「シャカシャカヘイ」
唐突に鈴がタンバリンを鳴らした。チャイムと同時
に部室に直行したので、僕ら二人が一番乗りだった。
「鈴、タンバリン叩くの上手いね」
「ん、そうか? 暇だったから鳴らしてみただけだ」
素っ気ない態度を見せながらも、褒められたことは
まんざらでもなかったらしい。
「シャカシャカヘイ、ヘイシャカヘイ!」
立ち上がった上に小さな振り付けまであった。
その時、ガラッと扉が開かれた。鈴がピタリと動き
を止める。顔を覗かせたのは小毬さんとクド。二人と
も目を丸くして、タンバリンを握る鈴を見ていた。
鈴の顔がみるみる紅潮していく。
「わあぁっ!」
鈴は慌てて僕の隣に座ると、追いたてられた猫みたい
に体を縮こまらせる。
「鈴ちゃん、演奏やめちゃったの?」
「わふー。とっても楽しげな音色が聴こえてきたのです」
どうやら音は部室の外まで漏れていたらしい。
「もうやらないの?」
小毬さんが尋ねる。
「や、やらない」
鈴は僕を盾にしながら返事をした。
「え~、どうして。私も鈴ちゃんがタンバリンするところ見たかったな」
「残念です」
心底悲しそうな二人。その様子を見て鈴が「うぅ」と小さく唸った。
「よぉし、じゃあこうしましょう。私とクーちゃんも一緒に演奏するの」
さすがは小毬さん。おそらく恥ずかしがり屋な鈴の性格を考慮した上での提案だ。
「音楽室から借りてくるよ」
「私もお供するのです」
小毬さんとクドは部室を飛び出していった。
「えらいことになった……」
「まぁ、いいじゃない。きっと楽しいと思うよ」
「他人事だと思って」
鈴は口を尖らせた。他人事――そうかもしれない。でも、僕はみんなと一緒にタンバリ
ンを叩いて踊る鈴を見てみたかった。
勢いよく扉を開けて、小毬さんとクドの二人が戻ってくる。
「あれ?」
僕は二人が手にしているものを見て声を上げる。タンバリンじゃない。小毬さんが両手
に持っているのはたぶんマラカス。クドが持っているのは……トライアングル? 楽器の
チョイスが理解できない。小毬さんとクドは部室の奥へ進むと、テーブルを移動させて無
理やりスペースを作った。
「鈴さん、こちらへ」
「ま、待て。まだ心の準備が……」
クドに引っ張り出される鈴。
「さぁ、はじめるよ~」
小毬さんのマラカスがシャカシャカと気の抜けた音を立て始める。トライアングルを構
えていたクドが真剣な表情でチーンと一つ金属音を鳴らした。鈴がなかなか加わろうとし
ない。小毬さんとクドは、期待の眼差しで鈴を見つめる。鈴が「うぅ」と声を上げてたじ
ろぐ。そして、観念したようにギュッと目を瞑り、再び開いた。
「シャ、シャカシャカヘイ……」
やった。でも、まだぎこちない。
「シャカシャカ、いえーい!」
鈴が加わってくれたことが嬉しかったのか、小毬さんのテンションが上がった。
「わっふー。えきさいてぃんぐです」
クドも両腕を振り回して甲高い金属音を響かせる。
「ちーっす。遅くなって悪か……」
部室に入ってきた恭介がこの不可解な光景に絶句する。
「な、なんだこれは。バンドか?」
「まぁ、そんなとこかな」
「よくわからんがすごいな。人類には早すぎる音楽なんじゃないか」
恭介はそう言いながらも、すでにこの状況を楽しんでいるようだ。やがて、鈴のぎこち
なさは取れて、自己流のステップを踏みながらタンバリンを叩いていた。演奏している三
人は時折顔を見合わせて笑い合う。僕は彼女たちに声援を送った。
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シャカシャカヘイ!