No.161650

VESTIGE-刃に残るは君の面影-[発売前妄想編] その4

makimuraさん

2010年7月30日発売予定のエロゲー、「VESTIGE-刃に残るは君の面影-」(ALcot Honey Comb)。
発売日前に店頭などで配布されているチラシ。
それだけを情報源にして、自分勝手にストーリーをでっち上げてみようという試み。

こんにちはこんばんは。槇村です。

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2010-07-29 22:30:39 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1575   閲覧ユーザー数:1494

VESTIGE-刃に残るは君の面影-[発売前妄想編] 04

 

 

 

 

「ご存知とは思いますが」

 

西園寺と名乗る男は、流暢に話し出す。

 

「先だって譲っていただくはずだった<変若水(おちみず)>に関しては、先方からの契約破棄、という形が既に成り立っていますので問題はありません。

 ですが、ひとつ、問題が生じてしまうのです」

 

おどけた表情、笑顔はそのままに、指を一本立ててみせて。

 

「先方とあなた方との間で、契約破棄の手続きが成された。事情も御ありでしょうから、詳しく説明を求めることもやめましょう。

 ですが、間に立った私たちの立場はどうなるのか?

 私たちの頭の上を通り過ぎて、契約破棄が成された。それを周囲の方々は、私たちの力が及ばなかったがために直接の交渉を行ったのだと、思いかねない。それはフリーの立場で生きる私たちにとって、死活問題になるんです。

 君のお姉さん、静香さんと交渉をしようにも、話を切り出す前に却下されてしまいましたので。九郎くんのところに馳せ参じた、というわけなんです」

 

話の中に出てきた、姉さんの名前に反応する。

僕の隣で身を縮ませていた平塚が、

「あのひと、屋上でお姉さんと一緒にいたひとです」

と小さくつぶやいた。

 

「そこで、九郎くんにお願いがありまして」

 

コイツ、西園寺という男の警戒度が、僕の中で格段に上がる。

 

「<変若水>をひとつ、譲っていただきたい。

 それをもって、私たちはきちんと依頼を達成しているのだ、という落としどころにしたいのですよ。

 本来でしたら契約不履行の代償として要求したいのですが、さすがにそれは釣り合わないと思いますので。

 もちろん、こちらからそれなりの金銭を出させていただきます。

 その上で、以後、<変若水>を求める上客の斡旋も行わせていただきます。

 いかがでしょうか」

 

そう悪くはない提案だと思うのですが、と、西園寺という男は僕に判断を求める。

そういわれても、正直なところ、なにがなんだか分からなかった。

 

おちみず? 契約? 上客? なんのことだ。

 

でも。分かったことが、ひとつ。

姉さんはコイツのことをよく思っていない。

少なくとも、僕に会わせようとは考えてない。だから隠してる。僕は知らないままでいる。

それでも。コイツの話した内容が、知りたい。

 

「……いったい、なんの話なんだ?」

「……本当に、ご存じないので?」

 

西園寺が大げさに表情を変える。

なんたること、と、オーバーなジェスチャーで嘆いてみせた。とても、楽しそうに。

 

「<変若水>の収集に際して記憶に乱れが生じる、という話は耳にしていましたが、これほどとは。

 いやはや、いろいろと齟齬が現れそうなものですけどねぇ」

 

考えようによっては、都合がいいのかもしれませんけどね。

僕のことなど置いてきぼりにしたまま、コイツはひとりで納得している。

わけが分からない。でも言葉の端々に、僕の気にかかる言葉が現れる。

言葉の選び方、大げさな身振り、それらのいちいちが、僕をからかっている様に見えるのは、気にしすぎなんだろうか。

 

「確かに、状況が分からないことには対処のしようもないいでしょうから」

 

少し説明しましょう。

と、ひとつ手を叩き、僕に向かって満面の笑みを浮かべる。

 

「まずは、私の立ち位置を説明しましょう」

 

やはり、どこか胡散臭さを感じる笑みで、西園寺は語り出す。

 

 

 

「私はさる方から依頼を受けて、あるものの入手を求められました。

 そのあるものとは、俗に<変若水>と呼ばれているもの。

 とはいえその存在自体はそう広く知られているものではありません。

 

 この<変若水>ですが、稀少度がとても高いもので、欲しいと望んでそう簡単に手に入るものではない。

 さらに、精製する方法及び活用方法まで秘伝中の秘とされているため、具体的なものは私も想像の域を出るものではありませんでした。

 

 ですが幸いにも、私は<変若水>に関わる一族と知遇を得ることが出来まして。彼らの一端に携わることとなりました。これが先ほど私が触れた、<変若水>を必要とする方々との橋渡し役、平たくいえば斡旋ですね、そういったものを、引き受けることになったんです」

 

 

 

……<変若水>というものがあり、それを作る人たちがいて、必要とする人がいる、それは分かった。

でも、それがどんなものなのかは分からない。それが僕にどう繋がるのかも。

 

 

 

「何回かの取引を経て、それなりに信頼関係を重ねることが出来ました。

 そして数ヶ月前にも取引があったのですが、そのときは少々トラブルがありまして。

 なにがあったのかまでは分かりませんが、<変若水>の一族になんらかの不具合起きたようなんです。

 それが原因となって、その際の取引はご破算となりました。

 

