No.154810

真・恋姫†無双~外史を渡る者~「兆編」

連戦の戦から数日後
華琳が魏から迎えにやってきた。

一刀は蜀の面々に別れを告げ、華琳とともに魏に帰って行った。

続きを表示

2010-07-02 20:24:13 投稿 / 全16ページ    総閲覧数:2414   閲覧ユーザー数:1949

 

~帰路の戯れ~

 

 

連戦続きの蜀での生活していた一刀。

 

それから、早くも二週間が経過した。

その間にこれといった事件もなく、平和な日々を過ごしていた。

一刀が蜀に来てからトータルで1ヶ月が経過していた。

ある程度、蜀の将から信頼を得た一刀、「役目もそろそろ終わり」と本人も思っていた頃、魏から手紙が届く。

近いうちに蜀に行くと言う知らせだった。

 

その手紙が来てから三日後、魏から華琳、秋蘭、季衣、流琉、風、稟と一刀が蜀に来た時の居残り組が成都にやって来た。

 

城で蜀の面々に並ぶ一刀はみんなを出迎えた。

 

華「久しぶりね、桃香

それに一刀も」

 

桃「お久しぶりです華琳さん!」

 

北「久しぶり、華琳」

 

季「兄ちゃーん!!」

 

北「おわっ!?季衣!?」

 

再開に感激したようで季衣が一刀の胸に飛び込んだ。

 

季「さびしがっだよ~」

 

北「悪かったな…」

 

鈴「にはは~

チビ春巻きが泣いてるのだ」

 

その再開に鈴々が水を差すように笑いながら季衣を茶化した。

元々、あまり仲の良くない鈴々と季衣なのですぐに喧嘩になる。

 

季「なんだと!?

って言うか!お前だってチビだろう!」

 

鈴「にゃにおー!」

 

愛「止めんか鈴々!」

 

北「ほら、季衣もやめろよ」

 

鈴々は愛紗が首根っこを掴み制止し、季衣は一刀が抑えた。

 

華「あら、いつの間に季衣を抑えるほど力を付けたのかしら?一刀?」

 

桃「ここに居て強くなったんですよね~

一刀さん?」

 

華琳の問いに桃香が割って入り、一刀の腕に抱きつく

そして、いつの間にか桃香は一刀を名前で呼ぶようになっていた。

 

そんな桃香を見て、煽った張本人、星は顔にこそ出さなかったが内心ニヤニヤしていた。

顔を少し赤くし、照れながら桃香の腕を解こうとする一刀だが、桃香は「にはは~」と笑いながらしっかりと掴み、一刀を離さなかった。

 

その様子を見て、華琳のこめかみからは血管がピクピクしていた。

遠巻きにその様子を見ていた風、稟、秋蘭、流琉の四人はため息を漏らした。

 

華「…」

 

北「ちょ、桃香…!」

 

桃「ね~?」

 

とかなんとかしていたが、いよいよ蜀との別れが時となった。

 

城を後にし、成都の門まで蜀の武将が出迎えた。

 

愛「さらばだ、北郷殿」

 

北「愛紗さんも元気で」

 

荷物を片手に愛紗と握手を交わし、稽古を付けてくれた鈴々と翠

 

鈴「お兄ちゃん!またねなのだ!」

 

翠「向こうに帰ってもちゃんと稽古しろよ~」

 

肩を並べて戦った桔梗と焔耶

 

桔「北郷殿、ともに戦えた事うれしく思うぞ」

 

焔「お前には世話になったな」

 

一刀と一騎打ちをした星と順に握手を交わした。

 

星「よき御仁に出会えたこと、うれしく思うぞ」

 

北「俺も星さんと刃を交えたこと、嬉しかったよ」

 

そして、蒲公英や月、詠、朱里や雛里、恋や紫苑と挨拶をして

最後に桃香と向き合った。

 

桃「北郷さん…」

 

北「いろいろありがとう、桃香

俺、桃香やみんなと出会えた良かった

これからも手を貸してくれよ」

 

一刀が笑顔で手を差し伸べると、桃香も笑顔を浮かべ握手を交わした。

 

桃「うん!

