――何でこんなことになったんだろう。
ジントは困っていた。
だいぶ疲れがたまっていたのでそろそろ眠ろうと思ったのだが、ラフィールはなぜか自分の個室に戻ろうとしなかった。仕方がないのでひとり寝台で眠ろうとすると、ラフィールが「いっしょに眠ってもよいか」と訊く。
そのときはなにも考えず了承したのだが、実際にラフィールと同じ寝台に入るとなると、とても眠る気分にはなれなかった。
――まいったな。
不幸なことにジントは若くて健康的な男性である。それが同年代の異性と一緒の寝台にいれば、ある種の欲求と無縁ではいられない。しかも相手がこの宇宙で一、二を争うであろう美少女となれば、なおさらその欲求は強くなるというもの。
自分の不幸を呪いながら、となりで眠っているラフィールを見た。
いつもの調子からは想像もできない、あどけない少女の顔がそこにはあった。こうしていると本当に幼子のよう――もっとも、そんなことを口にすれば黙ってはいないだろうけど。
いとおしい黝の髪をなでながら、ジントはしばしのあいだラフィールの寝顔を眺めていることにした。
数時間後。
――だめだ。このままでは眠れそうにない。
時間が経てば眠れるかと思ったが、それは全くの間違いだった。時間が経てば経つほど落ちついてはいられなくなる。
ジントは起き上がると寝台に腰かけた。
ラフィールが完全に眠っているのを確認すると、太古の青少年が行なっていたのと変わらぬ方法で自分の欲求を処理しようとした。そのやり方はディレクトゥーにいたときに教えてもらっていたし、じっさいに何度かは行なったこともあったので、準備には手間取らなかった。
さすがに本人の傍らでこんなことをするのは多少はためらわれたが、このままでは気が変になってしまいそうだった。
そうして欲求を処理しようとしていると、とつぜん後ろから「どうしたのだ、ジント?」と呼ぶ声が聞こえてきた。
一瞬の緊張。
自分がしていることを悟られないように姿勢を正しながら「なんでもないよ」と答えたが、どうやら無駄だったらしい。
「ジント、それは何のつもりだ?」
ラフィールの怒気を含んだ声とともに、衣服が投げ捨てられた音が聞こえた。
「わたしはそういう対象にはならないというのか。これでも身体の手入れには気を使っているのだぞ。こちらを向いてその目で確かめるがよい」
ラフィールは有無を言わさぬ口調で叫んだ。
ジントがおそるおそるふり返ると、そこには一糸もまとわず胸を張って立つラフィールの姿が、薄明かりに浮かんでいた。
引き締まった足首からすらりと伸びる脚。柔らかそうな太ももの上には髪と同じ色をした陰毛が見える。腰は華奢で、そこから続く胸のふくらみはあまり大きくはないが、綺麗に整った形をしていた。鎖骨からのびる細い首のうえには、本来は美しいはずの顔が怒りのためにゆがめられていた。
綺麗だ――初めて見たラフィールの裸は、ジントが想像していた以上に美しかった。そう思うのと同時に心臓が高鳴るのを感じる。不意に恥ずかしくなって視線をそらした。
「う、うん、きみは充分に魅力的だよ。だから早く服を……」
「ジント」ラフィールの声には剣呑なものが含まれていた。
「ひょっとして、わたしが生体機械だから何の感情もおきないのか? ならば仕方あるまい――もうそなたと個人的に会うこともないであろ」
「違うんだよ、ラフィール」ジントは思わず叫んだ。
「そうじゃないんだ、全く逆で、その――」
ラフィールの顔をちらりとうかがう。そこには不安と怒りがないまぜになった表情が浮かんでいた。
ジントはラフィールに向きなおすと、
「きみがとなりで眠っていると気持ちが高ぶってしょうがないんだよ。なにしろずっと前から寝台をともにしたいと思っていたし、それ以上の関係になりたいと思っていたからね。でも、それがアーヴとして正常な好意か自信が持てなかったんだ」
そこまで一気に言ってからふたたび顔をそむけると、ため息をついた。
「なにしろぼくは地上人なんだから」
「ばか」みみもとでラフィールが囁いた。ジントの胸元にラフィールの手が
