No.155385

雪蓮愛歌 プロローグ

三蓮さん

真・恋姫無双の二次創作
一刀×雪蓮
オリジナルの要素あり

2010-07-05 00:33:08 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:4751   閲覧ユーザー数:3660

 

―どうしてあの時、君だけ逝かせてしまったのだろう。

 

 

「あら~、お帰りなさいご主人様♪」

 

最後の外史である『呉』から、ようやく俺は戻ってきた。

 

俺の名前は北郷一刀。聖フランチェスカ学園の2年生…だった。

 

ある日、目が覚めると「武将がすべて女の子の三国志の世界」にワープしてしまった。

 

そこで俺は劉備や曹操、孫策のような三国志の英雄(何故か皆女の子だが)とともに大陸の平定を「天の御使い」として手伝ってきた。

 

「ああ、今戻ったよ。貂蝉、卑弥呼…いやいやいや、顔が近い、近いから!!」

 

こいつらは貂蝉と卑弥呼。

 

最初の外史である『蜀』を救った後、この外史の狭間で出会った。何度見たって、インパクトが強烈な二人組だったりする。

 

他に助けて欲しい外史があるといわれて、俺は『魏』と『呉』の外史に順に飛んだ。といってもゲームの2週目の様に何かが引き継がれる訳ではなかった。

 

いずれも結局、「ただの学生」の俺が直接外史にワープする、という構造は変わらなかった(但し、この狭間にくると記憶が残った状態になっているが)。

 

「よさぬか貂蝉。北郷、ご苦労だったな」

 

「ああ、これで『蜀』『魏』『呉』のいずれの外史も救えたよ…本当によかった」

 

 

 

どの外史でも、彼女たちは「人のため」に己の身を削り続けた人間だった。

 

最後には敵味方問わず手を取り合い(『呉』は違うか…いやでも卑弥呼の話だと海の覇者になっているはず…)皆が平和に暮らせる世界を作り上げていった。

 

俺がしたことは「天の御使い」の名を利用させ、ちょっとした未来の知識を示しただけだった。

 

彼女たちに少しでも役立てた、これだけは誇れることだから。

 

「さて、これで俺は晴れて普通の学生に戻るんだな」

 

「お主、寂しくはないのか?」

 

「そりゃ寂しいけれど、思い出はなくならないから」

 

この暖かい思いがあれば、どこまでも前に進める。

 

「ねぇ…ご主人様」

 

突然、貂蝉がまじめな顔で話しかけてきた。

 

「どうした、トラブルか?戻れないのなら、それはそれでどうにかするよ」

 

「いえ、戻れるわよ~、だけどね」

 

 

―私たちとの約束、ご主人様は破る気はないかしら?

 

 

「どういう意味だ?」

 

「おい貂蝉!それは…」

 

「わかってるわよ。でもここで話しておかないと後で皆が後悔する気がしてね」

 

この二人からいつもの陽気さが消えた。

 

「話を聞かせてもらえるか?」

 

「お話の前に、一つだけ言っておくわ」

 

この話を聞いても落ち着いて、よく考えて行動してほしいと。

 

「分かった。それで?」

 

「私たちの、元々のお願いは3つの外史を救って欲しいというものだわ。

 

 でも、外史そのものは無数に存在するの」

 

 

貂蝉の周囲に3つ水晶が現れて、三国の名前が書かれていた。

 

そして次の瞬間に、俺たちの周りに水晶がたくさん現れた。

 

現れては見えなくなり、そして何もないところからフッと現れる。

 

 

「無数に存在しても、干渉できるものはさらにかぎられるわ~。

 

 ご主人様はそのなかで3つの外史に干渉できたの。

 

 そこでは「天の御使い」としてご主人様ががんばれば、大陸は平和になる。

 

 英雄達はほぼ皆、望んだ世界が手に入る場所だったわ」

 

 

絶対に成功するわけではないけれどね、と貂蝉。

 

そして、視界から水晶が一斉に見えなくなった。

 

貂蝉の手元に残るのは、一つの真っ白な水晶。

 

「ご主人様が戻ってくる、少し前にね。

 

