No.156006

いつ滅亡してもおかしくない蜀漢

 完全ギャグテイストです。短編ですので、成都大宴会とかのシリーズとは全く関係ありません。これもまた一つの外史としてお楽しみください。
 北郷一刀様は出てきません。登場人物は全て女で、百合です。作者の趣味です。アニメ版に近いです。
 これらがダメな方は戻るをクリックしてくださいませ。
 それではどうぞ!

2010-07-07 21:21:33 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:3134   閲覧ユーザー数:2841

 簡単なキャラ相関図

 主要キャラ

 愛紗 仕事一筋だが来るものを拒めない難儀な性格。

 鈴々 愛紗一筋。

 朱里 仕事一筋だが来るものを拒めないので散々な目にあっている。

 

 オリジナル

 姜維 朱里が好きすぎて生きていくのが辛い。

 馬良 朱里が好きでお姉さまと呼んで敬愛している。馬謖は実妹。

 馬謖 朱里が好(ry。「義姉様になら首を刎ねられても謖は幸せです」とまで公言しているドМ。馬良は実姉。

 楊儀 朱里が(ry。焔耶と仲が悪い。

 

 

 朱里が部屋に閉じこもって出てこないという。

 凶馬に跨って嬉々としている姉が頼りにならない以上、ここは自分が動くしかないと愛紗は立ち上がった。

 

「鈴々たちでどうにかなる問題でもないような気がするのだ」

「やってみなくてはわからん」

 

 どうにも乗り気でない妹を引きずって、取り敢えず丞相府に入った。官僚は優秀なものばかりだが、その頂点に君臨している朱里がいないとどうにも張りがない気がする。

 書簡を持って通りがかった楊儀を捕まえて、事情を聞いてみた。

 楊儀は焔耶と仲がすこぶる悪い文官で、小麦色の肌にショートカットの髪がよく似合う、気の強い娘である。

 

「丞相が部屋から出てこない理由ですか」

「そうだ。何か知らんか」

 

 朱里の住居は丞相府から少し離れたところにある。朱里は貧乏性なのかなんなのか、大きな館はいらないといい、とても丞相が住んでいるとは思われないような家に住んでいる。館ではなく、家である。

 楊儀は首を傾げて考え込んだ。

 

「私はよく知りませんが、三日ほど前、馬謖殿に夜這いをかけられたという噂が」

「それだ」

「いや、愛紗は短絡的なのだ。あの朱里がそのくらいでへこたれるわけがないのだ」

 

 鈴々の言うことも一理ある。朱里は一人で十人分の仕事を平然とこなしている。

 その姿勢は、日が出る前に机につき、空が白むまで筆を離さないという仕事中毒である。胆力なら誰よりも勝るような気がする。部下にちょっと襲われたからと言って引きこもったりはしないだろう。

 

「非力な丞相は抵抗もできず、朝方まで呻き声や泣き声が聞こえていたとか」

「内容はいい。知っていることはそれだけか?」

「もう一つ。疲労困憊した丞相は馬良殿に助けを求めなさったそうですが、反して馬良殿も加わり、昼までむせび泣くような声が聞こえていたとか」

「それだ」

「だから軽く決めつけちゃだめなのだ」

「それ以外でしたら、病を患ってしまったという噂も」

「それなのだ」

 

 何故それを先に言わぬと少し睨んでやると、楊儀は怯えて数歩下がった。気は強いが打たれ弱い。この間もキレた焔耶に刀を突きつけられて大泣きしていた。

 

「病なら仕方が無いか。何か見舞いの品でも」

「この間雛里に貰った八百一本があるのだ」

 

 鈴々に差し出された大きくて薄い本を受け取って、パラパラとめくってみる。

 そしておもむろに鈴々に返した。

 

「お前もこう言うのが好きなのか?」

「何度も読んだけど、何が面白いのかはわからないのだ」

「そうか。そうだな」

「二冊あるから、一冊は楊儀にあげるのだ」

 

 楊儀は張飛将軍から承ったものなればと喜んでそれを受け取った。

 愛紗と鈴々が丞相府を出た頃、中から「なんじゃこりゃー」という絶叫が聞こえてきたが、二人は知らぬ顔で立ち去ることにした。

 

 

 愛馬の赤兎馬を駆って朱里の館に向かった。後ろからは鈴々も愛馬の逍遥に跨って付いてくる。

 朱里の住居はやはり家で、周りが屋敷や館ばかりなので妙に浮いている。豪邸ばかりの住宅街にぽつんと庶民の家があるのだ。浮かないわけがない。

 

「やっぱり桃香お姉ちゃんに頼んで、もっといい屋敷を紹介してもらうのだ」

「それがいいな」

 

 これが蜀漢の丞相宅っ……! 不憫っ……! 圧倒的茫然自失っ……!