のびてくるのと同時に、背中に心地よい重さが加わる。
「以前にも言ったであろ、そなたもアーヴなのだと。それにこれも言ったはずだな、アーヴも胎内で受精することがあると」
「でも――」
「そう、それは一部のアーヴに過ぎない。しかしわたしがその一部でないとは言えないであろ」
ジントはゆっくりとラフィールの抱擁からときはなされた。ふり返ると、ラフィールはちょっぴり意地悪そうに口もとをほころばせた。
「それに地上的な愛しかたを知るというのも、興味深いであろ」
ジントは寝台で横たわっているラフィールの上に覆いかぶさると、まじまじと顔を見つめた。ラフィールは目を閉じていたが、薄明かりにきらめく空識覚器官は――そんなことはありえないはずなのだが、ジントを見つめているような気がする。
「どうしたのだ? なにかわたしの顔に気になるものでも見つけたのか」
ラフィールは薄く目をあけると、物言わぬジントに訊ねた。
「いいや、何も。ただ、本当にいいのかな、と思って」
「さっさとするがよい、でないと気が変わるかもしれぬ」
「ひょっとして、怖いの?」
「ばか」
ジントはそっとくちびるを重ねた。黝い髪を優しくかきあげると、帝国を統べる一族のあかしである、先のとがった耳が顔をだす。〈アブリアルの耳〉と呼ばれるその耳をかるく噛むと、ラフィールは小さく声をもらした。
舌先を首筋から胸もとにはわせ、そのまま乳頭へとたどる。形のよい乳房をゆがませるように指先に力をいれながら、舌にふれるものをつっと吸いつけた。
ぴくん、とラフィールのからだが動く。
ラフィールから発せられるあまったるい匂いとあせの味は、いままでに感じたことのない心地よさだった。
乳房への刺激をひととおり与えると、こんどは下腹部へと舌をはわせた。可愛らしいへそに軽く口づけし、そのまま脚のほうへとすすんでいく。
ジントのくちびるが脚のつけ根にふれると、ラフィールの躯はいままで以上に緊張する。そのまま舌で刺激を加え続けているとラフィールの口から声が漏れはじめた。
下のくちびるからあふれる酸味をおびた液体は、なぜだかおいしく感じられた。
最後にもっとも敏感な部位に口づけをすると、もう一度ラフィールに覆いかぶさった。
「いくよ……」ラフィールのみみもとで囁くと、ジントは自分の緊張したものをラフィールにあてがった。
ラフィールは小さくうなずくと、ジントの背中に腕をまわす。
先端をゆっくりと入れると、ラフィールの腕に力がこもった。いっしゅん躊躇したが、さらに力を加える。なにかがはじけるような感じがすると、すっぽりとラフィールの中に入った。
ラフィールのぬくもりを全身で感じると、自分の心に欠けていたなにかが満たされたような気がした。
「ラフィール……」
「ん」
「何だか――不思議な気持ちがする」
「わたしもだ」
その感覚を確かめるかのようにラフィールの抱きしめる腕に力がこもった。
ジントはラフィールの空識覚器官にそっと口づけた。
「泣いてるの?」よく見るとラフィールの瞳に涙が浮かんでいた。
「泣いてなぞおらぬ」
そういいながらラフィールは涙をぬぐった。だが、それをきっかけにラフィールの瞳からはとめどなく涙があふれだす。
「ラフィール?」
ラフィールはふたたびジントを抱きしめてその胸に顔を隠すと、嗚咽の混じった声でこたえた。
「案ずるでない。ただ――ひとつになれて、うれしかったのだ」
ジントの目が覚めると寝台にはラフィールの姿はなかった。
昨夜のことはラフィールが泣きだすまでは覚えているのだが、その後のことはよく思い出せない。
――あれは夢だったのかな。
だが体はラフィールの体温をしっかりとおぼえていたし、なにより寝台にはラフィールののこり香があった。
ジントはおのれの身に起こった幸せに驚きながら、朝の準備をはじめた。
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『星界の紋章』を読んだ直後くらいに書いたお話(の後半)です。