突然現れた龍玄さんのおかげで、命の危機を救われた俺達。
今はその助けてもらった龍玄さんと合流して、一時撤退していった牙猛を追う・・・。
「そういえば、さっき聞きそびれたんですけど・・・どうして龍玄さんはここに来たんですか?」
蒼介と龍玄さんと俺で軍の前を走っている最中、俺は龍玄さんにここに来た理由を聞こうとする。
「あ~・・・実は、だな。お前達が出陣する前に、俺はもう魏の都に来てたんだよ。観光がてら。」
「えぇっ!?そうだったのかよ!だったら、挨拶だけでもしていけばいいのに。」
「いやぁ~俺も最初はそうしようと思ったんだけどさ・・・ほら、丁度そこに五胡が襲撃してきてな。で、そんな状況で会いに行くだけってのもなんだし・・・だから、驚かし含めていっちょ手伝ってやるかって考えてね。そんで、戦いながらお前達を探していると、あんな状況で見つけちまったってわけよ。で・・・」
これまでの経緯を簡潔に説明した龍玄は、誇らしげに胸を張りながら、続きを話す。
「どうだったよ?俺様かっこよかっただろ?まさに救世主って感じか?『キャー!龍玄様かっこいい!!』『フッ・・・こんなくらい朝飯前よ。』なんてな!ナハハハハハ!」
下手な三文芝居を脳内で繰り広げる龍玄。・・・俺、こんな人から修行を受けてたんだ・・・。
「やっぱりただの変態親父だったな・・・」
俺と蒼介は、龍玄さんのそんな姿に少し幻滅していた。
そんなひと時を味わっていると、先行していた諜報部隊の伝令が俺の隣に近寄り報告する。
「申し上げます!敵大将の率いる兵が近くの城に入ったとのことです!」
「分かった。春蘭達にも伝えておいてくれ。」
「はっ!」
伝令は勢い良く返事をすると、後ろでついてきている春蘭達の方へと向かっていった。
「籠城戦か・・・」
こちらの軍もさっきの戦いで減らされてはいるが、敵の軍もこちらに比べると、かなり減らすことが出来たと思う。
しかも運が良いことに、さっき報告された城を突破すれば、そのまま最短距離で環達がいる城へと直行することができる。
「なら、パパッと突破してそのまま環がいるところに一直線だ・・・全軍駆け足で行くぜ!ついてこいよ!」
・・・蒼介も軍の指揮が様になってきたなぁ・・・俺も頑張らないと!
俺はグッと手に力を込め、少し走るスピードを速めて城へと向かっていった。
そして撤退していった牙猛を追ってしばらく走っていくと、視線の先にポツリと佇む城がそびえ立っていた。しかし、
「・・・どういうことだ?」
その城には人の気配は全くなく、まさにもぬけの殻状態だった。
「いかがなさいます?華琳様。」
華琳の隣で護衛をする秋蘭は、華琳にどうするかを尋ねる。
「そうね・・・一応兵が潜んでいるかもしれないから、先行部隊を出して城内を確認してもらえる?」
「曹操の言う通りだな。何かあった後では遅いからな。」
愛紗を筆頭に、周りの将達もこの意見に賛成した。
そうして、編成された部隊を城の中へと派遣していった。だが、帰って来たのは派遣した後のものの数十分後だった。
「報告します!城内に敵兵おぼしき姿は見当たりません。ですが・・・」
「何かあったのか?」
「はい・・・城の玉座にこのような物が・・・」
兵士が懐から取り出したのは一枚の紙だった。
「手紙・・・ですかね?」
「そうみたいね。一刀、読んでくれる?」
「あ、ああ・・・」
俺は華琳から受け取った手紙を開き、内容を読み上げる。
『どうも私は環と申します。この手紙を読んでいるということは、牙猛に逃げられたみたいですね。しかし、連合軍で来ておきながら敵を逃がすとは・・・実力の底が知れるというもの・・・おっと、これは失礼。あなた方は天の御使いから加護を受けた天兵ですから、これからが本調子というものなのでしょうね______________________________________。」