あ、華琳さーん!」

 

華「?」

 

一刀の手を握りながら、桃香は華琳を呼んだ。

華琳の目が桃香に向くと桃香は一刀の手を引き、体を寄せた。

 

桃「私、一刀さんの事あきらめませんから!」

 

華「は?」

 

北「ちょ!?」

 

桃「それじゃあね!一刀さん!!」

「キャー」と言いながらパタパタと走って行ってしまう桃香を呆けた表情で見送る一刀

その背後からはとてつもなくデカい殺気を感じた。

 

北「あのー…華琳さん?」

 

風「お兄さん、ご愁傷様です」

 

北「ちょ!風マジでシャレになんないってそれ!」

 

秋「ま、何があったかはあとでたっぷりと聞かせて貰うぞ」

 

北「秋蘭まで!?」

 

華「一刀…」

 

北「は、はいー!」

 

華「あなたは洛陽まで走って帰りなさい

みんな、行くわよ!」

 

勢い良く馬を蹴る華琳

それにみんなが続き、一刀は走って追いかけた。

 

北「待ってくれー!!」

 

 

 

しばらくそんな事をしていると、さすがに華琳も許したのかはたまた気まぐれか分からないが、一刀を自分の馬に乗せた。

一刀が手綱を握り、華琳は背中を一刀の胸に預ける形になっている。

 

馬上にて無言な華琳にヒヤヒヤする一刀

場の空気を変えようと口を開いた。

 

北「そ、そういえばみんな元気か?」

 

華「えぇ、別にあなたが居なくても何ら変わりはないわよ

あなたが゛居なくても゛ね!」

 

北(神よ…!

俺を助けて下さい!!)

 

ピシャリと言う華琳にドギマギする一刀

それに見かねた秋蘭が馬を寄せた。

 

秋「華琳様、洛陽までかなりあります

この辺に川原があります、そちらで少々休んではいかがですか?

つもる話もあるのでわ?」

 

華「あら、秋蘭?

何か思惑があるような言い方ね」

 

秋「ふふ…それはあなたが一番わかっているのでは?」

 

華「ふん…まぁいいわ

一刀、河原に寄るから手綱を貸しなさい」

 

北「おう」

 

華「行くわよ!」

 

北「うわっ!?」

 

手綱を握った華琳は急に馬を加速させ、秋蘭から教わった河原に向かった。

北「ここか…」

 

しばらく馬を走らせ、河原に着くと馬の轡を木に結んだ

馬から降り、履いていた靴を脱ぎ捨て裸足になり、華琳は一目散に河原に飛び込んだ。

 

華「冷たっ!

でも気持ちいいわ!」

 

北「やれやれ…」

 

久しぶりに見た華琳の笑顔に安堵の表情を浮かべる一刀。

 

華「一刀!

何をしてるの?あなたも来なさい!!」

 

北「へぃへぃ…」

 

一刀も靴を脱ぎ、ズボンをまくし上げ、華琳の靴の横にそれを置いた。

 

北(後で

「濡れた足を舐めなさぃ」

とか言わねぇだろうな…)

 

ちょっと卑猥な想像をして、川に入った。

川の冷たさが足から体全体に伝わり、少し震えたが慣れてしまえば心地よいものだった。

 

北「ふぅ…気持ちいぶっ!」

 

華「あははっ!

油断してるのが悪いのよ!」

 

油断していた一刀の顔に華琳が川の水を掛けた。

 

北「このっ!」

 

一刀も負けじと水を華琳に掛ける。

 

華「きゃ!やったわねー!」

 

そんな二人は端から見ると

「あははー」

「うふふー」

と、仲睦まじく遊んだいるように見える…のだが―

 

10分後…

 

北「ゼーハー、ゼーハー…」

 

華「はぁ、はぁ…いい加減…諦めなさいよ、一刀」

 

北「いや、まだ…だ

…俺の方が一発多くくらってる」

 

二人の妙な負けず嫌いが働き、終盤から楽しい水の掛け合いから、血みどろの水の掛け合いに変わった。

 

華「なんだか、疲れたわ…」

 

やっと河から上がり、一刀が集めた薪に火をつけ、冷えた体を温める二人。

あれから終始がつかなくった水の掛け合いは決着がつかず互いに飽きて河から上がったのである。

 

華「一刀、寒いわ」

 

北「俺もなー」

 

華「まったく、あなたがあんなに粘るからこんなになったんじゃない」

 

北「理不尽…」

 

華「寒いわ…」

 

だんだん口数が少なくなる華琳

見ると体が少々震えていた。

華琳は靴を脱いだだけで、服は着たまま河に入ったので当然服は濡れた

その服は物干しに似ていた木にぶら下げ乾かしているが、いかんせん、あの水の掛け合いだったため服が乾くのには時間が掛かる。

今は薄い布にくるまっている。

 

