時は後漢時代。
後に三国志として後世に語り継がれる物語になる時代。そんな時代に彼女たちはいた。
その広い大陸、後に中国と呼ばれる国になるのだが・・・。
その広大な領土の中でも、知らぬ者はいないとされる者達がいた。
東の孫策
西の厳顔
南の黄蓋
北の張遼
央の黄忠
彼女らは見目麗しい容姿の美女達であったのだが。
彼女らを見た人達は揃って恐れおののいた。
一体何故?
彼女らはその容姿とは裏腹に凶暴で街中で暴れたりするのだろうか?
否
では、その容姿で男を誑かし金品を巻き上げているのだろうか?
否
では、彼女達は街の権力者でその権力を使い好き放題やっているのだろうか?
否である。
では、一体何故・・・?
それを、示したこんな言葉がある。
潰した店は数知れず・・・。
潰された人も数知れず・・・。
だが、いまだに底を見せず。
彼女たちはただただ酒を飲む・・・と。
つまり、彼女達は酒豪なのである。
その容姿に惹かれて、酒に酔い潰して好きにしようとする輩が現れても、逆に潰され。
酒屋にある酒は全て飲み干され、作っても作っても飲み干されてしまい供給が追いつかず職人が倒れ店が潰れ。それでも、人々の中で彼女達の満足した姿を見た者はいないのだ。
それからというもの、彼女たちが現れた途端に店を閉めるようになった。
「あらあら。またなの?」
「ここもか・・・ちと派手にやりすぎたかの?」
「ふん。情けない奴らじゃのぅ。わしらの内誰一人とて満足させることができんとは」
「本当よねー。ああ、お酒が飲みたい!」
「しゃーないな、別んとこいこか」
さらに彼女達はそれぞれ対立するどころか仲が良い始末。これで酒を巡って争ってくれればいいのだが、彼女達は争うどころか、結託してやってくるのである。これにより、彼女達の撃墜数がまた一つ増えていくであった。
「いったか?」
「み、みたいだな・・・」
「助かった~・・・」
「ああ、あの姿を見たときどうなることかと思ったよ」
「全くだ。さあ、開店しようか」
「ああ、そうだ・・・」
彼女らが去っていったのを確認しているのは、居酒屋を経営している男である。仲間から経緯を聞いていた彼らは彼女達を認識した瞬間に店を閉めたのであった。それによって、彼女達をやり過ごすことが出来た。これで安心して店を開けると笑顔を浮かべ、開店させた瞬間、店員は固まった。
「「「「「にっこり」」」」」
店の入り口にさきほど去っていったはずの彼女達の姿があったのだから。それぞれ満面の笑みを浮かべて待っている。店を開店させてしまった今。彼らに逃げる道はなかった。
「っさぁ、酒もってこーい」
「私も私も~♪」
「おかわりをお願いしますわ」
「わしもじゃ!」
「当然、わしにもな!」
こうして、今日。また一軒の店が潰されてしまうのであった。
人々は願った。助けて下さいと。
ある者は、このままではお酒が飲めなくなってしまうと・・・。
ある者は、このままでは居酒屋が経営できなくなると・・・。
人々は願った。彼女達をとめられるものはいないかと。
ここにいるぞー!!
