No.156766

~真・恋姫✝無双 孫呉の外史2-5

kanadeさん

連合編第五弾、今回、一刀の出番ほぼありません。
香蓮たちが中心のお話となっております。

恋と華雄が戦います。自分的には華雄をカッコよくできたんじゃないかと思います。
最近、孫呉の外史のせいか彼女がお気に入りキャラとして上位にランクインしてます。

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2010-07-10 21:29:43 投稿 / 全12ページ    総閲覧数:10163   閲覧ユーザー数:7663

孫呉の外史2-5

 

 

 

 ――数日前、洛陽。

 虎牢関で連合が足止めを食らっていた頃、明命は董卓を背負い城の通路を駆けていた。

 「あの、明命さん。・・・重くないですか?」

 「いえ、そんなことありません。私の事は気になさらないでください」

 そう言って明命は董卓に笑って見せ、再び前を見上げた。

 (―!!拙いですね。気配が複数・・・間違いなく追手)

 明命の瞳に鋭いものが宿る。先程まで董卓に見せていた穏やかな雰囲気は形を潜め、最早そこにいたのは一人の武人だった。

 (ここで相手をしたところで、ジリ貧になるだけ・・・今は月さんの仰られた隠し通路に向かうのが先決です)

 ただ敵を倒すだけでいいのであれば問題はないのだが、今回の彼女の目的は董卓の救出にある。 故に、優先すべきはあくまでも董卓を連れこの城を脱出する事なのだ。

 「中庭にある古井戸に向かってください。そこから脱出できます」

 「わかりました。少し飛ばしますから、舌を噛まないように気を付けてください」

 すぅっと息を吸い、明命は一気に疾走する。十常侍が差し向けた追手がその場に着いた時、既に二人の姿はどこにもない。

 そこには彼女が駆け抜けた後に吹いた風だけが残された。

 

 

 一刀が氷花たちから冷ややかな視線を受けていた頃、虎牢関は混戦になっていた。

 あの時、香蓮は自分たちが前線まで出張って全力で回れ右をしようと持ちかけたのだ。そうして敵を袁術の所まで引っ張っていこうと。

 賭けの要素が非常に強く、博打というよりももう無謀と言うほかない方法だったのだが、呉軍の行動の意図を察した曹操や劉備たちが乗ってくれたので、思いのほかすんなりと事が運び、今に至ったというわけだ。

 真紅の呂旗の下にはそれぞれの将が相手をし、漆黒の華旗には劉備軍より関羽が対していた。

 

 ――「ここから先には行かせない・・・お前たちの相手は恋だ」

発せられる氣は明らかに常軌を逸脱しており、対峙するだけでも体力を削られている。

 三国無双の飛将軍・呂布奉先。

 最強の武人に挑むは八人の戦乙女。

 曹操軍――夏侯惇・許緒

 孫策軍――黄蓋・孫堅

 劉備軍――趙雲・張飛

 袁紹軍――顔良・文醜

 

 「いいな。ゾクゾクする・・・こんな感覚は一刀との最初の手合わせ以来か・・・祭」

 「心得ておるとも。儂らは若者に暫し譲るのじゃろう?」

 肯定するように頷く香蓮。もっとも、譲ると言ってもこの場にいる以上もちろん戦いはするが、それはそれ――呂布には華雄共々撤退してもらわねばならない。

 (はぁ・・・さて、他の将の腕・・・見せてもらうとするか)

 

 香蓮は担いでいた赤帝を構え、祭は多幻双弓を構える。他の将たちも、己の愛用する得物を構え天下の飛将軍へ戦いを挑んだ。

 

 その頃、華雄と対峙した関羽。

 「我が名は関雲長。董卓軍の猛将・華雄殿とお見受けする」

 「・・・」

 「いざ尋常に勝負されたし」

 「いいだろう。関羽よ・・・来るがいい。貴様ごときに、私は討てんということを教えてくれる」

 華雄の声は、一刀と戦っていた時よりもトーンが落ちている。どうやら関羽に、一刀ほどの魅力を感じていない様子だった。

 金剛爆斧を構え己が敵を見据え、静かに息を吐く。

 

