・Caution!!・
この作品は、真・恋姫†無双の二次創作小説です。
オリジナルキャラにオリジナル設定が大量に出てくる上、ネタやパロディも多分に含む予定です。
また、投稿者本人が余り恋姫をやりこんでいない事もあり、原作崩壊や、キャラ崩壊を引き起こしている可能性があります。
ですので、そういった事が許容できない方々は、大変申し訳ございませんが、ブラウザのバックボタンを押して戻って下さい。
それでは、初めます。
―――天水陣
官軍に劉家軍が合流してから、一週間が経った日の早朝。
「・・・・・・」
積み重ねられた馬草の上に胡坐をかき、己の武器を丁寧に手入れするのは、董卓軍が将の一人華雄。
その手つきは一切の淀み無しに、緩やかに刃を、柄を丹念に磨いていく。
―約20分後
手入れの済んだ金剛爆斧を、地平から浮かんできたばかりの陽光に晒し、一度満足気に頷く。
馬草の山から飛び降り、金剛爆斧を構える。
まずは大上段から切っ先を斜め下に向けて構え、呼吸を正す。
直後、その体勢から振り上げ、次いで袈裟斬、逆袈裟と振るっていく。
振り降ろしに際しては、台尻を掴んで全身を屈め。
横薙ぎに際しては、足から足首、足首から膝、膝から腰、腰から肩、肩から腕、腕から武器、と繋がるように全身を余す事無く動かし、まるで舞っているかのような躍動感を感じさせた。
それは、遙か昔から身体に染み付いているかのようなものでもあった。
だが、「かつて」の華雄を知る者が見たならば、違和感を覚えたであろう。
何故ならば、「かつて」の華雄はこの様に「美しい」とさえ評せる武等一切持ってはいなかった。
しかし、現在の華雄は確実に、この武を我が物として自在に操っている。
最も、実際には新しく習得したのではなく、「かつて」よりも更に昔に見失ってしまっていた物を取り戻した、と言った方が正しいのだが。
たっぷり10分は金剛爆斧を振るい、漸く一息つく。
傍らに用意しておいた水筒代わりの竹筒を取って口に含み、飲み干す。
その後、竹筒を頭の上に持っていき、一気に自身に向けて中身をぶちまけた。
当然竹筒を満たしていた水は華雄の全身に掛かる。
一滴残さずに浴びてから、手拭いで身体を拭いてゆく。
華雄もれっきとした女性であり、風呂はかなり好きな部類に入る。
だが、今の状況ではそんな場所も暇も無い故に、こうして簡易に身体を清めている訳だ。
大体を拭き終わってから、一つだけ感嘆の溜息を吐いて、自分用の天幕へと入って行く。
その口元には笑みが浮かんでいた。
今日は、再編を終了した官軍本隊が、呼び戻した各諸侯の軍勢を率いて洛陽を発つ、その日である。
真・恋姫†無双
―天遣伝―
第十三話「集結」
―――官軍本隊
北郷一刀は、今になって多少の暇を持て余していた。
有能な軍師が、二人から四人に増え、一刀に回される仕事がかなり減った事が、原因だ。
だから。
「桃香、そこ間違えてるぞ・・・・・・」
「えぇっ!?」
桃香との勉強会・・・だった筈なのだが、何故か桃香の家庭教師染みた事になっていると言う不思議な事態に陥っていた。
桃香は、一刀に指摘された部分を直した後、机に突っ伏した。
その目からは、滂沱の涙を流している。
「うぅ~、一刀さん愛紗ちゃん並に厳しいよう」
「・・・あのな、俺は雲長から任されてたろ。
だったら心を鬼にするのが普通だっての」
「でもでも、一刀さんだって、愛紗ちゃんの厳しさは行き過ぎだと思わない!?」
一刀に同意を求め、バッと顔を起こして一刀に問い掛ける桃香。
因みに、一刀は先程から紙本の墨子を読んでいる。
「? どこがだ?」
"ゴォン!!”
