No.162333

真恋姫無双~風の行くまま雲は流れて~第45話

第45話です

納涼の夏!
地元の祭り参加に向けて黙々と筋トレ中w

2010-08-01 04:17:51 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:5936   閲覧ユーザー数:5404

はじめに

 

この作品はオリジナルキャラが主役の恋姫もどきな作品です。

 

原作重視、歴史改変反対な方

 

ご注意ください

 

耳を澄ませば遠く虫たちの声

 

秋の夜風に乗って耳元を擽る音に一刀はここが戦場であることを暫し忘れて夜空を見上げていた

 

(日本じゃ中々お目にかかれないよな…こんな空は)

 

漆黒であるにも関わらず透き通るような

 

それでいてどこまでも深い闇

 

その闇の合間を縫うように星が流れ落ちる

 

「おれのいた世界じゃさ」

 

彼の膝の上で同じくして夜空を見上げていた少女の髪をそっと撫でながら声を洩らす

 

「流れ星が消える前に願い事を三回唱えるとその願いが叶うって言われてるんだ」

 

彼の言葉は間違いなく彼女に向けられたものだ

 

だというのに

 

それはどこか

 

どこか遠く

 

此処ではない何処かを思う呟き

 

「…お兄さんは何をお願いしたのですか?」

 

声に従い視線を膝の上に移せば風と目が合った

 

空のそれとは違う

 

だがやはり深い

 

深い緑色の瞳がこちらを見つめていた

 

「願い事を浮かべる前に消えちまった」

 

はははと苦笑しながら風の髪を撫でる

 

この世界に来たばかりであったなら

 

願いはただ一つだっただろうに

 

彼女は気持ちよさそうに目を細め頭を彼の手に摺り寄せてくる

 

(猫が甘えてくるときみたいだな)

 

彼女の頭を撫でながら自然と緩む口許…と

 

「風は猫さんではないのですよ~」

 

一瞬その頭を擡げトンと彼の胸を突く

 

「参ったな」

 

やはり一瞬大きく目を見開いた後…吐いて出てくるのは苦笑

 

「風には叶わないな」

 

一刀の独白に満足そうに彼女は頬を綻ばせた

 

そして

 

「おお!そういえば風は…お兄さんにお願い事があるのでした」

 

珍しく誰に突っ込まれることなくピシャンと背筋を伸ばし彼の膝から立ちあがる風

 

「…俺に?」

 

立ち上がった風を近くにある松明の火が照らし

 

いつもよりも彼女を大きく見せる

 

「桂花ちゃんに聞いて来て欲しいのですよ」

 

彼女の影が風に揺れる松明の火に沿うように揺れた

 

まるで

 

彼女自身の心が揺れたように

 

彼女の願いを聞きうけた一刀が立ち去った後

 

「稟ちゃんはどう思いますか?」

 

城壁の壁に寄り掛かるとひんやりと冷たく、硬い感触が背中に当たる

 

「少々…ずるいと思います」

 

珍しく怒気をはらんだ声

 

いつの間にか彼女の横に同じく寄りかかる稟は風と視線を合わすことを拒否するかのように空を見上げていた

 

「そこまで露骨な事をする必要があるのですか?」

 

視線を交わさなくとも彼女が眉を顰めているのが解る

 

「…華琳様じゃ駄目なのですよ」

 

彼女は…桂花は華琳の前では自分自身を隠したがる

 

自身が有能な士であることを見せたいが故に

 

華琳に問われたところで自身を秘匿し…陰で傷つくのだろう

 

だからこそ

 

誰かが聞かねばならない

 

「この戦は桂花ちゃんにとって辛いものになります」

 

彼女は今この瞬間も傷ついている

 

「風や稟ちゃんとは違うのですよ」

 

各所をまわり

 

仕えるべき主を探していた自分たちとは違い

 

彼女は『其処』に居たのだ

 

居場所を敢えて捨てて『此処』に来たことは彼女の態度からも解る

 

だが

 

「彼女には…まだあそこに未練があるのでしょうか」

 

闇の遠く向こう

 

袁紹が構える陣を見つめる稟

 

「『未練』かどうかは…解りませんねえ」

 

城壁の縁に手をかけて風も立ち上がり見つめる

 

それは聞いてはいけないことなのかもしれない

 

だが

 

知らねばならない

 

知らねば彼女は傷ついたままだ

 

「彼女にとって田豊さんとは…どんな存在であるかを」

 

華琳が聞いたのなら彼女は嘘を吐く

 

「それで北郷殿ですか」

 

そう呟く稟の様子に風は小さく頷く

 

「風や稟ちゃんが聞いたのなら…泣かせてしまうかもしれませんからねえ」

 

