No.157334

生き神少娘(ガール)(Kanon栞編)

今構想中の生き神少娘(ガール)をKanonの世界に持って来ました。メインは栞です。
Kanonとのクロスでは5~10%くらいネタばらしをします。
2021年現在とは設定やキャラクターの特徴、および天使の名前が異なる部分がありますが、
当時の設定も楽しんでいただければ幸いです。

2010-07-13 00:52:57 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:769   閲覧ユーザー数:759

それは1月の始めの夜の出来事だった。

 

栞という少女が部屋で一人、持っていたカッターナイフを手首にあてがおうとしていた。

 

重い病の為に最早2月1日の誕生日まで生きる事が出来ないだろうという死刑宣告に加え、仲の良かった姉と疎遠になってしまったこと。

それが栞の心を蝕んでいき、やがては生きようと思う気力まで奪われてしまった。

 

“これ以上、苦しい思いをするならいっそのこと……”

 

そう思い、昼間購入したカッターナイフを手首にあてがって、カッターを握る右手に力を入れた。

が、帰り道で偶然出会った相沢祐一と月宮あゆという人物のやり取りが突如彼女の頭をよぎり、深く切ろうにも切ることが出来なかった。

 

“死にたい…、だけど死にたくない…”

 

 

相反する気持ちに葛藤しながら、カッターナイフを握る右手に改めて力を入れようとした時だった。

 

 

“コンコン…”と部屋の窓を叩く音に気付き、栞はカッターを置いて窓の外に目をやる。

 

 

“AHH~(ア~)…”

 

窓の外には黒ずくめの衣装をまとい、ジ●リでお馴染みのカ●ナシのマスクを被った何者かが、その物真似をしながらたたずんでいた。

その背中には目の前にいる何者かの背丈ほどもある大きな鎌が存在していた。

 

“死神だ…”

 

そう直感した栞は“ひっ…!”と思わず身体をのけぞらせて驚いた。

 

 

その何者かは鍵のかかっていた窓を開け、栞の部屋に入ってきた。

 

“あ……、あ……”

 

恐怖のあまり声は出せず、逃げようにも抵抗しようにも身体を思う様にすら動かせず、ただ恐怖に怯えながら何者かの動きを追うしかなかった。

 

「AHH~(ア~)…」

 

栞の怯えっぷりを楽しんでいるのか、物真似を続けながら侵入者はザッザッと足音を立てて栞に近付き、そして止まった。

 

「AHH~(ア~)…」

 

 

“殺される…”

 

そう思って縮こまったその時…。

 

 

“スパ~ン!”という音と共に侵入者が前につんのめる形で転んだ。頭の部分にバッテンのバンソウコウとタンコブを携えて…。

 

「やり過ぎだ!!」

 

侵入者の後ろには天使の特徴を持つ少女らしき者が少し苛立った様子で仁王立ちしていた。その右手にはハリセンが握られている。

 

 

「助けに来てショック死させる気か?もっと他にやり方あるだろ?」

「そうやな…。ほな、次は…」

 

天使の指摘を受けてカ●ナシ姿の何者かは起き上がり、顔に付けていたカ●ナシのマスクを外した。

 

 

「何でやねん!?どうしてそこで諦めようとすんねん!!」

「えう?」

 

今度はテニスでお馴染みの松岡●造のマスクを被って、彼の物真似をしながら栞に説教をかましている。

声からして、目の前にいるのは天使と同じくどうやら女性のようだ。どういう訳かそのセリフには関西言葉が使われていた。

 

「諦めんなや!!なしてアンタ、そこで生きるのを諦めようとすんねん!!」

 

侵入者のいきなりの豹変に、栞はただただ呆気に取られるしかなかった。

 

 

「Never Give up!! Don't Warry!!お米食べときぃ…!!」

「熱血ウザイ!!」

 

熱血キャラに嫌気が差したのか、天使は持っていたハリセンで松岡●造に再度ツッコミをかました。

 

「何すんねん!!せっかくエエとこなのに…!?」

「見てて恥ずかしいんだよ。頼むからもう止めろ」

「やったらこれでどうや!?次は…」

「そもそもコントを止めろ。ウザイ」

 

 

「あの~…?」

 

目の前のやり取りに少し安堵の気持ちを抱けたのか、栞は2人に恐る恐る声をかけてみる。

競り合いの途中ではあったが、栞の訴えを感じてか即座に治まった。

 

「何や?嬢ちゃん」

「あなた達は一体…?」

 

目の前の2人が何者なのか?何の為に来たのか?何故、関西言葉を話す方は大きな鎌を背負っているのか?