その人々の願いが叶ったのか。とある人物が予言した。
一筋の流星、天から墜ちる時。天の御遣いが現れ、街に活気を取り戻すであろう、と。普段なら誰もエセ占いだと言って信じなかったであろう。しかし、それを信じてしまうほど、彼らは追い詰められていた。特に酒家は。
そして、その時は訪れる。
「あっ!流星だ!!」
数日後、ふと空を見ると一筋の流星が落ちていく光景が目に入る。人々は祈った。天の御遣い様、どうか私達をお助け下さいと。やがてその件の流星は森の向こうへと落ちて、どこに落ちたのかわからなくなってしまう。その後、天の御遣いが現れたという話を聞くことはなく、彼らは生き残る為に必死だった為。いつしか忘れ去られてしまうのであった。
その流星が落ちた数刻後に。
「あっ、流流!人が倒れてるよ」
「た、大変。家に連れてって介抱しなくちゃ!?季衣、運んでくれない?」
「わかった」
二人の少女によって無事に保護された一人の少年がいた。実は彼こそが天の御遣いなのだが、誰にも知られることはなかったのだった。
「流流~!焼飯と卵汁、二つ!」
「了解!あっ、兄様。お客さんが来たみたいなので対応お願いします」
「わかった」
二人の少女によって保護された少年はそのまま、彼女達が開いている店を手伝うことになった。少年はこの世界の常識も知らず、お金も持っていなかった自分を助けてくれた二人に大変感謝しているのである。一方、少女達も実の兄のように優しく接してくれる少年を好ましく思っている。彼らは数日間ですっかり仲良くなっていたのである。
そんな平和な生活を送っていた三人の店に、ついに奴らが現れてしまう。そう、五方位の酒豪達である。
「今日はここにしよか~」
「そうね、最近は私達の立ち入りを禁止している店が多いし」
「策を弄して、入店させない店もあるしね~」
「失礼な奴らじゃのぅ。わしらはただ酒を飲んでいるだけというのに」
「全くだ」
五人はそれぞれ、愚痴を零しながら入店する。明らかにそのただ酒を飲むという行為が問題なのだが、彼女らに反省の色は見られない。
「いらっしゃいませ~」
そうとは知らない少年、北郷一刀は彼女達を笑顔で席に案内してしまうのである。事情を知る一刀を助けた少女達、流流、季衣は彼女達の姿を見た瞬間に固まってしまった。
「ど、どどどどうしよ~!ついにきちゃったよ!流流!!」
「わわわ、どうしよう!私達の店も潰されちゃうのかな!?」
しかし、後の祭りである。すでに入店してしまった彼女達を追い払うなど出来ない。流流は覚悟を決めるしかなかった。それから数刻後・・・・。
「流流~、もうお酒が樽半分を切ったよ~」
「季衣・・・・もう、店は駄目かも知れないね・・・」
酒を飲み続ける五人を前に二人は店の最後が来たと諦めの心境であった。そんな中、買出しに出かけていた一刀が帰ってくる。
「どうしたの?二人とも」
「兄ちゃ~ん」
「兄様~」
二人から事情を聞いた一刀は苦笑を一つ、後ろを振り返りある人物を招き入れる。
「後は任せて。大丈夫、流流達の店は潰させないから」
と二人の頭を撫でると招き入れた人物と一緒に五人の下へと向かうのであった。その背中は戦場に向かう戦士だった。と後に流流達は語ったとか語ってないとか。
「お客様、そろそろお酒は控えたほうがよろしいかと。お体にさわりますよ?」
「大丈夫、大丈夫~♪私達はお酒に強いのよ~」
「そうそう、心配無用じゃて」
相手を刺激しないように丁寧に諌めるも、酒に酔っている彼女らには効果はない。飲むのをやめようとしない彼女らにため息を一つ、諦めずに諌め続けてみた。
「お客様、ここでお酒を飲んでいてよろしいので?家族の方が心配なされるのでは?」
