No.160520

八陣・暗無8

昔書いた作品をアップしてみました

2010-07-25 10:29:16 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:800   閲覧ユーザー数:798

 葉山が言ったとおり、会議が始まった。

 まず、一番豪華な椅子に社長が座り、その両脇にはダミーの上部が二人立っている。そしてそれを囲むように八陣全員が座っていた。

「・・・・・・。」

 昨夜風間と接触したからか分からないが、堂々と葉山が技術研究部という名の札の席に座っていた。

 ダミーの上部はこの会議の司会を務める。

「これより上層会議を始める。だが、その前に新しく入った二名の自己紹介と上層会議のルールを教える。」

 社長はいつもと同じ態度を装うが、明らかに葉山の存在を意識していた。

 全員の視線を浴びせられているのに気付き、風間はゆっくりと席を立った。

「私は暗殺部代表の風間神海。コードネームは暗無。新人だが、あくまで実力でここまで這い上がってきた。15歳だからといって勘違いだけはしないでほしい。」

 大胆不敵な紹介にも、他のみんなは風間に拍手を送った。

 そして、葉山が立ち上がる。

「技術研究部の葉山信也。核、魚雷、原子力爆弾に水力爆弾を重点とし、ナイフや銃器、防弾チョッキや戦闘服の発明が認められ八陣に昇格しました。歳は32で、まだまだ未熟ですが今後ともよろしくお願いします。」

 こちらも拍手を送られる。

「電卓開発部の木田恭平だ。足し算に引き算。九九はもちろん簡単な分数の割り算もできる。コードネームは天才算数博士だ。嫌いな教科は数学。」

「・・・・・・。」

 パチパチパチ。風間は無言で拍手をした。その意図を読んだのか、周りの八陣も拍手を送る。

「・・・・・・うわ、スルーされた。」

 上部は咳払いを一つしてからプログラムを進めた。

「では、新人にこの会議の目的を説明する。交流、意見交換、会社の現状、会社の方向性の確認の4つである。基本的に半年に一度。だが、緊急会議を開くと時もある。くれぐれもこの上層会議には欠席しないよう願いたい。」

「それではテーマに入りたいと思う。今日のテーマは何故ハプネスは防弾ガラスに網戸がついているのかについて討論したいと思う。弾を避けるか虫を避けるかという究極の選択。まず、第一に30階の位置に入ってくる虫はいないと思うのだが、皆、意見があるなら言ってくれ。」

「恭平。君、帰れ。」

「なんだよオレばっかりっ!お前がボーナス出たっていうからお祝いしてやったのに帰れ帰れ帰れ帰れ!それしか言えないのか!?」

「・・・・・・あ、あの。木田様。ご静粛にお願いします。」

 どういうわけかダミーの上部は恭平に頭が上がらない様子だった。周りの八陣の冷たい目線からは、毎度のことだという空気を発していた。

「静かにしたまえ。時と場を弁えるのは一般常識だろう?」

 その一言で諦めたのか、椅子に座りなおす。

「ちっ・・・・・・若ハゲが。」

「き、貴様・・・・・・っ!」

「何だ暗無?お主ハゲなのか。ほほっ、ハゲも慣れると悪くないぞ。いっそ今から脱毛という手も・・・・・・」

 社長はなぜか嬉しそうに会話に入ってくる。

「会議を進めるか・・・・・・内部の反逆でこの空間にいる者全員の死か。・・・・・・好きなほうを選びたまえ。」

 虚ろな瞳をしたまま懐にある黒いナイフを握る。恭平と葉山を除き、他の人間は武器を身構えるか驚愕するかのどちらかだった。

「ええっと・・・・・・まず、我が社が抱えている大きな問題点を挙げます。一つは世界ランク2位、アメリカの組織FILTERがこちら側と対立する方向とのこと。このままでは本格的な戦争となり、負ける要素は少ないにしろ大きな被害を負うことは間違いないとみられます。」

