菱形の一部崩れた城壁、その中央に天を突く様な塔が5つ、内の1つは
一際太く大きい城から伸びている。
その敷地から激しく打ち響く鍔迫り合い、その果ての断末魔が響き渡る。
城内へと続く一際大きな扉へ向かう者、左右に散開して挟撃を阻む者。
それぞれがどこにこれだけ居るのかと言う程のリザードマンと戦う中、再びクリスが
再起動したので、俺も散弾に切り替えて扉を目指す。
「ヒャハハッ! とんでもねぇな!
…だが!ディアナの更にとんでもないデカい胸を
生で揉みしだくまで俺様は死んでたまるかよ!?」
…相変わらずのオープンスケベというか、本能に忠実なラザが建造物の壁を蹴り、
容姿と言動に反して、何と華麗に宙を舞いナイフを投げつけるものだろう。
「ラザ…貴方はここで化物と共に果てなさい!!!」
聞いていたのか、顔を赤面させ怒り、ラザに向けて弓を射るディアナ。
…緊張感無いなこの二人は。然しそんなふざけた言い合いをしながらも、
確実にトカゲを倒していくあたりは流石と言える。
「お前達。戦えない子供まで手にかけたお前達…許さない」
何か喋り方が淡々としていると言うか、棒読みというか、表情も余りかえず
短く切った茶色の髪を逆立て…怒髪天を突くという言葉まんまだな。
あの大きな槌を振りかざし、一撃の下にトカゲを圧殺していくハザト。
その隙だらけのハザトを守る様にリヴェルトが盾を構え、剣で敵を払いつつ、
ハザトをなだめている。
リフィルに付き従ってはいるものの、戦う理由は様々な様だ。
勿論、それは他の騎士達にも言える事。自らを奮い立たせる為か、
失った国や家族・同胞。思いを武器に乗せて戦っている。
リフィルもそうだ。何を考えているかは判らないが、何か強い想いでもあるのだろう。
その視線は強く先を見据えている。 俺はどうだ…確かにアリアとの約束を守る。
それはあるが、そこに強靭な意志が宿るのか。…判らない。
クロスボウを構え、味方を援護しつつ考え…ぐは! 余計な事を考えるなと言った俺が
トカゲの一撃を左腕に貰うとは…。焼け付く痛みを堪え、地面に転がりながら
襲ってきたトカゲの胴体めがけて散弾を撃ち込み、爆散させる。
飛び散った体液や肉片、それが体に多く付着し気持ちが悪い。
顔についた体液と肉片を拭い去ると、服を破き斬られた箇所を止血する。
再び構えて扉へと目指す最中、城の陰から今度はヒュドラが結構な数で現れた。
「前列後退!」
リヴェルトがそう叫ぶと、前に出ていた騎士達が後退していき、トカゲを敷き殺しつつ
こちらに向かってくるヒュドラを迎え撃つ準備を整える。
盾を持った騎士達がヒュドラの攻撃を受け止め、その隙を他の騎士が攻撃し、
弓を持った者が周囲のトカゲを倒していく。そんな中、俺も前列に出て、
ヒュドラに散弾を叩き込み頭を一つ二つと確実に潰していく。
リフィルも近い場所で、ヒュドラを凍結させていき、その奪った熱で風を起こし、
余りヒュドラをこちらに寄せ付けない様にしている様だ。
ゼロブランド…カイリスが戦い方を教えているのか、リフィルがそうしているのか、
それは判らないが、有利に運んでいるのに変わり無く。
押しに押してついに、扉を破壊し城の内部へと侵入に成功する。
こちらの被害も決して少なくは無く、退路を確保する為にもここで、部隊を二つに
分ける必要がある。 俺とリフィル・ラザは中へ。リヴェルト・ハザト・ディアナは
多くの騎士達とここを守る。
扉を破壊した先に広がる薄汚いエントランスホールが広がり、
内部は比較的手薄の様だ。俺達は一気に駆け込みこの城の主がいるだろう王の間を
目指し、奥にある二階へと続く階段へとトカゲを倒しつつ駆け上がる。
「なんでぇなんでぇ! 内部はえらい少ないな!」
下卑た笑い方をしながらも、周囲を警戒しているラザをリフィルが少し怒って
もう少し緊張感を持てと。それに対し緊張してたら動きが固まって死ぬ事になるぜ、と。
正論だと思うが…緊張のほぐし方がお前。
「リフィルも割りとこう…」
またか、リフィルの方を見ながら、自分の胸元に両手当てて大きいです。と言う仕草。
それに対して顔を真っ赤にして怒るわな…当然。つかお前、リフィルのまで揉んだのか。
本当に騎士かコイツは。そんなやり取りをしつつ二階へ辿り着いた俺達の目に入った者。
謁見の間。とでもいうのだろうか、大きい柱が左右に並び立ち、真ん中に赤く薄汚れた絨毯
が奥へと敷き詰められ、玉座らしきものがあり…俺達とその玉座の中間に位置するだろう
その場所に、プレートメイルを着込んだ、白髪交じりの老人が巨大な突撃槍を
地面に突き立て、待ち構えていた。
「ユタ…と言ったな。良く、生きていたな」
ガイアスか。下手な化物より強い化物がそこで仁王立ちして待ち構え、
俺達に声をかけてきた。
「カーッ! ガイアスかよっ。どうするんだい大将?」
ラザが立ち止まった俺に近寄り尋ねてきたが…。
「お爺様の…姉さんの仇!」
うわーっ!またお前! 突っ込むな!忘れたのか一撃で気絶させられたのを!!
