真・恋姫†無双異聞
第零話 One more time,One more chance
「ご主人様、起きて下さい」
耳元で、優しい声が囁く。
「今日は会議が重なってて忙しいって言ってたの、あんたじゃない!」
自身に満ちた、快活なもう一つの声が、怒った様に言う。
あぁ、そうだった。みんなが待ってるんだもんな、早く起きなきゃ・・・。
第一章
幸せなまどろみから目覚めると、いつもの天井があった。
照明と一体型の扇風機が、何とも申し訳なさげにノロノロと蒸し暑い空気をかき回している。
労働条件の改善を求めてストライキを決行中のクーラーに見切りをつけて開け放っておいた窓からは、東京の朝の喧騒と排気ガスの臭いが大挙して押し寄せ、北郷一刀の部屋を蹂躙していた。
「う・・・、ん」
一刀は、床よりはなんぼかマシだという程度の寝心地のパイプベットから起き上がると、サイドテーブルの定位置に置いておいたマールボロのパックから一本を抜き出して火をつけ、深々と吸い込んだ。
『ありがとう、月、詠』
声には出さず、この世界には存在しない、愛おしい二人の少女に礼を言った。
十三年前ならば、恨みにすら思った、夢。
しかし今は、全てを賭けて愛した人々の声を聞ける、唯一の時。
煙草を揉み消すと、すっかり汗で濡れてしまったTシャツを脱ぎながら、一刀は靄のかかったままの頭で考える。
皆の夢を見て、悲しみよりも喜びを覚えるようになったのは、いつ頃からだったろうか。
そう、十三年前のあの日から数えて、どれ程の時間が流れた頃だっただろう、と。
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萌将伝での蜀の扱いがあまりに不憫だったので。蜀をベースに書いていこうと思います。