「大丈夫ですわ~、ちゃんと寝かしつけてきましたから~」
「わしは独り身じゃから平気じゃ」
「うちもやで~」
「私も大丈夫~」
「こんないい気分に水を差すでないわ!」
全くの効果なし。その上、そろそろ矛先が向いてきそうな雰囲気になってきた。一刀は最終手段に出ることにしたのであった。
「だ、そうですよ。冥琳」
「すまないな。一刀。この侘びは後日必ずする」
「「ビクッ!!」」
冥琳と呼ばれたメガネをかけたグラマー美人に明らかに反応した二人がいた。冥琳はその二人に絶対零度の視線を向けて言葉を発する。
「おやおや、仕事を溜めに溜めているお二人ではありませんか。何をやっているかと思えば酒宴ですか・・・あなた達のおかげでこちらに苦情が耐えないのだけれどね」
絶対零度の視線と言葉の棘で孫策と黄蓋に精神的圧力をかけていく冥琳。二人は冷や汗をかきながら、乾いた笑いを浮かべて言い訳を始めた。
「き、気分転換よ。気分転換。ほら、続けてやっても集中力が続かなくて効率が悪いでしょ?」
「そ、そうそう。気分転換じゃて」
いい言い訳だと思ったのだろうが、その言い訳が冥琳の怒りの炎にさらに油を注いでしまうのであった。
「それは普段から真面目に働いている人の台詞だ。今日という今日は許しません。さぁ、いきますよ。二人とも」
「痛い痛い・・・耳を引っ張らないで~」
「こ、こら。年寄りをいたわらんか!?」
「知りません。反省なさい!」
「「お酒~・・・」」
こうして、二人は冥琳に連行されていってしまったのである。実は冥琳。この店を頻繁に利用している。その過程で一刀や流流、季衣と仲良くなっていたりする。それもあって、店の危機に黙っていられなかったのである。
「あらら・・・孫策さん達がいなくなってしまったわね~」
「仕方ないの、わしらだけで飲も・・・「おかあさん」璃々?」
二人が抜けてしまったのだが、それでも残った面子で飲み続けようとした彼女らの前に一刀と手を繋いで眠いのだろう、目をこすりながら母を呼ぶ幼女の姿。彼女こそ、黄忠の一人娘、璃々である。買出しの最中に、母がいないと泣いていた彼女を一刀があやして連れてきたのである。店にはいろんな人が来るので璃々の母親の情報も手に入るかもしれないと考えて。いざ、店に帰ってみればその件の人が底なしに酒を飲んでいたのだが。
「な、なんで璃々がここにいるの?」
「だって、めがさめたらだれもいなかったからさみしくて・・・ないてたら、かずとおにいちゃんがいっしょにさがしてくれるっていってつれてきてくれたの」
「そうだったの・・・ご迷惑をおかけしました」
「いえ、璃々ちゃんはとてもいい子でしたので。迷惑なんて思ってませんよ。それよりも璃々ちゃんが眠そうですし、今日のところは帰られたほうがよろしいのでは?」
「そうですね・・・そうします」
「ききょうさんもかえろう?」
「むぅ~・・・仕方ないの。今日のところは帰るとしよう」
璃々に頼まれてはこのまま飲み続けるわけにもいかず、厳顔も帰宅することになる。
こうして、厳顔と黄忠は帰宅し残ったのは張遼ただ一人となった。その張遼も。
「なんや、みんなかえってしもたんか。なんや、気が削がれてもうた。仕方ないな。うちも帰るか~」
みんなが帰宅してしまったことで、張遼の気分も乗らなくなったようですぐに帰宅したのである。これにて、流流の店は守られたのであった。
この日を境に、流流の店は五方位を撃退した店として有名になるのである。さらに件の五方位もこの日を境に、日に日に酒の量が減り店が潰れることがなくなったのだ。これには人知れず、天の御遣いが彼女らを変えた結果なのだが、その事実は闇の中へと葬られ現在も知る者は少ないのである。
「って、ことがあったのよ」