 ――『いざっ!!』

 

 二人の戦乙女が大地を蹴った。

 

 

 それから暫しの時が過ぎた虎牢関では。

 「恋・・・策も何もあったものじゃないわね。孫堅も自分たちが提案した〝策〟覚えてるのかしら・・・ボクにはどう見ても本気で戦ってるようにしか見えないんだけど・・・まぁ、その方が安心といえば安心なんだけど・・・」

 「詠殿。詠殿は洛陽に戻った方が良いのではないのですか?」

 戦況を見守る二人の軍師、賈駆と陳宮。

 その陳宮が賈駆に問いかける。

 「今ボクが戻るのは危険だわ。それに月には明命がついてくれているから平気よ」

 今はこの戦を見届け、然るべき時に然るべき事を成さねばならない。陳宮にそう言って賈駆は戦場へと視線を戻す。

 陳宮も、それ以上は何も聞かずに賈駆の行動に倣った。

 

 

 ――「賈駆様」

 

 兵士の一人が賈駆の傍に駆け寄り、そっと耳打ちをする。

 「――!本当なのね。ありがとう、下がっていいわ」

 慇懃に頭を下げた兵はその場を後にし、賈駆はとなりにいる陳宮に声を掛ける。

 「音々、銅鑼を鳴らして!明命が上手くやってくれたわ!!」

 「承知なのです!」

 陳宮は合図を送り、兵が力一杯銅鑼を叩く。その大きな音に軽く耳を押さえる二人。

 銅鑼の音は高らかに虎牢関に響き渡った。

 

 

 銅鑼の音が戦場に鳴り響く前。

 関羽と対峙する華雄は、これまでの彼女からは考えられないほどしなやかな戦いをしていた。

 「ふっ!・・・・はぁっ!!」

 「く、この・・・」

 悉く自分の攻撃が攻め手を欠く関羽の表情には苛立ちが見受けられる。

 華雄はその関羽の姿を、一刀と戦っていた時の自分と重ねてみていた。

 (なるほど、見様見真似とはいえ、〝護り〟に徹した戦いとは〝剛〟の者には本当に戦い辛いのだな)

 華雄は、特段自分から進んで前には出ずに、関羽の攻撃を受け流すように努めていた。

 勿論、元々が〝剛〟の者である華雄に一刀の〝柔〟の戦い方は完全に真似ることはできない。彼女はあくまでも一刀の戦い方を想起し、自分で応用できそうな所だけを使っているのだ。

 (しかし、分かっていた事とはいえ・・・やはり私自身との相性は良くはないな。だが・・・)

 「ふっ!!」

 「な、」

 

 ――フッ。

 

 華雄の姿が、関羽の視界から消えその気配が背後に現れる。

 慌てて関羽が振り向くと、間合いの外に彼女の姿があった。華雄の表情は、何か不満そうな顔だった。

 「やはり、北郷のように上手くいかんな。氣の操作が細かすぎる・・・些か興味があった故、真似てみたのだが、どうにも奴の戦い方は私には向かんらしい。まぁ、学ぶ事は幾らかあったな。貴様との戦いでそれも確認できた」

 愛用の戦斧〝金剛爆斧〟を担ぎながらふむ、と嘆息する。

 「さて、関羽よ。ここからは私も私の戦いをしよう」

 「!?」

 華雄が構えなおした途端、関羽は目を見張った。これまで感じる事のなかった圧倒的な気迫が、目の前にいる武人から放たれている。

 「構えよ」

 静かに告げる。

 関羽は、緊張から唾を喉を鳴らして飲み、構えをとった。

 大気が張り詰める。周りの兵士達すら圧倒される気迫が二人から放たれていた。

 

 「ゆくぞ」

 

 戦乙女が、再び激突した。

 

 

 「おおおおおおっ!!」

 「くっ」

 ――ドガァァッ!!

