No.156635

恋姫異聞録73  定軍山編 -蒼炎の軍師-

絶影さん

仕事前にUPです

プライベートが忙しすぎて笑えてきます

仕事中にトイレへ逃げ込み現実逃避をしている日々

続きを表示

2010-07-10 12:14:32 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:11728   閲覧ユーザー数:9082

 

爆ぜるように音を立てる武器、鈍重な鉄塊、轟天砲に叩き込まれるのは凪の拳と男の掌底

男が演目を口にし走り出した後、まるで雷のように素早い連撃が叩き込まれ、厳顔の武器は

固定されてしまっていた

 

正面から真直ぐに拳を叩き込む凪に対し、男は左右から掌底を叩き込み轟天砲を固定そして

凪の拳の真下にスルリと潜り込むと凪に目線を送った

 

「行け、凪」

 

真下から送られる目線で男の意志を理解した凪は、目の前に土台のように膝を曲げる男の肩に足をかけ

宙に舞い上がり武器を盾にした厳顔の真上から気弾を放つ

 

「させないっ!」

 

突然真上から現れた凪に反応できない厳顔を補うように、黄忠の矢が凪を狙い飛来する。しかし

 

パキンッ!

 

瞬時に腰から抜き取った剣で襲い来る矢を男は切り落とし、凪の気弾は避けるために身体を捻った厳顔の

肩当を砕く

 

「ぬぅっ、このっ!」

 

肩に喰らったか、しかし空中では避けれまい轟天砲の錆びにしてくれるっ!

 

衝撃をものともせずに歯を食いしばり、轟天砲を無理矢理振り上げ凪を斬りつけた

 

ガシッ

 

しかし轟天砲は手元で止まり、振り上げられないまま固定されてしまう

 

「なにっ?!わしの腕を掴んで!!」

 

手元を見れば、矢を切り払った男の片手がメキメキと自分の腕を握り締め、しっかりと振り上げる手を固定していた

そしてその手に驚けば、地に降り立つ凪がついでとばかりに蹴りを厳顔の背に叩き込む

 

「ぐあっ」

 

「凪っ!」

 

「はいっ!」

 

崩れる厳顔を横目に、男に呼ばれた凪は手を伸ばす。そしてつかまれた手を引っ張れば、男は軽くふわりと

凪の居るほうへ引き寄せられ、男は着地と同時に凪と背中合わせになり、襲い掛かる韓遂の槍を捌く

 

「はぁっ!」

 

小さく気合と共に息を吐き出し、韓遂は覇気をその身から垂れ流し襲い掛かってくる。男と凪は右、左と

二人で交互に捌き、襲い来る槍を捌くと同時にどちらか片方の拳と蹴りが襲い掛かる

 

「カカカッ!腕が無くともっ」

 

捌かれた槍を足で跳ね上げ口に咥えると、襲い掛かる連撃を右腕一本でいなし、蹴りを合わせ防ぐ

 

「貴様の攻撃が一番ぬるいぞ舞王っ!」

 

気の込もらない素手の攻撃を弱点と見た韓遂は、凪に槍での連続突きを捌かせ、襲い来る男の攻撃に

瞬時に槍を手放し、拳に気を溜め合わせた

 

「さぁ、どうする舞王っ!」

 

韓遂へと攻撃をする男の掌底が拳とぶつかる瞬間、身体を柔らかく深く地に伏せ拳をかいくぐり、韓遂の脇の下を

掴む、鷲掴みにされた脇に男の指が食い込み、拳を出す為に捻りきった身体を固定するように男は韓遂の右足を

踏みつけた

 

「はああああああああっ!」

 

「ちぃっ、コォォォォッ」

 

身をよじるより早く、身体を固定された韓遂の頸に凪の手刀が襲い掛かるが、瞬時に硬気孔を使い額で受けられ

弾かれる。しかし凪は冷静に拳を握り固め、韓遂の身体に凪の連珠砲が叩き込まれる。初撃を入れると同時に

残る左足を踏みつけ、気の込められた双拳が爆竹のような炸裂音を立てて韓遂の身体に叩き込まれた

 

「銅心殿っ!」

 