栞が聞きたいこと、知りたいことは色々とあった。

 

 

「フッフッフ……♪よくぞ聞いてくれはりました♪」

 

関西言葉を話す方は待っていましたと言わんばかりに、オーバーな動きを見せる。

 

 

「ワイは人を生かす神様の使い…。人呼んで……」

 

上に羽織っていた黒の衣装を握り、そしてバッと脱ぐ。

衣装の下から現れた上半身の部分は焦げ茶色のロングコートで覆われその上に白いケープを羽織っていた。

腰から下には薄茶色のブーツとヒザまでのパンツを着用していた。

そして後頭部で束ねられた腰の辺りまである茶色の長い髪の毛がなびきながら現れた。

身体のラインと面立ちから、どうやら女性であることは間違いなさそうだ。

 

「生き神少娘(ガール)!!ヌイ!!」

 

正体を現したところで決めポーズと決め台詞をかます。その後ろでは、天使がやや呆れた表情でその様子を見ていた。

 

 

“決まった~…”

 

一瞬浸った後、ヌイと名乗る者は栞の方に身体を向け、そして栞の手を握る。

 

 

「ちゅうことでワイは生き神の使いヌイ。そんでこっちにおるんは、天使の使いミクちゃん。よろしゅう~…♪」

「えう…。よ…、よろしく…」

 

ヌイは握った栞の手を嬉しそうにブンブンと動かした。

一方の栞も戸惑いこそあるものの悪い人達ではなさそうだと感じ、満更でもない気持ちで手を振り回されていた。

 

 

「ター…、ゲット……?」

 

栞は怪訝そうな顔をして呟いた。

ヌイ曰く、栞が条件に合うターゲットだから来たとの事だった。

 

「そっ。もっと詳しく言えば、死にたくないと思いつつ自殺を考えてたり、やろうとしてる人間を私達は自殺志願者(ターゲット)って呼んでるんだよ。

 例えば、さっきのアンタみたいに」

 

少々混乱した様子の栞に、天使の使いであるミクは、あたかも生徒が抱いている疑問点を解消しようとする教師のように説明を付け加えた。

 

「その人達を助けるんがワイら生き神の使いの仕事やさかい。その為やったら何だってするで!!」

 

その横ではヌイが頼もしげに胸をドンと拳で叩いて見せた。が、すぐさま、

 

「あ…、いや…、犯罪とか枕営業とかはアカンな~…」

 

と視線を泳がせながら訂正してきた。そんな彼女の態度に栞は少し不安を覚えた。が、それ以上に更なる安堵をもたらした。

 

 

「しかし死神に目ェ付けられてなかったんはラッキーやったな~♪ミクちゃん」

「そうだな、死神が来てたら今頃は…」

 

新たに死神という単語が2人の会話で出てきた。

死神について栞は何も知らないが、来ていたら今頃はどうなっていたか…?おそらく命はなかったかも知れない。

そう考えたとき、栞は思わず身震いをしてしまった。

 

 

そんな栞の仕草に気付いたのか、ヌイは栞の両肩をポンと叩き、背中の鎌を手にする。

 

「まっ♪仮に死神が来とったとしても、ワイがこのデカイ鎌で追っ払ったる♪せやから嬢ちゃん。安心しい!」

 

刃の部分を自分の方に向けた鎌を両手で短く握る。そして軽くながら鋭く振り下ろした。

 

“ゴッ…”

 

振り下ろした鎌の柄の部分がミクの頭を直撃する…。ミクの眠そうな表情が少々険しくなり、それに思わず“アッ”と凍り付くヌイだった。

 

 

「オラオラ。相方に鎌向けて、その上当てるとは良い度胸だな。オ~?」

「ヒイィ…、ギブギブ…。タップタップ…。痛い痛い…」

 

さっきまでの頼もしさは何処へやら、ミクにプロレス技をかけられ、情けない表情で降参を申し出るヌイ。

プロレス技によるヌイの身体の悲鳴が栞にも聞こえてきた(ように思えた)。

 

