バスケットを抱えたまま思案の表情を浮かべる美鈴を先頭に、魔理沙一行は紅魔館内を進む。
「この危険物どうしましょう……? 食べたら被害がでそうですし……」
「根性で食べるしかないだろ」
「その根性を削ぎ落とすような真似したのはお前だからな」
う、と小さく呻いた魔理沙の隙を突いて、横島は腕を伸ばして魔理沙の脇へと挟むように抱え込む。
「な!? ちょっと待て、横島! こんなところで襲うな! 変態!」
「誰が変態や!? 人聞きの悪い! 美鈴さん、今だ! クッキーを魔理沙の口に!」
「分かりました!」
「こんな時にお前ら連携良いな!? って待った、待った! 私が悪かっ……ぐふぁっ!?」
ジタバタと暴れる魔理沙の口に美鈴はクッキーを詰め込む。
無理やり噛まされ飲み込んでから数秒して魔理沙は失神した。
「……これはハズレ、っと」
「まだまだたくさんありますからね……処理はどうしたら良いんでしょう……?」
冷静にどの色のクッキーは駄目かを判断する横島たちの姿に、無意識に失神した魔理沙は拳を握った。
極 楽 幻 想 郷 (紅)
紅魔郷編 リプレイ その5
「あー、死ぬかと思ったぜ」
「だったらあんなもん作るなって」
俺の台詞取るなよ、と復活した魔理沙に横島はつっこみを入れる。
「気が付いてたらあんな事になってたんだよ。
おかしいなぁ……ハバネロエキスは一枚だけで他は食べると良い匂いのするキノコしか入れてないはずなんだが……」
うーんと首を捻る魔理沙はバスケットを覗きこむ。
確かに以前に作った時と同じようなクッキーは何個かあるが、それ以外は全く知らない。
実はとある妖精三人組が魔理沙の目が離れている隙に悪戯を行ったのだが、それを知る者は誰も居ない。
「チルノにでも渡してみるか?」
「凍るかもっと被害の出るかのどっちかだな。
仕方ない、横島、全部食え」
「俺がかよ!?」
最終案として出された提案に横島は全力でつっこむ。
「頼む横島! 乙女がゲロる映像なんて見せられないんだぜ! お前ならともかく!」
「そうですね! 女の子がゲロっちゃう場面なんてとても見せられないですよね! あなたならともかく!」
「二人とも扱いが酷くないか!? あと女の子がゲロとか言うな!」
拳を握って力強く説得する二人に押されながらも横島は必死に抵抗を試みる。
美女と美少女に詰め寄られる光景と言うのも中々無い機会だが、(自分の)命が掛っている場面でそう言う事は無しにしたい。
「お願いします、横島さん……」
「はい! 不肖横島! 美鈴さんの為なら火の中水の中! お望みとあれば足をお舐めいたしましょう!」
「いや舐めるなよ」
横島の腕に抱きついて胸を押し付ける美鈴に陥落し、滂沱の涙を流しながら美鈴の脚を舐めようとする横島を魔理沙は箒で叩いた。
「と言う訳で横島。全 部 残 さ ず 食 べ ろ よ」
「……医者を呼んでくれ」
せめての最後の願いとともに、横島は深呼吸し流し込むようにバスケットを傾けクッキーを口に頬張った。
「……で、その戦場へと赴く戦士を見送った後のような表情は一体何なのかしら?」
「横島さん……横島さんが……!!」
「あぁ、良い奴だったな……」
ハンカチで目元を拭う美鈴と上を向く魔理沙に、呆れた表情を見せながら少女――「パチュリー・ノーレッジ」は本を閉じた。
「何で私の所に来たのよ。胃薬なんて無いわよ」
「あぁ……アイツの骨を埋めに来ただけだぜ」
「外にしなさい。と言うか図書館に骨を埋めるとかどう言うことなのよ」
「きっとあの人は生涯を本に捧げて本と一緒に生きる人だったんですよ……」
「貴方は一体何を言っているのかしら? あと門番が門から離れてどうするのよ」