「へぇ・・・お父さんすごいんだね」
「だれもしらないのはかわいそう・・・」
「おさけってそんなにおいしいものなのかのぅ。ぜひとものんでみたいものじゃ」
「うちもうちも!」
「ははさまたちをあいてにすごいのぅ」
寝ている我が子を撫でながら昔話を聞かせるのは冥琳だ。柔らかな笑みを浮かべて昔を懐かしむように語っている。それを興味深く聞いているのは六人の子供達。それぞれ、天の御遣いと五方位の酒豪達との間に出来た子供なのである。そんな子供達を前に冥琳は。
「(ただ、酒に酔っていたのが変わって、恋に溺れただけなんだがな・・・)」
そんなこと、子供達には言えなかった。真実は時として残酷であり、知らなくていいことが世の中にはあるのである。
その中で唯一、話の登場人物として出てきた黄忠の娘、璃々は当時は理解できなかった事実を知って恥ずかしそうに小さくなっていた。
「お母さん。そんなことやってたの・・・恥ずかしいよ」
あれから彼女も成長して、母親のやっていたことが理解できる年になっていたのである。
「みんな、ここにいたのか。そろそろ出発するから準備して」
「「「「「は~い」」」」」
「冥琳。雪蓮が呼んでたよ」
「わかりました。今、いきます」
「璃々も。いくよ~」
「あっ、待ってお父さん。・・・えへへ」
呼びに来たのは子供達の父親、北郷一刀であった。彼らは現在、欧州と貿易を行うキャラバンの一員であり、目的地に向かう途中で休憩を取っている最中であったのだ。一刀の言葉に子供達は元気に駆けていき、冥琳は我が子を起こさないようにゆっくりと、璃々は一刀の手を握ると笑顔を浮かべて一緒に歩き出す。
「隊長。確認とってきたで~」
「積荷も大丈夫なの~」
「いつでも、出発できます」
「そうか。それじゃ、北郷貿易隊、出発!」
「「「「「「「「「「「おー!!」」」」」」」」」」」
こうして、一刀率いるキャラバンは今日も欧州に向かって出発したのであった。
各人エピソード
~祭編~
「全く、あやつめ・・・わしの楽しみを邪魔しおって」
彼女は一人、街を歩く。今まで、溜まっていた仕事を処理させられていたのだ。それがようやく終わったために街に出てきていたのである。酒を求めて。その間に出てくるのは冥琳への愚痴ばかりなのはご愛嬌。そんなになるまで仕事を溜めるのがいけないとは言っても無駄なのである。
「さぁて、今日はどこに・・・おや?」
本日の獲物を探して街を歩いていた祭の目に、無心で木刀を振っている一刀の姿が目に入ったのだ。祭は彼とは面識がないが、彼のことは覚えていた。最も、楽しい酒飲みの一時に冥琳を連れてきた小僧だという、かなりひどい記憶だが。それでも、真面目に木刀を振っている姿には感心するものがあった。
「ふむ・・・甘いところはあるが筋はいいかもしれん。わしに言わせるとちと綺麗過ぎるが」
だからだろうか、少し世話を焼いてみたくなったのは。
「そこの小童。もっと脇を締めるんじゃ」
「え?あ?この前の」
一刀も祭に気付いて挨拶をする。随分振っていたのだろうか、汗が目立つ。武人である祭はそれを気にすることなく話かけた。
「精がでるのぅ。いつもやっとるのか?」
「はい。大抵はここで素振りだけですけど」
「兵にでも志願するつもりか?」
「いえ、俺はあの店で働く前に賊に襲われたことがあって。そこで助けてくれたのがあの店で働いてた子でした。あの子達に迷惑をかけないように自衛出来るくらいにはしたかったんですよ」
一刀の言葉を聞いて祭はなんの気まぐれか。
「なんだったら、わしが稽古をつけてやってもいいぞ」
こんなことを言った。
「え?あなたがですか?」
「なんじゃ?こんな老骨に師事されることが不満か?」
