桜舞うこの季節、今日は僕らの学校の卒業式だ。そ
う、恭介は今日この学校を、そしてリトルバスターズ
を卒業する――
「恭介……」
「おいおい、なんて顔をしているんだ理樹。何も二度
と会えないわけじゃあないんだぜ?」
確かに恭介の言うとおり卒業したからといってもう
会えなくなるわけじゃあない。でもだからといって寂
しくないわけもないんだ、それは他のみんなだって同
じ気持ちなんだろう、みんな複雑な表情で黙り込んで
しまっていた。
「じゃあ恭介は……恭介は寂しくないって言うの?」
恭介は苦労した甲斐もあって就職先も決まって春か
らは遠くの町で働くことになる。確かに二度と会えな
くなるわけじゃあない、だけど頻繁に会えるわけでも
ないんだ。
「そりゃあもちろん寂しい」
涼しい顔で恭介はサラリとそう言ってのけた。だったらどうしてそんな平気な顔でいら
れるんだろう? 僕は……僕らはこんなにも辛い気持ちだっていうのに!
「正直に言えばお前らと離ればなれになることは身を切り裂かれるような気分だ。だが考
えてみてくれ理樹、そんな仲間と……別れたくないような仲間と出会えたこと、それはと
ても素晴らしいことなんじゃないか?」
「恭介……」
「俺はな、幼いころにお前や真人に謙吾に出会ったこと、そしてこの学校で神北や能美、
来ヶ谷、三枝、西園、二木に笹瀬川、お前たちに出会えたことを誇りに思っている」
恭介の言葉に胸が熱くなるのを感じる。僕にとっても幼かったあの日、恭介が僕の手を
引いてくれたあの瞬間は何ものにも勝る宝物のような思い出だ。
「そしてもちろん鈴、お前の兄貴であることもな」
「う……」
話を振られた鈴もきっと僕と同じような気持ちなんだろう、懐かしいような照れくさい
ような、そんな顔をしている。
「そんなお前たちとの思い出があるから俺は胸を張って新しい明日に踏み出すことができ
るんだ。だからさ……笑ってくれよ」
「え……?」
「今この瞬間のお前たちの笑顔の思い出があれば、俺はどこへ行っても頑張って行ける、
お前たちとの絆をいつまでも感じていられる。だからさ、頼むよ」
……そうだ、僕はいったい何を悲しんでいたんだろう。僕らリトルバスターズの絆は
離れ離れになったくらいで無くなるようなものなんかじゃない、いつまでも心の奥底で
つながっているものなんだ!
みんなの方を振り返ると沈んだ顔はすっかり影を潜め、晴れやかな顔をしていた。ああ
、やっぱりみんな僕と同じ気持ちなんだろう、みんなとのつながりを今さらながらに実感
できる。
たとえ恭介が遠くに行ってしまっても……来年になってここにいるみんながそれぞれの
道を歩き始めることになっても、きっと僕らの心はつながっている。だから笑って見送ろ
う。それが今、僕らが恭介に贈れる最高の卒業プレゼントなんだ!
「棗くん、ちょっといいかね?」
そのとき不意に恭介に声をかけられた。あれは確か三年の先生だったっけ?
「ああ先生、卒業式なら今から行きますんで……」
「卒業? 何を言っているんだね君は、就職活動で授業に出なかっただけならばともかく
ろくに定期テストも受けないで遊んでばかりいた君が卒業なんてできるわけないだろう?
君には留年の手続きに関する話があるから後で職員室の私の机まで来なさい。それと君の
就職先にも君の留年の旨は伝えておいたから君のほうからも後でお詫びの電話を入れてお
くように、いいね?」
それだけ言い残して先生は去っていった。
「「「……」」」
そしてその場に残されたのはものすごく気まずい空気だけだった。
「……みんな、来年もよろしくな! ……うわあ!? なにをする! やめ……」
みんなの恭介への留年のプレゼントは熱い拳の数々だった。僕の感動を返せ!
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恭介の卒業式の日がやってきた。別れに沈む理樹に恭介は……?