No.155850

雪蓮愛歌 第二話

三蓮さん

オリジナル要素あり

2010-07-07 05:03:01 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:4217   閲覧ユーザー数:3297

Another Side(怒りの周瑜)

 

第4の外史にて孫策が暗殺された後、周公瑾は烈火のごとく怒り狂った。

 

当主があっさりと暗殺されたにもかかわらず、いまだ犯人の影すら見えない。

 

孫家当主は孫権に継がれたものの、大都督である周瑜の意見は無視できるものは孫家には存在しないといってもいいだろう。

 

「袁術からの独立」という悲願を、孫家は必死になって取り組んできた。

 

しかし、犯人捜査に血眼になってしまったがために、初めは両立していた独立への準備もだんだんとおざ

 

なりになってきた。

 

このままではまずい、陸遜はおぼろげながらそう思った。

 

どうにか冷静になって、最大の目的を果たさなくてはやがて袁術にもいいように扱われるだろう。

 

孫家の雰囲気も段々と疲弊していった。

 

そんな中、ついに宿将・黄蓋が動いた。

 

 

「のう、冥琳」

 

「なんでしょうか、今私が忙しいのが見て分かりませんか?

 

 分からないからこうして話しかけていらっしゃるんでしょうけど」

 

 

普段の言動もやがては厳しいものになっていく周瑜。

 

 

 

 

―策殿を暗殺した犯人を、探すのをやめぬか?

 

 

 

 

一瞬にして空気が凍り付いた。

 

誰も言い出すことが出来なかった。

 

だってその言葉は、孫家を支える者が言ってはいけない、禁句だったから。

 

 

「…はて?今何か仰りましたか?最近眠れぬほど耳鳴りがしましてな」

 

「犯人捜しをやめよ、と言っている」

 

「…」

 

「今、独立という悲願を叶えようという時ではないかと、わしは思うておる」

 

 

次の瞬間、周瑜の手が黄蓋の頬を撃った。

 

 

「何を言っているのだ!!!

 

 孫策が…雪蓮が殺されたのだぞ!!!

 

 しかも武人として、戦場ならいざしらず暗殺だ、誰の差し金かも分からぬ奴にだ!!!

 

 あなたは孫家の人間じゃない!!!

 

 あなたは孫家の武人じゃない!!!」

 

 

それは黄蓋に対する、最大の屈辱だった。

 

 

 

 

―ああ、どうか。私の頬を殴って欲しい。

 

周瑜はそう思っていた。

 

だが止まれない。

 

もう自分が止まれないことを分かっていた。

 

心の奥底の、怒りに身を喰われた時から。

 

雪蓮、雪蓮、雪蓮と…悲鳴をあげ続けていた。

 

 

 

 

次の瞬間、黄蓋が土下座をしていた。

 

大陸において最大級の意味のあることを。

 

 

 

 

「どうか、このわしの頸をとれ。

 

 策殿が死に、今孫家には、江東にはお主、周公瑾の知謀は絶対に必要じゃ。

 

 新たに当主となった蓮華様を支えられるのは、お主だけなのじゃ。

 

 此度の事件、策殿に近いわしに、全ての落ち度があった。

 

 だからもし、わしが気にくわないのならそれでもかまわん。

 

 かわりに怒りを静めてくれぬか。この老骨の頸をもって。

 

 そのためならば、呉のためならば、お主のためならば、なんだってしてみせよう」

 

 

―お主の今を見ていると、つらいのじゃ。

 

 

目が覚めた。

 

最近、目線は文字ばかりを見ていた。

 

何故、顔をあげなかったのだろう。

 

いつのまにか、周りも、蓮華もこちらをみていた。

 

ああ、とようやく「自分」に気づいた。

 

確かに私は、雪蓮が好きだった。

 

でもそれは、どうして私だけと思ってしまったのだろう。

 

みんな彼女のことを、あんなに愛していた。

 

みんなが辛い、苦しい、悲しいに決まっているのに。

 

天を仰ぎ、目が濁っていくのを感じる。

 

膝からは力が抜け、周瑜はゆっくりと倒れ込んでいった。

 

 

 

「私は…みんなの、そして雪蓮の思いも、汚してしまったのですね」

 

 

 

雪蓮が残した意志、蓮華様をなげやりにして、

 

この孫家の柱石、何より、己の師といってもいい祭殿に、やらせてはいけないことまでさせて、

 

 

なんておろかなのだろう。

 

 

「ごめん、なさい…蓮華様、

 

 ご、めん、なさい、祭殿…

 

 ごめん、な、さ…」

 

 

頸にすべきは、この醜い私だ。

 

急激に温度が抜けていくこの体を、

 