北「ほら、これ羽織ってろよ」

 

見かねた一刀は布のの上に自らの上着を貸した。

一刀も河に入る時は靴と幸いにも上着も脱いた。

しかし、それ以外は華琳と同様に薄い布を巻いているだけだった。

 

華「…ありがとう」

 

北「いぇいぇ…」

 

無言になりながら、火を見つめる二人。

そんな中、華琳が口を開いた。

 

華「こうしていると、あの時を思い出すわ…」

 

北「ん?」

 

華「前にあなたが春蘭の着替えを覗いたとか覗いてないとかで揉めたじゃない?」

 

北「あぁ、そう言えばそんな事もあったな…」

華「あの時も、こうして二人で火を囲んだわ」

 

北「あの時も水は冷たかったなー」

 

華「あら?

冷たかった思いをしたおかげで私の裸体を見れたのだから、安いものではなくて?」

 

北「ぶっ!?」

 

その場面を思い出すと一刀は赤面し、思わず吹いてしまった。

 

華「あの時はまだ、決心が着かなかったのよね…」

 

北「何がだ?」

 

そう言うと、華琳はおもむろに立ち上がり、片手で羽織った服が落ちないように掴み、一刀の方へゆっくりと歩いた。

そして、胡座をかく一刀の足の上にゆっくりと腰を下ろした。

 

北「お、おぃ…」

 

華「こうやって、天下の覇王曹孟徳としてではなく

一人の女、曹孟徳としてあなたに甘えることがよ」

 

北「華琳…」

 

背中を一刀の胸に預け、なんとも良い座り心地を華琳は感じていた。

また、華琳の体温を一刀も体全体で感じていた。

 

華「ふふっ…柄にもなく緊張してるのかしら?」

 

北「う、うるせっ…///」

 

華「逆に反応しない方が失礼よ」

 

北「そうですかー」

 

二人はまた無言のまま、火を見つめていた。

そしてどちらからと言うこともなく、顔を近づける。

 

華「一刀…」

 

北「華琳…」

 

二人の吐息が鼻にかかり、後少しで唇が重なり合う所で…

 

春「華琳様ー!北郷ー!!」

 

桂「華琳様ー!!」

 

河原に響くのは春蘭と桂花の声。

どうやら、探しに来たようだ。

 

華「まったく…あの娘達は」

 

北「やれやれ…いつかの時みたいだな」

 

華「そうね…

でも、私達らしいわね」

 

北「ははっ…違えねぇ」

 

華「さ!

帰りましょう、一刀!」

 

北「あぁ!」

 

立ち上がり、手を差し伸べる華琳

その手を掴んで立ち上がった一刀は乾かしていた服を着て馬に跨り、春蘭達と合流し洛陽に帰った。

~一刀VS霞~

 

とある昼下がり

庭園にて、凪を相手に稽古をする一刀。

 

警邏を終え、昼食の腹ごなしに初めた稽古だったが、いつの間にかギャラリーが集まって来ていた。

 

北「せいっ!」

 

凪「はぁっ!」

 

刀は抜かず、空手で凪を圧す一刀、凪は防戦一方である。

その答えは一刀が腰に付けた刀

凪は一刀の居合い斬りを警戒していた。

 

華「あら、凪相手によく持つわね」

 

秋「えぇ、蜀での戦いがいい刺激になった様ですね」

 

春「まぁ、私から言わせれば、まだまだだがな」

 

真「隊長ー!凪ー!気張りやー!!」

 

沙「どっちも頑張れなのー!」

 

北(凪のやつ、居合い斬りを警戒してるな…さっきから目線が柄に集中してる)

 

凪は今まで拳と気功を武器にして来た。一刀の付け焼き刃の徒手空拳では反射神経で捌かれる。

 

しかし、凪も防戦一方ではない。

目線を柄に集中していてもしっかりと観察をしていた。

そして、ついに凪が動く。

 

凪「はぁっ!」

 

北「うわっ!?」

 

攻撃に集中していた一刀は足元がおろそかになり、凪に足を軽く弾かれバランスを崩し、倒れてしまった。

仰向けに倒れた一刀に烈火のごとく、凪の踵落としが炸裂する。

 

凪「はぁぁあっ!」

 

北「うわぁっ!」

 

