No.158374

真・恋姫無双 刀香譚 ~双天王記~ 第二十二話

狭乃 狼さん

伏竜・鳳雛の二人を迎えた一刀たち。

そして、もたらされる訃報。

荊州に嵐が巻き起こります。

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2010-07-17 12:04:59 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:17351   閲覧ユーザー数:14793

 荊州の牧、劉表は死の床にいた。

 

 悪化していた病状がさらに進行し、もはや、意識を保っているのが精一杯の状態だった。

 

 「一刀どの、沙耶を、美弥を、そして荊州を、お願いいたす。どうか、どうか」

 

 それが劉表の最後の言葉だった。

 

 娘二人に看取られながら、劉表は黄泉路へと旅立った。

 

 父にすがり、泣きじゃくる劉琦と劉宗。

 

 「景升さま、安心してお眠り下さい。必ず、お二人は私がお守りします」

 

 安らかな顔で眠る劉表に、そうつぶやく一刀。

 

 その翌日。

 

 長女劉琦を喪主として、劉表の葬儀が執り行われた。

 

 雨の降りしきる中の葬儀であったが、多くの襄陽の民が葬列を見送った。劉表が牧として、民に愛されていた証明だった。

 

 三日間喪に服した後、劉琦を荊州の新しい牧として、許昌の劉協に奏上した。劉協は快くこれを認め、その勅書が荊州に届けられたのが、その三日後。

 

 正式に荊州の牧に就任した劉琦は、蔡瑁とその兄弟を江陵の太守に任じ、その補佐に自身の幕僚である、伊籍・韓嵩をつけた(ようするに監視役だが)。

 

 一刀は新野の城主を務める傍ら、劉琦の後見として、その相談役としても、多忙な日々を過ごし始めた。

 

 そんなある日。

 

 

 

 「長沙の袁術が?」

 

 「はい。南郡の諸城を落とすため、戦力を動かしています」

 

 先の汜水・虎狼関戦において、反西涼連合に加わり、そして長沙の城主に格下げとなっていた袁術が、荊州の南部にある、四つの郡を攻撃し始めたという報せが、襄陽に来ていた一刀たちの下にもたらされた。

 

 「昔日の栄光をもう一度、といったところでしょうか?」

 

 劉琦が一刀に問う。

 

 「・・・正直、わからないな。袁術はともかく、その腹心の張勲は何を考えてるか判らないところはあるけど」

 

 「細策、放つ?」

 

 劉備が一刀に問う。

 

 「そうだな。朱里、頼めるかい?」

 

 「はい。それと、もうひとつご報告があります。江陵の兵が、その動きに同調しているらしいそうです」

 

 「は?」

 

 唖然とする劉琦。

 

 「間違いないの?朱里ちゃん」

 

 「はい。・・・伊籍さんと韓嵩さんは、周囲の鎮撫のために兵を動かしているだけと、蔡瑁さんから説明を受けたそうですが・・・」

 

 「・・・あの二人、まさかそれを信じてないよね?」

 

 諸葛亮にそう聞く、一刀。

 

 「まさかですよ。お二人には、江陵の軍の動きには、十分に注意するよう、伝えてあります」

 

 「ならいいけど。沙耶、丁原さんに使者を出しておいてくれるかい?もしものときは、恋たちにこっちに出張ってもらうかもしれないって」

 

 「はいです、おじさま。・・・けほっ、けほっ」

 

 一刀に答えながら、咳をする劉琦。

 

 「・・・大丈夫?沙耶ちゃん?」

 

 劉備が心配そうな表情で、劉琦の顔を覗き込む。

 

 「・・・大丈夫です、桃香おばさ「む?!」・・・お姉さま」

 

 おば様、といいかけた劉琦を、すごい形相でにらむ劉備。そしてあわてて言い直す劉琦だった。

 

 

 

 「申し上げます!武陵城、陥落いたしました!!」

 

 「そうか、報告ご苦労。下がってよい」

 

 「はっ!」

 

 報告に来た兵士が天幕を出る。

 

 「・・・これで、後は珪陽だけか。・・・すまんな、黄忠どの。このような無意味な戦に巻き込んでしまって」

 

 大刀を背に背負った女性が、対面に座る妙齢の女性に頭を下げる。

 

 「お気になさらないでください、紀霊将軍。・・・大事な娘のためですもの。お互いに、ね」

 

 にこりと微笑む黄忠。

 

 「お互い・・・?」

 

 「あら。美羽ちゃんも七乃ちゃんも、あなたにとって娘さんも同然でしょう?八年以上も、二人を育てて来られたんですから」

 

