第一幕、 第一章 五話
物見からの伝令で、近くの村が襲われているとの報告が入った
伝令「報告いたします。南西の村が賊に襲われております。その数約一万。
ただいま義勇軍と交戦中、防戦一方で長くは持たない。至急援軍をとの事であります。」
曹嵩「ありがとう。すぐに出陣の用意を、今回は私も出ます。」
華琳「まって、母様。賊如きに母様が出る必要ありません。私に行かせてください。」
曹嵩「そうね。華琳にも経験を積ませてあげたいし、お願いするわね。」
一刀「討伐隊はどのように布陣しますか?」
曹嵩「まず春蘭ちゃんに先鋒を、秋蘭ちゃんには遊撃隊を、後曲に華琳と一刀さんでいいかしら?」
一刀「そうですね春蘭、秋蘭にそれぞれ騎馬隊、千騎ずつ。後曲は軽装兵を三千、重装兵を千、合計六千で大丈夫でしょう。」
曹嵩「そうね。ここの守りも考えると妥当ね。春蘭はこのあとすぐに出陣し、わが軍を先行しなさい。」
春蘭「はっ。」
春蘭はすぐに千騎の兵を率いて出陣した。
曹嵩「残りの者も準備を急ぎなさい。出発は二刻後よ。」
曹嵩さんの指示の下、兵達は準備を整え始めた。
華琳「流石、母様ね。私もあんな風になれるかしら?」
一刀「単に経験の差だよ。華琳も経験を積めば曹嵩さんの様に、いやそれ以上になれるさ。」
華琳「意味有りげね。まあ、一刀もそう言ってくれるならそうなのでしょけど。」
一刀「これからの華琳の成長に期待してるよ。」
華琳は気丈に振舞っているが、その眼には不安の色が出ていた。
今回、初めて全軍の指揮をするのだ、それなりのプレッシャーだろう。
俺は、華琳の頭を撫でながら言った。
一刀「華琳、お前なら大丈夫だ。」
華琳「ふん、子供扱いしないでくれる?それに、一刀、私を誰だと思ってるの?
太守曹嵩の娘、曹孟徳よ。」
そうは言いつつも手を振り払わないところをみると、嫌ではないようだ。
撫でるのを止め手が離れたとき、少し残念そうな顔をしていた。
彼女の瞳から不安の色が消えたのを確認し、これで大丈夫だろうと思い自分の作業に戻った。
ある程度の準備が終わったころ、曹嵩さんが声を掛けてきた。
曹嵩「一刀さん、ちょっとこっちにいらっしゃい。」
曹嵩さんの後を追い、誰もいない天幕に入るといきなり抱き締められた。
曹嵩「一刀さん、無理しちゃだめよ。」
一刀「あはは・・・。やっぱ母さんには敵わないや。」
曹嵩「私から見ると、華琳も貴方も無理してるのが丸わかりよ。」
こうやって抱きしめられたのは賊の討伐に参加し、初めて人を殺めたとき以来だ。
ただあの時は、必死だった。殺さなきゃ殺される、それが乱世だと言う事を理解させられた。人を殺めた罪悪感に押しつぶされそうになった時、曹嵩さんはこうやって抱きしめてくれた。
曹嵩「貴方は確かにその手で命を奪ったわ。でもね、それ以上にたくさんの人の命を救ったわ。それだけは覚えておいてね。」
一刀「はい・・・。」
曹嵩「それにね、つらい時は泣いていいのよ?貴方は私にとって華琳と同じくらい大切な息子なんだから、こんなときくらい母を頼りなさい。それとも私みたいな母は嫌かしら?」
一刀「そんなことないです」
俺は関が決壊したように感情を吐き出し、声を上げて泣いた。
その後も曹嵩さんはただ黙って、俺の話を聞いてくれた。
曹嵩「もう大丈夫そうね。」
一刀「ええ、俺が殺めた人の分まで生き抜いて、乱世を終わらせます。そして、この大陸に平和をもたらす。それが俺の答えです。」
曹嵩「そう。」
一刀「そろそろ、夜も遅いので寝ることにします。」
曹嵩「ええ、おやすみなさい。」
一刀「おやすみなさい。」
俺は部屋に戻ろうとして、あることを言い忘れた事をおもいだした。恥ずかしながらも言葉にした。
一刀「ありがと、母さん。」
俺は母さんの手をやさしく振りほどいた。
一刀「確かに、人を殺めるのは怖いよ。でも俺は後ろを振り向かないって決めた。
あの時出した答えを突き通すためにも。」
曹嵩「そう」
母さんはうれしそうに微笑んだ。
曹嵩「そろそろ時間ね。華琳を頼みましたよ。」
一刀「ええ、分ってます。じゃあ行ってきます、母さん。」
そうこれが、俺が見た母さんの最後の笑顔だった。
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華琳さん初陣の一歩手前ですね。
相変わらず自分の文才のなさに嘆いております。
お気に入りに追加して下さった皆様、ありがとうございます。