このところ、姉さんがおかしい。
確かにこれまでも、スキンシップと称してベタベタ引っ付いて来てた。
でも最近はその頻度がやたら上がっているような気がする。
なにかあったのか聞いてみても、なんでもないの一言ではぐらかそうとするし。
なんでもない、っていう時点で、なにかある、っていっちゃてるような気がするんだけどな。
しっかりしてるんだけど、どこか抜けてる。
見えないところで、「頑張れ私、ヨッくんのために」とか気合入れているのを見たことがあるし。
なにが僕のためなんだろう。気になるからせめて僕に気取られないところでやって欲しい。
そんな姉さんだけど。正直なところ、くっついてくれるのは嬉しい。
愛されてるなぁみたいな気持ちが湧いてくるから。
両親は物心ついたときにはもういなかったし、姉・三原静の手でこの年齢まで育てられたといって間違いない。
姉どころか親代わりとして僕に接してきた姉さんだから、僕から目を離すことが出来ないんだと思う。
弟離れしてくれないかな、と思わないでもない。
逆に僕の方が姉離れ出来てないといわれればそれまでだけど。
まぁ、持ちつ持たれつ、というのを落としどころにしておこう。
話を戻すと。
このところ、姉さんのスキンシップがグレードアップしていてなんだかおかしい。
その反面、ふい、っと僕の側から居なくなることがある。
居るときと居ないときの落差というか、そんなものが感じられて妙な不安に駆られることがある。
こういうのがまとまって、訳の分からない不安になっているんだろうか。
腕に大きな胸の感触が感じられなくて寂しい、とかそういうんじゃなくて。
「要するに、アンタがシスコンだっていうだけなんじゃないの?」
なにを今更、といった口調で、瑠璃はバッサリ斬り捨ててくれた。
僕たち姉弟の古くからの幼なじみという気安さもあって、彼女はまったくもって容赦ない。
「まぁ静さんに関しては、アンタの怪我が自分のせいだって思い込んでいるから。側でしっかり見守ってなきゃ、っていうのがあるんじゃない?」
「僕自身はそのことを覚えてないから、なんともいえないんだけどね」
「その場にはあたしもいたし、目の前であんなの見ちゃったら、あたしがどうにかしていたらって思うのは仕方ないと思うけどね」
実際あたしもそういうところあるし。
あはは、と、僕に言葉を返してくれる彼女、河野瑠璃。
気安さと遠慮のなさ、それ以上に僕を気遣ってくれている感じがとてもありがたい。
僕は小さい頃、なにかの事故で生死をさまようほどの大怪我をした、らしい。
らしいというのは、そのときの記憶が僕の中にないからだ。
それどころか、事故があったんだろう頃より前の記憶がまったくない。
姉さんや瑠璃、両親の記憶は辛うじて残っていたけど、自分がなにをしていたのかといった記憶がまったくなくなっていた。
そんな僕に対して、なくなった記憶の空白部分を埋めるように、あれこれと過去の繋がりを教えてくれたのは姉さんと瑠璃だった。
今の僕が、覇気が足りないながらもなんとか普通の生活が出来ているのは、ふたりのおかげだと思っている。
それからこの年齢になるまで、姉さんはもちろんのこと、瑠璃にもお世話になりっぱなしだ。
はっきりいって頭が上がらない。
「いいのよいいのよー。あたしだって、アンタのお姉ちゃんだしねー」
よしよーし、と僕の頭を撫でてくる。
瑠璃は僕と同い年。でも誕生日が僕よりも少し速いだけでなにかと姉ぶってみせる。
実際に、成績優秀スポーツ万能、勉強では学園でも生え抜きの優秀さを持ち、小さい頃から長刀を嗜んでいてこれまた物凄く強い。
そんな彼女に敵うところがなにひとつないんだから、逆らいようがない。
情けないといえば情けないことだけど、いじめられているとか窮屈だとかいうことはないから気にならない。
「アンタのお姉ちゃんとしては、心配してくれるのは嬉しいわ。静さんも多分そう。
でも口にしないってことは、なにか理由があるんでしょ」
だから、信じてあげなさい。そういって、瑠璃はまた僕の頭を撫でてくる。
姉さんを信じる。こんなことは今更いうほどのことじゃない。信じているのは当たり前だから。
それでも、気になってしまう。
気になるというよりは、心配になってしまう、といった方が正確かもしれない。
「不安、というか……胸騒ぎ? 信じる信じない、っていうのとはちょっと違う気がする」
「ふーん……」
なんだろうか。自分でもうまくいい表せないものが、胸の中でぐるぐる巡っている。
そんな、僕の中途半端な言葉を聞いて。瑠璃もなにか思案げな顔を見せる。
「まぁ、アンタがそうまでいうなら、ね。
あたしも静さんに聞いてみるわよ。そのせいでクロが寂しがってるって」
「誰が寂しがってるって?」
「アンタでしょ、クロ」
「どうしてそうなるの」
「あら、違うの?」
「違うよ」
「ふーん、そう」
瑠璃の口元が緩んできた。それに合わせて目元まで、からかう気満々の表情に変わっていく。
こんな風に弄られるのも、もう慣れっこだ。
いくらいってもキリがない。
のらりくらりとかわされるに決まっている。
放課後の、人がすでにはけた図書室の中。僕らふたり以外に誰も居ないのが不幸中の幸いだ。こんなやりとりを誰かに見られるなんて、想像するだけで恥ずかしい。
彼女の口撃から少しでも身を守ろうとして、目線と意識を窓の外に向ける。
図書館の中と同様、ひと気があまり感じられない。
時間はそれなりに遅くなっていたけど、まだ多少明るさは残っていた
"それ"に気づけたのは、、そのせいだったのかもしれない。
窓の外に見える別校舎の屋上にいた、女の人。
長い黒髪をリボンで結んだポニーテールにしてる、見慣れた後姿。
そんな自分の姉が、屋上から飛び降りたことに。
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例えばゲームソフト。
発売日前に店頭などで配布されているチラシがあります。
それだけを情報源にして、自分勝手にストーリーをでっち上げてみようという試み。
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