拳を打ち込ませる為固定し動きの止まる男に、立ち上がり地面をけって轟天砲を真上から振り下ろす厳顔

だがその腕は振り切る事無く空中で止まり、厳顔の顔が忌々しそうに男を睨みつける

 

「こ、のっ!」

 

振り下ろされる前に、男は踏みつける足を外し、韓遂の膝に引っ掛けると体勢を崩し自分の方に引き込み

轟天砲の切っ先の真下に韓遂の頭を入れていた

 

止まる切っ先を今度は翻し、横薙ぎに男の身体を真っ二つに切り裂こうと振りぬくが、今度はその場にはおらず

隣の凪が男の腕を掴み自分の方へと引き込んでいた

 

「そうだ凪、俺を自分の武器のように、相手を固定する固定具のように使え」

 

「了解っ!」

 

「俺はお前の望むままに舞い踊る。想像を広げろ、己の可能性は無限だと」

 

背中合わせに男から感じる大きい信頼と安心を感じ、己の力がまるで何倍にも増幅されたように身体に

力が漲る

 

沙和は隊長と戦った時にこれを感じたのか、私は隊長に信頼されている。私もまた隊長を・・・

これならば負ける事は無い

 

拳を固め構える男と凪を横目に、口から血を流し崩れる韓遂の身体を支える厳顔は舞王のしていることの

恐ろしさを理解し轟天砲に気を込め始める。再度地面を爆発させ隙を作る為に

 

「大丈夫か銅心殿」

 

「くぅ、咄嗟に使ったが硬気孔など久しぶりだからな。巧く攻撃を殺しきれなんだ」

 

「あれは今この場で葬らねば脅威になる」

 

「そうだな、前線であれをやられるとなると面白くは有るが、兵が死ぬ」

 

そんな二人の姿を見て黄忠も理解し、近づくことが出来なかった。弓兵で有る自分がむやみに接近すれば

仲間の邪魔になるどころか足を引っ張ると

 

どうしたら良いの?私が隙を無くす為に矢を構えると舞王は私の射線に銅心様や桔梗の身体を入れてくる

下手に打ち込めば仲間に当ってしまう・・・ならばっ!

 

「いかんっ!」

 

矢を番え、木に横たわる秋蘭目掛け矢を放とうとした瞬間、男の身体から複数人の紅蓮の殺気、怒りが放たれ

韓遂が咄嗟に気がつき大声を上げて黄忠の前に飛び出す

 

ズドンッ!

 

韓遂の肩口に二つに切り取られた韓遂の槍が突き刺さり、その衝撃で黄忠ごと地面に倒れ込む。

男は黄忠の矢が秋蘭に向けられると同時に転がる槍を蹴り上げ凪の気を込めた蹴りで弩弓の如く撃ち出したのだった

 

「銅心様っ!」

 

「うぐぐっ、いかんぞ紫苑殿。舞王の意識は常に後ろの雷光に向けられている」

 

「そんな、ああっ銅心様」

 

「心配無用、無い腕の肩に刺さっただけよ。戦うに支障は無い」

 

そう言って立ち上がると、肩口に突き刺さった槍を乱暴に抜き取り投げ捨てる。血の流れる傷口に立ち上がった

黄忠は己の羽衣を切り裂き素早く傷口に包帯のように縛り付けた

 

「紫苑殿は隙を狙い必殺の矢を引き絞って下されば良い、隙は我等が作る」

 

「はい」

 

槍が飛んでくる瞬間、舞王の身体から一人ではなく多くの人間の殺気と怒気が放たれた・・・

やはり間違いない、鉄心よお前の息子はお前と同じだ、全てを背負い共に生きる気だ

なんとも羨ましい話よ、己を超える息子を持てたのだからな

 

「銅心殿、わしの方は準備は出来たぞ」

 

二人を肩越しに見ながら轟天砲に気を溜め、眼前の男と凪を威嚇していた厳顔は二人が無事なことに安心し

武器を構えなおし、撃鉄を上げる。それを見ながら男は怒りを落ち着かせ冷静に頭の中で厳顔の持つ鉄塊に

考えをめぐらせていた

 

 