 「娘・・・。美羽さまと七乃が・・・。そう。そうですね。二人は私にとって何物にも変えがたいもの。先の戦とて、私が留守にしていなければ、参戦などさせなかったものを」

 

 こぶしを握り締め、悔恨の表情を浮かべる紀霊。

 

 「・・・過ぎたことを悔やんでも、仕方ありませんわ。今度こそ、お二人を守ればいいのですよ。ね?」

 

 「うむ。・・・口惜しいが、今はあやつのいうとおりに動くしかない。三人の命を救うために」

 

 「はい。・・・璃々、待っててね。おかあさん、必ずあなたを助けてあげるからね」

 

 「美羽さま、七乃。この紀霊、必ずお二人を無事に助け出して差し上げます。もう少し、ご辛抱くだされ」

 

 決意の表情で、天幕を出る二人だった。

 

 

 

 「ほう。袁術がな」

 

 「はい。荊州南郡の諸城を次々落とし、勢力を拡げています」

 

 眼鏡をかけた褐色の肌の女性から、そう報告を聞く孫堅。

 

 「劉表の後継・・・琦君はどうしている?動きは?」

 

 「どうやら江陵の蔡瑁が、叛旗を翻す動きがあるようで。そちらの対処に、かかりきりになっているようです」

 

 「そうか。・・・雪蓮、予定より早いが、動くよ」

 

 地面にしりもちをつき、肩で息をしている自分の娘、孫策に声をかける孫堅。

 

 「・・・わかったわ、かあさま」

 

 何とか立ち上がりながら、孫堅に答える孫策。

 

 「冥琳。抹陵の蓮華に使者を。援軍として一万、こっちへ送るように」

 

 「は。・・・蓮華さまが来られた場合は?」

 

 孫堅に問う、眼鏡の女性、周瑜。

 

 「・・・追い返しなさい」

 

 「・・・御意」

 

 「かあさま、いい加減、蓮華にも初陣させていい頃じゃ」

 

 孫堅に、孫策が言を呈する。

 

 「・・・あれは戦場に向かないわ。シャオと同じでね。・・・でも」

 

 「でも?」

 

 「私や雪蓮になにかあってからでは遅いし・・・。冥琳」

 

 「はい」

 

 天幕を出ようとしていた、周瑜を引き止める孫堅。

 

 「先の命はなし。もし蓮華が来たら、そのまま参戦させなさい」

 

 「「!!」」

 

 「・・・王の血脈にあるものは、いずれは命を背負わねばならないものね。自身以外の、兵や民草の命を」

 

 「かあさま・・・」

 

 「文台さま・・・」

 

 孫堅の横顔をみる、孫策と周瑜。

 

 「さ、出陣の支度をするよ。出立は十日後。ほら、動いた、動いた!!」

 

 「「御意!!」」

 

 

 「ち、仲達!!これは何のまねじゃ!!」

 

 自身を取り囲む兵を指揮する男に、怒声を浴びせる老人。

 

 「お前の役目はもう終わったのだ。”死んでいた”貴様を拾ったのは、この外史を破壊するための人形とするため」

 

 「外史・・・?な、何のことじゃ!!それに、わしが”死んでいた”とはどういう・・・!!」

 

 「文字通りさね」

 

 男のそばに立つ一人の女が言う。

 

 「あんたはあたしたちが見つけたときには、とっくに死んでいたのさ。それを仲達さまが今まで動かしていたんだ。ただの人形として、ね」

 

 「な、ならばわしは、わしが大陸の王になると言うのは・・・」

 

 「なれるわけないでしょう?あんたはただの死人なんだから。それが証拠に・・・」

 

 女が手の中の琴を、ピン、と爪弾く。

 

 「!!」

 

 その瞬間、老人はその場に塵と化して崩れ落ちた。

 

 「クス。ほうら、一瞬で塵になっちゃった」

 

 けらけらと笑う女。

 

 「仲達さま、これからどうされますか?」

 

 もう一人、別の女が男、仲達に問いかける。

 

 「・・・流れは正史に傾きつつある。われらは正史のとおり、”魏”に食い込む」

 

 きびすを返し、その場から歩き出す仲達。

 

 それに二人の女と、兵士たちも続く。

 

 無人となった玉座の間に、一陣の風が吹く。

 

 舞い上がる、塵となった、かつて張譲と呼ばれたモノ。

 

 この数日後、洛陽は曹操の支配下となる。

 

 洛陽に入った曹操と家臣たち。

 

 その中に、一人の新しい女性の将がいた。

 

 漆黒の髪と、漆黒の装束に身を包んだその女性の名は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 姓を司馬、名を懿。字を仲達といった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 
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