そう返され、机に額をぶつけてしまう桃香。
今度は机の上に、涙で出来た即席の川が生まれた。
それを見る一刀としては、首を傾げる外ない。
それもその筈、一刀はもっと厳しいのを知っているのだから。
そしてそれと比べれば、この程度の厳しさ等寧ろ甘い。
何だかんだで、やり遂げれば終われるのだから。
「うぅ~~~・・・・・・」
「・・・桃香、それ終わらせないと、お前は戦列に加わる事さえ許されないって自覚してるか?」
その言葉に涙を止め、顔を上げた桃香が真っ直ぐ一刀を見る。
その目には、決意の色が強い。
一度目元を拭い、口を開いた。
「はい、私は見届けなきゃいけないんです。
今は一刀さん達官軍の管轄下にいるけど、義勇軍の皆は、私が此処まで連れて来てしまった人達です。
だから、私は決して許されるべきじゃない、せめてもの責任を果たさなきゃならない。
あの人達を死地に連れて来た罪に対する責任が、私にはあるんです」
「・・・・・・成程」
思わず頷いてしまった。
それ程のカリスマと呼べる物が、今の桃香からは感じられると一刀は思い、それと同時にある人間を思い出した。
曹孟徳。
思えば、あの少女に感じた覇気に良く似た感じだ。
こうして話している分には、確かに桃香はあの劉備玄徳なのだと、再認識した一刀であった。
最も。
「だったら、どちらにしてもこの課題位は、さっさと終わらせなきゃな」
「あぅ・・・」
そこで先程までの覇気が霧散してしまうのを除けば、だが。
―――曹操軍
曹孟徳―華琳は、自身の口元が笑みを形作るのを理解しつつも、それを止めようとは思わなかった。
彼女の手元には、三日前に官軍本隊が各諸侯に向けて出した命令書がある。
そして、そこには。
『本隊に合流し、供に黄巾の大隊を撃滅せよ。
得た物は、民に迷惑を及ぼさない限り各々が勝手にしようとも、総大将の咎めはない』
と言う様な意味の言葉が書いてあったのだ。
これが華琳の前で読み上げられた時、桂花と秋蘭は呆れ果て、華琳と華蘭は共に笑い、春蘭は何が何だか分からないと言った感じで呆けた。
この言葉の意味、それを要約すれば。
「本隊と一緒に黄巾党の主要な部隊を倒す事。
その際に何か後ろ暗い事をしようが何しようが、民に迷惑さえかけなきゃどうでもいい」
と、言っているのと同じだ。
当然、戦功を少ない労力で得、大躍進を狙う諸侯にとっては嬉しい限りだ。
但し、華琳からしてみれば、これは喜ばしくはない。
「全く・・・こんな策とも言えない策を考えるのは、諸葛亮では無い、当然鳳統でも有り得ない、無論郭嘉でも程昱でも無い・・・・・・ならば北郷一刀、貴方が?」
そこまで口に出し、口元を更に歪める華琳。
その言葉に籠っているのは侮蔑であり、また同時に感嘆の情でもあった。
「面白い、面白いじゃないの・・・まるで私の意図を見極め、ここしかない最高の機会で横槍を入れてきた。
そんな気分だわ。
・・・・・・桂花、華蘭。
貴女達はこの命についてどう思うかしら?」
「ふむ・・・」
華琳の左斜め後ろに控えていた華蘭は、華琳から書を受け取って眺める。
読む毎に笑みを深くするが、その笑みは華琳のそれとは違い、どこか誇らしげでさえある。
一方の華琳の右腕側に控えていた桂花は、そんな華蘭の様子を見て次第に機嫌を損ねていっていた。
「私の意見を言わせてもらうとだな・・・こいつの中身を考えたのは、一刀個人ではなく、別の者だと思う」
「へぇ?」
「私も同意見です、華琳様。
恐らくは、《大将軍の権限を以って私達を招集し、『天の御遣い』の指揮の下に黄巾を斃せば、恩賞は思いのままである》という物と、《民に利無き行為を行わなければ、得た物は自由にしても良い》という物を合わせた物と思われます」
「成程ね、前者ならば、得た物は一度全て本隊が管理した後、私達に分け与えられる形になる。
後者ならば、民に被害が及ばなければ、得た物は私達が勝手に着服してもよし。
どちらにしても私達に利はある。