 突然、葉山が立ち上がった。

「二つ目は、軽部の生存について。」

「――――――っ!」

 何の前触れもない葉山の言葉で、全員が凍りついた。

「馬鹿なっ!あれはこのガキが殺したと聞いたが。」

 小型銃器部の巨大な肉体を持つ玖珠(くす)が叫んだ。

「いえ、あれはニセモノです。本物の位置は既に捕らえています。」

「しかし、私が見たところ、軽部は本物であった。」

 生態変化部の70近いキナラが言った。ちなみにキナラというハーフの老人は昔風間が軽部に切り刻まれた時に治療をした人物だ。

「見たところ、というと死体解剖と解釈してよろしいですね?そもそも、軽部という人物は、その情報さえも誤認だと考えてくれれば結構です。」

「トイレでお尻を拭く時、トイレットペーパーを捨てたのを確認せずにズボンを履くと、お尻からトイレットペーパーがペラペラと舞う現象がある。これをドッペラー現象という。」

「木田さんはガムを差し上げますから少し黙っていてください。」

「うん。」

 恭平をたしなめる葉山。そして、その葉山をじっと睨んでいたのが先代であった。

「葉山、お主何を考えている?」

「・・・・・・そうですね。会社のため、とでもいっておきましょう。」

 周りはざわつき、同様を隠せない。軽部は危険人物のトップであり、その人物の生死によってこれからの状況の変化もありえるのだ。

「どうです社長?私としては、ここはもう一度暗無に行かせたほうが・・・・・・。」

「社長っ!ここは小型銃器部の玖珠にお任せください。元日本平和貿易連合のエースかもしれませんが、私の腕にかかればそんな男・・・・・・。」

「君のような豚には無理だ。豚は豚らしく八陣の名を汚してさっさと降格するがいい。」

 風間は顔も見ずに言い放った。

「ふははははっ!自分の獲物も逃すなんちゃってエースはおとなしくしていろ。何が八陣最強だ?子供の張ったりはここが限界だな。」

「頭髪もここが限界だな。」

(無視無視無視無視無視無視無視無視!)

 しゃしゃり出てくる恭平は無視する。

「まず、小型銃器で八陣を名乗る意味が分からない。私も暗殺で小型銃器は当然使用するのだが。」

「それがどうした?」

「八陣というのはそれぞれの分野で最高の人材が集められると聞いた。ならば、小型銃器の最強も私になるのだが・・・・・・何故君がここにいる?」

「・・・・・・ガキだからって調子に乗りすぎだな。少し大人の世界を教えてやろうか?」

「・・・・・・。」

 無言で懐にあるWarsserを握ろうとゆっくりと腕を動かす。当然、一応玖珠もそれに気付いている。

(この距離で私と打ち合いとは・・・・・・愚かな。)

 相手の力量も分からない。それはこの世界では生きてゆけない。その程度も分からないで今まで生きてきた玖珠の強運だけは認めた。

「そこまでじゃ。」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 ゆっくりと、相手の動きを見ながら戦闘態勢を解く。ただ懐に伸びた腕を下ろしただけなのだが、そこから出る殺気を抑えていた。

「軽部。あやつを野放しにすると、確かに危険じゃ。では、この任務・・・・・・恭平。お主、軽部の抹殺を引き受けてはもらえんか?」

 先代の言葉に驚き、風間は恭平に視線を投げる。だが、当事者の恭平はいつも通りの涼しい顔をしている。

「軽部の抹殺を引き受けてはあげないよ。」

 先代の真似をしたその言葉で、全員が凍りついた。ちなみにそのモノマネもかなり似ている。

「・・・・・・なぜじゃ?明確な理由を聞きたい。こちら側を納得させる答えをくれないか?」

「簡単だよ。怪我したら痛いから。」

 シ―――ン。

「あ、うそうそ。いや、そろそろオレじゃなくて、次の世代の人間がこういう大仕事をやったほうがいいと思うんだ。ハプネスの未来のためにも。多分葉山が言いたいのはそういうことじゃないのかな?」