 戦斧の一撃が大地を穿つ。

 「なんの、この程度の攻撃で!!」

 「嘗めるなぁ!!」

 華雄の振りおろしの一撃をかわし攻撃に転じる関羽だったが、それは叶う事なく迎撃される。なんとか防いだものの、華雄の蹴りを受けた彼女は体勢を崩し飛ばされる。

 ――ズザァァァァっ!

 どうにか体勢を立て直す。

 「どうした?息が荒いぞ」

 関羽は、華雄の告げた通り息が荒い。それは、己の攻撃が悉く上回れる事に対する焦りの証。対する華雄は、未だに余力を残しており関羽を挑発する余裕さえ彼女にはあった。

 「華雄殿・・・何故攻めてこない!」

 「攻めているさ・・・貴様がそれに気付いていないだけだ」

 華雄はそう言って再び構える。彼女の放つ気迫が、関羽を襲う。

 

 ――そう、その気迫こそが華雄が行っている〝攻め〟に他ならない。

 彼女の強烈な気迫が対峙するだけで関羽から体力を削っていたのだ。

 

 劉備のためと功を焦る関羽はその事に気が付いていない。これがもし、違う形での対峙であったなら、名だたる武人である彼女は気付いていたことだろう。

 しかし、前回の汜水関で得られたであろう功のほぼ全てを呉が得てしまったがために、彼女には微かな焦りがその胸の内にあった。

 その焦りこそが、関羽雲長から冷静な判断力を欠かせてしまっていたのだ。

 

 ――ギンッ。ガッ、ギィイッ!ギャンッ!!

 (・・・北郷であったならば、この気迫をどう受け止めていただろうか)

 憮然と攻め続ける華雄はそんな事を不意に考えた。

 今まで戦ったどの武人とも全く違う、初めて会合した武人。

 総合的な実力で見たならば、間違いなく自分の方が上、この関羽にも届きはすまい。だが、内在する氣の総量とそれを扱う意志力がその差を埋めてしまう。

 (おそらく・・・受け流していただろうな)

 熱くなりやすい自分と違い、あの男は実に熱い心を持っていながらも落ち着いていた。だからこそ、私は苛立ちを覚え、今眼前にいる関羽のようにより気を荒げていた。

 もっとも、多くの武人が同じ様な状況になっていただろう。なにせ、武人という者の多くは頭に血が上り易い輩が多い。自身が全力であるならば、相手にもそれを自然と強要してしまうのが性である。

 

 

 無論、全力の戦い方が自分と同じである筈などなく、あの時の北郷の戦い方は、まぎれもなくあの男なりの本気だったのだろう。

 (あとは、武器のせいか・・・私が破壊したあの武器は見立て通り、疾さとしなやかさを重視したものだったからな、正面から受けて戦うわけにはいかなかったのだろう)

 そして、恐らくは思い入れがあったであろうあの武器が破壊された時は呆然としていたのだが、武器が変わった瞬間それも変わった。

 剛の力強さと柔のしなやかさを持ち合わせる、それまでと異なる武人に。

 だが、決着を見る事は叶わなかった武人。

 それ故に、今一度相まみえるその時まで――。

 「私は敗北するわけにはいかんのだ!!」

 ――ガギィィィィンッ!!

 「くああああっ!!」

 関羽は華雄の放った一閃に耐えきる事が出来ずに弾き飛ばされる。どうにか体勢を立て直し、己の得物である青龍偃月刀はかろうじて握ったままだったが、その実、腕が衝撃で痺れて偃月刀を手放す事が出来ずにいたのだ。

 

 ――「貴様が何度私に挑もうと結果は変わらん。自身の渇望を持たず、他人からの借り物の渇望だけで戦う貴様は、強者でありながら弱者なのだ」

 

 一層の凄味を増す華雄の殺気。

 なんの気構えも無くそれを受けた関羽は、殺気と視線に中てられ動く事が出来なかった。そんな彼女を一瞥した華雄は、興味が失せたと言わんばかりに鼻を鳴らす。華雄は既に彼女から興味を失くしていた。

