No.158709

Sky Fantasia(スカイ・ファンタジア)六巻の3

あらすじ
学園祭ライブに向けて、もう特訓をしたリョウ達一同。
だが、その前日、急な学園へ呼び出され、リョウとサブ。
なぜか、身に覚えが無いミッションに登録されていた!?
悔しがる一同、だが、ミッションに向かうリョウが、リリと約束したことは、「ライブに間に合うように帰ってくる」だった。

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2010-07-18 17:30:24 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:770   閲覧ユーザー数:768

第三章 ライブスタート

 

 

 リョウ達が、別の世界に行って、15時間を切った。学園では、今学園祭真最中だ。その中、午後の部のライブが始まろうとしていた。

 

 わたしたち三人は、今、ライブの衣装に着替えている。

 

 現在の時刻 13:30

 ライブの開会式が終わり、わたしとリニア、ポピーちゃんは、ライブの衣装に着替えるために学園の更衣室に使っている。

 着替えること数分、衣装を身に付けたわたしは、部屋の端に立てかけているスタンドミラーで、自分の姿を確認してみる。

「・・・やっぱり、派手過ぎじゃないかなー。この衣装」

わたしは、鏡に映る自分の姿に、恥ずかしくなった。

 今わたしが、着ている衣装は、黒のワンピースだ。しかし、ただのワンピースでなく、背中の部分が大きく開いており、スカート丈がものすごく短い。というか短すぎる!

「今更、なに言ってんだァ? 嫌なら下着だけで、ステージに上げてやろうかァ? テンス上がるかも知れねェぜェ」

わたしの愚痴を聞いたリニアは、楽しそうな表情を浮かべている。冗談じゃない。

「ぜっっったいに、嫌!」

「なら、文句言うんじゃねェよ」

「うー」

リニアの言葉に、納得のいかないわたしは、ジト目で抗議する。

 気にしないリニアは、ロッカーを閉めてこちらに向く。

「一つ忠告するが。あんまりステージ前には立つなよォ。高さ的に観客から丸見えだぜェ」

「・・・気をます」

わたしは、諦めて溜息を吐いた。

「大丈夫や。よー似おーてるよ」

そんなわたしに、着替えが終わったポピーちゃんが、ロッカーを閉めて、楽しそうな笑みを浮かべてながら慰めてくれた。

 わたしは、その言葉に苦笑いで答える。

「うん。ありがとう」

「これで、ステージ出るだけで高得点や」

「・・・せめて、歌で点数ほしいかも」

今日は、アウェーだなー。

 そう感じたわたしは、脱力した溜息を吐いた。

 そんなとき、ポピーちゃんが、わたしの方に寄ってくると、肩に上着を掛けてくれた。

「とりあえず、これ着ときー。さすがにその格好で何時間も待つんは、色々キツイやろ」

「ありがとう」

わたしは、お礼を言うと素直に上着に袖を通す。

 そして、わたしたち三人は、控え室に向かうために更衣室を後にした。

 

                     ○

 