 とか言われかねない。もっと威厳のある所に住んでもらわねば。

 警護をしている兵に事情を話して中に入れてもらうと、朱里の従者が出迎えてくれた。姜維という名で、天水から流れ流れてここにたどり着き、母を養うために士官して実力を朱里に認められた馬謖に続く逸材だという話だ。

 姜維は細身で小柄であり、とても強そうには見えないのだが、槍を取れば星にも劣らぬ使い手である。頭もいい上に思いやりがあり、真面目な性格で、更に中性的な顔は美形で弱点が見つからないほど完璧な人物である。

 

「丞相様は先日からの騒動により疲れてしまったらしいです」

「それだけか?」

「心にも傷を負っているでしょう」

「お前は朱里の従者だろう。なぜ変態どもの魔の手から朱里を守ってやらなかった」

 

 姜維が本気になれば馬良と馬謖など軽く叩き伏せられただろう。

 

「私は階級で言えばただの一校尉であり、将軍格の馬謖様や蜀漢を支える重臣の馬良様にどのようなことを申せましょう。それに丞相様も嫌というような姿ではなかったので」

 

 いかん此奴、現場を目撃しとる。目撃した上でスルーしとる。

 

「私としては、もっと嫌がってくれたほうが萌えたのですが」

 

 目撃したにとどまらず、こいつも加わっておる。姜維伯約、なんと強かな武士。

 

「朱里に会わせてくれ。見舞いの品を持ってきた」

「丞相様は誰とも会いたくはないらしいです」

「でも、鈴々たちが来たと知ったら、朱里だって喜ぶのだ」

「丞相様は私以外には会いたくはないでしょう」

「何だそれは」

「いえ、多分丞相様は私のことが好きでしょうし」

 

 愛紗は反射的に鈴々と顔を見合せた。姜維は人懐っこい笑顔を浮かべたまま動かない。

 

「朱里はその、お前のことが好きだといったのか?」

「いえ、言われてはおりませんが、この十日間のうちに調きょゲフンゲフン、きっと私のことが好きになると思います」

「お前は、病気だ。姜維」

「どこも悪くはありませんが」

「心の、病だ。身体よりも数段たちが悪い。しかも本人が気づけない」

「とにかく、そこを退くのだ」

 

 鈴々が歩き出すと姜維は槍を構えた。

 

「お前、馬良や馬謖は素通りを許して私たちは許さないとはどういう事だ」

「私も、何かが切れたのですよ。丞相様は私の物だというのに、何の気遣いもなく朱里朱里と真名で呼び合って。しかも丞相様は人が良すぎる上、何処の馬の骨ともわからぬ輩もまとわりつく始末」

 

 確かに朱里はメチャクチャモテるが、馬良や馬謖は名門の出であり、ほかの取り巻きも大概はいい家の出である。一番どこの馬の骨とも知れないのは天水の田舎からやってきた此奴自身である。

 

「落ち着け、姜維。私たちを同時に相手にして勝てると思っているのか」

「負けた時は、丞相様を殺して私も死にます」

「どうしてこうなるまで放っておいたのだ」

 

 鈴々が多少引き気味に呟く。姜維は真面目な性格だから、溜り溜まっていたストレスが爆発したのだろう。目も何だが暗いし、焦点が合ってない。

 

「張飛将軍。久方ぶりに、ご指導の程を」

 

 笑顔が恐い。目が笑ってない。

 

「お前のような若造、鈴々にかかればケチョンケチョンなのだ」

 

 そこまで言って、鈴々は苦笑いした。

 

「と言いたいところだけど、蛇矛を忘れてきてしまったのだ」

「私も、偃月刀を忘れてきた」

 

 額から、汗が流れる。一体誰が、お見舞いの先で生死を賭けた戦いを繰り広げると思うだろう。

 姜維はにやっと笑うと槍を引いた。いつもの朗らかな笑みに戻って欲しいと場違いなことを考える。

 

「お覚悟を」

 

 相手は星と競り合える程の槍の使い手である。いくら愛紗と鈴々でも丸腰で相手をするのはとても無理である。

 二人はダッシュで駆け出した。離れたところに落ちていた樹の枝を拾いに行ったのである。

 愛紗より先に、鈴々が枝を拾った。

 