「あの野郎・・・!自分はひっそりと隠れておきながら、よくもこんな口が叩けるものだな!」
「ムッカー!見つけたらギッタンギッタンに叩きのめしてやるのだ!」
馬超と張飛は環の言動に怒りが爆発寸前だ。地面をバンバンと踏みつけている。
「二人とも、これはきっと挑発だ。容易く乗るんじゃない。」
そんな二人を関羽が鎮める。そうすると二人は、踏みつけるのを止めて、再び手紙に耳を寄せる。
「___________さて、血の気が多い武人達をからかうのはここまでにして・・・本題に移させてもらいましょう。あなた方の所にいる北郷一刀と天城蒼介・・・この二人をこちらに渡してはもらいませんか?もちろん、タダとは言いません。こちらが引き取っている呉の武将と交換・・・これでもだめだというなら、私の術で金銀財宝を生成し、それぞれの国にあげましょう。どうです、これでよろしいでしょう?・・・まあもし断るというのなら呉の将はもちろん、今まで侵略していった民を皆殺しにしてあげましょうかね。・・・場合によっては坂井飛鳥の命も例外ではありませんよ。では、みなさんから良い返事をお待ちしていますね。』
手紙を読み終わった後、将一同それぞれの顔に怒りの色が現れていた。
「この外道め・・・っ!もはや人としての心を失っている・・・!」
「ああ。・・・今までに何人も悪人を見てきたが、ここまで人を殺めることに躊躇しない人間など見たことがない。」
愛紗はもちろん、あの冷静な夏侯淵でさえ怒りで表情を歪ませている。
「けどこれじゃ兄ちゃん達が・・・」
「ええ・・・ご主人様を引き換えに民を解放・・・これしか選択肢はありません!」
「ご主人様をあんな下道に渡すくらいなら・・・!」
「そうよ!こんなド変態で甲斐性なしの種馬でも、あんな犬畜生にも劣るヤツに比べればまだいい方だわ!」
関羽や諸葛亮、そしてあの桂花も環に対しての怒りで一杯だった。それは俺や蒼介を絶対渡してたまるかという、気持ちの表れでもあった。・・・そんなみんなの気持ちは嬉しい。嬉しいけど・・・!
「「みんな落ち着け!」」
俺と蒼介は言葉を同じくしてみんなに伝える。
「北郷・・・」
「ご主人様・・・」
「・・・みんなの気持ちはすごく嬉しい。けど、考えてくれ。俺達二人と民数千万人の命・・・どっちが大切かなんて分かりきってることだろ。」
「そうだ。俺達があっちに行くだけで、たくさんの命が助かるんだったら、自分はどうなっても構わない。俺達は環の所に行く。」
それは俺達の思いであり、決意だった。
「だからみんな分かってく・・・えがぁっ!?」
「え?蒼す・・・ひでぶっ!?」
突如顔面に重たい一撃を食らい、声にもならない声を出しながら二メートルくらい吹き飛んだ。
「こんの・・・っ!バカ弟子がっ!!自分はどうなっても構わないだぁ?自分らの周りにはどんなヤツラがいるか考えてみろっ!」
「おっさん・・・」
龍玄の顔面右ストレートは食らい、二人は混乱していた。
「いいかっ!?お前らにはお前らを大切にしてくれている仲間がいるだろっ!そんなヤツラの気持ちを蔑ろにして、自分らだけが背負うとしてんじゃねえよ。もっと仲間に頼ってみろ。それくらいの信頼は持っているだろ。」
「龍玄さん・・・」
龍玄さんの言葉の一つ一つが心に強く突き刺さる。
そうだった・・・修行してもらって強くなって、誰にも頼らないでいけると思っていた。迷惑をかけないと思っていた。けど・・・違った。