それを素早く避け、体制を立て直し凪に居合い斬りを放つ。

しかし、凪は居合い斬りを上半身を仰け反らせかわし、バク転をして一旦距離を取り、地を蹴り一刀の間合いを詰め刀を振り無防備の腹部に正拳を放ち、ギリギリの所で止める。

 

北「くっ…参った」

 

凪「お疲れ様でした」

 

双方矛を収め礼をし、手合わせを終える。

終えるとギャラリーで見ていた面々が集まって来る。

華「一刀、功を焦ったわね」

 

北「ちぇ…行けると思ったんだがな」

 

凪「前にも言いましたが、足元が疎かですよ」

 

秋「だが、最後の体制の立て直しは良かったぞ

北郷、一旦自分の武を書にまとめてみたらどうだ?」

 

北「え?」

 

秋「書にまとめ、動きを読むことで欠点などが見つかるかも知れんぞ」

 

北「なるほど…」

 

それから庭園で各々解散になり、一刀も自室に戻る。

警邏や隊の書類をまとめ手持ち無沙汰になると先程の秋蘭の言葉を思い出す。

 

北「武を書にまとめる…か

別にやることもないし、やってみるか」

 

筆を手に取り、紙に技名、こう言った動きなど簡単にまとめる。

しばらくすると一刀の筆が止まる。

 

北「俺ってこうして見ると、居合い斬りしか技ねぇじゃん…」

 

紙に書いたのは居合い斬りのみで、後ろの紙は全て白紙である。

 

北「むー…

ッ!そうだ!!」

 

何かを思い付き、一刀は再び筆を走らせた。

それからしばらく、一刀は黙々と書く事に没頭した

時折、刀を手にしたりしながら筆を走らせた。

 

 

そして次の日…

朝日が登ると同時に一刀は筆を置いた。

昨日の書き始めとは違い、紙は字で埋まっている。

 

北「終わった…」

 

机に頭を下ろし、眠りについた。

 

それからしばらくして、いまだ朝食を取らに来ない一刀を心配して、季衣と流琉が一刀の部屋にやって来た。

 

季「兄ちゃ~ん」

 

流「兄様、入りますよ」

 

二人が部屋に入ってきたことすら気が付かない一刀に二人は体を揺すり、起こした。

 

北「…おぅ、どうした二人共…?」

 

季「朝食食べに来ないから呼びに来たんだよ」

 

流「大丈夫ですか?」

 

北「あぁ、何とかな…」

 

まだ寝たりない一刀だったが、二人に引っ張られ調理場に連れて行かれた。

調理場に連れて来られた一刀を出迎えたのは秋蘭だった。

 

秋「おや、おはよう北郷」

 

北「ぉはょぅ…」

 

秋「ん、なにやら眠そうだな?」

 

北「昨日、秋蘭に言われた通り、武を書にまとめてみたんだよ

そしたら、俺って行き当たりばったりの戦術だったからすぐに書き終わちゃってさ

さすがにこれじゃまずいと思って、俺の世界の漫画の知識を加えてみたんだよ…そしたら明け方になってさぁ」

 

秋「ほぅ、それは興味があるな

お前の世界の知識が混じった武か」

 

北「まぁ、役にたつか分かんないけどな」

 

秋「どうせなら試してみたらどうだ?」

 

北「え?」

 

この話が、早速華琳の耳に入り

仮眠をとり、体力の戻った一刀は中庭で手合わせをする事になる。

中庭には騒ぎを聞きつけた魏の中核が集まり、真桜が速工で作った観客席と舞台が設置されていた。

 

北「なぜ、こうなる…」

 

お祭り騒ぎに一刀は落胆していた。

観客席の前には華琳、秋蘭、真桜の三人が座り「解説・実況」と書かれた札が立っていた。

その横には流琉が切り盛りする出店まであり、本格化していた。

 

真「さぁー始まりました!

我が軍神速、泣く子も黙る、霞姉さん対、我が軍最精、魏の種馬の異名を持つ北郷一刀の時間無制限一本勝負!

実況はわたくし真桜が勤めます

なお、解説は我らが主、華琳様と秋蘭様にお願いしております」

 

北「って!対戦相手も決められないのかよ!」

 

華「あら?私の采配に問題があるかしら?」

 

北「やっぱりお前か…」

 

霞「なんや一刀!

