No.161097

VESTIGE-刃に残るは君の面影-[発売前妄想編] その3

makimuraさん

2010年7月30日発売予定のエロゲー、「VESTIGE-刃に残るは君の面影-」(ALcot Honey Comb)。
発売日前に店頭などで配布されているチラシ。
それだけを情報源にして、自分勝手にストーリーをでっち上げてみようという試み。

こんにちはこんばんは。槇村です。

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2010-07-27 15:13:05 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1295   閲覧ユーザー数:1259

VESTIGE-刃に残るは君の面影-[発売前妄想編] その3

 

 

 

 

姉さんが退院するまで、瑠璃の世話になる。

こういうのもなんだけど普段から世話になりっぱなしなので、そのこと自体に抵抗はない。

悪いな、という遠慮の気持ちはもちろんある。でもそれを表に出すと、逆に瑠璃が機嫌を損ねかねない。

これまでの付き合いでそれはよく分かっている。

だから僕は、いわれるままに世話を焼かれ、ありがとう、と、感謝の気持ちを伝えるにとどめる。いつもの通りに。

 

 

 

 

 

僕の世話を焼く、といっても、普段の生活と比べて大きな違いはなかった。

瑠璃とクラスは同じだから、一緒に居ることはいつものこと。

放課後も、瑠璃の部活が終わるまで図書館で本を読む。

その後に一緒に帰り、瑠璃の家まで送る。着替えを終えたら、買い物をしつつ僕の家へ。

夕食を作ってもらった後に、いろいろ話をしたり宿題をしたり勉強を教えてもらったり。

いい時間になったら、瑠璃が帰宅。送っていくという僕の申し出を断ってくるのはいつものこと。

毎回送るといってみても、一度として受け入れない。一度くらい送らせてくれてもいいのに。

朝起きれば、瑠璃が昨夜のうちに用意してくれていた朝食を食べる。

一服しているうちに、瑠璃が迎えに来てくれて、ふたり揃って学校へ向かう。そんな生活。

まさにべったり張り付いている、といってよかった。

 

……自分でいうのもなんだけど、僕と付き合うのは結構面倒だと思う。

正直なところ、そこまで良くしてくれる理由が分からない。

記憶のない小さな頃、姉さんと瑠璃の前で、僕は死にかけるほどの大怪我したらしい。

弟を危険から助け出すことが出来なかった、そんな負い目があるんだろうか。

もしそうだとしたら、そんなものを感じる必要なんてまったくない。

あれこれと気を配り身を砕いて接してくれるふたりに対して、感謝以外の気持ちは湧きようがない。

 

感謝の念はいくらでも湧いてくるんだけど。

 

ここ数日は身の危険をビンビンに感じる。普段周りに無頓着な僕でも感じられるくらいに。

平たくいえば、瑠璃が終始張り付いている僕に向けられている嫉妬。

嫉妬の念に質量があったら、絶対僕は圧死してると思う。

 

先にもいった通り、瑠璃は女性として相当レベルが高い。

学校の成績は学園トップを維持しているし、運動神経も抜群で、薙刀の実力者として腕っ節も相当なもの。

そんなスペックをひけらかすこともなく、明るく人当たりのいい性格は男女問わず好かれている。

僕の世話が日常になっているせいか、友人その他に対してもとても面倒見がいい。世話好きなんだな。

そんな瑠璃に対して、特別な異性として目を向ける人はたくさんいる。

恋愛感情を抜きにしても、瑠璃はすごい人気者だ。

そんな彼女が、始終無気力でぶっきらぼう、言葉数も少ない色黒男な僕に、常に親しげな態度で引っ付いている。

なにかと不穏な目で見られずにはいられない。うん、僕でもそう思う。

僕なんかに構ってばかりだと瑠璃の評判にも関わるんじゃないかと、当人にいってみてもまったく気にしない。

「今更なにいってんのよ」と笑い飛ばされた。

 

瑠璃が気にしていないのに、僕が気にしていても仕方ない。

いつもの通り、僕は目の前の問題を棚に上げることにした。

 

 

 

 

