No.162779

真・恋姫無双~愛雛恋華伝~ 01:新たな邂逅

makimuraさん

はじめまして。槇村と申します。



これは『真・恋姫無双』の二次創作小説(SS)です。思いついたので書いてみた。

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2010-08-02 18:37:01 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:16178   閲覧ユーザー数:13352

◆真・恋姫†無双~愛雛恋華伝~ 01

 

 

 

 

ガタゴトと、荷馬車が揺れる。

彼ら商隊の旅路も終わりが近づいていた。拠点としている町・遼西に到着するまであと少しとなっている。

ここまでこれといった問題もなく、食い詰めた賊が襲い掛かってくることもなかった。今回の道中は、驚くほど平穏に進めることが出来ている。非常に珍しく、恵まれたものだったといっていい。

おまけに出先での商談や仕入れに関しても、想像以上の結果を出すことが出来ている。ここまで順調だと却っておっかないぜ、などと口にしてしまうほどだ。それゆえに、商隊の面々の顔は一様に明るい。いいことがあれば気分が良くなる。それが続けばなおさらのことだ。

そんな彼らの道中でひとつだけ、想像しなかったことがある。生き倒れを拾ったことだ。

意識を失った女性が、4人。それぞれがかなりいい身形をしており、3人は武器を携えていた。規模の大きな商隊か、はたまた旅するお偉い面々を護衛していた輩なのか。倒れていた理由は分からない。

見て見ぬフリをしてもよかった。訳の分からないものを拾って、余計な面倒を抱え込むことは極力避けたい。そう思うのは当たり前のことだ。ましてや商人である。利に聡い彼らは殊更そういった考えを強く持っている。

とはいえ、拠点である遼西を治める太守の気風に影響されたのか、彼らもまた他人に対する情が深い。お人好しといってもいいかもしれないそれは、世知辛く乱れた世の中において枷となりかねないものだろう。それでも遼西の商人たちは、情という横糸と、損得という縦糸をもって、強かに生きている。情も損得も一緒に編み込んだ商売は長持ちするものだ。そう信じて疑わない。

そんな気質の彼らである。おまけに今の彼らは非常に気分がよかった。損得よりも情の方が、より太い糸となったのだろう。そしてなにより、彼女らを助けたいと強く願い出た青年がいた。彼はこの商隊の護衛役のひとりであり、頼りになる仲間であり、一番の世話焼きであった。

お前がそういうなら仕方がない。笑いながらすべてを任される程度に、彼は商隊の中で信用を得ていた。

そんな流れで、彼女らはその場で野垂れ死ぬことを免れた。

 

 

保護された女性たちは、その青年が御する荷馬車の中で横たわっている。

その中のひとり、黒髪の美しい女性が薄く目を開ける。

 

……身体が揺れているのはどうしてだろう。

 

目の覚めきらないまま、辺りを見回した。

 

……ここは何処だ。

 

途端に彼女の頭から眠気が消え去った。

 

ここは何処だ。

 

まるで戦場に投げ込まれたかのように、彼女の気持ちが切り替わる。久しく平穏な日々を過ごしていた彼女にとって、身のうちに張られた緊張感は久方ぶりのものだった。

意識をはっきりと取り戻した上で、改めて周囲を見る。

自分の周囲を囲む、何某かのものが入った木箱や甕。そして、日や雨を遮るためなのだろう、天幕のごとく覆われた中にいることが分かる。絶え間なく揺れていることから、荷を運ぶ荷車の中、と判断する。自分たちが横になっていてもまだ余裕があるのだから、荷を運ぶ集団としては大きなものなのだろう。

自分のすぐ隣には、その知に信頼を置く友と、その雄に一目を置く戦友が横になっている。

衣服に乱れはない。呼吸もしっかりとしているようだ。単に眠っているだけなのだろう。

そう安心してすぐ、慌てて自らの衣服を改める。これといっておかしなところはないようだ。心から安堵した。

しかし、まて。彼女は疑念を持つ。

目を覚ます前のことを思い出す。自分はいつもの通り、寝台に入り眠っていたはずだ。ひとりきりで。

 

ならば、拐かされたか。

 

そう考えて、すぐ否定する。自分がいたのは、政庁および将たちが寝起きする屋敷が立ち並ぶ一角。どこよりも警備の厚い場所だ。誰にも気づかれず誘拐など不可能に近い。ましてや自分が、なにも気づくことも出来ずにいられるとは思えない。そもそも理由が分からない。

いったいどういうことなのか。今、自分は何処に向かっているのか。

 

「……愛紗、起きた?」

 

延々と、詮ない考えに耽りそうになったところで、目の前の幌が大きく開かれた。

 

「恋」

 

彼女に声をかけた女性。普段からあまり感情を大きく表さない表情で、いつもの通り言葉少なに話しかけてくる。

愛紗と呼ばれた女性は、見知った女性の存在を得て、知らず安堵する。恋、と呼んだ彼女の、いつもと変わらぬ風が気持ちを落ちつかせてくれた。

それにしても、分からない。

なぜ自分はこんなところに居るのか。恋と、自分、そしてまだ横たわったままの友がふたり。この4人が荷馬車に揺られているのはなぜか。その経緯がまったく見えない。覚えがない。

 

「恋、私たちはいったい……」

「目が覚めましたか?」

 

恋が開いた幌の向こう側、愛紗からは隠れて見えないところから声がかかる。

 

「貴女たちは、道端で倒れていたんですよ。揃って意識のない状態で、そのまま放って置くのも気分が悪かったので保護させてもらいました。

あともう少しで遼西に着きます。事情は知りませんが、ひとまず落ち着いて、考え込むのは到着してからの方がよろしいかと」

 