ふふっと笑う風に稟はまたしても眉を顰める

 

「やはり…ずるいですよ」

扉をノックしかけたところではたして自分は何と声をかけるつもりだったのだろうとその手が止まった

 

彼女はこの3日間部屋に閉じこもったままだ

 

3日前、袁紹軍が長期戦を避けていると告げた後、一人部屋に閉じこもっている

 

あの時

 

桂花は袁紹軍の軍師、田豊には先がなく短期決戦を目論んでいると言った

 

それを受けて曹魏がこの戦でとった戦術は持久戦

 

―ならば田豊殿の時間切れを待ちますか

 

風の放った一言に桂花の顔がみるみるうちに青褪めていくのを一刀はただ見つめていた

 

(時間切れ…か)

 

脳裏を過る自身の最後

 

それを頭を振って振り払う

 

(ああもう!桂花と話しに来たのに何で自分のことなんか)

 

「桂花…入るぞ」

 

意を決して扉を叩き押しのける

 

部屋の中は暗く、明かりも灯っていなかった

 

窓から入る僅かな月の明かりだけを頼りに辺りに目を凝らす

 

「…桂花」

 

部屋の暗さにようやく目が慣れた頃、一刀は彼女を見つけた

 

桂花は部屋の隅で膝を抱えて蹲っていた

 

「…何か用?」

 

顔も上げず蹲ったままの彼女から聞こえた、まるで彼女らしからぬ声

 

いつもの勝気な声ではなく

 

いつもの怒鳴り散らすような声でもなく

 

「三日も引き籠って…皆心配してるぞ」

 

彼女のすぐ近くにあった椅子を引いて腰を落とす

 

普段であれば近づいただけでやれ近づくなだの、妊娠するだのと罵声が飛んでくるというのに

 

「あたしは兵隊じゃないのよ、前線に出なくても問題ないでしょ」

 

その兵ですら未だ城の外には出ずに城壁の上で袁紹軍とただ睨みあいをしている

 

袁紹軍はというと初日に見た投石機の威力を知ってか、投石機の射程外から城の周囲を囲うだけで

やはり一向に攻めてくる気配はない

 

(何かしらの罠を張っていて…此方が乗ってくるのを只管に待っているわけだ)

 

此方からは討って出ない事が決まった時は悠長だと感じたものだが…成程、この三日間の敵の動きを見れば此方が誘い出されるのを待っているのが解る

 

傍から見ればそれは持久戦…だが

 

(田豊って人は短期決戦を望んでいる)

 

先日も城に向けて出立してきた輸送隊が袁紹軍に壊滅させられたばかりだ

 

このままでは城の兵糧は枯渇し、此方は無理矢理に討って出ねばならなくなる

 

そうなれば城を抑え、投石機を準備し、防御主体に構えた今回の編成は意味を成さなくなる

 

加えて敵方には此方を誘い込むのが目的のように本陣を前面に敷いた布陣を構えている

 

城の兵糧が尽きるのが先か

 

田豊が病で逝くのが先か

 

「この戦は長期戦…風も言ってたでしょ…だったら殻に閉じこもってたっていいでしょ」

 

ぐすっと鼻を啜る音が聞こえた

 

「桂花…泣いてるのか?」

 

―なあに泣いてんだ桂花―

 

一瞬彼女の脳裏に浮かんだのは

 

目の前の男とは別の男

 

「煩い」

 

一刀の質問に返ってくる返事はいつもの彼女の台詞

 

だがそこにも

 

やはりいつもの覇気がない

 

「今は戦の最中だろう?」

「…だから何よ?」

 

はあっと溜息をつく一刀

 

「桂花…君は軍師だろう?」

 

膝を抱えていた桂花が一瞬ぴくりと身を揺する

 

「だから何よ?…第一、あんたに軍師の何が解るってのよ?」

「解らないな」

 

椅子を引き、立ち上がる一刀

 

「ただ閉じこもって…主に進言一つ出さないのが軍師だなんてな」

 

踵を返し部屋の扉に向かって一歩踏み出したところで

 

ドコっ!!

 

桂花に思い切り背中を蹴りつけられつんのめる一刀

 

「!?…ってぇ」

 

抗議の一つもしてやらねばと振り返れば

 

「…桂花?」

「あんたまで…」

 

わなわなと震えだす桂花の姿があった

 

解らんな、己の当主に進言一つ通せん文官の悩みなど

 

「あんたまで『あいつ』と同じ事を言う!」

 

溢れ出る感情は

 

雫となり

 

頬を伝い

 

床に落ちていった

あとがき

 

此処までお読みいただき有難う御座います

 

ねこじゃらしです

 

一気に書こうと思ったのですが

 

…眠い

 

それでは次回の講釈で

 

 


 
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