「ここか、もと孤児院だった建物は」
「何か出そうなのだ」
白蓮と鈴々は、洛陽にある一軒の建物の前に来ていた。
先日の茶会の席で、孤児院を作ると宣言した白蓮は、たまたまその場に訪れた劉弁から、直接許可をもらい、幽州へ戻る前に、下見のために以前あった孤児院の跡地を訪れた。
「ずいぶん寂れているな。・・・ふむ。前の持ち主が亡くなった後、誰も管理を引き継ぐものもおらず、そのまま放置された、か」
「とりあえずなかも見てみるのだ」
「そうだな」
鈴々に促がされ、敷地内へと足を踏み入れる二人。
その時だった。
「まて!貴様ら!!誰の許しを得てここに立ち入ろうとする!!」
突如、女の声が辺りに響く。
「だ、だれだ!?」
「ゆ、ゆーれいさんなのか!?」
周囲を見渡す二人。
「この屋敷は誰にも渡さん!!おとなしく帰れ!!」
「私たちはここに、もう一度孤児院を再建したくて来たのだ。誰かは知らんが、邪魔をしようというなら、この公孫伯珪が相手をしくれる!!」
「そーだ!!鈴々の邪魔をしないでほしいのだ!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・本当か?」
突然、声が二人の後ろからする。
あわてて二人が振り向くと、そこに一人の女性が立っていた。
「そなたは?」
「あたしの名は孟達、字は子慶。ここの持ち主だ」
そう答える女性。
「ちょっと待て!!ここの前の持ち主は確かに、孟子慶となっている。だが、すでに五年も前に死んだとも書いてあるのだぞ!!」
「ほ、ほんとーにゆーれいさんなのか?!」
震える二人。が、
「ああ、それ。死んだのはあたしの姉貴だ。けどおかしいな、ちゃんと引継ぎの申請はしといたはずなんだが」
「・・・じゃ、なんでこんなに屋敷が荒れてるんだ。引き継いだんならきちんと手入れぐらい、していて当然だろうが」
白蓮が孟達に問う。
「姉貴が死んだあと、あたしは暫くこの地を離れざるを得なくなったんだ。だから申請の書類だけ提出しておいて、益州に向かった。久しぶりに暇がもらえたんで、掃除のためにここに帰ってきたんだが、ここまで荒れてるとは思わなかった」
建物を見ながら孟達が寂しそうにいう。
「・・・前の持ち主・・・あんたの姉さんか?その人が亡くなった後、ここにいた孤児たちは別の場所に引き取られていったそうだ。それ以来、ここは閉鎖されて久しいそうだ」
白蓮が孟達にそう説明する。
「それで、あんたたちがここを再建することになったってことか。そうとは知らず、驚かせてすまなかった。このとおりだ」
二人に頭を下げる孟達。
「そういうことなら仕方ないさ。となると困ったな。ちゃんとした持ち主がいるんなら、ここは諦めるしかないな。いこうか、鈴々」
そう、鈴々を促がし、立ち去ろうとする白蓮。
「待ってくれ。もしあんたたちがここを再建してくれるというなら、あたしはここをあんたたちに譲ってもいい」
「本当か?」
「ああ。見たところ、あんたたち、結構な身分の人のようだが、差し支えなければ教えてもらえないだろうか」
「ああ、これはすまない。私は幽州にて牧を務めさせてもらってる、公孫賛、字は伯珪だ。こっちが」
「鈴々は張飛、字は翼徳なのだ!」
「ほう、幽州の・・・。それで、どのくらいでここを再建できそうなのだ?」
「そうだな。庭も荒れ放題だし、建物もかなり傷んでそうだしな。私も後五日もしたらここを離れねばならんし、職人を雇って、建物の補修の手はずを済ませて、子供たちを世話するものを雇って、と。・・・実際に孤児たちを受け入れられるのは、半年後くらいといったところか」
「そうか。・・・なら、わたしもそのころにもう一度くるとしよう。公孫賛どの、権利譲渡の手続きはそちらで行って頂けるだろうか。もう今日の昼には、ここを立たねばいけないのでな」
白蓮の説明を聞いた孟達が、懐から印を取り出して白蓮に渡す。
「わかった。・・・道中気をつけてな」
「ああ。では、また半年後に」
「おねーちゃん、元気で、なのだ!」
二人に見送られ、その場を去る孟達。
それから白蓮は役所へ顔を出して、所有権の移譲の手続きを行い、屋敷の手入れと補修を行う職人たちを募集する手配を済ませた。
孤児院で働くものたちの手配も済ませたところで、白蓮は幽州へ帰還の途についた。
それから半年後、白蓮は孤児院の準備が整った知らせを受け、洛陽へと足を運んだ。
そこには鈴々も来ていた。
そして、孟達の姿も。
「子慶殿、お久しぶりだ。元気そうで何より」
「おねーちゃん、久しぶりなのだ!!」
孟達に挨拶をする二人。が、
「・・・どちらさまで?」
「「・・・は?」」
「当孤児院に何か御用でしょうか?」
「いや、その、孟子慶どの・・・ですよね?」
「はい。確かに私は孟達子慶にございますが。・・・あ、もしや、あなた方が公孫伯珪殿と、張翼徳殿で?」
会話がかみ合わない。
確かに二人の前に立つのは、あの日に出会った孟達本人だ。
だが、なぜか彼女はこちらと初対面のような風である。
「・・・このたびは姉が運営していた孤児院を再建していただき、ありがとうございます。亡き姉が夢で言っていたのは本当だったようですね」
「亡き姉が・・・夢で?」
冷や汗が二人の背中を伝う。
「えっと。おねーちゃんは、洛陽に来た事あるの・・・だ?」
「いえ?私は姉と幼いころに別れてから、益州を一度も出たことはありませんが?」
「・・・・・・・・・そ、それじゃ、あの日ここで会ったのは・・・・」
懐から印を取り出し、顔を真っ青にする、白蓮。
「あら?それは姉の印では?なぜあなたがそれを・・・」
「「・・・・・・・・・・・・・」」
その場にぺたりと座り込む。そして、屋根の上に、二人はそれを見た。・・・見てしまった。
屋根の上に座る、あの日、孟達と名乗った、女性の姿を。
(ふたりとも、ありがとな。あたしもこれで、気兼ねなく逝けるよ。こっちにきたら酒でも飲もうな)
にこりと微笑み、そして、すう、と。消え去る女性の姿。
ぱた。
と、白目をむいて倒れる白蓮。
「・・・ゆーれいさんて、ほんとにいるのだな・・・」
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刀香譚の拠点をお送りします。
白蓮と鈴々による孤児院騒動。
オリキャラも一人登場です。
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