但し・・・・・・」
そこでわざと言葉を切り、桂花の言葉を待つ。
苦虫を噛み潰した様な表情となり、嫌悪感も顕わにした桂花は言う。
その様を、存分に堪能する華琳である。
「・・・この書の通りであるならば、我々はその場で恩賞を奪い合う形になります。
そうなれば華琳様の本来の目的である【張三姉妹の捕縛】が成功する可能性が大幅に減少する事に・・・それに恩賞の奪い合いともなれば、命令を聞かず暴走する諸侯も現れる筈です。
その程度の事が理解出来ない筈はありません。
故に、こんな物は策ではありません、唯の無謀です!!」
華琳の御前であるからこそ、敬語の形を取ってはいるが、今にもブチ切れそうな桂花を一先ず置き、華琳は次に華蘭に向き直る。
「貴女はさっきからずっと黙ってるけど、何を考えているのかしら?」
「ああ、私が一刀の立場であったなら、一体何を考えるのか、とな」
「ふぅん? それで? 答えは出たのかしら?」
「ああ、出たさ」
「! そう、では一体何が?」
「簡単に言うとすれば・・・意趣返し、だな」
それに気付いた華琳は、今度こそ大声で笑い始めたのであった。
―――官軍本隊
「一刀!」
「おぉ、葵久し振り!」
一刀の懐に飛び込んできた葵を抱き止める一刀。
西涼軍はたった今軍備再編を完了して、本隊に合流した所である。
葵はその先駆けとして、朔夜と共に先に来たのだ。
「久し振りだな、北郷」
「ええ、朔夜さんも久し振り。
後葵、そろそろ離してくれると嬉しいんだが」
「も、もう少しこうしていたいです・・・」
「・・・・・・何をやっとるかーー!!!」
「ハッ!? 貴女は一体、何者ですか!?」
愛紗の一喝で一刀から飛んで離れ、前虎後狼を何処からか取り出して構える葵と、何処か苛々した様子で青龍偃月刀を構える愛紗。
互いに闘気を溢れ出させ合い、その空間が緊張の余りに歪みそうな程に緊迫している。
見ている側としては、呆れるしかないのだが。
「むー!」
「・・・・・・ハァ」
それに女の戦いは、一刀に想いを寄せるもしくは浅からぬ興味を抱く者達からすれば、不快に映るものだ。
それが、戦う為の力を持たぬ者であれば更に顕著になる。
「二人とも、いい加減にしてくれ・・・・・・」
「あっ・・・」
「むっ」
頭を押さえつつ、二人の間に割って入る一刀。
半ば自分の所為だという事は分かっていないようだが。
だが二人とも、闘気を収めず、睨み合いを崩さない。
まるで先に視線を逸らした方が負けと言わんばかりに。
して先に収めたのは葵。
そして、愛紗に向けて右の手を差し出す。
「私の名は龐徳令明、以後お見知り置きを」
それを受け、愛紗も同じく収め、自らも右手を取った。
「我が名は関羽雲長、劉備玄徳が一の家臣にして、幽州の偃月刀を自負している」
「そう、ですか・・・」
どうやら和解は上手くいった様で、一刀は安堵の溜息を吐いた。
但し、実際には二人とも心中では、互いに警戒し合っていたのだが。
「あの二人・・・意外と似た者同士なのか」
朔夜のそんな不吉な言葉も聞こえなかった。
聞こえなかったと言ったら、聞こえなかったのである。
―――孫堅軍
張昭―湊は、ここに至って不機嫌だった。
何故かと言えば、今までの戦いで大蓮と雪蓮が二人揃って真っ先に突撃するという行動を繰り返していたからだ。
呉の重鎮両名が揃って敵の懐に真っ直ぐ突撃するのは、些か以上に肝を冷やされるものだ。
今更ながら、湊は冥琳と張紘―瑠香を連れて来るべきであったと後悔していた。
祭も本質的には大蓮側の考えを持つ人間であるのだが、最近では黄祖の件でかなり反省したらしく、今では指揮官は前線で指揮を取るべきだという考えを収めている。
それはとても湊からしてみても喜ばしい事であり、だからこそ瑠香を連れて来なかったのだが、結局自分は瑠香程に大蓮を抑える事は出来ないのだと、頭を抱える破目になったのである。
そして、それは今湊と共に茶を飲んでいる祭にも言える事であった。
