No.161215

嘘・恋姫無双 第三話 『絶望』

マスターさん

はい、これで見習いから卒業します。
こんな駄作製造機が卒業してしまって良いのでしょうか^_^;

今回で過去編はお終いです。
誰か一人でもおもしろいと思ってくれたら幸いです。

2010-07-28 00:22:20 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:4665   閲覧ユーザー数:4004

 どのくらい気絶していたのか分からないが、白星が目を覚ました時は、すでに日が傾きかけていた。

 

 後頭部には未だに鈍痛が残っていた。それと同時に頬にも激痛が走った。触れてみると、頬は目の下から、顎の先ぐらいまでばっくり割れていて、血が固まっていた。

 

 彼はその瞬間はっきりと記憶を思い出した。意識を失った後、うっすらだが意識を取り戻した事を。目の前には村を襲った頭目が、冷徹な微笑を湛えていた。うつ伏せに倒れている白星の髪を掴んで、無理やり自分と視線を合わせていた。

 

「よぉ。目ぇ、覚めたか?」

 

 その頭目はまるで愛しいものを愛でるような目つきで彼を見つめた。

 

 彼は自分の小刀を何気なく抜くと、鼻歌を歌いながら、彼の頬に突き刺し、ゆっくりと下にずらした。意識が薄いせいなのか痛みはあまり感じなかった。

 

 それよりも、頭目の吐く生臭い息の方が、彼の胸をムカつかせた。しかし、体は動いてくれなかった。

 

「賊を相手に木刀を得物に使うなんて、甘い甘い。

 その甘さに免じて、お前は生かしておいてやるよ。ただし、覚えておけよ。

 これはお前の責任だ。お前はこれから一生これの夢を見て魘されるがよい。

 貴様にもう安眠はない。クックック・・・・あーはっはっはっは!!!」

 

 笑いながら流星のもとを離れる頭目の笑い声を白星は今まさに聞いているかのごとく思い出した。

 

 そして、白星は視線をばっと真っ直ぐに向けた。

 

 そこには、あるはずの物がなかった。

 

 ここに来て間もない彼を迎え入れてくれた村が。

 

 得体の知れない彼を温かく迎え入れてくれた村人が。

 

 彼を実の息子のように育て、慈しんでくれた村長が。

 

 彼の目の前にあるのは、かつて村であったとものとかつて人間だったものだった。

 

 村は火を付けられたらしく、まだ所々で燃えているが、大半はすでに灰になっている。

 

 かつて人間だったものはすでに肉の塊になっている。

 

 そこに彼を除いて生のあるものはいなかった。

 

 男は四肢をバラバラにされ、見るも無残な姿をしていた。

 

 女性はきっと盗賊どもの慰み者になってから殺されたのであろう、衣服を剥ぎ取られ、恐怖に染まった表情のまま死んでいた。

 

 目の前が真っ白になった。

 

 思考が完全に停止した。

 

 何が起こったのか全く理解できなかった。

 

 しかし、これだけはわかった。これは全て自分の責任であるという事が。

 

 賊の頭目があれ程弱いはずがなかった。規模も報告より小さかった。どうして、それに気がつかなかったのだ。

 

 そして、耳の中で響く頭目の高笑い。その声は決して彼の耳から離れる事はなかった。

 

「~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!」

 

 彼の口からは人間のものとは思えない音が流れ出した。

 

 それは筆舌に尽くしがたい音で、決して人間が発することが出来ないようなものだった。

 

 それは遠くで聞けば、まるで悪魔の雄叫びにでも聞こえただろう。

 

 森の中の生き物は怯え、熊やトラなどの猛獣であっても、恐怖のあまり逃げ出した。

 

 その雄叫びは止むことはなかった。彼が意識を失うまで絶え間なく続いていた。

 

 白星はその日、覚醒、絶叫、気絶、を繰り返していた。

 

 いくら気絶しようと、目の前の光景は消えなかった。

 

 かつて村であったもの、かつて人であったもの、これはお前の責任、頭目の高笑い。

 