「いえ、綺麗な方だなぁと思っていたので、まさか武に精通しているとは思ってなかったので」
「口が上手いのぅ。こうみえてわしは将をしておっての。それなりに武の心得は持っているぞ」
綺麗といわれて少し照れながらのたまう。その言葉を聞いて一刀もお言葉に甘えてと、稽古をつけてもらうよう頼むのであった。
稽古を始めて数週間後。
「祭~。もっと飲みましょ~よ~」
いつものように雪蓮と呑んでいた祭。が、いつもならまだ飲み続けている祭が最近では。
「そろそろ帰ろうと思いましてな」
と、帰宅するようになった。その理由を雪蓮は知っていた。
「え~。最近付き合いが悪いわよ、祭。」
「申し訳ない。ちと用事があっての」
「一刀でしょ?」
「おや?知っておられたか。最近、あやつにけ「そんなに一刀と逢引したかったなんてね~。祭も乙女になったもんだわ」さ、策殿!?」
からかうように言う雪蓮。若干、嫉妬もまじっていたような気もするが。祭は照れ隠しでついつい声を荒げてしまうのである。
「誤解しないで頂きたい。わしはあやつに稽古をつけてやってるだけじゃ!!全く・・・老骨をからかうものではないぞ」
最後のほうでは冷静さを取り戻し、声を潜めて言うと店を出て行った祭。そんな祭の背中に雪蓮は呟く。
「顔が恋する乙女なのに・・・自覚してないのね」
と。
~雪蓮編~
「冥琳。冥~琳~?いないの~?」
「あっ、孫策様。周喩様でしたら、昼食を食べに街へでましたよ」
「そうなの?ありがと」
冥琳の言いつけで午前中は書類仕事にかかりきりだった雪蓮。お昼近くになったが、終わりの見えない書類にうんざりしながらもサボると後でさらに面倒事になるということで泣く泣く書類に取り掛かっていた雪蓮。その中で、どうすればいいか判断のつかない案件があり、冥琳に聞こうと思い探していたのだが、街へ行ったとのことだったので探しに行くことにした。これにかこつけて書類仕事をサボろうとしているのは明白だが。
なんとなく面白いことになるんじゃないかな?と雪蓮の勘が言っていた。
「冥琳はっけ~ん♪」
しばらく街を見て回っていた雪蓮に飛び込んできた光景は、以前お酒を飲んでいる途中に冥琳に引っ張り出されてしまい、仕事をさせられたあの酒家で昼食を取る冥琳の姿である。
しかも、その冥琳が店員の少年と笑顔を交えて会話をしているのである。これが面白くなくて何が面白いのか?
「いろいろ大変だね。冥琳も」
「本気で労わってくれるのはお前くらいだ。他の者は私なら大丈夫とどこか妄信的なところがあってな」
「そ「合い席するわね~」孫策様?「雪蓮!?どうしてここに!?」」
突然現れた雪蓮に驚く二人。その顔を見てしてやったりの雪蓮は早速、冥琳につっかかった。
「ちょっと、書類仕事やってたらわからないところがあったから聞きにきたんだけど」
「そうか、それなら戻ろ「あら?そんな急がなくてもいいじゃない。私、まだ昼食食べてないし」むっ・・・」
言ってることは筋が通っているが、雪蓮の顔がニヤけていてどうも思惑が見え隠れしていることに不安を感じる冥琳。その不安は的中するのだが、回避する術はなかった。
「で、冥琳と・・・「北郷一刀です。一刀でいいですよ」そう?じゃ、一刀はいつからそんなに仲がいいのかしら~?」
早速きたかと思う冥琳だったが、これは予測の範囲だったので簡単に答えを返せた。
「私がたまたまよった店だったんだが、味が私の知る中では一番だったのでな。行きつけの店にさせてもらってるわけさ。それでな、少しづつ世間話をしている内に友人として付き合ってるわけさ」
「あ~、確かにおいしいわよね、ここの料理」
「ありがとうございます。孫策様?ご注文はどうなされますか?」