うちだとあかんのか!」

 

舞台の上でぶーぶー言う霞はすでにやる気満々。

一刀はため息を漏らし、気だるそうに舞台に上がった。

霞「一刀に手合わせ頼まれた時は断ったけど…今、うちはめっちゃわくわくすんで!」

 

北「頼むから少しは手を抜いてくれよ…」

 

凪「それでは…始めっ!」

 

審判の凪が手を振るうと同時に霞が一気に間合いを詰める。

 

霞「でりやぁぁぁぁっ!」

 

北「速っ!?」

 

なんとか霞の一撃を避けるが、続く猛襲になす術がない。

 

真「おぉーっと!

霞姉さんの怒涛の槍捌きが止まりません!!」

 

華「やはり、霞相手は少々酷だったかしら」

 

しかし、皆の不安を破る動きに一刀は転じる。

槍の猛襲に退け越しの一刀、その動きを止める為に霞は柄尻で足を捌くが一刀はこれを飛んで避ける。

そこから足を短くまとめて、空中で居合い斬りを放つが、霞はそれを避けるために体を仰け反らせた

体のバランスの取れない霞に一刀は着地し抜いた刀を戻す様に横一閃を放つ。

 

霞「のわっ!?」

 

それを霞は前回の凪同様に片手でバク転して横一閃を避けた。

一刀の一撃で霞を後退させた事で観客席からは歓声が上がる。

 

真「おぉーっと!

まさかの大番狂わせ!!

隊長が霞姉さんを退かせました!!

解説のお二方、いかがですか?」

 

秋「北郷から預かった書によると…今のは前回、凪からの忠告を元にした武のようだ」

 

華「まさか相手も空中から攻撃が来るとは思わないでしょうしね

一刀も学んだわね」

 

まさかの大番狂わせに華琳も秋蘭も驚きを隠せないでいた。

 

霞「やるやないか一刀…今のはちぃーっと危なかったで…」

 

北「そりゃどうも…今度はこっちから行くぜ!」

 

再び鞘に刀を戻し、霞に迫る一刀。

霞も身構えるが一刀はギリギリで体制を低くし、居合い斬りの切り上げを放つ。

かつて、雪蓮に使った体技の応用である。

北「…昇閃」

 

それがその技の名なのだろう。

昨晩まとめた書を思い出し、その名を呼ぶ。

しかし、それも不発に終わる

霞はバックステップで避け、再び距離を詰める。

 

霞「っしやぁぁぁっ!」

 

北「この場合は…突き!」

 

体を低くし、体制の悪い一刀に元に戻す時間はない

そこで場面で使ったのは突きだった。

弾丸のように迫る刃に霞は一旦右に体をずらし、これをやりきる。

 

霞「…やるやないか…」

 

北「…まだまだ行けるぞ」

 

激しい攻防戦を繰り広げる一刀と霞。

その雰囲気に次第に周りの観客席も飲みこまれ、歓声の声は消え、辺りには斬撃音が木霊していた。

 

真「なんや、あっさり決着つく思っとったけど…隊長が姉さんとまともに打ち合ってるで」

 

華「……」

 

皆、言葉にしては一言わないが一刀の武を認めていた。

しかし、華琳は違った。

 

華(確かに一刀は強くなった…でも驚くのはもう一つ、その成長速度よ

確かに成長する過程はたくさんあった

本人も天界に帰ってからも鍛錬を積んだと言っていた…

だけど、それだけで猛将張文遠と渡り合えるの?

一刀、あなたは一体…)

 

華琳は不安を感じていた。

 

そんな華琳をよそに舞台では激戦が続いていた。

 

霞「せいやぁー!!」

 

北「あぶなっ!」

 

霞の攻撃をギリギリで避ける一刀

互いに疲労が見え始める。

 

北(やばいな…霞が警戒しだした下手に刀が抜けない…)

 

霞(ここまでやるとはな…正直油断してたわ)

 

北(次の…)

霞(攻撃で―)

 

 

 

 

 

北郷・霞

(決める!!)

 

 

二人は一体距離を離し、攻撃のタイミングをはかる。

北(どうする?