「そうよ一刀。人は迷惑をかけ合いながら生きていくもの・・・相手もこっちに迷惑をかけてくる、こっちも相手に迷惑をかける。・・・お互い助け合いながら生きていかなくちゃいけないのよ。分かった?」
「あ、ああ・・・」
「そう。それじゃ・・・っ!」
「えっ!?ちょとまっ・・・ぐはぁっ!?」
華琳は俺に拳を構え、見事な中段正拳突きを腹に決める。俺はその場で腹を押さえながら前かがみに倒れこむ。
「ふぅ・・・一発じゃ殴り足りないけど、後ろを待たせるのもいけないわね。」
「へ・・・?」
そんな華琳の言葉に俺は背中から寒気がした。華琳の後ろを見てみると・・・。
「さて、今度は私達の番だな秋蘭。」
「そうだな姉者・・・北郷少し痛いが我慢しろよ。なに、手を握り締めて殴りはしないから安心しろ。」
いや、そうは言っても秋蘭さん。あなた方の腕力を相手に安心しろというのは・・・。
「「ふんっ!!」」
「ぶへぇっ!!」
バチーンという鋭い音を鳴らす、春蘭と秋蘭のビンタを俺は思いっきり食らった。そして次は、
「ふふーん♪周りの目を気にすることなく、あんたを痛ぶることができるのはきっと今日ぐらいだわ♪」
気分上々で前に出てきた桂花は口元ニヤッとさせている。
「いや、毎日周りの目に気にすることなく痛ぶろうとしてただろ。」
「うっさいっ!」
「いっでえええ!!?」
桂花の強烈な蹴りがすねに当たる。・・・さすが弁慶の泣き所とまで言われることがある。今にも泣きそうなくらいだ。
そして最後は、
「たーいちょ♪失礼しますなのー!♪」
「ほな遠慮なく・・・てやぁ!」
「っ!?!?!?」
今度は真桜と沙和による腹へのダブルストレート。声が殆ど出ないくらいの痛みが走る。
そんな風に数々の拳を食らい、前のめりで倒れているところに、凪がそっと手を差し伸べる。
「ああ・・・凪・・・優しくしてくれるのは君だ・・・けえええええええええっ!?」
「はあああああああああああああっ!」
凪は俺の手を掴むと、そのまま腕ごと俺を持ち上げてそのまま投げ飛ばしていった。
・・・ちなみに季衣は俺のボロボロの姿を見て、さすがにこれくらいで・・・と引きつった笑いをしながら遠慮してくれた。・・・本当に感謝。
そしてもう一つ。蒼介にいたっては、口からなにやら白い蒼介が出て行くのを見たが、見なかったことにした。
「さてと・・・みんなすっきりしたことだし。本題に戻りましょう。」
「あ、あの~それについてなんですが、私にいい考えが・・・」
そう言うのはオドオドと手を挙げている雛里だった。
「鳳統・・・だったたわね。どういう考えかしら?」
「え、ええっと・・・あの、城を目の前に話をするというのもなんですし、一旦城内に入りましょう。・・・ご、ご主人様もあんな状態ですし・・・」
「そうね。ひとまずはここの城を拠点に、休憩をとりましょう。全軍!城内に進め!」
華琳は兵達に指示を出し、まずはこの城で作戦を立てることとなった。
一刀達は季衣と鈴々に担がれて入っていった。
・・・どちらも虫の息であった。
※どうもお米です。今回はシリアス一辺倒だった状態を打開すべく少しわいわいとした雰囲気をだしてみました。一度でいいから華琳様に踏みにじりられたい・・・っと本音はここまでにして、まだなんか雰囲気重いかな~・・・けど気にせずいきましょう。さて、では今回はこれで失礼します~。
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第三十二話目となります。髪の毛を切って外面はさっぱりしたのだけれど、肝心の頭の中身が全くスッキリしないで、モヤモヤとしています・・・。