No.162707

夏恋姫 とある種馬と浴衣美人

茶々さん

恋姫夏祭り参加作品です。

夏→祭り→浴衣→黒髪=愛紗……みたいな謎の方程式より生みだされた作品です。
恋姫キャラの中で浴衣が一番似合うのは愛紗じゃないかと勝手に妄想しつつ書きました。

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2010-08-02 13:00:49 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:4416   閲覧ユーザー数:3970

竹簡の上を走っていた筆を止めて、月が差し入れてくれた茶を啜りながら、久々に政務を手伝う為に来てくれた愛紗を見て、ふと思う。

 

 

「愛紗ってさ、浴衣とか似合いそうだよな」

「……何なのですか、唐突に」

 

 

俺と同じ様に茶を啜っていた愛紗はそういって、白磁の湯呑みを机の片隅に置いた。

 

 

「いや、最近暑いだろ?」

「時期的に考えれば、それは当然かと思われますが?」

「で、だ。俺のいた世界ではこういった時期に欠かせないのが『お祭り』で……」

「政務をサボる算段でしたら、朱里と雛里に追加の仕事を持って来させますが?」

「まぁ聞きなさいって」

 

 

ジト目で睨む愛紗を手で制し、

 

 

「そのお祭りで女の子が着る装束に『浴衣』ってのがあるんだ」

「はあ……?」

「アレはいいぞぉ。正に夏の風物詩って奴だ」

 

 

腕を組みながら、俺は断じる。

 

以前愛紗と桃香が着ていた――丈が短く太ももが輝き、たわわな果実が今にもはち切れんばかりに押し出されていた――チャイナドレスも大変色っぽく俺としては表彰モノなのだが、浴衣もまた風流で良いモノだ。

 

特に愛紗は長くて艶やかな黒髪だから、絶対に似合うと断言できる。

 

 

「それでモノは相談なんだが……今度夏祭りに行かないか?あ、服は勿論浴衣で」

「は、はぁっ!?」

「な?頼むっ!」

 

 

両手を合わせ、拝む様にして頭を下げる。

 

 

「で、ですがまた政務が……っ!」

「お願いっ!一生の頼みっ!!後生だからっ!!」

「で、ですからっ!!」

「―――話は聞かせて貰いましたぞ?主」

 

 

ガタガタ、と何処からともなく音が鳴る。

 

 

「その声は……星!?」

「如何にも」

 

 

瞬間、天井の一角に正方形の穴が開き、そこから逆さまの星が顔を出した。

 

 

「ってうぉいっ!?何処から出てきてるんだよお前は!?」

「うむ、何時も扉から登場するのでは面白くないと考えましてな。たまには趣向を凝らして此方から出てみるのも一興かと思ったのですが……」

 

 

そこで区切って、軽い身のこなしで一回転して綺麗に着地。

 

 

 

 

…………一瞬、紫色の何かが見えたのは気のせいだろうか。

 

 

「おや?流石は主、目ざといですな」

「……もしかして、声に出してた?」

「いえいえ。主の情欲にぎらついた目を見れば、容易く察せましょう」

「そ、そこまで露骨には見てないぞっ!?」

 

 

……多分。

 

              

 

「では、主で遊ぶのもこの辺りにして……」

「ちょっと待て!遊ばれてたのか俺っ!?」

「おや?もしや気づいておられなかったのですか?……何と、此方でも鈍感であられたか」

「俺結構馬鹿にされてないか!?つか、こっちでも鈍感って何!?」

「せ、星!幾らご主人様でも、傷つく事だってあるのだぞ!?少しは自重しろ!!」

「何を言う。そうして狼狽する姿を見るのが楽しいから言っているのだぞ?」

「余計性質が悪い!?つうか愛紗さん?貴方の言葉も結構グサリと来たんですけど!?」

「もっ!?申し訳ありません!!」

「何と……主は閨以外でも女子を泣かせるのが趣味でしたか。流石の私も、これは少々…………」

「うぉいっ!!何か色々誤解を招く様な事を言わないでくれますっ!?」

「しかしこの超子龍、主のお望みとあらば如何な『ぷれい』にも耐えてみせましょう」

「なっ!?ご、ご主人様!!星に一体ナニをしておられるのですかっ!?」

「だーかーらーっ!!星は誤解を招く様な言い回しはやめてっ!!愛紗も何処から青龍偃月刀を持ち出したのっ!?危ないから仕舞いなさい!!」

 

 

ギラリと、日の光を浴びて燦然と輝く偃月刀に何故か俺の狼狽した姿が映る。

 

 

「ご主人様!!」

「ふふ……あ・る・じ・ぃ?」

 

 

星は俺の胸を指でツンツンしないっ!!

愛紗もさっさとそれを……あーもうっ!!