祭が抱きしめてぬくもりをつなぎ止めた。

 

 

「落ち着いたか?」

 

「…」

 

「策殿の犯人は、必ず見つけ出す。わしもやれることはやる。

 

 じゃが今はどうか、今やるべきことに気持ちを注いで欲しいのじゃ。

 

 わかるな?」

 

「…はい…」

 

「よし、今から休暇じゃ。

 

 明日からまた、がんばるのじゃぞ」

 

 

そして周瑜の意識が途絶えた。

 

「祭…」

 

「見苦しい所をみせて、申し訳なかった」

 

「いいえ、冥琳の気持ちも分かるの。

 

 私は、実は冥琳が壊れてしまうのが一番怖かったわ」

 

「明日からは元の道に戻る。こやつは同じ過ちを二度とせぬ。

 

 どうか、冥琳を…」

 

「分かっているわ。冥琳も、祭も、大切な仲間だから」

 

祭は冥琳を抱えていった。

 

 

その姿を見て、蓮華は思った。

 

自分の姉の偉大さと、自分自身の無力さと。

 

あんなにも、姉を慕った者達がいる。

 

あんなにも、姉を愛した者達がいる。

 

だから自分は、今ここで止まるわけには絶対に行かない。

 

 

姉の、細くて、美しくて、血まみれの手から渡されたこの剣にも、そう誓ったのだから…。

 

 

 

「へっくち!!」

 

「大丈夫か雪蓮?」

 

「んー、誰か噂でもしてるのかしらねー」

 

2人が降り立ったのは、とてつもなく広い荒野だった。

 

「この荒野、この岩山…」

 

「で、念のため聞いておくけれど、ここどこー?」

 

「陳留…だな」

 

「…こういうの、天の国で『お約束』っていうんだっけ?」

 

「まぁな。盗賊は残念ながらのしてしまったけれど」

 

この後、星、風、凛に助けられて、刺史の華琳に助けられることを伝えると、

 

「あー、まずいわねー。…逃げましょう」

 

「そうだな、逃げ『何をしている!』」

 

 

雪蓮が足で盗賊の腹(ふとっちょの奴の)を付いていると、突然声が聞こえてきた。

 

 

「…星だ」

 

メンマでも貂蝉にもらっておけば良かったか、一刀は思った。

 

 

「お主ら、倒れている人間に…はて?」

 

「ちがう、俺たちは盗賊に襲われて…たまたまこいつらが倒れたんだ」

 

苦しいわよそれー、と内心苦笑している雪蓮。

 

そうこうしているうちに、風と稟まで追いついてきた。

 

 

「そうであったか、いやこれは失礼…しかしお主ら、2人で旅を?」

 

「あ、ああ。そうなんだよ」

 

「…この盗賊ども、体のどこかしらに殴られたような痣があるが」

 

「さ、さぁ?以前についたものじゃない?」

 

怪しい。星と稟の視線はそう語っていた(風はいつものように読めなかったが)

 

「…そうか。ところでお主ら、変わった服を着ているな」

 

「え、えーっと、そうか?」

 

「ああ。とくにそちらの赤い外套の方などは…どうして顔を隠しておられる?」

 

 

実は今回の秘密兵器として、雪蓮は呉の赤をしたフード付きのマント、外套を身につけていた。

 

しかもさりげなく現代の最新技術でつくられた防弾機能付きの軽い繊維でできていたりする。

 

一刀の上着もその生地が中に織り込まれていた。

 

雪蓮は(特に呉の領地で)顔を出して歩くのはまずいだろうという考えでの策だったが、

 

見事に、裏目だ。

 

「えっとー、やけど。そう、やけどで顔を見せたくないんだ、彼女」

 

「おやー、そうですか。実は私、医術の心得があるので見せてもらえませんかー?」

 

ここで初めて風が口を開いた。

 

「え?そんなのもって…(はっ)!!!」

 

 

風に医術の心得はない。

 

一刀はそのことをしっていた。

 

しかし、そんなことを「初対面」の一刀が知っているわけがない。

 

かといって、医術の心得があるものに見せないのも逆に奇妙に思われる。

 

…やられた。

 

風自身は既知がどうのと関係なく質問したのだろうが、一刀が勝手に罠にはまってしまった。

 

 

「どうかしましたかー?」

 

「えっとー、その」

 

こうなったら…と雪蓮に目を合わせると「もう、下手なんだからー♪」と笑っていた。

 

すまない、これ以上ここにいると間違いなく華琳達に出会う。

 

星を気絶させるために、雪蓮が一歩動いたその時、

 

 

 

「全軍展開!! 速やかに包囲!!」

 

どこかで見た鎧をまとった騎馬隊に、いつの間にか囲まれてしまった。

 

