「まだまだ呑むぞーーーー!!!!」
「あったりめぇよ~!今日だけは母ちゃんなんか怖くねぇぜ!」
「ぎゃははははっ!とか言って、実際目の前にしたら頭下げるんだろ~?」
「う、うるせぇ!いいか?怖くねぇったら怖くねぇんだ!いいから酒よこs「あんた!!」・・!?か、母ちゃん!?」
「「「「「「「「あはははははっ!!!!!」」」」」」」」
----------大人たちの喧騒----------
「あ、それお菓子?」
「そーだよ。”わたあめ”っていうんだよ」
「それ、おいしいの?」
「うん!すっごく甘いんだよ!食べる?」
「うん!ちょうだい」
----------子供たちの喧騒----------
夜にも関わらず、町中は大盛り上がりである
それもそうであろう・・・
今はこの町・・・2年前に魏、呉、蜀の三国の中心に建設された”天陽”では、三国をあげての平和式典が行われており、町では平和式典の開催期間、三国の商人たちが出店を出したり、この町の人々により、何かしらかの催し物が行われている
さらに今年は・・・
あの”天の御遣い”である”北郷一刀”が、この平和式典より、この町に城を構えることになっている、という御触れが、開催する一ヶ月前から立てられていた
その情報を知った住民たちは心の底からの歓迎を表していた
そんな町の喧騒の中・・・
ある1人の女性が、感情を表に出さずに、騒がしい人々からは離れた民家の壁に寄りかかり、そんな人々を見つめていた・・・
銀色の短い髪を風で揺らし、背中には戦斧を背負った女性・・・
かつては戦うことで自分を表現できていた
いや、それが唯一の手段だった・・・
そして・・・
いつか自分の力で、主の為に平和を勝ち取ると心に決めていた
それがどうだろう・・・
戦乱の時代が終わり、蓋をあけて見れば、自分は只の邪魔者に過ぎなかった・・・
暴君”董卓”に仕え、汜水関にて暴走したあげく、孤立して散った馬鹿な将軍・・・
それが世間から向けられた評価だった・・・
----------私はまだやれる!----------
何度そう思っただろうか・・・
しかし・・・・・・
そう思う度に・・・
周りが・・・
歴史が自分を否定する・・・
だから・・・・・・
この目の前の光景を見て思う・・・・・・
----------自分はまだ・・・・・・必要なのか・・・・・・----------
と・・・
「・・・やめだ」
考えることをやめた・・・
それは何故か・・・
無論・・・
答えは決まっているからだ・・・
「・・・・・・私は・・・「あのー、すみません」・・えっ?」
突然、低い男の声を掛けられ戸惑う
そして・・・
声を掛けてきた男の顔を見て、さらに驚きは増す・・・
「なっ!?お、お前は!」
そう、笑顔を向けるその男こそ・・・
「えっと、華雄さん・・・だよね?」
大陸の運命を変えた男・・・
そして・・・
この銀髪の女性・・・華雄の運命さえも変えてしまうであろう・・・
天の御遣い”北郷一刀”である・・・
「な、なぜ、こんな所にいる?」
「いや~、何故って言われても・・・。これから暮らす町だから・・・かな?」
「そ、そういう意味ではない!なぜ、天の御遣いである貴様が、城にいないんだ?」
一刀はある意味では、今日の主役である
城の中では、三国の重鎮である者たちによって、それなりの催し物が用意されていることなど、華雄でも簡単に想像できた
「あぁ、そういうことか。うん、なんか皆で騒いでたら疲れちゃってさ。外に出たら町の人たちが楽しそうにしてたから、散歩がてら・・・ね」
「なっ!?護衛もつけずに1人でかっ!?」
「まぁね」
さすがの華雄も開いた口が塞がらない
華雄自身、今まで大陸中を歩いてきたが、北郷一刀のことはどこに行っても耳にしていた
確かに、批判的な意見もあったが、ほとんどの町ではかなりの慕われようだった
それだけ民の心を掴んでいる男が護衛もつけずに外を出歩いている・・・
「・・・お前はアホなのか?」
「えぇっ!?いきなり!?」
そんな一刀の反応に華雄がため息をつく・・・
「って、俺のことはもういいから!それより華雄さんはどうしたの?」
「?・・・どうした・・・とは?」
一刀からのいきなりの質問・・・
華雄も戸惑いがちに言葉を返す
「さっき言ったでしょ?町の人たちは皆、楽しそうにしてた、って。でも、華雄さんは・・・笑ってなかった・・・・よね?」
「ッ!?」
バッ!