 干渉できる4つ目の外史が見つかったのよ。

 

 でも、この世界はね…」

 

 

―みんな、しんでしまうセカイなの。

 

 

「そんな!!!貂蝉、今すぐ俺を」

 

「だ・か・ら♪ 落ち着いて聞いてっていったのに~♪

 

 さっきも言ったけれど、外史は「無数」に存在するの。

 

 ご主人様だって、神様じゃないんだから平行世界全てを助けることはできないでしょう?」

 

それは…そうだ。

 

「この世界は、外史の1つ。

 

 たまたまご主人様が干渉できるものだけれどね。

 

 しかも、この外史はほぼ100%滅びるわ。

 

 五胡に飲み込まれてね」

 

「五胡?だったらまだ勝ち目がある。『蜀』の外史と同じように」

 

 

「北郷…規模がまるで違うのだ」

 

初めて卑弥呼が口を開いた。

 

「お主、五胡について気づいたことはなかったか?」

 

「気づいたこと?連中は最後まで謎の集団だったからな…。

 

 いや、逆に最後までずっと謎であったことが、今でも気にはなっているけれど」

 

 

「あのねん、ご主人様。五胡というのは『外史の自壊作用』の1つなのよん」

 

「自壊作用?」

 

「そう、例えば似たようなもので『アポトーシス』とかって、聞いたことないかしら?」

 

「ああ、生物の授業で少し…細胞が自殺するんだっけ?」

 

「そう。それでね、言い方が悪いのだけれど、外史というものはいわば1個の細胞なのよ。

 

 細胞が生きていくために、内部でいろんな活動をしなくちゃならないの。

 

 でも、いろんな活動のうち、細胞が自分を殺そうとするものもあるのよん。

 

 『蜀』の外史では良い具合にそれが働いて皆団結することが出来たわ」

 

「だがな、外史の中ではその自壊作用が強すぎて、自分で自分を壊してしまうものもある。

 

 これは、典型的なその一種にすぎん」

 

貂蝉の手元の真っ白な水晶が、黒く浸食されていく。

 

その黒色はおどろおどろしくて、まるで白色が悲鳴をあげているようだった。

 

 

「さて、これで最後だけれど、これまでの外史と違って、今までの記憶が持ち込めるわ♪

 

 そのかわり、体は初期状態だけれどね。

 

 あと、『剣』を用意できるわ」

 

翡翠色の鞘と十文字の文様、そして流星の装飾がなされた剣を卑弥呼が持っていた。

 

「ごめんなさいね、この剣はただの、『蜀』の外史と同じものよ」

 

「…話は終わりか?」

 

「ええ、そうよん。私たちができることはここまで」

 

「わしは反対だ。お主を死にに行かせるような、ただ辛い思いをさせるだけのような真似は」

 

「俺が死ぬとどうなる?」

 

「ここにもどってくるわ♪ そのかわり、二度と…」

 

貂蝉が水晶を手元から消した。そしていつものポーズで一刀を見ていた。

 

「ご主人様。貴方は三度も、外史を救い出したの。

 

 何人大陸で人が救われたか…計りきれないわ。

 

 これ以降はお願いに含まれないわ。

 

 私も、お別れは寂しいけれど、ご主人様にこれ以上お願いはできないのよ。

 

 私がこれを話したのは、皆が辛いとかじゃなくて、本当は自分のエゴよ。

 

 隠し事は…つらいから」

 

そういって貂蝉は困った顔をした。

 

「その知識と、体と、剣しか私たちには用意できないわ。

 

 だから、お願い。行きたくないって、言って欲しいのよ」

 

 

俺は卑弥呼の元に歩いて行くと、その剣をほとんどひったくるようにとった。

 

「ご主―」

 

「この剣さ、知っているか?わざわざ『天の御使い』のためにってつくられた剣なんだ。

 

 俺、剣道はやっていたんだけれど、もちろん真剣は使えなくてさ。

 

 ベルトがなかったり、腰にひっかけるとズボンが落ちたりと散々だったよ。

 