瑠璃の世話を受け出して、同時に周囲からプレッシャーを受けるようになって数日。

姉さんの退院が明日に決まった。

毎日見舞いに行っていたから、元気なことも身体に問題がないことも知ってる。

それでも、嬉しい。

 

「もしアンタの気力が人並みだったら、今のアンタは絶対スキップしてるわ」

 

瑠璃にそんなことをいわれるくらい、僕は珍しく舞い上がっていたみたいだ。

自分では全然気づかないけど。

 

そんな僕の変化をに気づいた人がもうひとり。

 

「……クロくん、なんだか御機嫌ですね」

「そう?」

「はい、お姉さんの退院が嬉しい、っていうのがよく分かります」

「え、どうして分かるの?」

「見れば分かりますよ?」

 

平塚若葉。僕や瑠璃のクラスメイトで、図書委員。僕の数少ない顔なじみのひとり。

図書館に入り浸る内に自然と接点が増え、話をするようになった。

本の趣味が似通っているせいか、珍しく会話が進む人だ。

……でも、どうして分かったんだろう。そんなに浮かれてたのかな。

 

「なんとなく、ですけど」

 

くす、と、薄く笑われた。

でも、嫌な笑い方じゃない。

 

「ごめんなさい」

「いいよ、少しは自分でも自覚はあるから」

 

どう見られていたかはともかく、笑われている内容はまさにその通りのことだ。

瑠璃の部活が終わるまでの間、大人しく笑われておこう。

 

そんな笑い話をいくらか交わしているうちに、平塚の表情がだんだん硬くなっていくことに気づく。

 

「どうかした?」

「……クロくん、お姉さんが屋上から落ちた理由って、聞いてますか?」

 

いきなり振られた話題。首を横に振りながら、彼女同様、自分の表情も硬くなるのが分かる。

 

 

 

 

姉さんが屋上から落ちたあの日。その直前、姉さんの側にふたりの怪しい男がいたという。

僕と瑠璃が図書室でだべっていたころ、職員室から図書室に戻る道中でそれを見たらしい。

見たといっても、遠目でもあったし、階数も違ったからはっきりと見えたわけじゃない。

 

見えたものは、静姉さんが刀を持って、そのふたりの男と戦っている光景。

 

でも、その想像もしない光景は妙に浮き上がって見えて、忘れることが出来なかった、と、平塚は言葉を漏らす。

 

「……黙っていてごめんなさい。クロくんにいってもいいのか、分からなくって」

 

顔をうつむかせる。黙っていたことが心苦しいのか、それとも口にした内容が恥ずかしかったのか。

そんな風に茶化して、話を流してしまいそうになるのを堪える。

普通だったら、笑い飛ばしてもいいところだ。冗談にしても、内容がちょっと痛々しい

自分の姉が、刀を持って見知らぬ男に斬りかかっていた。そんなことをいわれたら面食らうに決まっている。

 

「じゃあ、その戦ってたやつに、姉さんは落とされたってこと?」

「そこまでは分かりません……」

「大まかな話はそれで合っていますよ」

 

聞きなれない声。平塚と僕の会話に突然割り込んできた。

図書室の入り口。扉が開いた音も気配も感じなかったその場所に、見たことのない男が立っている。

 

「八夜くん、ではなくて、九郎くんでしたね。はじめまして」

 

丁寧な口調で、挨拶をしてくれる男。

紳士然とした立ち姿。スーツというよりも、これから夜会にでも行くかのような洒落た雰囲気の装い。

靴、長いコート、帽子、鼻にわずかにひっかかるような眼鏡。全身を黒くまとめた姿に、金色の長髪と紫色のスカーフタイが妙に浮き上がって見える。

学校という空間に中には、不似合いな風袋。

そしてなによりも、妙に丁寧な話し方が、その男の胡散臭さを醸し出していた。

 

「……はちや?」

 

「あぁ、それはお気になさらずに。こちらのことですので。

 改めて、はじめまして。三原九郎くん。私は、西園寺、と申します。

 唐突で申し訳ないのですが、私に同行していただきたいのですよ」

 

笑顔を浮かべて人懐っこそうに話しかけてくる、西園寺と名乗る男。

こちらの都合などまったく考えないように、こいつは僕に語りかけてきた。

 

 

 


 
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