ゼロブランドを右肩に構え一人で突っ込んでいってしまったリフィルの援護を
しようと、徹甲弾に変え構えるが、柱の陰に隠れていたのだろうトカゲの群れが
それを妨げてきた。
「リフィル戻れっ!」
せめて声で止めようとしたが、聞いておらず。ついにガイアスのもとへと。
俺達もトカゲを倒しつつ追いかけるが、その目に入ったのは。
ゼロブランド。その能力を知っているのか熱吸収する前に、右手を突撃槍で
打ち払い、剣と彼女を左右別々に弾き飛ばした。
大きく体を柱に打ちつけ、気絶はしないものの、咳き込むリフィルと、
刀身を幾度も回転させ床を滑り室内の隅へと飛ばされるゼロブランド。
くそ…。力は勝っていても、絶対的な戦闘経験の差か、まるで歯が立たない。
あの大きい体、武器に反して驚くほどの瞬発力・突進力。
確実に相手の戦力を奪ってくる戦い方。まるでアリアの様だ。
然し、彼の目にリフィルは映って無いかの様に、弾き飛ばした彼女に見向きも
せず、俺の方へと…俺かよ!?
「へ! 大将がお望みの様だぜ? もてる男はつらいねぇ?」
冗談言ってる場合か! あんな人外にどうやって勝てと!?
やるしかない…か、トカゲはラザに任せて、ガイアスから一定の距離を保ちつつ徹甲弾を
撃つが、深く構えた巨大な突撃槍が盾の役割もしているのだろう。弾を弾きこちらに
一気に詰め寄ってくる。 くそが! それから逃げる様に側面に回りこみ撃ち込むが、
結果は同じ事である。それを繰り返していると、
ガイアスの背後でリフィルが剣を拾っているのが見えた。よし、このまま注意を引きつければ
と、引き続き撃ち続け、その背後からリフィルが地面に剣を突き立て熱を奪おうと
するところを、振り向いて突撃槍を投げ妨害し、一足に駆け寄り彼女を掴み上げ、
壁へと投げつける。相当な衝撃があったのか、今度は気絶してしまった様だ。
「この程度か。 もう少し楽しめると…思ったのだがな」
投げた突撃槍を掴み深い溜息を吐いたガイアスに、何でこんな化物達と戦ってるのか。
それを俺は確かめたかったのか尋ねる。
「共に? 馬鹿を言う。共に戦っている覚えは無い」
そう言うと、周囲に居たトカゲを蹴散らしたガイアス。…何考えているこの爺さん。
「ここに居ると、飽きないのだ。次から次へと化物を作り出し戦えるのでな」
…そういう事かよ。なんだ…突撃槍を捨てた? 地面に深く突き刺さった槍。
「何より、私も力を得た。お前達とは少々違う様だが…」
おい。まさか…。突然、うめき声を上げたかと思うと、ガイアスが姿勢を低くし、
背を丸めた。…くそ。何か嫌な予感がする! 身を丸めるガイアスに注意しつつ、
壁に叩きつけられたリフィルに駆け寄り、彼女を抱き起こして声をかけると、
気が付いたのか、虚ろな目で俺の名前を呼びつつ起き上がった。
ふう…どうやら大丈夫な様だが、周囲を見るとラザが相変わらずトカゲの相手をし、
ガイアスはあの姿勢のまま動かな…なんだありゃ。
「ユタ…あれは?」
判らん。が、背中やら何やら煮沸した様にボコボコと…。あんまり見れたモノじゃない。
「遺伝子の急速変化。気をつけて下さい。彼女はどうやら生体兵器を持ち込んだ様です」
クリス?生体兵器…。かー…遺伝子操作かよ!と言う事は…。うわ~…。
体を丸めていたガイアスが、急に体を仰け反らせ、口から泡を吹き、顔…いや、
恐らく体中だろう血液が相当急速に増えているのか? 血管が浮き出ている。
相当苦しいのか、その表情は酷く歪んでいる。
待てよ…ともすれば。まさか…振り向いてラザが戦っているトカゲ達を見ると、
クリスが恐らくはこの国の人だろうと。…そういう事か。
然しあの竜やクラゲっぽいのはどうなる。…いや何も遺伝子操作だけが生体兵器じゃないか。
クローンやら遺伝子組み換え何かも十分に考えられる。
と、ともあれここは逃げるべきか。 普通の化物でも手に負え無いというのに、
人間の身で化物級の奴が、化物化したら手に負え無いな。