一刀の言葉に驚いて、思わず顔を上げる
「(・・・こいつ)」
一刀の何気ない言葉・・・
誰が笑顔で、誰が笑顔でないか・・・・・・見ていれば分かること
しかし、この男は・・・この人で溢れかえる町の中から笑顔でいられなかった自分のことを見つけた・・・
「(・・・偶然か・・・それとも・・・)」
華雄はしばらく考え込んでいたが、
やがて・・・・・・
「北郷一刀・・・」
「なに?」
「・・・・・・お前は・・・今の”平和”は”本物”だと思うか?」
一刀の目をしっかりと見据え、問う・・・・・・
「平和が本物か・・・・・・ね・・・・・・」
一刀も華雄から真剣な思いが伝わったのか、すぐに考え出したが・・・
「どうして、それを?」
気になることを逆にぶつけた・・・・・・
しかし、華雄も慌てずに一刀からの質問にゆっくり答えを口に出す
「・・・・・・私は・・・」
「・・・・・・」
一刀も真剣な面持ちで華雄の言葉を待つ・・・・・・
「・・・私は自分の武を・・・自分の想いを・・・誇りに思っている・・・・・・今でもだ」
「・・・うん」
「かつては、董卓様に惹かれ、董卓様のためにこの戦斧をふるっていた・・・」
正直に言ってしまえば、董卓の掲げる理想”戦争のない穏やかな世界”というものを華雄は理解することはできなかった・・・
しかし、董卓だけは・・・民から兵まで隔たりなく心優しいあの女の子だけは守ろうと思った・・・
それこそが、天から与えられた自分の使命だと思っていた・・・
「・・・・・・だが・・・」
目を伏せ、顔を俯かせる・・・
「それも結局・・・・・・守ることはできなかった・・・・・・」
「・・・・・・」
一刀は、ただただ、黙って聞く・・・
「・・・お前たち連合軍に負け・・・私自身も張飛との一騎打ちに敗れた・・・」
「・・・そう・・・だったね・・・」
「私はなんとか一命はとりとめたが・・・・・・董卓様は討ち死になされたと聞いた・・・」
一刀は一瞬”あっ”と口を動かした・・・
「あの方の理想が敗れ・・・これからどのような時代になるのか・・・そう思った結果が・・・・・・」
華雄は俯かせていた顔を上げ、お祭りで騒いでいる民の姿を見る・・・
「・・・・・・これだ」
「・・・・・・」
「・・・・・・結局は董卓様が望んでいた”戦争のない穏やかな世界”がやってきた。・・・そう考えると、自分は何のために存在していたのか分からなくなった・・・」
自分は”善”だったのか、それとも”悪”だったのかさえも・・・
「・・・だからこそ・・・聞かせてくれ・・・。この平和は本物なのか、を・・・」
自分が抱えてきた数々の疑問・・・
この質問の答えがもらえれば、全て片がつく・・・
「・・・・・・・・・ふぅ」
華雄の言葉を聞き終え、一刀はゆっくりと息を吐いた
「うん、じゃあ”今の俺”の答えで良ければ答えるよ」
「・・・・・・あぁ、聞かせてくれ」
今度は華雄が真剣な面持ちで、一刀の言葉を待つ
「・・・正直に言えば・・・・・・」
「・・・あぁ」
少しの間をあけ、答えを絞り出す
「・・・・・・分からない・・・かな・・・」
「!?分からない・・・だと?」
少しだけ、目を細め一刀を見る・・・
「あぁ、分からない・・・・・・。だって・・・・・・」
華雄の強い視線を真っ向から受けながらも、続ける
「俺たちがしてきたことは、大陸の人たち全員から見て、全て正しいと言われるようなことじゃないから・・・」
「・・・・・・」
「ゆ・・・董卓の時もそうだけど・・・まず、根本的に”戦争をした”っていう事実は正しいことじゃないと思うんだ・・・」
「・・・だが、その戦争があったからこその”今”ではないのか?」
「確かにそうだよ・・・・・・。でも・・・・・・」
顔を俯かせて、声を絞り出すように答える
「たくさんの人が・・・死んだよ・・・・・・」
「・・・・・・戦争だから・・・な」
そう答える華雄の言葉に頷きながらも、少しだけ悔しそうな表情を見せながら
「・・・戦争だから人は死ぬ・・・当たり前のことだよ。・・・でも、この今の平和の為に本当に犠牲になる必要はあったのかな?って、戦争が終わってから思ったよ・・・」
「・・・・・・」
「・・・戦争してる時は、どこか自分の中で割り切ってる部分があった・・・・・・。そうしないと耐えられなかったから・・・・・・自分の心が・・・」
民から将に至るまで、決して戦いたいわけではなかった・・・
そんなことは大陸の全ての人が分かっていること・・・
しかし・・・
民や兵は家族を守るため・・・
将は主の理想を支えるため・・・
戦い続けた・・・
「俺も劉備も曹操も孫策も・・・自分の理想を信じてここまでやってきた。でも・・・・・・そのせいで多くの人たちを巻き込んでしまった・・・」
「・・・・・・」
華雄は何もいえない・・・
なぜなら・・・
かつては自分もその1人だったから・・・
「・・・だから・・・俺は今の平和が本物かどうか軽々しく答えるわけにはいかない・・・」