下手な小細工は効かない…春蘭みたいに馬鹿じゃないし…

居合い斬りもほとんど読まれてる…)

 

霞「(さぁて…一刀は相当追い込まれとるで

最後は下手な小細工なしや)

いくでっ!」

 

先に動いたのは霞だった。

考えのまとまらない一刀の最後の一手はやはり居合い斬り。

 

霞「どっせぇぇぇーいっ!!」

 

霞の最後の一手は「突き」

下手な小細工の無い、まっすぐとした最後に相応しい一撃だ。

 

北「っ!…旋回だ!」

 

一刀も腹をくくり、最後の一手を決める。

その名は「旋回」

霞からの放たれる突きを体をひねり、回転させる事で突きを避け、霞の懐に間合いを詰め、居合い斬りを放つ。

かつて、星との一騎打ちで使った一撃。

 

しかし、霞はこれを読んでいたのか、抜かれる前に片手で一刀の刀の柄尻を抑え込み、居合い斬りを封じた。

 

北「なっ!?」

 

霞「うちの勝ちや♪」

 

近接状態が仇となり一刀の首元には刃が止まっていた。

その状況では一刀に討つ手はなかった。

 

真「遂に決着!

勝者、魏の神速!霞姉さん!!」

 

真桜が声を張り上げ、結果を伝えると観客席から歓声が上がった。

 

霞「いやぁ~

一刀、ホンマ強ぅなったなぁ」

 

北「負けて悔しいけど、なんかすがすがしい気分だよ」

 

華「どうやら、蜀で無駄に女をたぶらかしていたわけではないようね」

 

互いに健闘してあっていると、華琳と秋蘭が舞台に上がって来た。

 

秋「北郷、お前の書いた書を見せてもらったがなかなか興味深い物だったぞ

実際に見てみると使えそうな技ばかりだったぞ」

 

北「そうか?」

 

秋「あぁ…特に旋回は返し技としてはなかなかだった」

 

こうして、秋蘭からお褒めの言葉を頂き、一刀の武は一つの完成を迎えた。

 

その後、春蘭が「私も戦うぞー!」と叫び出し武闘大会になっていた。

~盗賊団征伐~

 

 

それから数日後の事

 

大陸中に放った、斥候部隊から、ある情報が華琳のもとに届いた。

知らせは、小さな村に五胡の兵団の姿があるとのこと

兵団と言っても、小規模な部隊。

その情報を聞いた華琳は各将を集め、すぐに軍議を開始する。

 

華「情報が確かなら、これを捕らえさらに詳しい情報を掴む事が出来るわ…問題は編成ね…」

 

春「華琳様!私が参ります!!」

 

桂「ちょっと!

あなたは別の任があるでしょうが!!」

 

風「春蘭様を含め、他の武将方も仕事が山積みですしね~」

 

秋「華琳様、なら私が参ります

手持ちの仕事が終わりますし」

 

華「そぅ、なら秋蘭と…一刀に任せましょう」

 

華琳のその発現に会議に出ていた皆が驚いた。

 

春「華琳様…北郷ですか?」

 

稟「正直、賛同しかねますね」

 

華「一刀は蜀にて五胡との攻防戦の最前線に居た

さらに先日の霞との一騎打ちでも遅れはとらなかったわ

人が居ない今、使える駒は使いなさい」

 

稟「…御意」

 

やはり、どこか納得のいかない稟の最後の声は沈んでいた。

そうして軍議が終わり、その日のうちに一刀の耳に遠征の話しが伝わった。

 

それから二日後、一刀は秋蘭と秋蘭の部隊共に報告にあった村を目指す。

 

 

北「んで?

村についたらどうすんだ?」

 

秋「先ずは密偵を出して内情を探る

それから五胡の姿があれば村に入り捕縛する」

 

北「ふーん…」

 

秋「北郷、先に言っておくが戦闘になったら私は指揮の為、お前を守る暇はない…自分の身は自分で守れよ」

 

北「わかってるよ

俺だって秋蘭の足手まといになりに来たんじゃないんだからな」

 

馬上でそんな事を話して居ると村が見えてくる。

しかし、事態は急を要していた。

 

村には賊が進行し、密偵云々どころではなかった。

 

秋「くっ…仕方あるまい

夏侯淵隊!このまま村に入る!!

全軍!突撃!!」

勇ましい声と共に馬は駆け出し、族の先攻隊に衝突する。

 

馬上戦経験の無い一刀は馬から降り、自分に近づく敵を一掃する。

強敵と戦ってきた一刀にはもはや賊の末端程度では相手にならなかった。

 

「夏侯淵将軍!