 理由もあるのでしょうから、そのこと自体はまぁ仕方ありません。

 ですが私が問題としているのは、そのやり取りが私を介さずに行われたこと。

 そしてそれをいいことに、ご破算となった原因を私に求めたことです。

 知己を得た一族、そして、依頼人。共に私を攻め立てました。

 私のあずかり知らぬことが、その当事者たちの思惑で罪を擦り付けられた。私としては青天の霹靂です。

 なんとか話し合いの場を持ち、誤解を解くように努めましたが、こういったことの風聞は尾ひれをつけて拡がるものです。

 私としては、そういった根も葉もない噂を掻き消すだけの手段を得たい。そのために、<変若水>の現物を確保しておきたいのです。

 

 しかし、知己を得た当人たちにそれを願うには、少々信頼感が損なわれています。

 ではどうするか。彼らが駄目ならば、その次を担う面々にお願いすればいいのではないか。そう愚考した次第。

 そうした理由から」

 

 

荒唐無稽に過ぎる、そしてなにより、自分のあずかり知らぬ話。

 

 

「彼らの娘である静さん、そして、息子である九郎くん。君たちに接触したというわけです」

 

 

自分の知らない過去の一端が、目の間に現れた。

 

今の話を信用するならば、両親が迷惑をかけたから代わりになんとか都合をつけてくれないか、ということだろう。

両親のことを知っている。その周辺についても知っている。

姉さんたちが教えてくれない過去。それを知っているかもしれない人が、目の前にいる。

自分の知らないなにか、それを教えてくれるのならば、自分に出来ることだったら手伝っていい。むしろ手伝わせて欲しい。

 

そんな、なにかにすがる気持ちのままに、口を開こうとした。

 

「それ以上近づくでない、西園寺」

 

可愛らしい、でも、張り詰めたような声が、僕の口を閉ざした。

 

西園寺が、すぐ目の前に居る。

話を進めながら、さり気なく、いつの間にか近づいて来ていたことに初めて気が付く。

のぼせていた様な頭が、すっと、潮が引くように醒めていく。コイツから離れようと、身体が無意識に動く。

そうして、コイツの陰に隠れていた姿が目に入る。

西洋のアンティーク人形を思わせる、少女。銀髪、といえばいいのか。色が抜けたかのような長髪が、身を固める黒い衣装に映えてみえる。

 

そんな彼女の、たったひと言。その尊大な物言いが、僕の気持ちにしっかりと足をつけさせた。

 

「そやつひとりでどうこう出来るものではない。逸るでないわ」

「……そう、ですね。確かに、少々逸ってしたようです」

 

西園寺が、小さく、本当に小さく、舌打ちをしたのが見えた。

飄々とした、それでも丁寧な物腰が、そのとき初めて本音を漏らしたような気がする。

そして、ほんの一瞬、憎憎しい、忌々しい、という色を目に浮かべた。

話の本題が、僕にあることはなんとなく感じられる。

しかし、僕がそれほど憎憎しく見られる理由が、まだ分からない。

 

「あなたに出張られたのでは、私としても引くしかありませんね」

 

視線は僕から少しも逸らさずに、コイツはあの女の子の声に応えた。

仕方ない、とひとつ息をついて、僕の側から少し身を離す。飄々とした軽そうな表情をかけ直して

 

「では、九郎くん。先ほどの、私からのお願いを、考えてみてください。

 より詳しい内容については、お姉さんに尋ねてみるといいでしょう」

 

それでは、と、身形を整え、僕に背中を向けゆっくり歩み去る。

女の子の横を通り過ぎ、音を立てながら扉を開け、図書室から出て行った。

 

それを見届けて、身体中から力が抜ける。

想像以上に力を入れ、強張っていたんだろう。思わず座り込みそうになってしまった。

 

「……平塚は、平気?」

 

我ながら、なにが平気なのかはよく分からない。けれど、横に立っていた平塚に思わず声をかける。

緊張からか、空気に呑まれていたのか。声は出さずに、僕の声に数回うなずく。

そんな僕たちに、初対面の女の子が声をかけてくる。

 

「お主、なにもされてはおらんか?」

 

妙に古めかしい口調。中学生に上がったばかりというくらいの外見からは、そんな時代がかった言葉は連想できない。

彼女が醸し出す、雰囲気というのだろうか。

口調、物言い、人形のような可愛らしさ。

それらにギャップを感じずにはいられないはずなのに、妙に似合っているようにも思う。

 

「ヤツらがお主をかどわかすとも思わなかったが、念を入れて介入させてもらった」

 

済まぬな、と、彼女はいい、僕の側へと歩み寄る。

 

「あやつらと言葉を交わすのは、お主にも静にも、都合が悪いと思っての」

「あの、君はいったい……」

 

さも当然のように話を進める、目の前の少女。

この娘といい西園寺とかいうやつといい、自分の知らないところで話が転がっている。

いくら普段の僕が無気力だといっても、無関心でいるにも限界ってものがある。

見も知らぬ人たちが、目の前で、僕に関する、僕の知らない事柄をやりとりしているのだ。

さすがに無視することは出来ない。

 

「そういえば、お主は余のことは知らんのじゃったな。」

 

そんな僕の戸惑いを、ようやく察してくれたのだろうか。まるで既知であるような話し方を彼女は改めた。

 

口を開こうとして、

 

「クロぉーーーーーーーーーーっ!!」

 

図書室の扉が盛大に開かれた、その音にかき消される。

 

「……どうして姫が、クロと一緒にいるのよ」

 

飛び込んできた、僕の幼なじみ。瑠璃は僕の前に立つ少女を睨みつけた。

彼女が漏らした言葉は、苦々しく、どこか苦しそうにも聞こえた。

 

その理由は、もちろん、僕に分かるはずもない。

 


 
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