 

 

「不幸だぁーーーっ!!!」

 

 

 

 

 

 

「へぇ……それでしたら、祭りまでには仕上がりますよ」

「マジで!?ありがとうおっちゃん!!」

 

 

昼時になり、昼食のついでに街へと繰り出した俺は、愛紗と星の二人を連れだって何時だかの仕立屋へと赴いていた。

要件は勿論、浴衣の事である。

 

 

「いえいえ。御遣い様にはいつも御贔屓にして頂いてますし、これくらいは……」

「いやいや!ホントにサンキュ……ああいや、マジでありがとう!!」

 

 

店主の快諾に、思わずその手を握ってブンブン上下に振る。

 

 

「……なぁ星。何故主はあんなにも喜ばれておられるのだ?」

「ふふっ。大方、『ゆかた』とやらを着たお主が乱れる姿を妄想して、情欲が滾っておられるのだろうよ」

「な、なぁっ!?」

 

 

……後ろで響いた不穏な金属音はあえて無視して、俺はひたすらに店主の手をブンブン振り続けた。

 

            

 

で、あっという間に夏祭り前日。

 

 

「うぉぅ…………」

 

 

仕立屋から届いた浴衣を早速愛紗に着て貰おうとして、よく考えてみたら「愛紗って着つけとか分かるのか?」と今更な疑問が浮かび、聞いてみたら案の定「出来ません」と返ってきたので俺が着せる運びとなった。

勿論、少しもやましい下心がないといえばそれは全くの嘘だが今回に限ってはそれが全てではない。

 

が、それを告げた瞬間の愛紗は顔を真っ赤にして偃月刀を振り回し、あわや浴衣か俺かのいずれかが斬れてしまうのではないかと思える程のうろたえっぷりだった。

 

そこに都合よく、本当は何処かで覗いていたんじゃないかと思えるぐらいに本当に都合よく現れた紫苑に身振り手振りで説明すると、「着方を覚えるだけなら服の上から着せればいいのでは?」という一声により落ち着きを取り戻した愛紗に普段着の上から着方を教え、今は愛紗が紫苑に手伝って貰いながら着替えを終えた所だ。

 

 

「そ、その……如何ですか?ご主人様」

 

 

と、おずおずと問いかけてくる愛紗に一部どころか全身の血が沸騰しそうになるのを覚えた。

 

艶やかな黒髪をストレートに下ろし、細部に赤と黄できめ細やかな刺繍が施された緑地の布。紺色の帯には金糸で彩りが添えられ、普段と違った妙なお淑やかさが何とも形容し難い美しさを醸している。

しかもそのどれもが自己主張の激しい訳ではなくキッチリと調和されていながら、それぞれが確かな存在感を示しているのだから堪らない。

 

完璧完全。もうこれ以上はあるまいというくらいに整った大和撫子であり、完全無欠の和服美人ならぬ浴衣美人がそこに居た。

 

 

「………………」

 

 

口をあんぐり開けながらガン見している俺の視線が恥ずかしかったのか、普段着なれない服が気恥ずかしいのか、いずれにしても愛紗は頬を朱に染めて俯き、おずおずとした動作で豊かな胸の前に手を持って行き、もじもじとした非常に可愛らしい仕草を見せる。

 

ヤバイなんてもんじゃない。これはかなりヤヴァイ。

 

もし愛紗の少し後ろの方で「私も着てみたかったわぁ」とぼやく紫苑の姿がなかったらまず間違いなく、俺は崩壊した理性のままに愛紗に飛びかかっていただろう。

 

星の茶化しが現実化しそうになるのをギリギリ踏み留め、咳払いを一つ。

 

 

「あー、えっと……その、め、滅茶苦茶綺麗だよ。マジで似合ってる」

 

 

顔が妙に熱くなるのを感じながらそう言うと、愛紗は一瞬驚いた様に目を見開いて、今度は耳まで真っ赤にしながら俯いてしまう。

 

別段恥ずかしい事を言ったつもりではなかったのだが、何故だか俺までそれに釣られて赤くなっていくのを感じた。

 

 

「ほぅ?確かにこれは相当な破壊力ですなぁ、主」

「うぉっ!?せ、星!」

「如何にも」

 

 

妙に得意げな笑みを湛えた星の顔が直ぐ傍にあり、慌てて二、三歩後ずさる。

それに合わせて見えてきた星の装束を見て、今度は別の意味で驚いた。

 

 

「おぉ……」

「ふふっ、如何ですかな主?お気に召して頂けたかな?」

 

 

なんて、茶化した様に言う星の言葉に、しかし反論を言う気にはなれなかった。

 

蝶をモチーフにした金と青の刺繍が白地の布に為され、帯は黒の下地にこれまた金糸の蝶。髪型こそ普段通りだがそれも実に似合っていて、こちらも道行く男が振りかえる事請け合いな美女である。

 

 

「ああ。凄い綺麗だよ、星」

「……愛紗の時とは随分感情の入れ込みが違う様ですが、まあ良しとしましょう」

 

 

若干不服そうな面持ちを見せながら何かを呟いた星は、しかし次の瞬間には流れる様な動作で俺の腕を取り、存在感のある膨らみを押し当ててきた。

 

 

「ちょ、せ、星!?」

「ふふ。明日が愉しみですなぁ?あ・る・じ・?」

 