「昭殿、今からでも紘殿を呼び出すべきではないか?」
「それは私も考えたのですがね。
現状を鑑みるに、それは不可能だと思います」
そう言い、茶を口に含み一度二度咀嚼した後、飲み込む。
そしてまた口を開いた。
「第一に、黄巾は現在洛陽の南に集結しつつある事は、偵察に出した兵達からの報告を見るに明らかです。
即ち、実質呉へと繋がる道は封鎖されているも同じ。
挟み討ちとするにも、やはり呉との綿密な打ち合わせが必要となります」
「ふむ、確かにの」
「第二に、官軍から届けられたこの書」
そう言って、机の上に竹簡を置く湊。
見れば、米神の辺りがヒクヒクと震えているのが見て取れる。
「この書を堅殿が見るまでならば、堅殿とて私達の言う事を聞いてくれたでしょう。
しかし、この書がこうしてある以上、あくまでも未だに『地方の一豪族』でしかない孫家が勅命を断る等、出来る訳もありません
・・・こんな事であれば、この乱が始まった頃の方がまだ我々の本来の目的を果たし易かった・・・・・・」
「全くじゃな。
儂等からしてみれば、この命は青天の霹靂に等しい。
これでは、【張三姉妹の捕獲】の難度が異様に上がってしまうしのう」
「ええ、この連合において、黄巾の真実を知る者がどれ程いるのかは知りませんが、恐らく然程多くは無いでしょう。
そうであるならば、こんな人相書きが信じられる道理がありません」
そう言い、今度は一枚の紙を机に置く湊。
それを手に取って見た祭は、思わず噴き出した。
そこに書いてあったのは、右端に「黄巾首領:張角」と書かれた上で、身長3mはあろうかというヒゲモジャの大男であり、おまけに腕が八本に足が五本、挙句に角に尻尾まで付いている、そんな訳の分からない化け物の絵であった。
「な、なんじゃこれは・・・・・・ブプッ・・・アーハッハッハッハ!!!」
「字を見れば分かるでしょうが、黄巾の首領張角の想像図ですよ。
明らかにおかしいと分かり切っている筈なのに、誰もそうは言えない。
それに、今まで捕まえた黄巾を名乗る者共も、知らないか、話さないかのどちらか、でしたから」
「クックククク・・・ハーハー・・・・・・そ、そうじゃな。
前者は、唯この混乱に乗じて好き勝手しておる、黄巾を名乗るだけの悪党。
後者は、至極純粋に張角等を慕って集まった者達、じゃろう」
「その通り、元より我等が張三姉妹の事実を知れたのも、馬元義殿が身命を賭して私達に彼女達の助命嘆願を行ったが故です」
「うむ・・・止めを刺した儂が言うのもなんじゃが、あの男は最近稀に見る良い武士であったしのう・・・して堅殿もそれに応えた。
だからこそ、決してしくじる訳にはいかん」
何時の間にか空になった器を握り潰してしまっていた祭の左手から流れ落ちた赤い血が、地面を濡らしていた。
―――官軍本営
そろそろ昼に差し掛かる時分。
今この場には、一刀が呼び集めた各諸侯の中心人物が集結していた。
官軍本隊からは、北郷一刀、何遂高、程仲徳、郭奉孝。
その脇に、劉玄徳、関雲長、諸葛孔明。
曹操軍よりは、曹孟徳、曹子孝、荀文若。
呉軍よりは、孫文台、孫伯符、張子布。
董卓軍よりは、董仲穎、呂奉先、賈文和。
西涼軍よりは、馬寿成、韓文約、龐令明。
袁紹軍よりは、袁本初、顔良、文醜。
袁術軍よりは、袁公路、張勲、紀霊。
その他にも多数いるが、ここでは割愛する。
一度皆を見渡し一刀が行った事は、頭を下げる事だった。
周りが少しざわめくが、碧や桃香といった一刀を良く知る人間は、苦笑いを零すばかり。
今回の一刀の策。
・・・と言っていいのか微妙であるが、各諸侯を集めておけば、勝手な動きも封じられるという目論見があった。
だからこそ、この場で更なる楔を打ち込むべく。
「皆に言っておく事がある」
机に手をつき、目に圧を籠めて並び立つ者達を睨む。
それに圧されかける人々もいる中、一刀は構わず続きを口にした。
「俺が皆に送った命令書は読んでくれたと思う。
