No.159985

真・恋姫無双 刀香譚 ~双天王記~ 第二十三話

狭乃 狼さん

刀香譚、二十三話です。

ちょっと日にちがあきましたが、お送りします。

何で日が開いたかって?

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2010-07-23 11:07:47 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:16902   閲覧ユーザー数:14506

 

 「どういうつもりですか、蔡瑁どの」

 

 「袁家の者たちを人質にとって、軍を動かさせるなど、独断専行もいいところ!!」

 

 「釈明をしてもらいましょうか」

  

 江陵の城中にて、一人の男に詰め寄る、二人の女性。

 

 「独断専行?違いますな、私はきちんと命に従っておりますよ、伊籍殿、韓嵩殿」

 

 自身を詰問する二人に、平然と言い放つ男。名は蔡瑁。

 

 荊州の牧である劉琦から、ここ江陵の城主を任されている。だが、

 

 「ふざけたことを!琦君がそのような命を下すわけがなかろうが!!」

 

 怒気をあらわにする韓嵩。

 

 「琦君?ああ、あの病弱な小娘か。くっくっく」

 

 「何がおかしいので?」

 

 蔡瑁をにらみつける伊籍。そこに、

 

 バタン!!

 

 「「!?」」

 

 部屋の中に突然飛び込んできた、黒ずくめの兵士たちによって、取り押さえられる二人。

 

 「蔡瑁!!これはなんのまねだ!!」

 

 「こやつらは何者ですか!?」

 

 押さえつけられたまま、蔡瑁に怒鳴る二人。

 

 「こやつらは虎豹騎。わが親愛なる仲達様の兵」

 

 「虎豹騎!?まさか、劉翔様たち徐州軍を壊滅させた・・・」

 

 「蔡瑁、あなたはまさか・・・」

 

 「・・・連れて行け」

 

 二人に背を向け、兵士たちに指示を出す蔡瑁。

 

 「蔡瑁!!この裏切り者が!!」

 

 「考え直すのです!!このようなものたちに従ったところで、荊州は・・・!!」

 

 叫びもむなしく、部屋から連れ出される二人。

 

 扉が閉まる一瞬、二人が見たのは、蔡瑁の背にまとわりつく、どす黒い何かだった。

 

 

 「袁術、張勲の二人が、長沙城内に幽閉されている、か」

 

 襄陽の軍議の間。一刀たちは江陵から戻った細策からの報告を元に、軍議を開いていた。それによると、長沙の城主である袁術と、その腹心の張勲。そして、その袁術の客将を務めている黄忠という人物の娘が、囚われの身となり、それによって長沙が掌握されているとのことだった。

 

 「南郡の諸城はすでに、袁術軍によって制圧されたそうです。また、新たに入った情報によりますと、一部が江陵にむけて進軍中とのこと」

 

 そう報告する諸葛亮。

 

 「その総数は?」

 

 「江陵の兵も含めると、八万はくだらないかと」

 

 一刀の問いに龐統が答える。

 

 「江陵の兵は二万ほどだっけ。・・・南郡の兵を何とか足止めできないかな?」

 

 諸葛亮に問いかける劉備。

 

 「そうですね・・・。少数の戦力で糧食だけでもたたければ、かなりの足止めにはなるかと」

 

 「腹が減っては戦はできぬ、なのだ」

 

 張飛が諸葛亮に同意して言う。

 

 「鈴々ちゃんのいうとおりです。問題はそれを誰にしていただくかなんですが」

 

 言いながら、関羽の方をちらりと見る諸葛亮。

 

 「朱里よ、みなまで言うな。私の弓騎兵なら五百もあれば十分にできる。・・・義兄上、ご下命を」

 

 そう言って一刀を見る関羽。

 

 「わかった。・・・けど、無理はしないようにね。兵糧を叩いたらすぐにこっちと合流すること。いいね?」

 

 「御意。では、行ってまいります」

 

 席を立ち、一刀に拱手する関羽。そして、そのまま退出していく。

 

 

 

 「長沙の方にも手を打ちたいね。朱里ちゃん、適任者は?」

 

 劉備が諸葛亮に再び問う。

 

 「・・・危険ですが、潜入任務となると、その、ですね」

 

 ためらう諸葛亮。

 

 「適任はそれがしと主ですかな。・・・であろう、軍師殿」

 

 声を挙げたのは趙雲である。

 

 「・・・はい」

 

 力なくうなずく諸葛亮。

 

 「星一人じゃ駄目なのかー?」

 

 そう疑問を呈する張飛。

 