「あっ、じゃあ焼飯と卵汁ね。それと冥琳が真名許してるし、私のことは雪蓮でいいわよ」
「かしこまりました。それと、真名はいいんですか?まだ、話して間もないですよね?」
「いいわよ。だって、冥琳が許してるんだもん」
「さすが、断金の仲。わかりました。喜んで受け取らせて頂きます。では、失礼しますね」
自然な笑みを浮かべて一刀は下がっていった。雪蓮の顔は少し訝しげな顔になっていたが。何故なら・・・・。
「冥琳。あの子。今、断金の仲って・・・」
「ああ、言っておくが私が口にしたわけではないぞ?」
「何者なの?」
「それはな・・・一刀の情報網がすごいのさ」
「どういうことよ?」
冥琳の言葉にさらに険しくなる。ある意味、危険な存在である一刀。それを野放しにするには危険すぎる。だが、それを知らないはずのない冥琳が何も動かないこともおかしい。雪蓮はさらなる情報を求めた。
「あいつはな。この街の人間のほとんどとつながりがあるんだ」
「街のほとんど?」
「ああ、店を経営している者、職人、軍に所属している兵士から、侍女、文官、武官どれも一人は一刀と面識があってそれなりに親しいのさ」
「それってやっぱり・・・」
危険だと続けようとしたが、いわれるまでもなくわかている冥琳はすでに行動に移していたのである。
「私がその可能性を考えないとでも?」
「でも、今の状況は・・・」
「そんなこととっくの昔にやったさ。でもな。それが無駄だったんだ」
「無駄って・・・」
「明命や思春に七日程張り付いてもらったんだがな。聞いた話は他の誰にも漏らしていなかったことが確認された。しかも、ちゃんと重要な事柄だと判断したものは二度と話題にすることはなかったんだ」
「・・・・」
「それと決定的だったのが、明命や思春本人が一刀に害はないと言ってきたことだ」
「え?」
「つまり、彼女達も一刀と面識があって親しかったってことだ」
「な、なんですって~!?明命はともかく、思春もなの!?」
驚愕の事実に叫ばすにいられない雪蓮。あの思春に親しい男性がいたのだ。あの蓮華命と自他共に認める思春に。男嫌いで有名な思春にである。雪蓮の頭の中にはもう、冥琳をからかって遊ぼうという考えが綺麗さっぱり消え去っていた。それといまだに、一刀が危険人物である考えは消えなかった。雪蓮は決意する。
「わかったわ。私自身が一刀が危険じゃないか見極めてみる」
「そうか・・・私は話してみて、あいつは危険じゃないと思うが。王の決定に従おう」
「ええ、見てなさい。化けの皮を剥いでやるんだから♪」
張り切る雪蓮に、冥琳は内心で「まぁ、結果はある程度予想できるが」と思ったことは内緒である。それからしばらくして。
「一刀~♪今日もきたわよ~♪」
「いらっしゃい雪蓮。今日はどうする?」
「そうね~、今日は~・・・」
すっかり目的と手段が逆転してしまった雪蓮がいた。冥琳は自身の予感が的中し、やっぱりかと苦笑を浮かべていたらしい。
~紫苑編~
紫苑はあの璃々が酒家にやってきて以来、困ったことが起こるようになった。それは・・・。
「おかあさん。きょうもおさけのみにいくの?」
あれ以来、璃々が寝る前に必ずこう聞くようになってしまったのである。しかも、不安そうに上目遣いで聞いてくるものだから、娘の可愛さに悶えるのと、不安にさせてる罪悪感のダブルパンチで精神的に大ダメージを受けていた。
「いえ、今日はずっといるわよ?」
こう返すほかなく、言葉通りお酒を飲みに行かず、璃々と一緒に眠るのである。それでも、璃々が寝入ってから床を抜け出し、お酒を飲みに行ったりしているのだが。それが、ある日を境に、璃々はそのことを聞かなくなったのだ。これには紫苑も喜んだ。これで、安心して飲みにいけると・・・。