一歩も動けない状態の中、俺たちはどうも再会してしまったらしい。

 

「華琳様!!展開完了しました!!」

 

「ご苦労様、春蘭。さて、この場で何をやっているのかしら?」

 

 

 

槍を持っている武芸者。

 

女の子2人。

 

怪しい奴も2人。

 

のびている奴3人。

 

…あー、としかいえない。

 

 

 

「今盗賊の征伐で刺史である私は忙しいの。

 

 なのにこの状況は何?誰か説明してくれないかしら?」

 

 

 

左右には双子にして忠臣が控えている。

 

ああ、やはり君は変わらない。

 

自分の中では、今となっては、雪蓮には負けても

 

決して、失ってはならない人…

 

 

「え、えっと…」

 

 

その時一刀の中で、ものすごく「嫌な予感」がした。

 

言い争って逃げるのが面倒とかそんな次元ではない。

 

背筋に忍びよる悪寒。

 

 

ここは荒野。

 

岩が転がった荒野。

 

小さな丘のある荒野。

 

 

人が隠れられる荒野。

 

 

周囲を兵士が囲ってできたその壁の隙間に、「輝き」を見てしまった。

 

「伏せろ!!!!」

 

必死に軌道上の兵士の手をつかんで、伏せさせるためにこっちに引っ張り込むが、

 

「(兵士が多くて間に合わない!)」

 

 

「「ガキンッ!!!!!!!」」

 

金属がぶつかったような音が、割れて何重にも聞こえた。

 

地面をみると、矢が「縦」に割れていた。

 

しかも3本。

 

 

 

顔を上げれば、予想済みとはいえ、彼女は立っていた。

 

そういえば卑弥呼曰く、人間から片足はみ出したんだっけか。

 

 

 

「雪蓮!!!!」

 

「見えた、相手は3人、逃げ出していくわ!」

 

 

雪蓮はマントを脱ぎ捨てると一刀に預けた。

 

「この距離ならまだ間に合う!追撃するわ。曹操!!」

 

「は、はい!?」

 

状況の早さに、思わず素で返事をしてしまう華琳。

 

「あなたの部隊を奇襲を警戒した陣にして、毒矢だから当たれば即死よ。

 

 あと、その伸びている奴もお願い!」

 

それだけ言うと雪蓮は駆けだした。

 

不明と言われ続けた五胡の情報が手に入るかも知れない、そういう思いで。

 

「あー、さすがに速いな」

 

「ちょ、ちょっと貴方、一体何なの!!」

 

 

そういって華琳は一刀に詰め寄っていった。

 

あっけにとられた兵士は包囲を崩していて、

 

その『背中』をさらしたまま。

 

「危ない!!」

 

「きゃっ!!」

 

一刀はとっさに、雪蓮のマントで曹操の体を覆うように抱きしめる。

 

『バシッ!!』という音をさせて、弓矢が華琳の背中にあたって弾かれた。

 

 

 

「夏侯淵!」

 

秋蘭は馬に備え付けてあった餓狼爪を取り出し、構えた。

 

一連の動作に1秒もかからなかっただろう。

 

『バシュッ!!!!』

 

逃げようとする敵の心臓を、一撃をもって止めた。

 

 

「…終わった、か」

 

「「華琳様!!!!」」

 

駆け寄る2人。

 

「だ、大丈夫よ。春蘭、秋蘭」

 

春蘭は半泣きの状態で華琳に駆け寄り、秋蘭もいつものクールな表情を崩していた。

 

「お怪我はありませんか、華琳様?」

 

「ええ、大丈夫。衝撃はあったけれど、私には刺さっていないわ。ところで…」

 

「(そろ~り、そろ~り)」

 

『ガシッ!!!』

 

その右手は食い込むほど一刀の肩に食い込んでいた。

 

「色々、聞きたいのよ♪」

 

とてもにっこりと顔だけ笑う華琳。

 

「いえ、あっしはしがない旅人でして、そろそろこのへんで」

 

「そう。じゃあここを終点にして頂戴。

 

 命が狙われる事態だったの。あなたを放っておくわけにいかないでしょう」

 

「いや、ラッキーですな刺史様。命は大切ですよ、うん」

 

「…いい加減その下手な芝居はやめようと思わない?」

 

振り向けば、魏のメンバーどころか星達3人もじーっとこっちを見ていた。

 

この時、明らかに全員の気持ちは一つだった。

 

絶対に怪しい、と。

 

「あは、あはは、あははははは…はぁっ…」

 

この時、一刀は身をもって実感した。

 

さすが最悪の外史と言われるだけはある。

 

…しょっぱなから難易度が高すぎるだろう、と。


 
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