こちらを気遣うような口調。柔らかい、優しげな声。

 

「私たちは遼西を拠点とする商隊です。私はその護衛役を務める者でして」

 

聞いただけで分かる。それは彼女にとって、普段から耳にする、そして誰よりも耳に心地よく響く声。なのに。

 

「名前は、北郷。北郷一刀といいます。字はありません。お好きなように呼んでください」

 

彼の言葉は、拭い難い違和感を彼女に感じさせていた。

 

「ご主人様」

 

感情を抑えようともせず、愛紗は御者台の方へと身を乗り出した。仕切りとなっている幌、そして恋の肩を掴んで、声の主が自分の求める男性なのかを確かめるべく。

ある意味、彼女の想像した通りだった。そこにいた男性は、彼女にとって、普段から傍らにいることを望み、そして誰よりも愛しさを募らせる男性。

突然顔を見せた彼女の勢いに押されたのか、驚いたような顔。そして彼女の身を案じていたためか、どこかほっとしたような空気をまとわせる。それは優しい、幾度となく彼女に向けられてきた、彼特有のもの。愛紗を気遣う彼の笑顔は、とても優しかった。

だが。

その表情は、愛しい人を見つめるものではなかった。

 

 

「えーと、起きて早々で申し訳ないんだけど、名前を教えてもらえないかな。いつまでもキミアナタじゃ話もできないし」

 

そっちの彼女は喋るの苦手みたいだし。

 

そんな彼の言葉に促され、愛紗は恋をうかがい見る。

恋の、表情そのものは変わらない。だが彼女の目には、悲しいというのか、理解できないゆえの混乱というのか、感情を表に出せない薄い膜のようなものを感じさせている。

 

「いやー、びっくりしたよ。彼女が目を覚ましたと思ったらいきなり抱きついてくるし。おまけに俺の名前知ってるし。真名を呼ばせようとするしさ」

 

俺も男だから悪い気はしないけどね。

 

ははは、と、軽く笑って見せる。

そんな風に、あえて軽く流そうとしているのだろう。理由は分からなくとも、彼は、恋や愛紗が現状に戸惑っていることを感じ取っていた。

自分が、彼女たちの知る誰かに似ているのかもしれない。彼はそれくらいの想像しかしていなかった。

だが、彼女らの戸惑いと混乱はそれどころではない。

当然といえば当然だ。自分の愛した、愛してくれたかけがえのない男性。姿形、その気性、名前まですべて同じなのに、自分たちに対して初対面のごとく言葉をかけてくるのだから。

 

「混乱しているみたいだから、無理に考えなくてもいいよ。いきなり訳の分からないところに放り出されたら、そりゃ戸惑いもする」

 

そういう彼の笑い方は、どこか苦いものを感じさせる。そのような状況に、まるで心当たりがあるかのように。

 

「とりあえず、名前だけでも教えてくれない?」

 

愛紗は、彼が口にするその言葉にいい様のない絶望感を感じた。

知っているはずなのだ。名前どころか真名も、仕える主として自らの武も捧げた。身も心もすべて捧げていた。

なのに。それなのに。目の前の青年は「名前を教えろ」という。

いったいこれはどういうことなのか。あまりに残酷、残酷に過ぎる仕打ちだ。

唇を噛み、その手に力がこもる。

そんな愛紗の手に、恋の手が重なった。

愛紗は初めて気づく。自分の指が、露になった恋の肩に食い込み、血を流させていたことに。

 

「す、すまん」

「……」

 

恋は黙って首を振る。その姿をみて、愛紗は幾ばくか、冷静さを取り戻す。愛紗よりも早く目を覚ました彼女は、一足早く、彼女なりに似たような気持ちを得ていたのかもしれない。そんなことを考え、恋の心境を思いやる。

 

自分以外を、思いやる心。彼女の知る主はそれに満ちていた。

この胸の絶望を感じているのは、自分だけではない。愛紗は遅まきながらそれに思い至る。そしてまだ目を覚まさないふたりもまた、同じような気持ちに陥ることだろう。片方は自分よりも直情的な分、どんな反応を見せるか分かったものではない。もう片方は気の細やかな分、取り乱し泣いてしまうに違いない。

ならば取り乱さないためにも、現状の把握は必須であろう。そう考え、

 

「私たちの、名前だったな」

 

少なくとも表面上は落ち着いたように、青年の言葉に応える。

 

「私は関羽。こちらの彼女は呂布という。後ろでまだ寝ているのは、鳳統、華雄だ。

 今更ではあるが、我ら四人を助けていただき、感謝する」

 

愛紗は深く頭を下げる。

他人行儀な所作をしている自分に、彼女はいいようのない不自然さを感じ、戸惑わずにはいられなかった。

 

 

・あとがき

荷馬車がでかすぎる気がします。えぇ、私もそう思います。

 

槇村です。御機嫌如何。

 

 

 

 

えー、『萌将伝』に関する一部の騒動(?)にインスパイアされまして。話をでっち上げてみた。

平たくいうと、四人は他の外史に飛ばされてしまったのさー、

なんだってー、

そりゃあ当人がいないんだからイベントなんて起きないよねー、みたいな感じ?(なぜ疑問形)

 

さて。

簡単なプロットは出来ていますが、果たしてそこまで再構築できるかどうかは一切不明。

やってみなけりゃ分からないので、やれるところまでやってみます。

よろしければお付き合いください。

 

 

 

 

100802:致命的ミスを修正。いやもう、本当にすいません。


 
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