「さぁ、飲むわよ~」
「おお、今日は珍しく張り切ってるの。何かあったか?」
いつも通りのメンバー。最近、乗りが悪い人が二人いるが、お酒を飲むのは変わらない。そして、本日訪れた店で紫苑は驚愕することになる。その店とは、流流の店であった。
「「いらっしゃいませ~」」
「璃々!?」
「なんじゃと!?」
「あら、かわいらしい店員さんじゃない」
「ほんまや!」
「ほう。あの年でお手伝いとは・・・偉いのぅ」
以前は途中で帰宅せざるをえなかった店。だが、今夜こそはと思って来店したが、今回で向かえてくれたのは前もいた少年、一刀と紫苑の娘、璃々だったのだ。自分の家で寝てるとばかりに思っていた愛娘が、酒家で働いていると知った紫苑の心は驚愕に彩られる。
「やっぱり、のみにきてた~!!」
「困ったお母さんだね」
「ね~!」
対して、してやったり顔なのは一刀と娘の璃々だ。雪蓮経由で、ここに飲みにくると知っていた一刀。そんなとき、途中で目を覚ますと母がいないことに気付き、泣きながら探している璃々を発見しここに連れてきたというのが真相である。一刀に事情を聞いた紫苑は璃々に抱きしめながら涙ながらに謝罪するのであった。
「ごめんなさい。ごめんなさいね璃々」
「おかあさん、いたいよ~」
これ以降、紫苑が飲むお酒の量は格段に減少するのである。
~桔梗編~
酒家での一見以来、友人の紫苑の付き合いが悪くなった。それは、まぁ仕方ないだろう。何せ、娘にあそこまでさせては。しかし、これはいただけない。
「お!璃々ちゃんはすごいね。もう、これがわかるんだ」
「えへへ~。おかあさん。おにいちゃんにほめられた~」
「あらあら、よかったわね~璃々」
目の前で繰り広げられているまるで家族のような会話。優しい夫と寄り添う妻、無邪気な娘と見える様。独り身にはどうしても居心地がよろしくない光景だ。そんな心情を表すようについつい、うなり声を上げてしまう。
「むぅ・・・」
「どうしたの?ききょうさん?」
その声に反応したのは璃々だった。これには返答に困る桔梗。まさか、子供に家族のように見えて疎外感を感じていたなどと言えるはずもない。大の大人がそんなことを恥ずかしくて言えない。しかし、嘘を言うのも憚れる為、桔梗は本音とは少しズラして答える。
「何、璃々達はまるで家族のようだなと思って見てただけよ」
「家族?」
「おお、紫苑が母で、璃々が娘。それに一刀が父とな」
「お兄ちゃんがお父さん?」
「あらあら、それじゃ、私は一刀さんの妻ですわね」
桔梗の言葉に花が咲いたように笑顔を浮かべる璃々とまんざらでもなさそうな紫苑。一刀も。
「ええ!?黄忠さんのような美人の夫って言われると嬉しいけど。俺じゃ釣り合わないですよ」
口ではそういっているが、ただの照れだとまるわかりな様子。ますます面白くない桔梗である。それも、次の璃々の発言によって一変する。
「あれ?ききょうさんは?」
「は?」
「ききょうさんはかぞくじゃないの?」
「いや、しかし母はもう紫苑がいるだろう?姉というほどの年でもないことだしの」
「ききょうさんもおかあさんだよ?わたしのおかあさん」
「そうだな・・・私も璃々の母だ」
これには桔梗も降参せざるを得ないだろう。仕方なしというように桔梗は言うが内心は嬉しく思うのである。ちらっと紫苑を見ると少し悪戯っぽい笑顔でこちらを見ているのがわかる。どうやら、こちらの考えていたことが筒抜けのようだ。これには、今度は完全に苦笑を浮かべる桔梗であった。
「あらあら、そうなると一刀さんは両手に花になるわね」
「そういえば、そうだ。どうだ?嬉しいじゃろ?」
「りょうてにはな~♪」
「あははは・・・」