そして、そこに籠めた意味も理解してくれたものと思って、話させて貰う。
もしも、命に反する行いを起こしたと思しき者達がいた場合、俺に教えて貰いたい。
その者については、総大将である俺の方から厳正な処分を下す。
但し、もしも嘘偽りを教えた場合は、その者に厳罰を与える事とする」
それだけ。
だが、生まれた効果は劇的だった。
華琳と大蓮は周りに分からぬように、内心「やられた」と苦虫を噛み潰した。
この言葉が生んだ効果。
それは、「諸侯が互いに互いを見張る様になる」
という事だ。
どうにか、自分の利を追求しようと躍起になっているモラル無き諸侯からしてみれば、この言葉は正に棚からぼた餅だ。
上手く他の諸侯を追い落とせれば、自分の利になる。
ならば、間諜でも何でも放ち、互いの粗捜しでもしようとするだろう。
そうなれば、各々の企んでいる事が一刀の耳に入り易くなる。
即ち、この戦いの内で特別な「何か」を得ようとしている者達以外のモラル無き諸侯が、これだけで全て一刀の間諜になったも同じ。
一刀は、現代より来た。
今よりも遙かに情報伝達の技術が発展した情報社会である、現代より。
だからこそ一刀は、今の時代において最も重要なのは、信頼できる多量の情報であると確信していた。
情報を制する者は、世界を制すのである。
そしてもう一つ。
一刀は件の書の問題点を見逃すつもりは一切無い。
「それからもう一つ、兵もまた民だと言う事を努々忘れぬ事」
この言葉に対しての反応は、主に二種に分かれた。
一つは「ああ成程」と感嘆した様な物。
そしてもう一つは「何を言っているんだこいつは」と呆れた様な物。
「それでは、これにて軍議を仕舞いとする。
各々は自軍の備えを整え、夕刻までには出立を可能とする様に!」
その美里の言葉で、解散となった。
「あ、袁術殿は少し待ってくれ。
他の皆は行ってくれて構わない」
が、一刀が美羽を呼び止めた。
不機嫌そうに一刀に向き直る美羽だが、内心に収めている一刀のそれ以上の激情に気付く事は出来なかった。
他の諸侯がいなくなり、今ここにいるのは一刀達官軍本隊の面々と、袁術軍の三名のみとなった。
一刀と美羽は、小振りな机を挟んで座っており、他は互いの後ろに控えている。
「何じゃ、妾はさっさと昼の分の蜂蜜水を飲んで昼寝をしたいのじゃ、さっさと終わらせてたも」
そう傲然と胸を張って言い切る美羽だが、一刀の目が次第に鋭く釣り上がっていっている事に全く気付いていない。
その険呑さに気付いた七乃が動こうとするが、未だに気分が優れ無さそうな咲によって止められる。
「袁術、君の言う蜂蜜水だけど・・・それを一杯飲むのにどれ位のお金が必要になっているのか知っているか?」
「? そんな事を知っても妾には関係無かろう?」
これまた当然の様に言う。
一刀は自身の堪忍袋に怒りが溜まっていく事が手に取る様に分かった。
「・・・そうかな? 自分が好んで飲んでいる物なのに、どれだけの価値があるのか気になったりは?」
「無い! 妾が望めば蜂蜜は幾らでも妾の下に運ばれて来るのじゃからな!」
一刀の怒りのボルテージが段々と、それでいて静かに上がっていく。
そしてそれと同時に、少し呆れも感じていた。
この子は、本当に昔から甘える事以外で他人に頼った事が無いのだと、理解した。
「その蜂蜜を買う為に、君の治める国の人々が重税に苦しんでいる事は?」
「む? 何の事かえ?」
これは本当に知らないのだと、一刀は呆れた。
そして、自分の後ろで美里達も呆れ果てている事を感じ取っていた。
「もしそうだとしても、別に構わんじゃろう?」
「・・・・・・何?」
聞いてもいないのに、胸を張って自慢げに語り始める。
一刀の声のトーンが異常に落ちたのにも全く気付かずに。
「妾は漢にその名轟かす名族袁家が嫡子ぞ! その袁家に仕え、尽くす事は名誉であり、幸せに他ならぬであろう!」
「キャー、美羽様ー! よっ、流石は名族袁家の棟梁!!」