・・・落ち着け、秋蘭は大丈夫だ

あの武器はパイルバンカーってやつだろう

誰が作ったんだか知らないが、あんなものが有るなら木をなぎ倒してくるなど容易いことだ

それよりもその反動と衝撃に耐えられるんだ使い手は化け物だな、腕力も身体の耐久力も桁外れといった所だ

地面と来た時の秋蘭の様子を見れば恐らくあれで土砂を吹き飛ばして使うか、相手に至近距離で撃ちこむか

喰らったら消し飛ぶだろうなあれは・・・

 

「隊長ー!助けにきたでーっ!」

 

「真桜、ちょうどお前の力が必要だったんだ」

 

「そやろ?褒めて!」

 

「ああ、偉いぞ。凪助かった、有り難う」

 

「はい、此方はお任せします。頼んだぞ真桜」

 

「まかしとき」

 

森から飛び出した馬からヒラリと降りると、真桜は男に駆け寄る。そして男は真桜の頭をなで、凪は目礼をして

一馬の後ろに飛び乗る。そしてまた一馬は男に笑顔を向けると「次は詠さんですね?」

とまた森の中へと消えていった

 

「やはり、将兵たちと動きをあわせることが出来るのか」

 

「厄介な男よの、舞王・・・」

 

 

 

 

新たに現れた将に韓遂達は顔を歪める。次々に変わる戦闘方法、そして動き、全てに慣れる前に動きが

変わってしまい、常に新しい敵と戦わされる気分にさせられてしまう

 

「んん~?!」

 

「どうした真桜?」

 

「あの武器・・・・・・轟天砲やないかっ!」

 

「知ってるのかあの鉄塊」

 

「失礼なっ!鉄塊とちゃうで、ありゃ轟天砲ちゅうて邑におる時に作った戒めの一品や」

 

「戒め?」

 

「そうや、攻撃力だけ求めて、使い手を全然考えんかった。あれを使えるやつがおるとはなー」

 

「・・・やはり尋常ではない相手なんだな」

 

「それを押しとるんやから隊長も十分尋常やないで、まぁあれはうちに任しとき」

 

「ああ、任せたよ」

 

腰に複製刀の【桜】を携え、螺旋槍を構える真桜の背中合わせに男は立ち、剣を二振り腰から抜き取ると

一直線に槍のように構える。やはり先ほどの二人同様鏡合わせにしたような姿をとり、真桜はその姿に

恥ずかしそうに肩越しに微笑んでいた

 

次は山場だ、終幕は近い

 

 

 

 

【叢演舞 第三幕 雲間から差し込む光は桜木を照らし、雨水に濡れる花弁は真に守るべき嬰を写す】

 

 

 

 

構える男と真桜を前に、今度は迎え撃つのではなく厳顔が走り出す。そして轟天砲を一直線に地面に突き刺す

その動作に真桜と男は走り出し、男は腰に剣を収め真桜の前に飛び出すと手を掴み思い切り投げ飛ばした

 

弾丸のように飛ばされた真桜は一直線に地面に突き刺そうとする轟天砲に飛びつき、回転弾倉を真桜は

両手で抱きしめるように押さえ込むと厳顔にニヤリと笑顔を向ける。厳顔は構わず引き金を引き絞るが撃鉄は

動かず、止まったまま穂先が地面に突き刺さった

 

「轟天砲を知っておるのかっ?!」

 

「あったりまえや!うちが作った武器やでこれ」

 

腰をかがめ、轟天砲を抱きしめる真桜の背中にふわりと柔らかいものが触れると、厳顔の目の前に男のとび蹴り

が襲い掛かる。厳顔は引き金から手を放し、蹴りを腕で防ぐと足を振り上げぽっくりで男を蹴り上げようとすると

ガクンと蹴り足が男に届く前に下へ沈む

 

「何!?」

 

地面に視線を移せば、敵の持つ螺旋の槍が地面を掘り起こし厳顔の足は堀下がった場所に足を着いていた

 

「くっ、鬱陶しいやつらだ!」

 

真桜の片腕が回転弾倉から離れたのを見て再度引き金に手を移し引き金を引くと、今度は撃鉄と薬莢の間に

腰から抜いた複製刀【桜】を挟み込む、カチンと頼りない音を立て、撃鉄は刀を叩くが鉄杭は打ち出されず

厳顔の顔が苦悶に歪む

 

ヒュッ

 