賊の後続部隊が別方向より村に進軍中です!!」

 

秋「立てこもる気か…

仕方ない、お前たちはこのまま先攻隊を叩け、私は北郷と少数部隊を率いて村に入る」

 

「はぁ…しかし」

 

秋「なんだ?」

 

「北郷様なら、すでに見知った兵を連れ村に向かいましたが…」

 

秋「なに!?」

 

秋蘭の知らせは一刀にも入っており、一刀は近くに居た元警邏隊に所属していた兵士を、十数人率いてすでに村に入っていた。

 

村では村民はすでに隠れて居るのか、人の気配はなかった。

 

北「よし、行くぞ!」

 

率いて来た兵士を鼓舞し、賊の後続部隊と戦闘を開始した。

 

村には斬撃音とドスの効いた声が響く。

しかし、そんな中でも一刀は集中して戦っていた。

 

「だぁあぁぁぁぁっ!!」

 

正面から上段構えで来る敵に一刀は振り切る前に片手で腕を掴み相手の勢いを殺す

そして、もう片方の腕で肘で打ちを放つ。

さらに後方から敵には旋回をして攻撃を避け、居合い斬りで首元に峰打ちを放つ。

 

北(みんなとの戦いが…数え切れない戦場の経験が強くしてくれた!

俺は強くなってる!!)

 

「うわぁああぁぁっ!?」

 

そこに一人の兵士が一刀の元に何かから逃げて来た。

 

北「どうした?!」

 

「あ、あれが!」

 

北「あれ?」

 

兵士が指を指した方には巨体の大男が、右手に戦鎚を持ち左手には幅の広い盾を持って一刀の連れてきた兵達と戦っていた。

戦鎚を振るう度に空を切る音が鳴り響き、地を叩けば地鳴りと共に地面が割れた。

「がぁあぁぁぁっ!」

 

戦鎚を振るう男は家屋を壊し、近づく兵を吹き飛ばした。

 

北「化け者かよ…

みんなを戻して秋蘭と合流だ

殿は俺がする」

 

兵士に指示を出し、一刀は刀に手を置きそいつに向かって行った。

 

北「みんな離れろ!」

 

「小癪なっ!!」

 

北「旋回!」

 

兵士をかき分け、距離を詰める

一刀に気付いた、大男が戦鎚を振るう

それを旋回で避け、脇腹に居合い斬りを峰打ちで放つ。

 

「んがぁっ!?」

 

北「入っ…おわぁっ!?」

 

地面を叩きつけた戦鎚が横に振るわれ、一刀に迫る

それを避けて一体距離を取る。

 

「お前が一団の隊長か?」

 

北「今はな…お前が族の頭か?」

 

狗「おぅ、俺がこの黒犬盗賊団の頭、呂狗(ろけん)だ」

 

呂狗と名乗る男は黒犬の毛皮を羽織り、その姿は五胡の末端の兵士に似ている。

 

北「黒犬…」

 

狗「小僧死ねぇぇ!」

 

北「くっ!」

 

横振りの戦鎚を刀で受けるが、戦鎚の力の前に一刀の日本刀を模した青銅の刀はあまりにも無力だった。

 

北(止めきれない…!?)

 

そのまま一刀は枯れ葉のように吹き飛ばされてしまう

なんとか事なきを得て、着地する。

 

北「やばい…まともに受けてたら、刀も体も持たない」

 

狗「そこかっ!!」

 

北「くっ!」

 

縦振りの戦鎚が迫り、今度は受けるのではなく逃げに転じる。

 

北(まともに打ち合っても勝ち目はない…かといって、返し技の旋回はほとんど効いてない…

…なら!)

 

やたらめったらに戦鎚を振るう呂狗

それを避けながら一刀はチャンスを待った。

 

狗「おのれ…ちょこまかと…」

 

北「へっ!いくら力があるからって、当たらなければどぅと言うことはないんだよ!」

北(とは言っても、こっちだって逃げてちゃ埒が開かない…

一発逆転の切り込みはあそこしかない…)

 

狗「ぬぁぁあっ!!」

 

縦横無尽に振り回す戦鎚を避けながら、一刀は勝機を待った。

 

狗「これで…終わりだ!!」

 

北(これを待ってた!)

 

狗「でりやぁぁぁっ!」

 

上段からの振り下ろされる戦鎚

だが、一刀は勝機を見いだした。

 

北「はぁ!」

 

戦鎚が地面にぶつかると同時にバックステップで避け、素早く前に出て戦鎚を踏み台に高く飛ぶ。

以前、霞との一騎打ちで見せた空中での居合い斬りを呂狗に放つ。

 

北「(落下の勢いを生かして首元に居合い斬りを放てば、いける!)