「うははー! もっと妾を称えr「もういい、黙れ」・・・へっ?」
調子に乗っていた美羽の耳に、一刀の物とは思えない程低くおどろおどろしい声が入り。
その次の瞬間、机が真上に真っ二つに割れて吹き飛んだ。
「ぴぃっ!?」
美羽が視線を一刀に戻してみれば、そこには椅子に座ったままでありながら、右足を天に向けて振り抜いた一刀がいた。
運動法則に従って、割れた机が二つの放物線を描いて左右の地に落ちてから、一刀はゆっくりと立ち上がった。
その全身から噴き出る圧倒的な気圧により、美羽は腰を抜かして椅子の上から立ち上がれず。
「ガタガタブルブルガタガタブルブル」
「・・・そう怯えるな」
「へ?」
その言葉に、少しだけ安堵した美羽であったが。
「ちょっと痛いだけだから」
「ぴぃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!?」
手首をゴキゴキ鳴らしながら言われたその一言で、どん底に叩き落された。
「うー、うー、痛いのじゃー・・・・・・グスン」
「美羽様、我慢して下さいね。
そーれ、痛いの痛いの飛んでけー」
七乃の膝の上で猫の様に縮まりながら、介抱を受ける美羽。
一刀は未だに、美羽の視線の先に立っている。
それを目にする度に、美羽が震え出すのは最早反射であった。
実は、先程一刀がやった事は至って単純。
唯のお尻十叩きだ。
最も、一刀の「鞭打」に近い域に高められたペンペン故に、高が十回程度でも、美羽のお尻は椅子に座れなくなる程に腫れていた。
・・・スカートで見えていないのが、唯一に近い救いだろう。
一刀は言う。
「痛いか? けどな、それが現実だ。
お前が大好きな蜂蜜を買う為に、税を奪われている人達はもっと痛い思いをしている。
名族袁家が何だ? 本当に追い詰められた人々にとっては、そんな事はどうでもいいんだ。
お前が名族だろうが、三皇五帝だろうが、自分達の事を鑑みてくれない奴に命を懸ける真似なんてしたくないってのが普通だ」
「で、でも、妾が長なのじゃから、妾に従うのが道理では無いのか?」
涙目な美羽の反論。
だが。
「だったら、お前は名族袁家を初めとする全ての豪族が、その長である皇帝に「もっと贅沢したいからお前等一族の財産全て寄越せ」って言われて、「長に従うのが道理だろう」で納得いくか?」
「そんなの絶対に嫌なのじゃ!! ・・・あ」
「その通り、それが普通なんだよ」
頷き、一刀は肯定する。
「・・・・・・妾はいけない事をしておったのか?」
「ああ、そうだな」
「妾は嫌われておるのか?」
「そうだろうな、このままじゃ反乱を起こされても誰も助けてくれないぞ? 無論俺も助けないしな」
「そんなのは嫌じゃ!」
「嫌だ嫌だ、だけじゃ意味が無い。
嫌なら、そうならない様に如何にかしなくちゃな」
「どうすればよいのじゃ?」
そう聞かれるが、一刀は首を横に振る。
そして、美羽に諭す様に話しかけた。
「それを聞くべき相手は、何時もすぐ傍にいるだろう?」
そう言って、一刀は咲を差した。
美羽の視線が其方を見る。
胃の辺りを押さえて、かなりきつそうな様相の咲だが、美羽に見られているのを理解すると、必死に顔色を取り繕おうとした。
しかしとてもではないが、無理だった。
見る見る再び涙目に変わっていく美羽。
七乃の膝から飛び降り、咲の方へと駆け寄って行く。
そして。
「済まなかったのじゃ」
「!?」
「み、美羽様が謝った・・・・・・・・・・・・・・・・!?」
咲に向けて頭を下げたのである。
直後、満面の笑みを浮かべて倒れる咲。
慌てたのは当然美羽であった。
「さ、咲ーーー!?」
「あらら、これは大変。
さっさとお医者様を呼んで来なくてはいけませんかね」
アタフタして咲を泣きながら揺する美羽。
それを尻目に、平然としている七乃という図式が残った。
倒れた咲を即席の担架を作らせて連れて行かせた後、一刀は椅子に座りながら額に浮かんだ汗を拭った。