空中で男は腰から剣を抜き出し、厳顔の頭を斬り付けようと振り下ろす。だが韓遂はそれを許さんとばかりに

槍を男の横腹に突き刺そうと凄まじい速さで槍を突き出した

 

「隊長っ!」

 

「真桜っ!」

 

男の意志を眼から感じ取った真桜は轟天砲を引き抜き韓遂に向け素早く間に挟んだ複製刀【桜】を抜き取る

薬莢に振り下ろされる撃鉄、爆発音と共に打ち出される鉄杭が韓遂を襲い、反動で真桜と男の身体は

後方へ、地面に足を取られる厳顔はその場に残り、吹き飛ばされ舞い上がる土煙の中に韓遂は残され姿は見えない

 

「いったー!相変わらずの反動やなぁ」

 

「いつつっ、こんなの良く振り回してるもんだ」

 

男と真桜は立ち上がり、また武器を構えると土煙とその前に立つ厳顔を見据える

 

「銅心殿ーっ!」

 

厳顔は轟天砲を打ち込まれた韓遂の生死に絶望を感じたが思わず叫んでいた。そして後方の黄忠も顔面蒼白

で土煙を見ていた。しかし、土煙から聞こえてくるのは無邪気に笑う子供のような笑い声

 

「ガハッ、ク・・・クククククククッハハハハハハハハハハッ!!!」

 

地面に横たわる韓遂は半身から血を流し、手に持つ槍は粉々に砕け笑っていた。あの瞬間韓遂は打ち出される

男にむけた槍の軌道を変え、鉄杭の横腹に叩きつけ硬気孔を使い気の爆発から自身の被害を最小に押し止めていた

 

「これほど楽しませてもらえるとはな、これほど傷を受けるなど何時ぶりか、鉄心と戦った時以来だろうか」

 

血まみれの韓遂は立ち上がり、槍を捨てると拳を構え嬉しそうに口の端を吊り上げ鬼のように笑う

 

笑う、笑う、腹の底から楽しそうに笑い出し、半身から流れ落ちた血液がボタボタと滴り

地面を赤く染める、それを意に介するかとも無く、嬉しそうに笑いながら拳に光を集め凪のように構えを取る

 

「銅心殿・・・クックックッ、はっはっはっはっ!」

 

そんな鬼とも修羅とも言える韓遂の姿を見て厳顔も笑い出す、嬉しそうに。そして黄忠はまた槍を

韓遂へと投げ渡し、韓遂はそれを蹴り上げ口に咥えると眼光鋭く真桜と男を睨みつけまた笑う

 

「流石は英雄、銅心殿が何と言おうと銅心殿こそ真の英雄」

 

「カカカッ、桔梗殿に認められるとは、ありがたいことよ」

 

鬼の形相を向けられ真桜は一瞬萎縮するが、背中越しに感じる温かい空気が厚みを増し、心が満たされる

自分は守られている。いかなる敵がこようとも怯む事はないと

 

「おっそろしい顔しとるで、まるで鬼やな」

 

「そうか?俺には怒った華琳の方が恐ろしい」

 

「ぷっ・・・くくくっあははははははっ!そんなんいったらまた痛い目に合うで隊長」

 

「だな、だからこれは内緒だ」

 

「ええよ、そんかわし帰ったら美味いもん奢ってもらうで」

 

肩越しに男は微笑み頷くと、真桜は嬉しそうに笑う。そして二人は同時に走り出す。回転する螺旋槍とともに

槍のように構えた剣を突き出し、厳顔へと走る。迫る二人に厳顔は足を穴から抜き出し、轟天砲を拾い上げ

地面に穂先を突き刺し引き金を引き絞った

 

スドンッ!