「オラオラ…」

「ヒイィ…」

 

 

傍から見ればイジメにしか見えないだろう。が、ヌイは満更でもなさそうな様子で喰らってあげてるようだった。

楽しそうにプロレス遊びをしている2人に笑ってはいけないと思い、栞は必死で笑いを堪えていた。

が、堪えられず、ついに吹き出してしまう。

 

「あはははは♪何かおかしいです♪あははは♪」

 

楽しそうに笑う栞の姿、そこにはさっきまで自殺を考えていた少女の面影は何処にもなかった。

 

 

「栞~、どうしたの?」

 

栞の笑い声を聞いた栞の母親が栞の部屋のドアをノックして、外から声をかけた。

と、同時にミクはヌイに掛けていた技を緩め、ヌイも声を出すのを止めた。

 

「ううん、何でもない」

「そう…、遅いからもう寝なさい」

「は~い…」

 

そんなやり取りの後、母親は寝室へと戻っていった。

“誰かいるのか?”と尋ねたりドアを開けなかったことから、どうやらヌイ達がいる事は気付かれなかったようだ。

 

 

「ワイらもそろそろ行こか」

「そうだな」

 

栞の母親の足音が聞こえなくなったのを見計らい、どっこいしょとヌイが腰を上げ、ミクもそれに従った。

 

「えっ!?もう行っちゃうんですか?」

 

と、残念そうな表情で栞は2人を見る。

 

「他に自殺志願者(ターゲット)がおったら助けに行かなあかんねん、堪忍して~」

 

少し名残惜しそうな様子で、栞を見ながら右手を額の前にかざすヌイ。

 

「それに死にたいってオーラもアンタから消え失せたみたいだしな。なら、もうここに居る必要は無いだろう」

「えう~…、でも…」

 

ミクの言葉の後にも不安そうな表情を見せる栞に、

 

「ワイらはここで御役御免になってまう訳やけど、そうなった方が嬢ちゃんにとってエエんや。

 むしろここでワイらがいなくなった方が、もっとエエ事あると思うで」

 

と、ヌイは諭す様に栞の頭にポンと手を優しく乗せてあげた。

 

 

「む~。子供扱いする人、嫌いです」

「だってワイら、大人どころか神様やしぃ~♪」

 

子供扱いされたと思ったのか膨れる仕草を見せる栞を見て、思わず茶化してしまうヌイだった。

その茶々を入れるヌイがウザかったのか、ミクが無言で一発ハリセン攻撃をかました。

 

 

「さっさと行くぞ!」

 

そう言って、天使の使いミクは翼を羽ばたかせながら外に出た。続けてヌイも、

 

「ちゅうことで嬢ちゃん!!さらば!!」

 

と、栞に向かって右手でシュタッと敬礼の仕草を見せ、左手で大きな鎌を持ちつつ窓枠に片足を掛けた。

その体勢のまま窓から塀に飛び移ろうとした。が、降り積もる雪に足を滑らせて着地に失敗。

滑った拍子に雪掻きされてむき出しのアスファルトの上にベシャッと叩きつけられてしまった…。

 

大丈夫ですか、と言わんばかりに慌てて窓から顔を出す栞。

その先には、腰を打ったのか痛そうに腰をさするヌイと、その様子を空から冷ややかに見下ろしているミクがいた。

 

 

栞に今の格好悪い自分の姿を見られたことに気付いたのか、ヌイは思わず涙目になる。

 

「ちくしょーー!!嬢ちゃんにカッコ悪い所を見られてもうた~…!!うわ~ん!!」

 

滝の様に流れ出る涙を右腕で拭いながらダッシュで街の方へと駆けていくヌイ、そんな彼女を呆れた様子で空から追跡するミク、

栞は窓からそんな2人の様子を見えなくなるまで追い続けるのだった。

 

 

やがて2人が見えなくなると、

 

“昼間に会った祐一という人に明日会ってみましょう…。お姉ちゃんの学校の制服を着ていたから、そこに行けばきっと会えるはず…”

 

そう思いながら窓とカーテンを閉めて、穏やかな気持ちのまま眠りに就くのだった。

 


 
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