美しい月の光に照らされ、彼はふっと微笑んだ
それから、静かに・・・噛み締めるよう、言葉を紡いでいく
目の前にいる
自分に背を向け立っている、一人の少女にむかって
『さよなら・・・寂しがり屋の女の子』
しかし、少女は振り返らない
ただ黙って、彼に背を向けたまま・・・
それでもいい・・・彼はそう思い、また微笑む
『さよなら・・・愛していたよ、華琳』
消えていく・・・彼の体
それでも少女は振り返らない
(華琳らしい・・・)
そう思えるのも、彼が少女のことをよく知っているからだろうか
仕方ない、と納得する
伝えるべきことは伝えた
するべきことはした
(もう、悔いはない・・・)
目を瞑る
途端に、彼の視界は闇に包まれる
それと同じように・・・意識もゆっくりと、闇に落ちていくような感覚
終わりがきたのだと、彼は悟った
頭の中をよぎる・・・愛した者達の顔
苦しくも、楽しかった大切な日々の記憶
そんな中・・・
(はは、悔いがない?)
目頭が熱くなるのを・・・彼は感じた
気づいたのだ
いや、実はもっと以前に気づいていたのかもしれない
ただ、気づかないフリをしていただけだったのではと・・・彼は苦笑しながら思った
(何が、悔いはないだよ・・・)
目を開いた先
未だに愛する彼女は、自分に向かって背を向けているのだろうか?
自分のことを、見てはくれないのだろうか?
それでも自分は、仕方ないと・・・そう思えるのか?
彼は心の中呟く
(なぁ、華琳・・・聞いてくれよ
俺さ、本当は・・・)
~もっと他に・・・伝えたいことがあったんだ~
《雲の向こう、君に会いに-魏伝-》
二十四章 想いを胸に、見据える先を
「で、これは何事?」
起床時・・・開口一番に、俺が言った言葉
その言葉に、俺に覆いかぶさるように寝台にあがっている祭さんがニヤリと笑みを浮かべる
「さて、何事じゃろうなぁ?」
「いや、そのおふざけとかはいらないから・・・」
ていうか、顔が近いんだよね
こんなとこ誰かに見られたらと思うと・・・ゾッとする
だから早くどけてもらおう
そう思い、俺が祭さんに声をかけようとした時だった
「北郷よ・・・お主、何かあったのか?」
「はい?」
急に祭さんが、そんなことを聞いてきたのは・・・
「どうしたのさ、急に」
「うむ、お主の顔がな・・・」
顔?
顔がどうしたっていうんだろう?
「あの日・・・ワシと出会い、お主が改めて覚悟を決めた日
その時のお主は、ワシと同じじゃった
大切なモノのために、己を犠牲にする・・・そのような覚悟じゃ」
言いながら、祭さんはふっと微笑む
それから、俺の頭に手を置き・・・顔をさらに近づけてきた
「じゃがどうじゃ?
今のお主のその顔は、あの日から昨日までのそれと全く違う
己を犠牲にする者の顔ではない
そうじゃ、まるで・・・」
「祭さん」
話の途中
俺は彼女の唇の端にそっと手をやり、彼女の言葉を止める
そのことに、呆気にとられる祭さんをよそに・・・俺は話し始めた
「夢をね・・・見たんだ」
「夢、とな?」
「うん・・・その夢を見てさ
俺、気づいたんだ
俺が本当に決めるべき覚悟、胸の奥にある想いってやつにさ」
言いながら、俺は自身の胸に手をあてる
思い出すのは、あの夢のこと
~必要なのは・・・終幕に対する覚悟なんかじゃなかった~
そうだ、俺は間違っていた
これじゃ、ダメなんだって・・・今、やっと気づいた
「祭さん、俺に必要なのは『消える為の覚悟』なんかじゃないんだよ
そんなもの、はじめから必要なかった」
言って、俺は笑った
そんな俺を見て、祭さんも小さく笑いをこぼす
「うむ、良い顔じゃ
それでこそ、ワシが認めた男じゃ」
「はは、ありがと
それじゃぁそろそろ、そこから退いてくれない?」
「うむ、じゃが断るっ!!」
「なんでさ!?」
なんでここで、力いっぱいの否定!?
さっきまでの、あの空気はどこへいった!?
「いや、とりあえず退いてよ!
このままだと、誰かに見られたときに変な誤解されちゃうだろ!?」
「はっはっは、そんな都合よく人なんぞこんわww」
そう言いながら、豪快に笑う祭さん
それもそうなんだけど、やっぱり不安だしな・・・なんて
そう思った時には、もう既に遅かった
「一刀・・・これはいったい、どういうことなのかしら?」
「「・・・・・・・・・・・・」」
そんな都合よく・・・来ちゃいました
しかも、Gクエ級の御方が
「かかか華琳さん!?
これは、その、そう事故!!事故なんだ!!」
弾けたように、一気に覚醒する頭
ていうか、すっごい勢いでアラームが鳴っている・・・俺の中で
幸いにも(?)祭さんは赤さんの格好のままだったし、あの豪快な笑いは彼女のお耳には入っていない模様
とにかく、今は急いで誤解を解かないと・・・!