 愛紗が必死にこれを着けるように迫ってくるんだよね。

 

 でも実際にはこの剣を抜くことは一度もなかったよ。愛紗…つよいよな~。

 

 今なら関羽が現代でも人気な理由、分かるよ。なんたって俺はこの目で見たんだ」

 

 

この重さを手の中で感じる。寸分の狂いもない、あの剣だ。

 

 

「剣と言えば、一回春蘭に何故か決闘を申し込まれて、殺されかけたよ。

 

 あいつが華琳のことを好きすぎて、ルール上は勝てたんだけれどさ。

 

 華琳のためにいつも必死でさ。頑張って、頑張って。

 

 だから、あいつが下の名前で呼んでくれたとき、すごくうれしかったんだ」

 

 

引き抜いて、刀身を見る。曇りなんて、ない。

 

 

「そういえば、祭さんにもしごかれたっけ。祭さんすごいんだぜ?

 

 弓兵なのに片手で、しかも利き腕じゃないほうで俺を手玉にとるんだ。

 

 もうボコボコでさ。でも、皆がいつのまにかいて、ずっと俺を見守っているんだ」

 

 

もう一度刀身を戻して、剣を抱きしめる。

 

 

「貂蝉、さっき俺が三度外史を、沢山の命を救ったって、言ったけどさ。

 

 それは嘘だ。救ったのは俺じゃない。

 

 皆だ。皆が救ったんだ。

 

 だって俺自身は、見逃してしまったから」

 

 

冥琳のときや祭さんの時は、華佗の治療というチートがたまたまできたけれど。

 

無論、祭さんの時はちょっと事情が異なるけど。

 

 

「俺、ずっと後悔していてさ。だって、あいつの舞台だったのに。

 

 だけれどあいつの亡霊は、いや、あいつの魂は、俺を後押ししてくれたんだ」

 

 

剣を左手にもって、俺は二人を見た。

 

 

「俺は神様じゃない。俺は英雄じゃない。

 

 だから傲慢だといわれても、認めよう」

 

 

膝をつき、剣を置き、本来の意味とは異なるかも知れないけれど、最大限の礼を示す。

 

 

「ありがとう、貂蝉、卑弥呼。

 

 俺はもう一度、俺のために戦ってくるよ」

 

 

皆を救うなんて大それたこと、口が裂けても俺はいえない。

 

皆の思いが、少しでも叶うなら。

 

そして今でも俺を動かしている、少し特別になってしまったあいつへの感謝のために。

 

立ち上がったら、その時、

 

 

 

「はい賭は私の勝ち~! 貂蝉、老酒老酒♪ 卑弥呼は確か最高級の日本酒よね~♪」

 

 

 

背後からぎゅっと、抱きしめられた。

 

歳が巻き戻るような特殊な環境だが、季節はいくつも通り過ぎた。

 

それでも忘れていない。

 

忘れられるわけ、ない。

 

 

「嘘、だろう…どうして……」

 

「だって一刀、おいしそうな話だけをして、肝心のお酒の作り方を覚えてこないなんて。

 

 これじゃあ生殺しよ~。だからなんとしても飲みたかったのよね♪」

 

 

目の前の二人はバツのわるそうな顔をしていた。

 

 

「ごめんね、ご主人様(テヘ♪」

 

「…剣が一本とは、言うてなかっただろう」

 

 

涙が…止まらない。

 

 

「だー、泣くな!私との約束を果たした、びしっとした男でしょう」

 

「ご…め…」

 

 

両腕を放すと、まわりこんで下からのぞき込んできた。

 

あのときと変わらぬまま、『呉』の色の服を着た美しい人。

 

いっつもからかってくるけれど、本当は仲間のことを考えていて。

 

綺麗なのに、どこか可愛くて。

 

 

「俺…何を言ったらいいか分からなくて…」

 

「とりあえず、私が一刀の元に帰ってきたことにしましょう」

 

 

適当でいいのよ、と君は笑う。

 

 

 

「おかえり…雪蓮」

 

「ただいま…一刀」

 

俺は彼女を…雪蓮を抱きしめた。

 

 
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