 控え室である教室に入ると、もう数組のバンドメンバーが中に居た。

 入るだけで空気が変わったのが判った。

 改めて自分が緊張しているのが判る。

 そんなことを思いながら、わたしは、自分達の楽器が置いてある場所まで移動する。

「あら? 貴女達まだ居たの?」

そのとき不意に横から声を掛けられた。

 わたしは、視線をそちらに向ける。するとそこには、椅子に座っている女子生徒と、その周りに男子生徒が四人いた。

 わたしは、椅子に座っている金色の髪を二つに分けている女子生徒〝シンディア〟先輩に少し警戒しながら返事をした。

「ど、どうも」

「聞いたわよ。サブ君と・・・え~と、ツンツン頭君。急にミッションが入って、遠くに行ったそうじゃない。残念だったわねー」

シンディアさんは、言葉とは違い、嬉しそうな笑みを口元に浮かべる。わたしは、くやしいが、言い返さず言葉を呑み込む。

「てめェ! ケンカ売ってんなら買うぜェ!」

その瞬間、リニアの怒声が教室に響いた。そして、リニアは、シンディアさんに詰め寄ろうとする。

 しかし、すぐにポピーちゃんが体を掴んで静止させた。

 その姿を見たシンディアさんは、見るからに大げさな怖がる素振りする。そして、余裕な笑みを浮かべて、

「せっかく心配して言ってあげてるのに。まったく、野蛮な子ねー。サブ君が出られないからって、当たらないでくれない」

その言葉に、取り巻きの男性も楽しそうに笑っている。

「・・・まだ、決まった分けじゃありません」

「えっ?」

「リョウ君たちは『帰ってくる』って、約束してくれた。だから、わたしはそれを信じています。だから、まだ諦めていません!」

 自分が今、どんな表情をしているか判らない。わたしは、シンディアさんを真直ぐ見すえた。

 すると、さっきまで余裕の笑みを浮かべていたシンディアさんの顔から笑みが消える。

「ふん! まあ、思うのは簡単よねー。でも、裏切られたとき貴女は、彼らを今のように思っていられるかしら」

「ご心配、有難う御座います」

その瞬間、シンディアさんは、勢いよく席を立った。

 そして去り際、わたしの横に立つと、

「まあ、恥を掻く前に棄権しなさい。この泥棒ネコ」

と言い残し、控え室から出て行った。

 取り巻きの男子生徒たちもその後を追って出て行く。

 ・・・泥棒ネコ?

「きゃあ!?」

疑問が頭に浮かんだ瞬間、いきなりリニアが、後ろから抱き付いてきた。わたしは、訳が判らず焦る。

「いやー、言うねェ。リリ。『わたしは、リョウを信じています』だって」

「ホンマに。二人は、見ているこっちが、アテられそうやわー」

「『リョウ君たち』! 勝手に捏造しないで! サブ君も一緒なんだからね」

すると、二人は、意外な反応する。

「あー、そういえば、そうだったなー」

「一緒やったっけ」

「・・・」

わたしは、サブ君に少し同情した。

 ともかく。わたしは、二人が約束を破るなんて少しも思っていない。

 

 気が付くと、頭の後ろに柔らかな感触が伝わった。

 

 ゆっくり目を開けると、視線に入ってきたのは、青い空と見知っている女性の顔だった。

 どうやら、俺は、仰向けに寝かされているらしい。

「んっ?」

女性、エイダは、俺が起きたことに気付くと、顔を覗きこむ。

「眼が覚めたみたいですね。一応、応急処置は施したんですが。気分はどうですか?」

「・・・最高だな。今日は暑いから。風通しがよくなって涼しくなった」

俺は、苦笑いを浮かべた。

 まずは、状況を整理しねーと。

「はぁ~。少し変わりましたね」

まず、どれくらい寝ていた?

「昔の貴方は・・・カイザー君?」

ニアを呼んで、確認しねーと。・・・それより、さっきから頭の後ろに柔らかい―――。

「あのー、そろそろ起きてくれませんか? 足が痺れて―――」

「!!」

言っている意味が判った瞬間、俺は、跳ね起き、エイダから距離をとる。

 

〝ゴン!〟

 

 だが、近くにある木に気付かず、後頭部を思いっきり強打してしまった。

「っ―――!!」

あまりの痛さに言葉が出ない。

「あのー、頭大丈夫?」

「・・・焼き殺すぞ」

エイダは、あまりにも心配そうな顔で言うから、俺は、打った箇所を押さえながら睨みつけた。

 さすがにそれは、俺でも傷つくぞ。

 俺の言った意味が判っていないのか、エイダは困った表情を浮かべている。

「ニア、今の状況は?」

俺は、状況を知る為に、すぐ近くに置かれていた太刀に訊く。

 すると、太刀の鍔に付いている赤い石が光る。

『おはよう。よく寝られた?』

「ああ、寝すぎて頭がぼーっとする」

『それは、血が抜けたからよ。自分が撃たれたの、気付いているの?』

すると、ニアは、呆れたような溜息を吐く。

「一応、な。左の腹がスゥースゥーして、腹冷えしそうだ」

そう答えると、俺は、左脇腹を触れてみた。手当てはされているものの、かなりの出血だったのか、巻かれている包帯が少し赤く滲んでいる。

『風通しがよくなって、よかったわね。まだ、残暑も残ってるし』

「残暑が消える前に、俺が消えるところだったけど、な」

俺は、苦笑いを浮かべて突っ込んだ。

 すると、先ほど違って、ニアは少し真剣な声色を発した。

『帰ったら、リリにお礼言っときなさい。その《防護服》の《自動(オート)防護風(エアロディメンション)》が、弾道を逸らしてくれなかったら、確実に急所に当たっていたわよ』

それを聞き、俺は目の前に落ちていた黒のロングコート〝天笠〟に視線を落とした。

 腹の辺りに一箇所、穴が空いている。

 ニアの言っていたのは、天笠の防御プログラム〝魔風壁〟のことだ。この能力は、簡単に言うと、防護服を原点に、内から外へと風が吹き、物体に関与する能力だ。

 この間、誕生日プレゼントと貰った品だが。

帰ったら礼を言っとくかな。

「っで、あれからどれくらい経った?」

「約二時間ぐらいです」

エイダは、俺の質問に答えるとゆっくり立ち上がる。

 ・・・二時間!