「お前のような若造、これで十分なのだ!」

 

 鈴々が握りしめたちょっと太い樹の枝が、次の瞬間に真っ二つになった。鈴々の頬にかするくらいの位置に槍の切っ先があった。

 姜維の舌打ちを聞く前に、また二人はかけ出した。

 

「死ぬかと思ったのだ~、後で愛紗に撫で撫でしてもらうのだ~」

 

 流石の鈴々も涙目である。愛紗は拾っていた樹の枝を放りだして近くにいた兵の槍を取った。

 

「すまんが、貸してくれ」

 

 愛紗も槍は得意分野である。突っ込んできた姜維に槍を向けて構えた。

 姜維は全く動じる様子もなく槍を繰り出してきた。

 愛紗はそれを外に弾いて、槍を反転させると石突で姜維の腹を突いた。

 しかし姜維も達人である。身体を反らしてそれをかわして持ち直した槍を振るってきた。何とか槍の柄で受け止めて、鍔競り合いに成る。

 やがて押し勝った愛紗は姜維をはじき飛ばして距離を取った。

 

「切れるなら切るが、気絶だけさせるとなると厳しいな」

「鈴々に考えがあるのだ」

 

 鈴々は懐から例の八百一本を出すと姜維に見せつけた。

 

「これは朱里が大好きな本の一冊で、朱里の心を掴むには必要不可欠な逸品なのだ!」

 

 姜維の目が、本に釘付けになった。

 その隙をついて、愛紗が石突を繰り出した。石突が、華奢な腹に食い込んだ。

 腹を打たれた姜維は息をつまらせると、両膝をついてから地面に倒れ伏した。

 鈴々は転がった槍を拾い上げて兵に渡し、布で姜維の腕を縛った。

 

「軍法に照らせば首が百回飛ぶほどの重罪だが」

「姜維もきっと疲れていただけだと思うのだ。一晩頭を冷やせばまた真面目に働いてくれるのだ」

 

 愛紗は姜維を抱える鈴々と共に朱里の家に戻った。

 朱里は私室に監禁されており、錠を開けた瞬間に中から飛び出して愛紗に抱きついた。

 えぐえぐと泣き崩れる朱里に何だがムラムラしたものを感じたが、傍でみていた鈴々が殺気立ってきたので愛紗はそのまま朱里が落ち着くのを待った。

 

「すると、何もされていないのか?」

「はい。閉じ込められてまだ一日も経ってませんから。このままだと大変な事になっていたと思いますけど」

「馬良と馬謖に襲われて心に傷を負ったと聞いたのだ」

「いやいや、そんなことはありません。三日前は確かに二人と怖い話で盛り上がりましたが」

 

 泣き声ってそれか。

 

「では怖くて泣いてただけだと? 昼まで」

「朝から昼までは感動する話で盛り上がりました」

「では何故丞相府に来なかった」

「三日前は今話したとおり、二日前も昼間まで感動する話で盛り上がって、それから横になったら昨日の昼になっていまして」

 

 そしてすぐに姜維に閉じ込められたという。

 

「お前の怠慢もあるではないか」

「すみません」

 

 ペコペコと頭を下げる朱里に、どうせ仕方なく付き合ってやった結果がこれなのだろうと愛紗は思った。優しさは残酷な結果を生むこともある。

 

「姜維さんが暴走したのは、予測の範囲外です」

「姜維に何をした」

「いえ、何も」

「つまり、かまってあげなかったからヤキモチを焼いて暴走しただけなのだ」

 

 かぁっと朱里の顔が赤く染まった。

 

「言葉を返し辛いです」

「まぁ、お前が行って落ち着かせてやるのが一番だろう」

 

 朱里を伴って来客用の部屋に入る。姜維は目を覚ましたようで、無念そうな表情で横たわっていた。無論、後ろ手の布は解いていない。

 

「すみません、丞相様。私はあなたをお守りすることができませんでした」

「いえ、いいのです」

 

 朱里は姜維の転がっている寝台にしゃがみ込んで視線を合わせた。

 

「それよりも、何故あんなことをしたのか聞かせてください」

「あんなこととは?」

「私を閉じ込めたじゃありませんか。泣いて出してと言ったのに、甘い囁きが返ってくるだけでしたし」

「もう少し準備が必要だったのです。私ともあろうものが、うっかり張型や三角木馬などを用意するのを忘れていまして」

「私をどうするつもりだったのですか」

「調きょゲフンゲフン、私の愛を分かってもらおうと思いまして」

 