 「私たちの中で、潜入のための技術、つまり、隠行に長けているのは星さんと、ご主人さまのお二人だけです」

 

 「城中では、陽動と救出の二手に最低でも分かれないといけませんから、お二人に行って貰うしかありません」

 

 龐統と諸葛亮がそれぞれに言う。

 

 「じゃあ、俺と星で長沙の潜入。袁術・張勲、それと、黄忠と言う人の娘さんを救出する。その間、鈴々は長沙付近に待機。こっちからは挑発だけして、相手が出てきたら適当にあしらって、時間稼ぎをしてほしい。・・・いいかい、鈴々」

 

 「にゃあ。退屈そうだけど仕方ないのだ」

 

 張飛が一刀に答える。

 

 「ありがと。桃香は輝里と蘭さん、雛里を連れて江陵に進発。こっちも決して仕掛けず、様子見を」

 

 「わかった」

 

 「ははっ」

 

 「了解!!」

 

 「あわわ。が、がんばります」

 

 こちらも、それぞれに返事をする劉備、陳到、徐庶、そして龐統。

 

 「残りは襄陽で沙耶とともに待機。新野の月、宛の久遠さんと連絡を取りつつ、警戒を。頼んだよ、朱里」

 

 「はい。御武運を」

 

 羽扇を携えたまま、返事をする諸葛亮。

 

 「では各自、出発の準備を。解散!」

 

 

 

 「私は長沙に?」

 

 「そうよ。明命が長沙に忍び込んで、袁術ちゃんと張勲の二人を救出するまで、時間を稼ぐ。それがあなたの仕事よ、蓮華」

 

 揚州・柴桑城。その一室で自身の妹にその役割を伝える孫策。

 

 「母様と姉さまが江夏を落とすまでの、時間稼ぎでもあるんですね」

 

 「そー言うこと。初陣が陽動なんて地味な任務じゃつまんないでしょうけど」

 

 「いえ。陽動も大事な役目です。不満なんてありません」

 

 きっぱりと言い放つ蓮華こと、孫文台の次子にして孫策の妹、孫権。

 

 「そ。・・・思春、蓮華の護衛、お願いね」

 

 「はっ!」

 

 直立不動のまま応える少女。名は甘寧、字は興覇。

 

 孫策が再び孫権に視線を転じる。すると、当人はなんともいえない複雑な表情をしていた。

 

 「・・・蓮華、何を考えているか、当ててあげよっか。・・・例の幼馴染君のこと、でしょ?」

 

 孫策の言葉にどきりとする孫権。

 

 「クスクス。分かり易いわねー、蓮華は。まあ、今回は会うことはないでしょ。・・・残念?」

 

 からかうように言う孫策。

 

 「そんなことは・・・!!」

 

 「けど蓮華。もし戦場であったら、あなた、どうする?・・・戦える?」

 

 やさしい表情から一転、厳しい表情で孫権に問う孫策。

 

 「・・・戦えます」

 

 少しこわばった表情で、そう返す孫権。

 

 「・・・そ。じゃ、私は行くわね」

 

 きびすを返し、部屋を出ていこうとする孫策。

 

 「姉さま」

 

 その孫策の背に声をかける孫権。

 

 「何?」

 

 背を向けたまま返事をする孫策。

 

 「・・・お気をつけて」

 

 「・・・ありがと」

 

 孫策が部屋を出る。

 

 

 

 孫策が部屋を出た後、孫権は一人思考に入っていた。

 

 (荊州の騒乱の隙をついて江夏をとる。そして袁家をこちらに引きこみ、荊州進出の足がかりを得る。戦略としては正しいことは判ってる。けれど・・・)

 

 火事場泥棒のようではないか、と孫権は思う。しかし、孫家において、家長である母の命は絶対だ。自分では決して曲げられないことも、よくわかっている。ならば。

 

 (私は、与えられた役割をきちんと果たす)

 

 それで良いと、孫権は考えを無理やりまとめた。 

 

 (一刀か桃香がいたとしても、それは同じ。・・・いないほうが良いんだけど)

 

 頭の中によぎる、懐かしい顔。しかし、孫権はそれをすぐに振り払い、

 

 「私たちも行くわよ、思春」

 

 「御意」

 

 甘寧を促し、歩き出す。

 

 彼女はまだ知らない。

 

 自身がこれから向かう場所に、最も会いたかった、そして、今は最も会わずにおきたかった人物がいることに。

 

 荊州の騒乱は、佳境を迎えつつあった・・・・・・。

 

 

                                  ~続く~


 
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