんの元に行ってあげてください・・・」
涙目で訴える一刀に、月はもちろん、それを見ていた武将たち、そして詠も心が動かされていた。
月や武将たちは、怖いのを耐え、それでも詠の命令に従おうとする姿にきゅん・・・と胸をときめかせ、そして詠には言い表せない罪悪感が胸をしめていた。さっきの言葉の本音は、月が一刀に独占されている嫉妬と、逆に一刀が月ばっかりに頼って、同じメイドである自分に見向きもしないことに、少し悲しく思った感情であった。
「あ・・・その・・・」
「詠さん。ごめんなさい・・・・月さんほどの人を今まで一人占めしてて・・・・」
「あ・・・いや・・・」
「でも、大丈夫ですから・・・・(にっこり)」
「あ・・・あのさ、その・・・・ぼくもあんたのメイドなんだからさ・・・・・」
「??」
「月ばっかりじゃなくて、少しぐらい頼りなさいよ・・・・ばか」
「詠さん・・・・」
「す、少しだけだからね!必要以上に近づいたら容赦しないんだから!」
「詠さんって・・・・優しい人なんですね」
きらきら、と憧れにも似た目で見つめてくる一刀は、詠にとってはもやは兵器だった。
一刀は詠に近づくと、さきほどまで月にしていたように、陰に隠れるようにして抱きついた。
「!!」
「詠さん・・・・」
「あ、あぁ・・・・・・」
ぶはぁ
そしてついて、耐えきれなくなった詠は鼻血を噴き出した。その姿は、魏の鼻血軍師にも引けをとらないほど、見事な鼻血だった。
「詠ちゃぁぁん!」
「あ、あぁぁ月・・・・やっぱ私には無理よ・・・・あなたは凄いわ・・・・」
「詠ちゃん!しっかり!」
「ごめんなさい・・・やっぱ・・・・ぼくは・・・・・いつもみたいにツンツンしていたらよかったんだわ・・・・デレちゃ駄目なんだわ・・・ぼく・・・・」
「駄目だよ詠ちゃん!ツンとデレは9・1じゃないと詠ちゃんじゃないよ!全部ツンなら桂花ちゃんとかぶるよ!」
「あぁ、何か見えるわ・・・・もしかして、これが一刀の国かしら・・・・あははは。あれ?あそこにいるのは死んだはずの華雄じゃない・・・」
「そこは確かに天の国だけど、ご主人様の国じゃないよ!」
「あぁ・・・・・今、会いに行きます・・・・・」
「いっちゃらめぇぇぇ」
詠を一刀から引きはがし、詠に応急処置をするのに、多大な時間を費やしました。
ちなみに、詠が倒れてからというもの、一人で月と一刀を離すことに奮闘していた愛紗はというと。
「こら!ご主人様!いい加減に月から離れてください!!」
「うぅう・・・・怖いよぅ・・・・助けて・・・・誰か・・・・・誰か僕を助けてくれる人はいないの・・・・?」
「・・・・・・ここにいるぞ」「ここにいますわ」
そう言って名乗りを上げたのは、恋と紫苑だった。
恋にとっては、怯えて震える一刀は捨て犬と同じ。自分が守ってあげないと、という保護力により立ち上がり、そして紫苑にとっては、普段とは違い、怯えている一刀を閨に招き、ピーーーーーでピーーーーーーでピーーーーーーなことをしたあげく、「アーーー!」と悲鳴をあげさせたいと言う、さすが年増・・・ではなく、人生経験豊かな紫苑らしい、とっても卑猥な妄想の実現のため立ち上がった。
「え、ちょっと恋と紫苑!や、やめろ、近くによるな!な、なんだその卑猥な道具は・・・・あ、あ・・・・・・・いっちゃう!」
「いっちゃ・・・・・てもいいか」
おまけシリーズ
『もし、夢が叶ったら』
雛里の場合
「あわわ・・・・お料理作りました。桃香さま、愛紗さんたちも食べてください」
「ほんとー!?わーい、食べよ食べよ!」「では、頂くとするか」
「あれ?俺の分は?」
「あわわ・・・・ご主人様のはこっちのです・・・・どうぞ・・・」
「お、ありがとうな(もぐもぐ)・・・・・あれ・・・・なんだか眠くなってきた・・・・・(バタン)」
「あわわ・・・・作戦成功しちゃいました・・・・さて・・・・こっちは・・・・・」
「うわぁー、おいしいね!この料理!・・・・・あ、あれ・・・・ぐっ!」
「桃香さま!うっ・・・・・何だ・・・・息が・・・・苦しく・・・・・(バタ)」
「・・・・・・」
「・・・・・・ひ、雛里ちゃん・・・どうして・・・・・・・(バタ)」
「あわわ・・・・これで邪魔者はいなくなったですぅ・・・・」
雛里は静かに眠っている一刀に近づくと、にっこりと微笑み
「これで・・・・・二人っきりでしゅね・・・・・あわわ、かんじゃいました」
と、すでに息絶えた桃香たちとこの惨劇を知らずに寝ている一刀の中で、一人可愛らしく恥ずかしがっていた。
「はっ!・・・・・・・夢かぁ」
「あわわ・・・・・なんだ・・・・・夢・・・・だったんだ・・・・・・・・ちぇ」
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蜀√の続編です。きっと、あと3,4回ぐらいで最終回になると思います。
おまけシリーズが、意外にも好評なので、これからも続けていきたいと思います。