「ヤバ! ライブの時間。サブ! 急ぐ・・・って、サブは何所だ?」

「先ほど、現場検証が終わったので、私達が乗ってきた時空(ふ)船(ね)で先に帰りました。回収した魔石の報告もありますから」

俺の問いにエイダは、修道服の乱れを直しながら答えた。そういえば、いつの間にか修道服に戻っている。

「どうかしましたか?」

俺の視線に気付いたのか、エイダは、不思議そうに訊いてきた。

 俺は、地面に落ちている天笠を拾うと、

「べつに、割りとその格好、似合ってると思っただけ」

と答え、ニアも拾い上げる。

 すると、なぜか。エイダは、少し頬を赤くした。

「なっ! 急に何を言ってるんですか!?」

「喋り方も変わったし」

『〝ボク〟っ子だったものね』

「そ、それは昔のことで、今は教会のしつけのおかげで―――」

「というか。お前、女だったんだな」

『「えっ!?」』

 ・・・えっ? 俺、変なこと言ったか?

「リョウ。まさか、あのころ私のこと男の子だと思っていたんですか?」

「だって〝ボク〟って言ったら男だと思うだろ。普通」

『・・・思わないわよ』

ニアに突っ込まれた挙げ句、二人して呆れたような溜息を吐かれる。

 俺が悪いのか?

「まあ、助けてもらいましたし。今回は許してあげましょう」

エイダは、楽しそうな笑みを浮かべた。

「はいはい。ありがとう」

俺は、なぜかその笑みが癇に障り、素っ気無く答えておく。

 まあ、何か知らねぇけど、機嫌が直ったからいいけど。

「それにしても、大きくなりましたね。教えた《ワイヤー術》も良くなってましたよ」

すると、エイダがゆっくりと歩み寄ってくると、俺の頭を撫でてきた。

 俺は、その手を掃う。

「おかげで、重宝してる」

「それと、雰囲気が〝柔らかく〟なりました」

「雰囲気は、そのままだ」

「冗談も言えるようになりましたし」

「・・・斬っていいか?」

うれしそうに微笑むエイダを、俺はジト目で睨む。

「なにより、元気でなによりです」

「お前も、な」

俺は、自然と笑みが漏れた。

 

                       ○

 

 エイダと俺の出会いは、四年前。まだ俺が一人旅をしているとき、組んで犯人(ほし)を狙った仲だ。そのとき、エイダが持つ、ワイヤー技術を教えてもらった。

 別れた後は、風の噂で何処かの施設に入った、とは聞いたけど、まさか教会騎士になっているとは。

 世界は意外と狭いんだなー。

 

                       ○

 

「ニアさんも、お久しぶりです」

エイダは、俺からニアの方へ視線を移した。

『お久しぶり。しばらく見ない間に、貴女も女性らしくなったわね』

「えっ、き、恐縮です」

すると、エイダは頬を赤くして微笑んだ。

 ・・・何、和んでんだ?

「そろそろ終わりにしようぜ。すぐに帰る」

『まあ、話は移動中でもできるもの、ね』

「? 急いでいるみたいですけど。このあと、何かあるんですか?」

俺とニアのやり取りに疑問を持ったのか、エイダが訊いてきた。

 だが、急いでる俺は、エイダの手を掴むと、

「ライブ」

とだけ答え、停泊している時空船に向けて走り出した。

 現在の時刻 4:20 現地時間 14:40

 

 報告を終え、今日から出ると俺は、今の時間を確認する。

 

 現在の時刻 14:45

 この時間なら、電車とタクシーを使えば・・・まあ、大丈夫だろう。

 次に、リョウの移動時間を考えることにする。

 さっき、連絡をもらったから・・・ギリギリ・・・アウトっぽいな。

 これだと、俺と同じ方法を使うとまず、間にあわねぇだろう、な。

「しゃーねー。奥の手、使うかな」

俺は、考えがまとまると、携帯を取り出し、電話を掛けた。

 

 オレは、教室で雑談をしていると、いきなり携帯が鳴り出した。

 