 丁度その時、戦場に銅鑼の音が響き渡る。

 「私にあって貴様に無いもの・・・それは己が渇望。忠義は結構・・・だが、それだけでは足りぬ。私に勝ちたいのであればそれを見つけるのだな」

 

 ――「華雄将軍」

 兵の一人が関羽と対峙する華雄の傍までやってきた。

 「ああ、分かっている。総員撤退!負傷兵を優先して虎牢関に退け!!」

 「将軍は?」

 「呂布の所に行く。奴の覇気が一向に納まる気配が無い・・・銅鑼の音が聞こえていない恐れがあるからな。私に構わず貴様も戻れ」

 「承知いたしました。将軍、御無事で」

 「ああ」

 兵が下がると、華雄は馬に跨りその場を去った。

 

 立ち尽くす関羽をその場に残して。

 

 

 銅鑼の音が響く前、八人の戦乙女と対峙した呂布の戦が開幕した。

 先手をとったのは魏軍――夏侯惇元譲。

 〝魏の大剣〟の異名を持つ屈指の武人だ。

 「はぁぁぁぁぁ!!」

 振り下ろしの一閃。

 これが並の将であったなら彼女の踏み込みの疾さに体が反応できずに絶命していたことだろう。

 しかし、対峙するはこの大陸に並ぶもの無しと謳われし最強の武将。

 飛将軍――呂布奉先。

 並みなど、比べる事さえ憚られる武人なのだ。

 「・・・疾い。・・けど、恋には届かない」

 魏の大剣の一閃を、彼女は戟を持つ片手で受け止める。

 その姿は直立不動。

 覇気は揺るがず、その眼光は鋭い。

 「春蘭様!!」

 夏侯惇は一瞬背筋に寒気を覚えたものの、届いた声で我にかえり、その場を飛びずさった。

 「!」

 ――ズガァァァァァァァン!!

 側面から迫ってきたのは棘のついた鉄球、それが猛然とした勢いで呂布を襲った。

 響く轟音と舞いあがる砂塵。それが鉄球の破壊力を物語っていた。

 これが普通であったなら決着を見ていた事だろう。

 しかし――。

 「無駄・・・恋は、倒せない」

 「そんなっ」

 「季衣の一撃を片手で・・・だと?」

 砂塵が晴れて、呂布はその場に健在。鉄球は彼女の左手に阻まれていた。

 しかし、驚くべきはそこではなく、許緒の放った一撃を片手で。

 しかも素手でそれを成していたのだ。誰もがその姿に戦慄と畏怖を覚える。

 もっとも、それも一瞬の事だ。

 強者を相手に心が躍らないものが、幸か不幸かここには一人もいない。ここいいるのはどいつもこいつも強き将との戦いに気持ちを弾ませるような輩ばかりなのだ。

 

 

 六人の戦乙女が互いの牙を交えている最中、

 「いいねぇ。この覇気、この殺気・・・たまらない」

 「うむ、血が騒ぐ・・・疼くのう」

 「しかし、夏侯元譲に許緒・・・曹操の臣下、中々どうして骨がある。そして趙雲と張飛・・・ この二人も同じだな。忠義はもとより、強者との戦いを望み、そしてここにいる。敵に回すと厄介この上ない。顔良も文醜もそれぞれに忠義と確固たる信念がある。袁紹には勿体ない・・・」

 「堅殿はこの場におらぬ関羽についてどう思うておる」

 香蓮と祭は戦いに混ざらず傍観している。そのさなかに祭は香蓮に問いかけた。

 彼女の問いに香蓮はふむ、と一度考えすぐさま答えを出した。

 「視野が狭い。武人としての実力は確かにある、自身の武にも誇りを持っている。だが・・・その武に他者から借りた願いだけしか乗せていない。願い・・・理想とも言っていい。それは戦うためのきっかけとしては結構なのだが・・・あたしはな、祭〝誰かのため〟じゃなく〝誰かにこうなって欲しい〟だからそのために力を振るうというのが正しいと思っている。まぁ、一刀はその規模がいささか大きすぎる気がしなくもないがな」