リフィルの腕を掴み、ラザに向けて撤退だと叫ぶと、ラザは頷いてその場から逃げ出した。
何て足の速い奴! まぁいい。俺達も…。嘘だろ。
信じがたい者が、ラザの逃げていった階段の左右から、逃げ場を封じる様に現れた。
「お爺様…姉さん!? 嘘…」
両手を口に当て、目を丸くし、その状況を青ざめた顔で見ているリフィル。
…くそ。誰かがアリアとセドニーの血なり髪なり、採取していたか。
クローンだろう。…許せねぇ。 どこからとも知れずこみ上げてきた怒りを
この場にいるだろう改変者に向けて声を荒げる。
「あらあら、折角愛する者を生き返らせてあげたのに…」
柱の陰から出てきたのは、あのコジックドレスを着た黒髪長髪の女。
こいつか…こいつが!! 名も知らない女めがけてクロスボウを構えると、
それを妨げる様に、女の前にクローンが立ちはだかる。
くそ…判っちゃいるが…撃て無い。 俯いた俺に突然何者かが背後から掴みかかり、
俺は体の軋む音とともに、肺が破れんばかりに痛みを訴えた。
「ユタ!? 貴様…ユタを離せ!」
リフィル…逃げろ。どう考えてもコイツは無理だ。
薄れいく意識の中、軽々と黒い毛に覆われた何かの腕に払われ、柱に衝突したリフィルを
見た。
「くそ…ガイアス。てめぇ」
苦しみながらもガイアスに向かって声をあげると、突然締め付ける力が弱まり、
女のもとに歩みだした。一体何を…。
「どうだ? 憎いか? ワシを殺したいか…?」
それどころじゃ…ねぇ。 必死で拘束から逃れようともがくが、とてもじゃないが払える
様な握力では無い。 そのまま女の下に連れこられ…。一体何を。
「何かを憎まずして、力は生まれん。殺意無くして勝利は有り得ん。
お前等には殺意が無い。…それでは楽しめる筈も無い」
口答えする余力も無く、苦悶の表情を浮かべる俺に、目の前にいるアリアのクローンを
もう片方の腕で鷲掴み、俺の目の前へと引き寄せ…何を。
「憎悪…。殺意の無いお前達がもたらした結果が…これだ」
う…。やめろ。
「やめろ!!!!!!!!」
目の前で、クローンとはいえ、アリアの姿のしたそれを握りつぶし、黒い体毛に覆われた
手の中から大量の血液と潰れた内臓が飛び散り、それを俺の頭からかけ…。
「う…やめ…うあああああああっ!」
必死で逃げ様と暴れる俺の頭から、這う様にゆっくりと生暖かい血液や内臓が滴り落ちてくる。
「殺意も持てぬ弱者が戦場に立つなど笑止千万。
その愚考の末路、身をもって知るが良い」
血で目の前が真っ赤になり、怒りで頭の中が真っ白になる。そんな中、
俺は圧迫感から開放され床へと投げ捨てられるが、起き上がる力も無く、
地面に這い蹲り、怒りとも悲しみとも判別出来ない声でアリアの名をただ呼んでいた。
「ノア。お前はすべき事があるのだろう?往くが良い」
くそ…アリア。俺は…俺の考えが間違っていて、結果彼女を死なせたのか…?
這い蹲る俺を他所に二人は、話を続けている。どうやらノアと呼ばれた女は、
他にする事があるらしく、この大陸から…これ以上…被害を広げてたまるかぁっ!
立ち上がり、クロスボウを構えノアに向けて撃った瞬間、その弾の全てをガイアスが
まるで豆鉄砲でも受けた様に平然と立ち塞がり、俺を地面に叩き伏せた。
「そう…ねぇ? もう少し見たい気もするけど。任せたわよ」
そういうと、叩き伏せられ押さえつけられた俺を一瞥して、奥へと消えていった。
くそ…動けない。何て力だこの化物が。睨みつけ怒りを訴える俺を押さえつけつつ、
ノアが完全に居なくなるのを見送ったガイアス。
「これでは面白くない。ノアに内緒で一つ隠しておいたこれをお前にやろう」
…何を。 注射器の様なものを…まさか。やめろ、やめてくれ!!
ゆっくりと、ソレが近づけられ、目で追うしかない俺の首筋にチクリ…と嫌な痛みが走り、
絶叫が謁見の間に木霊した。
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