 本音が出たよな、今。ポロリと。

 愛紗は朱里に目を移した。朱里は顔は真っ赤だが真面目な表情で聞いている。

 

「姜維さん。あなたは真面目すぎるので、時々はハメを外した方がいいですね。趣味などはありませんか」

「そうですね。妄想で丞相様とイチャイチャするのが趣味です」

 

 姜維は命令されたことは例え死んでもこなすというタイプである。どんなに不満があろうとそれを押し殺して行動してしまう、ストレスが溜まりやすいタイプだ。

 だから内側ではそれを少しでも軽減するため物凄いことが行われているに違いない。妄想でイチャイチャとか可愛いことを言っているが、そんな奴が張型や三角木馬を使用しようとするハズがない。

 多分姜維の中の朱里は何度も、目も当てられないような目に遭わされていることだろう。

 

「最近は現実に召喚して楽しむことも出来るようになりました。まだ触ることは出来ませんが、会話をすることは出来るようになったので、これからの努力次第かと」

「そんな努力、必要ありません」

 

 マジで危ないヤツにしか見えなくなってきた。有能で真面目な奴が壊れるとここまで崩壊するものなのか。

 

「朱里、かわいそうだが座敷牢にでも閉じ込めておいたほうがいいのではないか? こいつの為にも、お前の為にも」

「いいえ、姜維さんは前途有望な蜀軍の武人です。どうにか矯正します」

「その前に朱里が調教されてしまうのだ」

「鈴々お前、そんな言葉を何時覚えた」

「朱里の書いた官能小説で覚えたのだ」

 

 愛紗が目をやると、朱里は視線を逸らした。この師ありてこの輩ありである。

 

「丞相様、婚約を前提にお付き合いしてください」

 

 どさくさに紛れて、何を言っているのだ、こいつは。

 

「あなたが正気に戻ってかつ、武においては呂布を破り、知略においては龐統を超え、国を治めるにおいてはこの諸葛亮を制す、とまで呼ばれるようになれば考えましょう」

「お安い御用です」

「恐喝して無理やり言わせるのは無しですよ」

「それでは何年かかるかわかりません」

 

 マジで危ねぇ、こいつ。

 

「何年でも待ちましょう。あなたなら出来ます。あなたの才能を誰よりも高く買っているのは、この私なのですから」

「丞相様」

 

 姜維が涙を流して嗚咽を漏らし始めた。

 朱里は姜維を解くと寝台に座らせた。

 

「ちょうどよい機会です。私はあなたを側に置き、民政と兵法を教えてきました。明日からは雛里ちゃんの下で学問に励んでください」

「私はまだ、丞相様の下を離れたくはありません」

「可愛い子ほど、過酷な旅に出さねばならないのです。雛里ちゃんの下で学問を収めたら、今度は恋さんの下で武を学んでください。愛紗さんや鈴々ちゃん、星さんや翠さんなど、蜀軍には数多の豪傑が揃っています。各人の業を学びとって、自らの血肉としてください」

「丞相様」

 

 姜維は目を覆って泣き崩れた。鈴々は傍らで「いい話なのだ」と目に涙を浮かばせている。いい話なのか、これ。

 愛紗もなんだかよく分からん感動のようなものが胸に沸き上がってきて、そんな自分がよく分からんと漠然とそこにつっ立っているだけだった。

 

 

 翌日、姜維は早速旅立っていった。雛里の屋敷は朱里の家の向かい側なので、旅立っていったというよりも向かいの門をくぐって行ったと形容したほうが正しい。おやつの時間とかに気軽に遊びに来れる距離である。なんだそれ。

 朱里はその日に丞相府に顔を出した。朱里が三日間ためた仕事の量は、どう考えても半月はかかるだろうという物だった。

 丞相府はその日の内に張りを取り戻した。山のように積もった竹簡書類政策などを、朱里はその日の夕刻までには終わらせ、他の文官も感化されたように頑張ったらしい。

 

「ベタが甘い!」 

 

 これは雛里が書いた八百一本を読んだ時の朱里の感想である。寝台で泣いていた姜維にはどうでも良いことだったろうし、愛紗や鈴々もベタってなんだと言わざるを得ない無知であった。

 部下の扱いにも気を配らねばならぬということを学べてよかったと、愛紗は思う。誰の心にも闇は存在するものなのだ。

 そして今度は愛紗自身、自分の屋敷に送り届けられた愛を綴った手紙の数々を、どう処理しようかと悩むのであった。

 

 

 


 
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