「それで、どうしてこうなったのかしら」
玉座の間には、魏の武将たちがいつものように並んでいた。しかし、いつもと違うところは、その中心に居る一刀だった。普段なら、凪たちと一緒に隅に並び、街の警邏のことについて報告するの
だが、今日に限っては華琳よりも目立つ位置に座っていた。
「あ、あの・・・えっと・・・・みなさんは誰なのですか?どうして僕はここにいるんでしょうか?」
いつもとは違い、弱々しい態度。いや、それ以前に発言が変だ。
「いえ・・・・それ以前に、僕は誰なんですか?」
一刀が記憶喪失になってしまった。
ことの発端は、何気ない日常から始まった。
仕事をしていた一刀は仕事の休憩に中庭に散歩に出ていた。その時、不運にも石につまずき転んでしまい、更に転んだ先には桂花が作った落とし穴があった。頭から突っ込んだ一刀は運悪く、固い地面に頭をぶつけ、そして気絶してしまった。
桂花はその光景を物陰から見ていて、一刀が落とし穴に落ちたことに大喜びだったが、いつものように起き出さないとこに不安になった桂花は、様子を見に行き、そして気絶している一刀を見つけ、急いで人を呼んだ。そして一刀は、記憶喪失になってしまった。
そして今現在、手当を終えた一刀を囲み、相談していた。
「これからどうするべきかしら・・・」
華琳はため息をついた。大陸の覇王とも呼ばれた曹操ともあろうお方がこれほど悩むのも珍しい。
「あの・・・・」
「ん?何かしら。一刀」
「僕って一刀って名前なんですか?」
「えぇ。そうよ、北郷一刀。それがあなたの名前よ。そう言えば、まだ自己紹介をしてなかったわね」
とりあえず名前が分からなければ色々と面倒だ。ということで、とりあえずお互いに自己紹介をすることとなった。
「僕を助けてくれたのって、桂花さんだったんですよね?」
「え、えぇ。そうよ。何か文句あるかしら!?」
「いえ。どうもありがとうございます」
「何言ってるのよ。私の作った落とし穴に落ちたんだから、原因は私みたいなものでしょ?もっとも?あんなに無様に落ちるとは思わなかったけどね!」
「はは、そうですね。でも、僕を助けてくれたことには変わりありません。ありがとうございます。桂花さん」
「あ、う・・・あぁもう!何よ!その顔やめなさい!爽やか過ぎて気持ち悪いわ!それに話しかけないで!妊娠したらどうするのよ!」
「あはは、桂花さんは面白い人だなぁ。話しただけで妊娠するわけないじゃないですか」
「な、何よ。それぐらい知ってるわよ!バカにしてるわけ!?」
「はい。バカにしてます」
「っ!!こっちが珍しく下手に出れば調子にのって・・・・」
「でも、そんなバカ、僕は好きですよ」
「!?」
「桂花さん?」
「何変なこと言ってるのよ!気持ち悪いし、それに話しかけないでよ!私はあんたが大っきらいなんだからね!それに私は華琳様だけのもの!あんたみたいなブ男なんてに馬に蹴られて死ねばいいのに!!」
いつもの会話。というか罵倒。いつもなら、一刀が軽く流して終わっていたはずなのだが、今の一刀はそうはいかない。
「・・・・・そうですか」
「な、何よ」
「いえ。ごめんなさい。桂花さんは本気で僕のことが嫌いなんですね。気がつかなくてごめんなさい」
「え、ち、ちょっと待ちなさいよ・・・・」
「あの、これからはもう話しかけませんから安心してください」
一刀は寂しそうに笑って、俯いた。そんな姿をみた華琳たちは、当然のように攻める視線で桂花を見た。
「な、何よ!いつものことじゃない!わざとらしく落ち込まないでよ!」
「いつも言っていたんですか・・・・そうですか・・・・はぁ」
「そうじゃなくて!いつものあんたなら、適当に話を流していたじゃない!」
「あの・・・確かに僕は記憶を失っています。でも、人から死ねって言われて気にしない人はいませんよ。もし、本当に以前の僕が軽く流していたとしても、きっと僕の内心ではとても傷ついていたと思います」
「うっ・・・」
「だから、僕はもう桂花さんには話しかけませんから、出来ればもう死ねとか言うの止めてほしいです。いいですか?」
「あ・・・その・・・」
「あ、でも僕は桂花さんのことは嫌いじゃありませんから。嫌いな相手である僕を助けてくれた恩人ですし、何かあれば僕は絶対に桂花さんを助けますから」
「あ・・・う・・・・・」
邪気のない笑顔。腹黒な桂花にはとても眩しく映り、そして自分の今までの言動に後悔の念を抱き始めていた。
(た、確かに男は嫌いよ。男なんて大っきらい!でも、一刀は華琳さまにとっても魏にとっても重要な人材・・・悔しいけど。それに、あいつは他の男よりはマシだし、それに・・・・少しは頼りになる・・・し?で、でも私は華琳さまのもの!男なんて・・・・でも・・・・)
「ああぁぁぁ!華琳さま!私は少し部屋で休ませてもらいます!」
耐えきれなくなった桂花が脱兎のごとく玉座の間から姿をけした。