もう、完全に一刀は獲物に認定され年上の美女二人からからかわれ続けるのである。笑うしかない一刀であった。
~霞編~
「なんや、みんな付き合い悪うなってへんか?」
ある日の昼間、一人そう零したのは霞だ。最近、酒を飲むには飲むのだが、以前のように朝まで飲むということがめっきりなくなって久しいのである。他の四人は満足気で帰っていく一方で、霞にとっては飲み足りない気持ちだった。それでも、みんなが帰った後も一人で飲む気にはなれず、悶々としながらも渋々帰宅することが多くなった。
「なんか、物足りんな~って・・・あれは」
そんなことを思い出していた霞の目に入ったのは、霞から見たら危なっかしい手つきで馬に乗る一刀の姿だった。特に親しいわけではないが、このまま無視していくのも変だと思った霞は軽く挨拶をすることに。
「儲かりまっか~?って、何してるん?」
「ぼちぼちでんな~って、張遼さんじゃないですか。ちょっと、買出しに行くんですけど、まだ馬に乗るのに慣れてなくて・・・」
霞から見たら生まれたての小鹿のようにふるふると震えながら騎乗する一刀。いつもなら、苦笑を浮かべているだろうが、今回はそんな余裕もないのか真剣な顔で馬を操っている一刀の姿にしゃ~ないなと呟いて。
「うちが教えたるさかい、一旦とまりぃ」
「うっ・・・ご指導ご鞭撻よろしくお願いします」
それから霞による乗馬講座が始まった。霞の教え方がよかったのか?それとも一刀に才能があったのか?一刻程でぎこちなさがとれ、普通に馬に乗れるようになる。そうなると、最初は乗馬のコツ、叱咤の言葉が多かったものが、賞賛、雑談へと変化してくる。
その中で一番盛り上がったのは羅馬の話であった。
「やっぱ世界は広いな~。いつかうちも行ってみたいものやで」
「それには相当な準備が必要だけど・・・張遼さんならいけるんじゃないかな」
「そんときは一緒やで?」
「それは楽しみだね。そのときまでに俺ももっと馬を乗りこなせるようになってないと」
「安心しぃ。うちが鍛えたる」
「それは頼もしい」
このことが切欠となり、二人はお互いの名前(霞は真名)を教えあい、親交を深めるのだった。後に彼らはこの約束を実現することになる。新たな仲間と共に。
それが、後のシルクロードと呼ばれる道になるとは誰も予想が出来なかったのだった。
~エピローグ~
義母からの昔話を聞いていたところ、父親に出発を告げられ動き出す子供達。そんな中で年長者の璃々は父親と手を繋いで嬉しさを感じている中でも考え事をしていた。
「(全く、お母さんは恥ずかしいんだから・・・もう、お母さんに任せてたらお父さんは苦労するわ。こうなったら、私がお父さんを支えてあげないと)」
ぎゅっ
「どうしたんだ?璃々?」
「ん?なんでもな~い♪」
新たな決意を抱き、父親に甘える璃々の姿があったとか。
ふぅ・・・書ききって満足です♪
これは完全な短編なので、これでおしまいです。
まぁ、あまり深く考えず勢いだけで書いたものなので、書けないというのが本音ですが。
ちなみになんで酒飲みに星がいないの?
という質問に対しては。
私の中では星は酒よりもメンマとだけ。
別作品の長編、おせっかいが行くと一緒に楽しんで頂けると幸いです。
短編が書けるなら長編二本同時進行も出来るよね?という意見があればですが、その答えについては否とさせていただきます。
とりあえず、おせっかいのみに力を注いで完結まで持って行くつもりです。
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私が突発的に思いついた短編ネタを投稿します。
なんで、こいつらが揃ってるん?とか、そういう細かいことは考えず、ネタ的な意味合いで読んでもらえれば幸いです。