 

強烈な破壊力の鉄杭が大地に叩き込まれ、爆発を起こし土砂が真桜と男の二人に襲い掛かった

襲い掛かる土砂を真桜は真正面に捕らえてニカリと笑うと、勢いを殺さずそれどころか更に走る足を速め

土砂へと突っ込んでいく

 

「うらぁっ!」

 

土砂が被さる寸前で真桜の螺旋槍が光を放ち、高速で回転し襲い掛かる土砂を払いのける。土砂は轍のように分かれ

螺旋槍は真桜の進む道を一筋作り出していく

 

「読み筋よ!」

 

土砂を掻き分け襲い掛かる高速の螺旋槍に厳顔は、地面に突き刺した轟天砲を抜き取ると素早く合わせ引き金を引く

 

【演舞 外式 鏡花水月 -凪ー】

 

足元から聞こえる男の強く重みのある声、そして構えた轟天砲は地面を滑り込み、片手で己の身体を押し上げ

矢のように下から突き上げられる蹴りで真上にかち上げられた

 

凪の技の演技、穿弓腿。俺の力で威力なんか無いが多少軌道を変えるならばこれでも十分だ

 

蹴り上げられた轟天砲は空を叩く、厳顔は男の行動に驚きながら、迫り来る螺旋槍を避わすことが出来ないと判断

ふわりと地から脚を離した

 

「流石は桔梗殿」

 

地から脚を離した厳顔は轟天砲の威力で後ろへと飛ばされる。韓遂はそれと同時に真直ぐ走る真桜に光る拳を

あわせたが、目の前に現れる金糸でつむがれた魏の文字。男もまた轟天砲の反動を利用し背中からふわりと

韓遂の身体に預けるように飛ばされていた

 

「ぬぅっ、貴様は槍使いの盾か!」

 

「当りだ、守るべきは嬰。貴方に邪魔はさせない」

 

真桜の螺旋槍は威力は春蘭の強烈な一撃に引けを取らないが、あの武器は薙いだり叩いたり出来るものじゃない

あの武器と真桜を生かすならば、俺は装甲車の装甲のように、真桜の道を開く盾となる

 

身体がかさなり、韓遂と全く同じ動きをとると突き出した右腕を重ね掴む、真桜は男の方を見ることもせず

届かないと判断すると走りながら更に螺旋槍に気を込め、穂の付け根が光を放ち轟音と共に打ち出された

 

「これがウチの奥の手や、ぶっ飛べデカ女ぁ!」

 

ミサイルのように回転をしながら高速回転をして一直線に厳顔を襲い掛かる。巻き上げられる土煙がその威力を

物語り、黄忠は思わず叫ぶが厳顔は楽しそうに笑い、轟天砲を水平に構え引き金を引く、飛び出す鉄杭が空気を

叩き、振動で螺旋槍は揺れる。そして反動を利用して一回転すると轟天砲を下から掬い上げるように振り上げ

螺旋槍に叩きつけた

 

「まだまだぁっ!」

 

叩きつけた轟天砲を駄目押しとばかりに下から脚を振り上げポックリを轟天砲に叩きつた

螺旋槍の穂先は軌道を変えられ厳顔の後ろへと砂煙を上げながら木に突き刺さり動きが止まる

 

「な、なんやて?!」

 

「真桜っ!」

 

男は声を上げると、背中にいる韓遂の血を流す半身に後ろ手で指を食い込ませ、痛みで一瞬動きが止まった隙に

身体を離し、真桜の背中にピタリと張り付くと構えを取る

 

「大丈夫か真桜?」

 

「う、うん、でも穂先がこれになってもうた。ただの槍や」

 

そういって俺に見せてくる槍の穂先は刀を付けたもの、槍とう言うより偃月刀。だがその穂先はよく見た事のある

形で、どうやら複製刀【桜】をつけた薙刀のようなものだった。

 

「槍はそれなりに見せてもらったことがある。合わせるのは簡単だ」

 

「しっとると思うけど、うち普通の槍はあんまし巧くないんや・・・まぁ隊長が一緒なら何とかなるやろ」

 

螺旋槍は無くなったがまだいける、真桜の槍は確か基本に忠実な槍の型、後は腰の刀をそれに混ぜるように

使う型だったな・・・よし、舞は変わらず俺の盾と真桜の矛で行く

 

 

 

 

「そろそろ私の出番だな」

 

背後から聞こえてきたのは何時も聞いている美しく凛とした透き通る声、蒼い長衣を美しくたなびかせ、地面に

突き刺さる弓を引き抜き、此方に歩いてくる。身体は動くようになったのか、良かった

 

「交代だ真桜、お前は後ろで見ていろ」

 

「しゅ、秋蘭様。大丈夫なんですか?」

 