 何度も何度も、彼は目覚め、叫び、気絶した。

 

 やっと己を取り戻した時、自分がどれだけの間、発狂していたのかわからなかった。最初に目覚めたとき、日暮れだった。今もまた日暮れである。彼は丸一日の間、己を失っていたのである。

 

 彼は立ちあがった。立ち眩みがしてすぐに膝をついてしまった。頬の傷を触れる。すでに完全に固まっているが、おそらく血を流しすぎたのであろう。

 

 しかし、彼は無理やり自分を立ちあがらせた。後頭部の痛みはまだ深く根付いているし、叫びすぎたせいか、喉はまるで焼けただれているかのような感覚がする。全身が鉛のように重かった。しかし、彼はそんなものに構わずに立ちあがった。

 

 正気を取り戻した彼がまず行った事は、全ての村人を土に還すことだった。小さな村とはいえ、人口は百人以上いるはずだった。

 

 しかし、彼は休む間もなく、地面を掘り、かつて村人だったものを埋めた。バラバラになった身体を集め、一人一人に墓を作った。

 

 埋めた後は手ごろの石を何個か積んだ。自分がどうしたいのかわからなかった。

 

 しかし、大好きだった村人をこのまま野晒しにすることだけは、絶対にしたくなかった。涙が留まることなく頬を伝わり続けた。終わりが見えない行為を彼は三日間続けた。

 

 全ての遺体を埋めると、彼はフラフラの体を村だった場所の奥に向けた。そこには緊急用の食物が保存してあった。

 

 賊も自分たちの行為、狂乱に酔い、それには気付かなかったようだ。

 

 四日間飲まず食わずだった彼は、その食物を貪り食った。

 

 急激に胃に物が入ったため、体がそれを受け入れず、もどしてしまった。しかし、それでも彼は食べ物を胃に押し込んだ。

 

 生きてやる!

 

 俺に温かくしてくれた村人たちのためにも俺は必ず生き抜いてやる!

 

 そして、もう二度とこんな思いをするような人間が現れないように、賊どもを全て皆殺しにしてやる!!

 

 もう甘いことなんて言わない!

 

 次は躊躇いなく殺してやる!!

 

 白星は強く自分に言った。

 

 もうすでに目には涙はなかった。

 

 全て乾いてしまった。

 

 全てを失ってしまった。

 

 残ったのは、不甲斐ない自分への憎悪だけだった。

 

 弱い賊徒を数人打ち払っただけだった。たったそれだけのことで英雄面してしまった。自分なら村を守れると過信してしまった。そのせいで何もかもを失ってしまった。

 

 これはお前のせいだ。

 

 頭目の声が何度も耳に響く。

 

 そしてあの高笑い。

 

 もう二度と正常な自分に戻れないかもしれない。

 

 二度と心の底から笑う事はできないかもしれない。

 

 しかし、彼はたとえ修羅になっても構わないと思った。もう二度とこれが起こりさえしなければ。この先、どんな地獄が待っていようとも。

 

 彼はある程度ものを胃に押し込むと、残りは全て布に包んだ。そして、村長だったものが身に着けている衣服を首に巻きつけた。それは形見であるとともに、二度とこれが起こらないように己を戒めるもの。

 

 彼はそのまま休む間もなく食べ物の包みを持って旅立った。

 

 どこへ行く先があるのでもなく。

 

 ただ、ここに戻ることは二度とないのかもしれない。そう密かに思いながら。

 

あとがき

 

はい、とうとう三話目の投稿になってしまいました。

 

他の皆さんの作品を見ると、やはり秀逸すぎて、

 

あぁ、やっぱり投稿するんじゃなかったかなと、

 

後悔の念に苛まれるわけですが。

 

次回から、やっと物語が始まります。

 

女性キャラも少しずつ登場します。

 

女性の描写が非常に難しくて、

 

上手に表現できないのが非常に残念です。

 

少しずつ、上手くなれればなぁ、と思います。

 

一人でもおもしろいと思ってくれたら、引き続き投稿したいと思います。

 


 
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