はあぁぁぁっ!!」

 

狗「…ぬるい」

 

あと一歩の所で、居合い斬りは呂狗の左手につけた盾に阻まれてしまう。

さらにそのまま、盾を振り、一刀を吹き飛ばした。

北「がはっ…!」

 

背中から地面に落下し、背中に強い衝撃と共に痛みが広がった。

 

狗「今の一撃は良かったが、戦鎚にばかり気がいきすぎたな…

これで…今度こそ終わりだ!」

 

北「くっ…」

 

地面から戦鎚を抜き、再び振り上げる

背中を打った一刀はもはや逃げることも出来ない。

 

狗「はあぁぁぁっ!」

 

北(やられる!)

 

その刹那、一刀は何か得体の知れない物の気配を自分の身に感じた。

 

『―殺せ

 

―生を得るなら

 

―肉を裂き

 

―血を浴び

 

―己が身を

 

―殺意で染め

 

―狂気で

 

―敵を

 

―殺せ!』

 

狗「ッ!?」

 

呂狗は振り下ろしかけた戦鎚を途中で止めた

一刀の見て、何か恐怖を感じた。

 

秋「北郷!」

 

そこに秋蘭が呂狗の背後から矢を放つ。

矢は呂狗の右手を掠り、痛みで戦鎚を離してしまう。

北「秋蘭…」

 

秋「無茶をしおって…

そこまでだ、賊の頭殿…お主の仲間は全て捕縛した

おとなしく投降すれば命は取らん」

 

秋蘭の警告に呂狗は自分の周りが弓隊に囲まれていることに気づき、両手を上げ投降した。

こうして、村での賊討伐は終了した。

 

そして、いつものごとく事後処理を開始する。

 

避難していた村民も次第に村に戻って来る

その村民達に五胡の情報を聞くと、村には先程の黒犬盗賊団が出入りしていたらしく、それを密偵が五胡の一団と見間違えたと言う見解にいたった。

 

秋「結局、村を救えただけで肝心な情報は掴めずに終わりか…」

 

北「…」

 

秋「ん?どうした北郷?

まだ痛むか?」

 

北「あ、いや…別に…」

 

呂狗との戦いが終わった後、一刀はボーっと呆ける事が多くなっていた。

 

戦闘中に頭に聞こえたあの声が気になっていた。

北「しっかし…自分の村が襲われてるってのに、村民達は隠れてるだけか…」

 

復旧作業をする村民達を遠目で見つめ、一刀は呟いた。

 

秋「誰しもが戦える力を持っているわけではないのさ…

例え、目の前の理不尽な暴力に怒りを覚えても、自分が死んだら意味がない

だったら隠れてやり過ごすのが一番なのさ」

 

北「だけど、国に…華琳に力を求めてもいいんじゃないか?」

 

秋「確かに華琳様なら二つ返事で了承してくれるだろう

しかし、彼らはそれを望んでない

馴染めてないのさ、国に助けを求める事がな」

 

北「つらいな…」

 

秋「まぁ、それも華琳様が変えてしまうかもしれないがな…

とにかく今は自治を強め、二度とこのような事が起きないようにする事さ

お前の警備隊でな」

 

北「やれやれ…期待が大きいな」

 

「…ぎゃー……お……」

 

北「ん?」

 

秋「どうした?」

 

北「いや…なんか、泣き声が…」

 

かすかに聞こえる声を頼りに一刀はその声のもとに向かって行く。

その声を発していたのは布に巻かれた赤子だった。

 

北「赤ちゃん?」

 

「おぎゃー…おぎゃー」

 

秋「よーしよし…

捨て子か?それとも孤児か?」

 

秋蘭はその赤子を抱き上げ、あやす。

 

北「しかし…これはこのままほっとく訳にはいかないな」

 

秋「あぁ…

手があいてるのは我らだけだ

仕方ない、村を散策して親を探そう」

 

秋蘭が赤子を抱きながら、一刀と共に親を懸命に探したが親が見つからなかった。

村民に赤子の世話を頼んだが襲撃の後の為、誰一人赤子を引き取ってはくれなかった。

 

秋「仕方ない…この村には復興と警備の為に兵を何人か置いていく、その者に言伝をして

私達がこの子を預かろう」

 

北「仕方ないか…」

 

無事に村の窮地を救った一刀、秋蘭は赤子を抱きながら、洛陽に帰還。

しかし、事件は当然これで終わらなかった。

 

 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
28
2

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択