「ああ、腕のしびれも無くなったし、何時までも昭に甘えていては兵に示しが付かん」

 

良かった、これでまだいける。俺と秋蘭の舞いは無数の組み合わせがある。いくら韓遂殿といえども俺達の

動きは見切れないはずだ、それどころか弓も矢もある。腰弓姫の舞でもいけそうだ

 

「フフッ、私も叢演舞か?」

 

「そうだ、群舞から繋がる俺と秋蘭の舞だからな」

 

そういうと秋蘭は俺の腰から剣を二振り抜き取り、弓を自分の腰にかけて俺と背中合わせになる

そうだ、この安定感と俺の中で爆発するような力の沸き起こり、これが秋蘭と他の将との違いだ

俺は妻と二人なら何処までも強くなれる、限界など無い

 

俺と秋蘭が背中合わせで構えを取る姿に何かを感じたのか、対峙する厳顔達の顔は歪む。目まぐるしく変わる

舞に驚いているのか、だとしたらこれからは更に驚くことになる。前回見せたものなどほんの一部だ、俺たちの

舞はお前達の目ではなれることさえできないだろう

 

「それじゃ、ウチは後ろで兵を指揮します」

 

「ああ、頼む。昭、我等の演目は何だ?」

 

「そうだな、叢演舞」

 

ガサガサッ

 

俺が言い途中で声は森から飛び出した馬と男、少女に遮られ、馬から下りた少女は腰に手を当て

人差し指を振りながら自慢げに俺の言葉の後を繋げた

 

 

 

【終幕、風に雲は流れ帝郷を包み、詠われるは詠雲、恐れを知らぬ愚者は雲の恐ろしさを知る】

 

 

 

詠だ・・・なんてタイミングの悪い、うぅ・・・秋蘭を見てみろ、俺の背中で他人の眼からは解らないくらいに

頬が膨れて、俺をすねたように肩越しから見上げてくる。剣を持つ親指を柄から離して俺の裾をクイクイと

軽く引っ張っている、その仕草が可愛すぎるんだが後が怖いんだよ

 

「あのな詠」

 

「何よ、話しは聞いたわよ。僕はアンタと舞う事は出来ないけど、戦場でアンタと共に兵を舞わせて見せるわよ」

 

「あー・・・有り難う」

 

「何それ?全然感謝して無いでしょう」

 

「まぁな、それよりも風の方は?」

 

俺の言葉で槍を構えた韓遂の顔は苦虫を噛み潰したような苦い顔となり、詠を鋭く睨みつけると身を翻し

森の中へと走ろうとする

 

「無駄よ、もう遅い。餌はさぞ美味しく見えたのでしょうね、周りが見えないほどなのだから」

 

「くっ、引くぞ紫苑殿、桔梗殿」

 

「どういうことだ銅心殿!?」

 

「嵌められた、俺が置いてきた兵は巧く逃げ切ていれば良いが、此処は既に囲まれている」

 

韓遂殿はようやく気がついたようだ、俺も詠の眼を見るまで理解できなかったが、というか教えたら

動きや顔に出るから教えなかったんだろうが、俺の隣で詠は顔を歪める敵将を嬉しそうに口の端を吊り上げ

恐ろしい笑みをつくり笑い出す。鬼気迫る笑みというのはこう表情を言うのだろうか、韓遂殿より恐ろしい

 

「そうよ、勝つためなら僕は総大将だろうが餌に使う。わざわざ兵を少なく罠なんかも仕掛けたんだから

英雄様なら来てくれなきゃ、戦なんてのは将がいくら強くたって兵が居なきゃ意味無いのよ」

 

「始めから狙いは俺たち涼州兵か、小癪な真似をする」

 

そうだ、俺の元に将を三人集め。攻撃力のある騎馬兵、涼州兵を潰す。わざわざ山岳戦に引きみ迎え撃ったのは

馬から下ろす為だ、俺が此処に戻ったのと同時に詠は兵を全て風に預け、後方で伏兵として待ち構る統亞を引きつれ

入れ替わるように此処に来た、森の中には闇に溶け込むように山岳戦のプロ、もと黒山賊の兵士達が囲み武器を

構えているはずだ、風は俺のところから入れ替わりに交代する凪達と共に今頃涼州兵を圧倒していることだろう

 