「さすが隊長や。あのツンツン軍師を口説き落としよったで」
「ほんとなの。記憶を失っても種馬根性が残ってるって感じなの」
「こら、真桜、沙和。隊長の一大事に何呑気に雑談している」
と、北郷隊の三人がこそこそと話をしていると、
「ちょっといいかな」
一刀が寄ってきた。しかもいつもとは全く違う、爽やかなイケメン笑顔でだ。その姿に若干、三人は動揺しながらもいつも通りに言葉を返す。
「あの・・・・なんでしょうか。隊長」
「えっと、君が凪ちゃんだよね?そしてこっちが真桜ちゃんと沙和ちゃん」
「ちゃ、ちゃん!?」
「えっと・・・何か変かな?」
「た、隊長はいつも私たちのことは呼び捨てにしていたので・・・・」
「でも女の子を呼び捨てにするのもあれだしね。これからは「ちゃん」にするよ」
「あ、ですが・・・その・・・恥ずかしいですし・・・・な、なぁ?真桜、沙和」
と、凪が少し赤い顔で二人に振り向くと
「うわ、なんやめっちゃドキドキすんなぁ」
「うん、ちょっと嬉しいの」
と、好感触。もちろん、凪だって嬉しい。大好きな隊長に言われたのだから。でも、嬉しいと舞い上がっていても駄目だ。自分は副隊長として、しっかりしなければ。
「ところで凪ちゃん」
「は、はい!」
「警邏の仕事だけど・・・・僕もやっていたんだよね?」
「は!いつも隊長は我々と一緒に街を警護していました!」
「それなんだけどね?華琳ちゃんが言うには、しばらく仕事を休んだほうが良いって。それでさ、悪いんだけど、僕の代わりに働ける人とかいるかな?もちろん、その埋め合わせはするから」
「はっ!では我々三人が分担して仕事をします!」
「えぇ!凪、今日うちら非番やないか」
「そうなの!今日は新作のお洋服を買いにいくの!」
「こら二人とも!隊長の一大事なんだぞ!」
やる気満々な凪にたして、やはりどうしても渋る二人。それは仕方がない。いつもの一刀なら「いつか昼飯おごってやるから」とご褒美を出すのだが、この一刀は一味違う。
「いいよ。凪ちゃんありがとう。やっぱり、僕が回るよ」
「え、ですが・・・」
「だって、元を言えば僕のせいなんだし、皆に迷惑をかけれないよ。大丈夫。今は平和になって、事件も少ないって言っていたし」
「ですが・・・・」
「いいよ。ありがとうね。凪ちゃん。それに真桜ちゃん、沙和ちゃんもごめんね。いきなりそんなお願いしちゃって.」
「あぅ・・・」
「うぅ・・・」
一刀は寂しそうな笑顔を二人に向けた。その笑顔を見た時、ずき、と二人の心が痛んだ。
「さて、それじゃあ、警邏に行ってくるね」
「た、隊長!私は大丈夫なので、せめてご一緒します!」
「いいの?凪ちゃん」
「もちろんです!隊長のためなら何でもします!」
「そっか。ありがとね。凪ちゃん」
「う、うちもやる!」
「沙和もやる!だから隊長は休んでて!」
「でも・・・・」
「だから早いとこ、隊長は記憶を戻してな!」
「そうなの!早くいつもの隊長ももどってなの!じゃないと罪悪感で胸が苦しいの!」
そう言うと、沙和と真桜はまるで逃げるように街へと向かった。
「あの!」
一刀は二人の背中に向けて叫んだ。二人は少し強張りながらも、振り向く。
そして、
「ありがとね!沙和ちゃん!真桜ちゃん!」
と、笑顔で手を振った。
その姿、いと爽やかなり。普通の男がしたならば、別にどうでもないことでも、イケメンが無邪気にすることにより、女性限定で多大な攻撃力を発揮するのだ。
それは、この二人も同様で
「うぅぅおおお!なんや、すっごいやる気出てきた!」
「沙和もなの!今日はばりばり仕事やっちゃうの!」
と、さっきよりも勢いよく走って行った。
「ま、待って!私もいく!」
と、凪も遅れて向かっていった。
その光景を見ていた他の人たちは、それを静かに見ていた。だが、内心は穏やかではない。いつものような種馬一刀とは違う、無邪気で爽やかな一刀は危険だ。そう、皆が思っていた。
あのつんつん軍師の桂花を撃退し、そして元々、一刀に惚れていた三人とは言え、あそこまでの力を発揮する。それがもし、自分に向けられたら・・・・?
そう想像すると、少し楽しみであり、そして自分が一体どうなってしまうのか?そんな不安があった。
だが、それは必ずやってくる。
ごくり
華琳の喉がなった。
続く
初投稿なので、至らない部分があると思いますがよろしくお願いします。もっと、こうした方がいいよ?など、意見があれば、ぜひコメントください。あと、こうしてほしいなど、ありましたら、コメントお願いします
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初投稿です。よろしくお願いします。
ひょんなことから記憶喪失になってしまった一刀。それにより、いつもの種馬モードではなく、さわやかで誠実な一刀になってしまった。しかも口説く能力も増大中。そんな一刀に武将たちは・・・?
とりあえず、魏√です。