「…早くこないから…」
明らかにむっとした声。
男にしては些か高めの声。
魔法の貝を通して聞こえてくるまだ年若い声。
「こっちだってさ~命令うけてチョコ飛ばして即行で行ったんだぜぇ?」
パールを通しても尚、粗野な声。
それでいて自信に満ちたはっきりとした声。
そんな男の声に少々困惑したような音色が混ざる。
「フェブ、お前が古墳にいるっていうから、ウルガランから吹き降ろす風よりも早くすっ飛ばしてたんだけどよ」
「別に…いいのですけど…」
いつもそんなわがままなど言わないフェブルナルドの声が沈んだ。
エルディーム古墳の陰気臭い墓場…いや、神聖な地がフェブルナルドの管轄だった。
いくら若いとはいえ、枢機卿という立場である彼はその他に配属されることはない。
一方、傭兵であるレオノアーヌは他国であろうと最前線であろうと、どこでも飛び回っていた。
そんな中珍しく二人の将軍が同じ地域に配属されることになった。
先に出発していたのはフェブルナルドであり、すでに古墳へと到着していた。
後から命令をうけて向かったのはレオノアーヌ。
最近、時間が合わず互いに国でも会えない。
どこででもいいから一目会いたいという気持ちは互いに同じだった。
声だけではなく直に会いたい。
出撃の報を受け、待ってましたとばかりにレオノアーヌは部隊を率いて飛び出していった。
が。
どんなに急いだといっても、一両日はかかる距離である。
その前に戦闘が終わることなどざらで。
「…とりあえず、気をつけてください。またオークが仕掛けてくるとも限りませんから」
サンドリアにいるであろうフェブルナルドの抑揚のない声。
残念感が漂いまくっている。
将軍同士という立場上、そんなことで一喜一憂してる場合ではないのだ。
だが、浮ついてるというわけではないとレオノアーヌはそう主張した。
そういう些細なことが生活の張りであり愛であり生きがいで、なによりもやりがいにも繋がるのだと。
それに感情や生活を犠牲にしてまで己を“枢機卿”という偶像に作り上げているフェブルナルドが愛しく、そんな彼に人としての喜びを与え慈しみたかったのだ。
どんなときでも。
こんなときだからこそ特に、だ。
今は己の前でだけ、フェブルナルドもはっきりとした感情と意思をあらわすようになっていた。
機械仕掛けのように仕事をこなすだけだった彼にしてみれば大分変わったと思うし、それこそが本来のフェブルナルドの本当の姿だとレオノアーヌは思っている。
だから、少々わがままで少々無理なことを言っているとわかっていても、むしろそれは彼なりの不器用な愛と甘えだということには気づいていた。
「なあ、そんな落ち込むなよ。俺がサンドに帰ったら、デートしようぜ。時間作っから、オマエも作れよ」
「別に、落ち込んでなどいません」
明らかなため息。
レオノアーヌは思わず笑った。
「オマエが俺のこと、どんだけ愛してんのか分かったから、もうちょっと可愛い声聞かしてもらいてぇんだけどねぇ~」
「…あいしてなんか…」
小さくなる声。
フェブルナルドの周りに雑音が混ざらないということは執務室か自室なのか。
それを踏んでレオノアーヌはパール越しに囁いた。
「俺は愛してるぜぇ?世界中の誰よりもな」
周りに人がいようがいなかろうが、気にもとめずそう言い放った団長の言葉に、部隊の猛者揃いの美女たちが肩をすくめた。
この団長にしてこの部下である。
のろけられることが面倒なのか、団長の恋沙汰には無関心を装うことを決め込んでいるらしい。
「…ぼくも…」
一人でいるときのフェブルナルドは素直だ。
そんな彼の言葉ににんまりとレオノアーヌは頷くと軽くリップ音をたてた。
「んじゃ、す~ぐ帰っから、準備しておけよ~またなァ」
その声とともに喧騒と剣の甲高い音が響いた。
フェブルナルドはその音を聞きながら、小さく頷き無事を祈った。
end
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ショートショート小説。FF11狗神レオノフェブ