「つ、疲れた・・・」
「一刀殿、何故あのような事を?」
「ん? ああ、何と言うかな、少し目に余ったからだよ」
「嘘ですね」
「・・・風、いきなり全否定は止めてくれないか」
両サイドを稟と風に挟まれ、一刀は椅子の上で体勢を正した。
「とうっ」
「そしてお前は何で当然の如く俺の膝に乗るかな!?」
「むふー、此処は風の指定席ですからー」
満足気に鼻息を吹き、手に持ったペロペロキャンディーを口に銜える。
「まぁ、お兄さんがどう思ってああしたかは、風としてはどうでもいいです」
「まぁなぁ、風が危機感抱いていんのは、あのちみっ子が大将に惚r-ンギャアアアアア!!?」
「宝譿、潰しますよ?」
「も、もう潰され・・・ガクッ」
「お前さん達も、その漫才飽きないねぇ・・・」
宝譿を握り潰した風に、美里が話しかけて来るが、風はガン無視した。
美里は苦笑し、今度は稟に声をかけた。
「郭嘉、間諜はもう放ったのかい?」
「はい、各諸侯の軍に等しく十五人ずつ。
これ以上は、私共の手勢を削りかねませんので、これが限界でした」
「いんや、上々さね。
それだけいれば、密告と合わせりゃ充分信頼に足る情報が集まるだろうさ」
「ええ、これで良からぬ企みをしている者達を見付けだせれば宜しいのですが」
「ああ、そうだ、それで思い出したんだけどさ、一刀」
「何ですか?」
「この乱の裏に張譲がいるって、本当かい?」
「まず間違いないと思います、俺の持っている知識通りならば、張譲は張角と繋がっている筈ですから」
それを聞いて、美里の口元が三日月状に吊り上がる。
嬉しいのだろう。
美里は、張譲との付き合いがとても長い。
だが、その内には仲良く出来ていた経験等欠片も無い。
それ故に、それを払拭できるかもしれないこの機会を逃す訳にはいかないのだ。
「そう、だからこそ張角を捕えて、張譲との繋がりを明らかにする。
そして、それが出来さえすれば、この乱も一気に解決だ」
「そう上手くいくとは思えませんが・・・」
「稟ちゃん、上手くいかせるのが私達の仕事なのですよ」
「ええ、解ってるわ」
洛陽を発つまで残り二時間足らず。
人々の思惑は加速するばかりである。
第十三話:了
後書きの様なもの
只今です。
・・・事前に予告していたとは言え、こ・れ・は・酷・い!
予想をはるかに上回る超展開になってしまった。
まぁ、入れたかった伏線は張れたので善しとしましょう。
レス返し
poyy様:可愛いですよねー
はりまえ様:実はもう最初に食べられる人は決まってたり、馬休は・・・ノーコメントで。
水上桜花様:唯の自分の趣味です、それだけ。 今回で咲さん救われる兆しが少し見えました。
2828様:そろそろ報われてもいいかなーと思ってたり。
うたまる様:後二、三話で終わる予定ですが、これからは目一杯戦い成分を加えていきます。
F97様:漢中の英雄張魯はその内登場します。
砂のお城様:二人とも、キャラ設定を行った時から愛着のあるキャラですので、そう言って貰えると嬉しい限りです。
ue様:すいません、たっぷり2週間掛かりました。
mighty様:今回もチョイ役ですんません、しかし次回からは戦いですので活躍の場がきっと!
赤字様:まだ引っ張ります。
瓜月様:あー、そう取られましたか・・・普通の涙のつもりだったんです、唯量が半端じゃなかっただけで。 告知:種馬無双始まってます。
睦月ひとし様:乗り越えました、何とか!
RING様:すいませんすいません! 次回は、次回は必ず!!
リョウ流様:ええ、ホント驚く程に。
さてと、これからは恐らく週刊ペースに落ち着くかと思います。
最も、何か用事が入ったりすると遅れてしまうでしょうが。
ではまた次回で会いましょう!!
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恥ずかしながら帰って参りました!
故に文も恥ずかしいです!
申し訳ありません!!(土下座)