 そう言って香蓮は笑う。祭も彼女の意見に尤もだと共に笑う。

 「さて、無駄話はこれくらいにしようか。祭、援護任せる!」

 「うむ!任されよ!!」

 そうして祭は弓を引き、香蓮は一対六の戦いに乱入するのだった。

 

 

 「小娘共!退け!!」

 左手に握った大剣・赤帝を力任せに振り下ろす。

 「!」

 この時、初めて呂布は〝両手〟を使って戟を握り、香蓮の一閃を受け止める。

 下に流れた衝撃は大地にヒビを入れ、初めて少女は少しだけ表情を歪めた。

 「流石にこの程度では防がれるか。だが、そうでなくては」

 「お前・・・凄く強い」

 「天下無双の飛将軍に褒められるとは光栄だな。あたしもまだまだ捨てたもんじゃないらしい」

 間合いをとってけらけらと笑う香蓮。周りは初めて余裕を崩した呂布とそれを成した香蓮に驚嘆していた。

 「さて・・・小娘共は息切れか?そうなると、あたしが全部貰うことになるが・・・いいのかねぇ・・・それで」

 挑発。

 

 いつまでへばっているつもりなのだ、と。

 お前たちは一体何のためにこの場に立つ。

 お前たちは一体誰のためにこの場に立つ。

 お前たちは何を成したくてこの場に立つ。

 

 それをただ視線のみで語りかける。

 

 そして彼女のその言葉を感じ取り立ちあがった者がまず一人。

 「知れた事・・・我が武は華琳様の覇道のためにある。貴様に言われるまでもない」

 「あたしは何も言っていないが?」

 「ふん」

 不愉快さを鼻で鳴らし夏侯元譲は再び踏み出す。

 許緒は彼女に続き再び最強に挑む。

 「いやはや、見事に炊きつけましたな。では、私も貴女の挑発に乗るとしよう・・・鈴々、ゆくぞ!」

 「勿論なのだ!!」

 趙雲、張飛も駆けだす。顔良、文醜もここにいた誰もが再び風となって戦場を掛ける。

風の行き着く先は巨大な嵐。

 「何度来ても・・・恋は倒せない」

 二度目の戦いが始まった。

 

 

 ――ギンッ、ガッ、ギャァァァンッ!!

 「にゃ・・・全部捌かれてるのだ・・・はぁ、はぁ・・」

 「やれやれ、我ら全員で挑んであちらは息切れなしか・・・ふぅ」

 趙雲、張飛の両名の攻撃も一切呂布には届いていない。ここまで来ると驚きや恐怖を通り越して呆れてしまう。

 趙雲は軽く溜息を吐いた。

 「星!へばったのなら帰ってもいいのだ。鈴々一人でも充分なのだ」

 「やれやれ・・・この趙子龍がへばったなどと。鈴々よ、嘗めてもらっては困るな」

 趙雲は再び槍を構え張飛と共に踏み出す。

 

 「あたいの一撃でぶっ飛びやがれ!!」

 文醜が繰り出す非常に大雑把な一撃は、いとも簡単に呂布に弾かれる。体勢を崩した文醜に呂布が止めと戟を振るう。

 「文ちゃん!!」

 体勢を崩した文醜の前に顔良が立ちふさがり、呂布の一撃を彼女の得物である大槌で受け止めた。

 ――ガギィィィィンッッ!!・・・・・・・・・ビキッ!!