 

そう言って笑った星の笑顔は、普段の悪戯めいたモノとは違う、子供の様に清純な笑みそのものだった。

 

              

 

祭りとは、普通とは違う雰囲気に街が染まるモノだ。

それに合わせるかの様に人の――特に子供の――テンションは異様に上がり、それに釣られて大人の財布の紐もついつい緩くなってしまう。

 

そう…………

 

 

「おおっ!?このお菓子はとっても美味しいのだっ!!」

「ホント!?璃々も食べる!!璃々も食べる!!」

「蒲公英ッ!!次行くぞ、次!!」

「待ってってば、姉様~!」

「……ねね、次のお店」

「恋殿流石ですっ!!五つ目の露店を食べつくしてもまだ食べますかっ!!」

 

 

今、目の前で滅茶苦茶はしゃいでいる彼女達のテンションの上がり様も、仕方ないと割り切るべきなのだろう。

 

 

「ご、ご主人様?大丈夫ですか?何だか顔色がどんどん白くなっておりますが……」

「アハハ……大丈夫だよ愛紗。もう諦めたから」

 

 

祭りに来る前は少しばかり見栄を張ろうと意気込んでずっしりと重かった筈の懐は、今となってはそよ風でもあっさり吹き飛んでしまいそうなくらいに軽くなってしまった。

 

その九割以上を鈴々と恋の食費に費やしているのだから、当然と言ってしまえばそれまでなのだが。

 

 

「で、ですが……やはり鈴々だけでも自重する様に言いつけておいた方が」

「愛紗ーっ!!この『わたあめ』はとっても美味しいのだっ!!」

 

 

言ってる傍から、鈴々が新たな菓子片手に飛んできた。

 

 

「り~ん~り~ん~っ!!」

「うにゃっ?何で怒ってるのだ?折角のお祭りなんだから、楽しまなきゃ損なのだっ!」

 

 

言って、再び鈴々は凄いスピードで駆け抜けて行く。

怒りの矛先を失った愛紗は酷く憮然とした面持ちを浮かべて、ため息を一つ洩らした。

 

 

「ハァ……全く」

「ハハ、まあいいじゃないか。鈴々の言う事にも一理あるし」

「ですが……ッ!」

 

 

まだ何か言いたげだった愛紗の口元に指を一本押し当てて、少し強引に黙らせた。

 

 

「鈴々の言う様に折角のお祭りなんだし、それに……そんな怒ってばっかりだと、折角の美人が台無しだろ?」

「なっ!?か、からかうのも大概にして下さい!!」

 

 

そう言って、顔を真っ赤にして怒鳴る愛紗が妙に可愛らしい。

 

 

「からかってなんかいないって。愛紗は綺麗だよ、とっても」

「あ、ぁぅ……」

 

 

耳まで真っ赤にして俯く愛紗の頭に手を置いて、ポンポンと軽く撫でた。

 

普段の気迫なら……武人としての『関羽』だったら、きっと「子供扱いしないで下さいっ!!」とか言って怒りそうだけど。

 

 

 

 

 

「愛紗」

 

 

今、俺の目の前に居るのは紛れもない一人の女の子の『愛紗』で。

俺が愛して、愛されている女の子で。

 

 

「……愛してる」

 

 

だから。

 

普段なら絶対に面と向かって言えないであろうこの言葉が出たのも。

普段なら絶対にしない筈の有無も言わせない強引なキスも。

 

きっと、この祭りのせいなんだと。

 

うっすらと開く視界の中で、顔を真っ赤にしながら、けれど、何処か嬉しそうな表情を浮かべる彼女を見て、それ以上を求めたくなってしまったのも。

 

きっと、この祭りのせいなんだと。

 

一人、そう結論付けた。

 

               

 

おまけ

 

 

「はぁ…………」

「桃香様、手が止まっていますよ」

「だってぇ……今頃ご主人様とか愛紗ちゃんとかはお祭りを楽しんでいるのに、どうして私達は政務をしなくちゃいけないの~!?」

「ジャンケンで負けたから、です……」

 

 

堆く積まれた書類の山を見て嘆く桃香と、諦めた様に書類を物凄い速度で片付けて行く朱里、そしてそれを見て達観しきった様に呟く雛里ら『第一回!ご主人様と一緒にお祭りに行くのは誰だっ!?ジャンケン大会!!』で敗北した者達は、執務室で(書類と)激しい戦いを繰り広げていた。

 

 

「あーもうっ!!どうしてあそこでグーを出したのボクはーっ!?」

「へぅ……まさかあそこで恋ちゃんがチョキを出してくるなんて……」

「ええいっ!!何故に焰耶も紫苑も遊び呆けておるというのに、儂はこの様な事をせねばならぬのだっ!?」

 

 

詠、月、桔梗といった面々も散々に愚痴を零しながら、しかし目の前の現実から逃げる事も出来ず、

 

 

「あ~ん!!不幸だよ~~~っ!!!」

 

 

そんな、漢中王の叫びが木霊した祭りの夜だった。

 


 
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