パチュリーは暴走する二人につっこみを入れ、こめかみを揉む。
つっこみ疲れた所為か所々でぜぇぜぇと呼吸が乱れ、バテてしまった。
「あーパチュリー様ー!? 薬、薬持ってきてー!?」
「医者ー!?」「メイド長と小悪魔さんしか薬の場所知らないわよー!?」
口元から血が流れるパチュリーの姿に図書館の掃除をしていた妖精メイド達は慌て始める。
「お薬なら持って来ましたわ。パチュリー様、どうぞ」
「ゴフッ……すまないわね咲夜……ゲフゥ……」
「口から血が流れているのに無理して喋らないでください」
口からドボドボと滝のように流れる血をバケツで受け止め咲夜はタオルでパチュリーの口元を拭いてゆく。
「あ、咲夜さん……」
「パーフェクトなメイドが来たな……横島が居たら喜びそうだったんだがなぁ……」
「……そうですね……」
「何時までそんなコントを続けているのよ。あと美鈴、お仕置きね」
脱兎の如くその場から逃げだした美鈴に呆れたように咲夜は溜め息を吐く。
次の瞬間、図書館の入り口から美鈴の断末魔の叫び声と何かが刺さる様な音声が飛び込んできたのであった。
「うわぁ酷ぇ。いくらなんでもそこまでするか?」
「躾けは大切よ。で、魔理沙。貴方は一体何の用かしら?」
「だからアイツの骨を図書館に埋めに「い い か ら。詳しく話を聞かせなさい」……はいはい」
冗談は通じない、と肩を竦めた魔理沙はこれまでの経緯を咲夜へと話すことした。
魔理沙が話し終えると、咲夜はこめかみを押さえ、本気で呆れた表情を魔理沙へ向けた。
「あなたねぇ……食べたのが美鈴だからまだ良かったけど、それをお嬢様に食べさせる気だったのかしら?」
「アイツなら絶対に当たらないだろう?」
「全部ハバネロエキス入りなんて結果もあるかもしれないじゃない。で、連れの方はどうなったのかしら?」
そんな事はしないと否定する魔理沙を一蹴して咲夜はタンポポのようにナイフが大量に刺さった美鈴へと鋭い視線を向ける。
既に大量の血液が流れて青ざめる美鈴の表情が更に真っ青になり、ガタガタ震えながら美鈴は口を開いた。
「か、厠に送った後は、その……分かりません。一応図書館までの道のりは説明しました、けど」
「あなた達ねぇ……この紅魔館は大概の招かれざるお客様は迷う仕組みになってるのよ? まぁ招かれても無いのに堂々と居座るどこかの白黒もいるけど」
「へぇそれは悪そうな奴だな」
「「「あなたよ(です)」」」
「おぉぅ……」
三人同時のつっこみを魔理沙は受け流す事ができなかった。
―― 一方その頃、横島は。
鋭い音とともに、横島の頬を一閃がかすって血が流れる。
「……はい?」
あまりの出来事に呆然としていた横島は、錆びついたブリキのような音を立てながら首を動かす。
横島の目の前には、普通の犬歯よりも鋭い歯を見せつけるように笑う、金髪の少女が熊のぬいぐるみを抱えてそこに居た。
「……ねぇ。あなたは、壊れない人間?」
背中に七色の結晶を生やした翼を広げ、少女は狂気を孕んだ視線を横島へと投げ掛ける。
自らに訪れた命の危機に、横島は足元をガクガクさせ表情を青ざめる事しかできなかった。
つづく
あ と が き
いつになったらNomalノーコンクリアできるんだろうなぁ・・・。
それはともかく、ここまで見てくれてありがとうございます。
パチュリーとか咲夜さんとか表現できたかなぁ?
感想を貰えると作者のモチベーションが上がりますのでできればよろしくお願いします。
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サブタイトルが思いつきません。
誰か私にサブタイトルを考える能力をおくれ…!!