“でも”と一刀は続ける・・・
「今の平和を守っていくことが・・・次の世代に引き継がせることが、今の自分たちにできる精一杯のことだと思ってる・・・」
「今の平和を・・・・・・守る・・・」
華雄の言葉に一刀が頷く・・・
「うん、そう。・・・・・・だからさ、華雄さん・・・」
今度は笑顔を向けて・・・
「これからは俺たちと共に平和を守ってほしい・・・。それを華雄さんの存在の理由にしちゃダメかな?」
「!?私が・・・」
それは・・・
平和を乱した罪人としか見てもらえなかった自分にとって
思ってもみなかったこと・・・
「!!しかし、私は・・・」
傾きかけた心にちらつく、かつての仲間の・・・心優しい主の影・・・・・・
「それにさ・・・」
そんな華雄の様子に気づいたのか、続けざまに言葉を発する
「もう戦争が終わったから言うけど・・・・・・」
頬をかきながら
「月も詠も恋も音々音も霞も・・・みんな生きてるよ」
「!?な、なんだと!と、董卓様たちが生きてるのか!?」
かつての主の真名を聞いた途端に取り乱す
それほど衝撃的な事実・・・
一刀も頷きながら
「だから・・・行こう。皆のところに」
華雄に向けて手を差し出す・・・
「あっ」
華雄は差し出された手を見て確信する・・・
----------“なんと慈愛に満ちた手なのだろうか”----------
おそらく、この男の言葉に偽りなどない
つまらない嘘を吐く、その程度の男ならこんなに穏やかな気分にはなれない・・・
しかし・・・
それなら直のこと・・・
自分のような者が、この男の近くにいるわけにはいかない・・・
所詮・・・
自分は・・・・・・
「あぁ、もう!ほら!」
「なっ!?」
なかなか煮え切らない華雄の手を一刀は”ギュッ”と握って、城の方へと歩みを進める
「は、離せ!」
「月たちだって、きっと会いたいって思ってるはずだからダメだって。というか、何でそんなに嫌がるのさ?」
一刀の言葉に華雄は少しだけ俯く
「・・・わ、私には・・・理由が・・・・・・ない」
心の奥底でどうしても邪魔をしてしまう
“存在の理由”への渇望・・・・・・
華雄にとって、一刀たちのように平和を勝ち取った人間は眩しい存在に思えてしまう・・・
それを今更・・・自分がノコノコと行って、その輪の中に加わるわけには行かない・・・
そんな想い・・・
「・・・はぁ~」
一刀は華雄の手を握ったまま立ち止まり、息を吐いた
「だったら・・・」
華雄の方へ向き直り、言葉を続ける
「これからは皆で探そうよ。その理由・・・」
「!?皆で・・・だと?」
華雄の言葉にコクリ、と頷く
「そう。月も詠も恋も音々音も霞も・・・それに俺だっている・・・・・・。もちろん三国の皆だっている」
「・・・・・・」
「1人で考えてると堂々巡りになっちゃうよ。肯定する自分、そしてそれを否定する自分が心の何処かにいるから・・・」
「・・・・・・あぁ」
それは華雄自身、一番分かっていること・・・
「・・・だから、もう一度だけ言うね?」
一度繋いだ手を離して・・・伝える・・・・・・
----------帰ろう?キミがいるべき場所に----------
離した手を再度差し出す・・・
今度は自分から掴んでほしいから・・・
華雄自身のこれからのために・・・
幸せを願って・・・
「・・・・・・・・・」
温かい気持ちが華雄の心の中に染み渡る・・・
一刀の心の温かさに触れ、自分の中で何かが変わることが分かる・・・
そして・・・
そんな変化を受け入れる自分がいることも分かる・・・・・・
だから・・・
「・・・あぁ」
----------差し出されたその手を掴んだ----------
2人は手を繋いだまま、城への道を駆けていた
「北郷」
「えっ?なに?」
「私は・・・董卓様たちにお会いして何と言えばいいのだろうか?」
真剣な面持ちの華雄からの疑問・・・
しかし、一刀は対照的に笑顔で答える
「そんなの簡単だよ」
「う、うむ。そうか?」
「あぁ。・・・・・・ただ一言・・・」
----------”ただいま”って言えばいいんだよ・・・・・・----------
1人の恋姫の・・・
決して噛み合うことのなかった外史という”時”の歯車・・・
彼女の幸せを願う者の想い・・・
そんな想いが”彼”と恋姫を惹き寄せた・・・
噛み合った歯車はどのような時を刻むのか・・・
新たな外史の突端が・・・
今・・・
開かれた・・・
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『あなたと共に』から一旦離れて、新作です。まだシリーズ化の予定はないですけど、好評だったら頑張って書きたいと思います。
ぶっちゃけると、華雄のお話です。
少しでも幸せになって欲しいという作者の我侭にお付き合いいただけたら嬉しいです。
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