 恭平と葉山は目を合わせると、どちらかともなく微笑みあった。

「・・・・・・信也、恭平。主らの意見は理解した。確かにその考えも一理ある。」

 風間が微笑み、懐のナイフを握った。

 だが、その期待は見事に裏切られる。

「玖珠よ。お主にこの件を任せたい。」

「はっ!」

「―――っ!」

「本来上部は三人なんだが、見ての通り二人しかいなくてな。どうだ?金額プラス上部への昇格というのが報酬じゃ。」

「上部・・・!はい!やらせて頂きま・・・・・・・」

 サク。

「ぐあぁ・・・・・・っ!」

「先代。玖珠は足を痛めてしまったので、この任務。私にやらせて頂けませんか?報酬はいりません。これは会社側にとっても大きな利益でしょう。」

 風間は数メートル先にいる玖珠の足に手投げナイフで貫き、悠々と発言した。

「こ・・・んのガキがっ!人がおとなしくしていれば・・・・・っ!」

 玖珠は怒ってベレッサ(拳銃の名)を握る。その動作を、恭平は静かに見つめながら言った。

「風間はオレの友達。その友達に手を出すってことはオレを敵にまわすことになる。」

「・・・・・・・くっ・・・・・・ち、ちくしょう!」

 短気に見れる玖珠が逆らえないところを見ると、恭平は八陣でも相当上のレベルに位置するらしい。

「軽部ね。聞いたことないけど、風間もカズの意見に反対するのはよくないな。」

「・・・・・・カズ?」

「わしじゃ。」

 先代は自信満々に胸を張る。

「・・・・・・。」

(社長をニックネームで呼ぶなんて・・・・・・何様のつもりだよ、こいつ。でもまあ・・・・・・収穫ありだな。)

「それに、強いんだろ?そいつ。なら玖珠が死んでからでもいいと思わない?」

「っき、恭平さん!」

 巨体を揺らしながら玖珠は抗議した。

「あなたも八陣を名乗るなら命をかけるべきだと思うんですが。」

「新人は黙ってろ!」

 会話に入ってきた葉山に怒鳴り散らした。

 当然、憧れの上部のNO1が葉山だということは知るよしもない。

「恭平。ただ、これは社長が間違っているとは思わないか?軽部は危険な人物だ。任務に失敗する可能性も十分ある。ならばここは確率が一番高い人物。八陣のエースを出すのが打倒ではないのか?」

「打倒ではないのか!?」

 恭平は自分に向けられた葉山の言葉を復唱して社長に視線を投げた。

「・・・・・・この会議はここまでじゃ。玖珠が任務実行後、のちにもう一度緊急会議を開く。」

 一方的に言い切ると、社長は席を立ってガードマンを連れて去っていった。

 それに習い、各々席を立とうとする。玖珠も足を刺されてもそれを顔に出さず、平然と立ち上がる。

(さあ、準備をしないと。・・・・・・これからの読み合いが勝負だからな)

 風間も不敵に笑みを浮かべて退室しようとすると、

「待て!これより八陣会議を始める!拒否は許さん!」

 恭平が叫びだすと、皆は恭平に視線を預ける。

「八陣に足りないものは何か?オレはそれを考えてきた。力はあり、知識もある。だが、ポーズが無い!よってこれより八陣を色で分け、登場シーンのポーズ練習をしたいと思う。

 ちなみに色はオレがリーダーの赤で、玖珠はデブだから黄色。神海はデコが光っているから白。葉山はうんこみたいだから茶色。キナラは・・・・・・。」

「葉山、石を投げてくれ。」

「喜んで。」

 このまま会議は終了した。

 そして、恭平と先代を突付けば突破口が見つかるということも分かった。


 
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