「桔梗殿、殿は俺がっ」

 

「いいや、断る。銅心殿は十分戦ってくれた。此処からはわしと紫苑に任せてもらおう」

 

「しかし」

 

「英雄殿が導けば、兵は死なぬだろう。銅心殿は英雄、馬騰殿に引けを取らぬ」

 

厳顔殿が武器を構え、後ろの黄忠殿が柔らかく韓遂殿に微笑み弓を構えた。そして韓遂殿は走り出す

それを見た俺は逃さぬように武器を持ち走り出そうとするが詠に止められてしまう、そして

 

「掛かれ、雲の影に潜む狼たちよ。その牙を縄張りを荒らす愚か者どもに突き立てろっ!」

 

詠の号令と共に影から身体を黒い衣服に包んだ兵達が音も無く襲い掛かる。敵兵はその姿に恐れ慄き、叫び声を

上げるが、韓遂殿は声を上げ奮い立たせ兵を導く

 

鉄心よ、英雄の名を名乗らせてもらうぞ

 

「恐れるな、殿には名将が付いている。お前たちを導くは涼州の英雄韓遂!俺の名を知るものよ我と共に生きよ!」

 

韓遂の言葉に敵兵は声をあげ、走り突き進む。それを追い立てるように追撃する黒衣の兵達は立ち塞がる

厳顔と黄忠に次々に倒される。

 

「詠、あの二人は俺と秋蘭が」

 

「落ち着きなさい、あの二人は此処で倒さ無くても構わないわ。統亜、弓兵を使い遠距離から攻撃しなさい。

黄忠の矢に気を付けて、あとの残りは違う道から韓遂を追撃」

 

そういうと、俺のほうを見てニヤリと笑う。どうやら此処で決着を着けるわけではないらしい、新城に

敵兵を追い込み纏めて撃破するつもりか?眼の奥が恐ろしい蒼い炎が燃えている。本当に敵でなくて良かった

こんな眼をする人物は今まで見たことが無い、恐らく風も同じようなものを持っているんだろう

 

矢で遠距離からの攻撃を開始され、武器の重い厳顔はただの盾となり、後ろの黄忠は此方の兵の盾の隙間を狙い

精密射撃をしてくるが、撤退するのも時間の問題だろう。しかし、引き連れてきた敵兵は一体なんだ・・・あれは

 

「詠、敵兵がおかしい」

 

「うん、アンタはどう思う?」

 

「・・・新兵、募兵、志願兵、錬度の低い兵士にしか見えない。敵から感じるのも脅えばかりだ」

 

切り殺される敵兵を見ながら男は語る。その首筋からは血が滲み流れ出し、額からも血を流しだす

傷の無い場所から血を流す男を見て、隣の秋蘭は驚き両腕で頸に抱きつき顔を自分の方へと無理矢理に向けた

 

「無理をするな、直視すればお前が傷つく」

 

「大丈夫、少しだけだから」

 

「秋蘭の言うとおりよ、誰も見ろとは言ってないじゃない。考えを聞かせろって言ったの」

 

秋蘭は目尻に涙を溜めて下を向く、詠は溜息をついて「で?どうなのよ」と聞いてくる

考えられる事は一つだけ、だがそうだとしたらなんと恐ろしいことを考えるんだ、まさかまだ武王を演じているのか

それとも軍師の諸葛亮の考えだというのか、だとしたら恐ろしすぎる。俺は前に諸葛亮の眼をしっかりと見る事は

しなかったが、恐らく詠よりも恐ろしく深い蒼の、いや黒い炎を宿しているに違いない

 

「・・・これは」

 

「・・・いいわ、アンタの表情で僕と風の考えが間違って無かったことが証明できた。次の攻城戦でアンタの

覚悟を見せてもらうわよ」

 

そういうと、身を翻しその場から撤退を始める敵将二人を真直ぐに見詰め、追撃を指揮する詠がいた

その横顔からは、決断を下させてしまうことに酷い苦痛を心に受けていることが感じるのに無表情で

そんな優しさに、俺は隣で不安な顔をする秋蘭に笑いかけ、優しく手を握ると次の戦での覚悟を決めた

 

 

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
68
21

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択