「事故・・・ねぇ?」
「待て、本当なんだ!!ね、赤さん!?」
俺は慌てて、祭さんの方を見る
祭さんは俺の視線に気づいたのか、無言で頷く
それからよよよと泣いたフリを・・・って、あれ?
なんだろ、すごく嫌な予感
「北郷様が無理やり、私を・・・」
「赤さああぁぁぁぁぁぁぁん!!!??」
祭さああぁぁぁぁぁぁぁん!!!??
何言っちゃってるの!?
何で、火に油を注ぐの!?
は、これが火計か!?
赤壁の分がこっちにきたんか!?
くそ、流石は黄蓋・・・恐ろしい人!!
「さて一刀・・・遺言はあるかしら?」
そして、そんなこと言ってる場合じゃなかった!!?
ああ、ヤバス!華琳の怒りゲージハンパないっす!
「あれ?ちょ、華琳さん!?
何で絶なんて構えていらっしゃるんでしょうか!?」
「そんなの決まってるじゃない」
「念のため、聞いてもいいかな?」
「ええ構わないわ、簡単だもの
ただちょっと躾のなってない種馬に、お仕置きをするだけよ・・・♪」
「あ、ちょっとタンマ!!マジで!!その角度はあぶな・・・」
「大丈夫、すぐに良くなるわ・・・」
良くなるってなにが!?
なんてツッコむ余裕はなかった
気づいた時は、ほら・・・ボクの目の前には、ギラリと目を光らせる覇王様が
まって、なにこのミラバ■■ン
「ちょ・・・あ・・・」
(^*^)/ちょんぱー♪
アッーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!?
~あれから春蘭に風、蜀の劉備さんと関羽さんも混ざって賑やかな時間が過ぎていったっけ
その光景の中、俺は頬が緩むのを抑えることができなかった
だってさ、考えてもみてくれよ
つい最近まで、お互いに命をかけて戦ってきた・・・敵同士だったはずの俺達が
今こうして、同じ空間・同じ時間を共に過ごし
そして、笑いあう
こんな未来、誰が想像できただろう?
こんな幸せを、誰もが夢見た幸せを・・・俺達は、この手に掴んだ
はは、すごいな皆
俺も・・・負けてられないな
そう思い見上げた空・・・ややぼやけた、だけどとても美しい青が見える
うん、今日はきっと良い天気なんだろうな
『さぁて、もう少し・・・頑張れるだろ、俺』
自分に言い聞かせ、俺は胸いっぱいに空気を吸った
たくさん迷った
恐い思いも、たくさんしてきた
だけどそれ以上に、俺は・・・幸せだった
だからこそ、俺は決めたんだ
この世界の為に、消えていこうと
この世界のため殉じる、覚悟を決めようって
けどさ、本当に必要な覚悟は・・・そこじゃなかった
俺は『火』・・・蝋燭の上、弱々しく揺れる火だ
今にも消えてしまいそうな、そんな存在だ
なら、このまま消えてしまうしかないのかって言われれば・・・それは違う
炎は、消える瞬間
最後の瞬間、一瞬だけ・・・強く、最後の輝きを放つ
『ソコ』しかない
それは本当に僅かな可能性
だけど、零じゃない
だったら、俺は・・・頑張れる
俺のためにも、そして・・・『アイツ』の為にも
『何が、皆を頼むだよ・・・馬鹿野郎』
俺は全てを、その最後の瞬間にかけることにしたんだ~
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「やっぱり、間に合わないみたいねん」
薄暗い部屋の中、酷く野太い声が響く
その声の主は全身マッチョピンクパンツこと・・・チョウセン
かr「ぶるぁああああああああああああああ!!!!!!!」・・・彼女は溜め息と共にそう呟くと、自身の目の前をジッと見つめる
そこには、古ぼけた『銅鏡』が置いてある
彼女(!?w)はその銅鏡をそっと持ち上げ、眺めて見る
「この程度の力じゃ、彼女達の願いは叶わないでしょうねん
でも・・・それを選ぶのは私じゃないわん」
そう言って、チョウセンは銅鏡を持ったまま歩き出す
その視線の先、僅かにもれる光に向かって
「選択・・・選ぶのは私じゃなくって、彼女達
ならば、私ももう向かわなくてはならないわねん」
そう言った瞬間、チョウセンの体が・・・その場から消え去ってしまった
残されたのは静寂のみ
選択の時は、彼女達のすぐ傍まで迫っていた・・・
★あとがき★
二十四話です
今回もまた短くなってしまいましたw仕事が鬼なんですww
次回も、少し短くなるでしょうね
でもその次からは、けっこう長くなるでしょう
一刀の決めた、本当の覚悟
一刀の体を蝕む、拒絶の正体
最後の瞬間に、一刀がすべきこと
アイツから、託された想い
チョウセンのスリーサイズ
迫り来る選択
残された伏線も、あとわずか・・・
それでは、またお会いしましょうw
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二十四章、公開ですw
ここからは、もう言うことはあまりありません
ただ皆様の心に、少しでも響くことを願い書き続けるのみです