「ん? 誰からだ?」

「リニア。ちゃんとマナーにせな、アカンよ。マナーやで」

「判ってるよ。忘れてただけだ」

オレは、ポピーに反論しとくと、ポケットから携帯を取り出す。

 ディスプレイには〝サブ〟と載っていた。

 オレは、着信ボタンを押す。

「なんだァ? 事故ってでもしてくれたかァ?」

『残念だけど無傷で帰還だ、ぜ』

オレは、わざと皮肉めいて言ってやる。だが、サブの野郎は、ちっともうろたえず、普通に返してきやがった。

 オレは、舌打ちをする。

「そりゃあー、残念。っで、なんの用だァ?」

『まあ、てめーの今のセリフは、喜びの裏返しと取っとく、わ』

「いや、それはねェわ」

 オレは、もちろん全否定しておく。

『そんなお前に、頼みがあるんだけど』

「どんなだよ。まあ、頼みって?」

『お前のアニキを迎えに寄こしてくれ』

「はァ? なんで、てめェのために〝タク兄〟をよこさねェといけねェんだァ?」

『俺のためじゃねーよ。リョウの為だ。アイツ、訳あってこっちに帰ってくるのが遅くなるんだよ。たしか、お前のアニキ、バイク使ってるだろ? そいつで頼むよ』

「・・・ちょっと待て。なんでてめェが、タク兄がバイク乗ってんの知ってんだァ? それに訳って―――」

『じゃあ、頼んだぜ。俺は、これからそっちに行くから。また後でなー』

「おい! 話しまだ終わって―――」

〝ツゥー ツゥー ツゥー〟

サブは、オレが静止する前に通話を切りやがった。オレは、もう繋がっていない携帯を睨みつける。

「ねえ、どうかしたの?」

そのとき、不意に近くに居たリリが、オレに声を掛けてきた。

 その顔は、何かを感じているのか、心配そうな表情を浮かべている。

 だからオレは、リョウのことをぼかすことにする。

「サブの野郎からの連絡。『帰ったからすぐにこっちに来る』ってよ」

「それじゃあ、二人とも平気なんだね?」

「そうみてェだな。けど、リョウのバカは、報告書に苦戦してるみてェで、遅れるらしいぜェ。だから、迎えの要請を頼んできやがった」

「そっかー。よかったー」

リリは、安堵の声を漏らす。

「これやと、ギリギリ間に合いそうや、ね」

すると、ポピーが時間を確認しながら言ってきた。

「まあ、遅れたらぶち殺すけど、な」

オレは、そう相槌を打つと、電話を掛けるために教室の外に出る。

「ハァー、タク兄の小言、聞きたくねーなー」

オレは、この間のやり取りを思い出し、誰も居ない壁に愚痴を溢した。

 

 予定の時間を大幅にオーバーして、俺は、自分の世界に戻ってきた。

 

 現在の時刻 15:25 空港ロビー

「それでは、またゆっくりお話でも」

「ああ、そんときは、なんか奢れよ」

この世界に戻ってきた俺は、エイダと軽くやり取りを済ませ、急いで空港から出た。

 

〝プッ プーーー!!〟

 すると、不意に近くから、クラクションの音が聴こえてきた。俺は、気になって音のする方を向く。そこには、バイクにまたがったフルフェイスのライダーがいた。

 すると、バイクは、ゆっくりと俺の横につけてくると、

「カイザーだな。リニアの頼みで迎えに来たぞ」

そう告げると、ライダーは、ヘルメットのバイザーを上げた。

 ライダーの正体は、リニアの保護者のタクマさんだ。

 俺は、込み上げてきた笑みを隠すように、わざと皮肉を込めて言う。

「用意がいいことで、妹のお使いご苦労様です。タクマ二等尉」

「うるせぇよ! さっさと乗れ! 急いでいるんだろ?」

タクマさんは、明らかに嫌そうな顔をすると、俺の方へ持っていたヘルメットを投げてきた。俺は、それを受け取ると、すぐに被り、バイクの後ろにまたがった。

「跳ばすぞ! しっかり掴まっとけ!」

タクマが告げた瞬間、すぐにバイクが走り出した。

 スピードは想像以上に速く。前を走っている車をどんどん抜いていく。

 これなら間に合いそうだ。

「アンタも、過保護だな。妹のためにバイク走らすなんて」

そう俺が軽口をつくと、タクマさんは、真剣な言葉で返してきた。

「お前らには、前の貸しがあるからな。その清算だ」

律儀なことで。

「そいつは、貸しといてよかったぜ」

「スピード上げるぞ! 喋ってると、舌噛むぞ!」

その瞬間、スピードがさらに上がる。


 
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