 受け止めた大槌はその負荷に耐えきれずに亀裂が走った。

 恐るべきは呂奉先、彼女はその身一つで八人の将を相手にしてなお余裕があるのだ。

 ただ呂布は、必ず視線を〝香蓮〟に向けていた。

 それは彼女が警戒しているという証。

 何故なら先程の一撃以来、香蓮は攻撃を控えてしまっていたからに他ならない。戦いの天才でもある呂布は当然それに気付き、だからこそ警戒していた。

 

 

 

 その時――。

 「夏侯惇!避けよ!!」

 香蓮の声が戦場に響く。彼女の声の意味するところに夏侯惇が気がついた時は既に遅く、戦場から放たれた矢が彼女の瞳を貫いた。

 「ぐああああああっ」

 「春蘭様!!」

 許緒の声が響き渡る。呂布も、他の将たちも攻撃の手を止めてしまった。

 「ちぃ!遅かったか」

 「堅殿がこの最中に周囲に気をまわしておったのはこのためであったか」

 「兵もまた人間・・・こちらにしてもそんな奴が全くいないとは言えない。ましてやこの乱戦だ。功を狙う輩がいておかしくない・・・いてほしくはなかったがな」

 言葉を交わす最中も、夏侯惇の身を案じる許緒の声が耳に響く。

 「心配は不要だ。季衣・・・この夏侯元譲、これしきの事で倒れはせん」

 片膝をついていた夏侯惇は立ち上がり、瞳を貫いている矢をその手に掴むと、そのまま瞳ごと矢を引き抜いた。

 「父母に授かりしこの身は曹魏のためにあり、この瞳さえ決して無駄にはせぬ。この瞳は我が果てるその時まで我と共にあり!その証、今こそ見せよう!!」

 

 そして、彼女はその瞳を喰らった。

 

 「「・・・・・・・」」

 辺りが静寂に包まれる。香蓮さえ目が点になっていた。

 しかし、それもつかの間。声を上げて香蓮は笑った。

 「いい覚悟だ。ウチに欲しいな」

 愛剣を振りかざし、呂布との剣戟を繰り広げながら香蓮は楽しげに独白する。

 「もらう!」

 「ほざけ!」

 気を緩めた香蓮に呂布が追撃を試みるが、それが成功するはずもなく軽くかわされる。

 「あたしはお前と同じでね・・・〝考えてる〟んじゃなく〝感じている〟の、さ!」

 「!」

 直後に飛来する祭の矢を紙一重で避ける。当然、攻撃は彼女だけではない。呉の二人以外に六人の将がいるのだ。勝たないにしてもそれ相手に未だに膝をつかない呂布は、やはり脅威と言える。 戦っている将たちは皆、相手が本当に自分と同じ人間なのかという思考が不意に過ぎった。

 その中で未だに笑みを湛える香蓮。祭は、そんな彼女を見てやれやれと肩を竦める。

 (〝策〟の手前、本気で戦えぬ事が口惜しいであろうな・・・北郷が快気した時の事を考えると奴が些か気の毒じゃのう)

 くくっと含み笑いをした祭だった。

 

 余談ではあるが、丁度その頃一刀が大きなくしゃみをしたそうだ。

 香蓮と祭が知る由もない事である。

 

 (・・・ちぃ、こんな時に・・・)

 戦いは楽しい。気分の高揚感は一刀と手合わせした時以来の最高の状態だ。

 だというのに、香蓮は苛立ちを軽く覚えていた。

 

 ――視界が僅かに霞んでいる。

 「なんだ・・・目が霞む」

 「堅殿!!」

 「はっ!?」

 正常に戻った視界に納まったのは眼前に迫る戟。

 「終わり」

 〝死〟が振り下ろされた次の瞬間――。

 

 『香蓮!!』

 

 確かに、その声を聞いた

 

 

~あとがき~

 孫呉の外史2‐5をお届けしました。

 如何でしたか?

 今回の話は以下の通り

 

 ――華雄vs愛紗

 ――呂布vs香蓮(他七名)

 

 となっております。

 正直、今回書く事があまりありません。なので次回予告にささっと行かせていただきます。

 次回、虎牢関決着。董卓連合編も完結を予定しております。

 楽しみにしていてください。

 それではまた――。

 Kanadeでした。

 


 
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