No.154047

真恋姫無双~風の行くまま雲は流れて~第40話

第40話です。

…気づけば40話

2010-06-28 23:54:12 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:6015   閲覧ユーザー数:5498

初めに

この作品はオリジナルキャラが主役の恋姫もどきな作品です。

原作重視、歴史改変反対の方

御注意下さい。

 

「何やってるんだ桂花?」

 

それは何時の事だったか

 

「目印よ」

 

まだ三人が袁家にて顔を揃えるより以前

 

「成程…木に目印ねえ、でもこの森で道に迷うなんて」

「ないな」

 

二人が袁家にそろって士官するよりも以前

 

「うっさいわねえ、狼に出くわしてあんた達が私を置いて逃げちゃった時の保険よ」

 

狩に出ると言った二人に桂花が初めて付いてきたときの事

 

「これでよし」

 

そう大きく頷きながら矢印を掘った木の幹をポンポンと叩く桂花

彼女の様子を伺っていた二人は肩を震わせ

 

「よかったねえ比呂」

「ああ、くくっ」

「?」

 

頭の上に?マークを浮かべる桂花を他所に

 

「いやあ、森の中で狼に出くわしたらどうしようかと思っていたんだ」

「ああ、これで狼に出くわしても桂花を置いて逃げられるな」

「ちょ!?」

 

こめかみに青筋を浮かべる桂花だったが二人はお構いなしにと奥へと進んでいく

 

「桂花は足が遅くてねえ」

「この間なんて道端の蛙に追い越されていたぞ」

「待ってよぉ」

 

足早に必死について来ようとする桂花を尚も無視をして歩き続ける二人

そしてついに

 

「うわああああああぁん」

 

その場に座り込んで泣き出してしまった桂花

半笑いで近づいてきた二人が幾ら宥めても頑として動かず

 

「…結局こうなるのか」

「少々、度が過ぎたねえ」

 

比呂の背中におぶさった桂花は手が真っ赤になるほど比呂の服の裾を掴んで離さず

 

「桂花、いい加減自分で…」

「嫌!」

 

そうしたら置いてかれると比呂の背中から降りることを頑なに拒み続け

 

「今日の収穫は無しだねえ」

 

比呂の分の荷物を担いだ悠と共にただただ苦笑するしかなかった

 

現在

 

あの日と同じ森の中を今は一人で歩いている

あの日よりも以前も、以後も

何度となく歩いた山道を今は一人で歩いている

草木の生い茂る中をかき分けながら

山に生息する動物の通り道、獣道を視線で追いながら

比呂はそれまでにない違和感を感じていた

昨日に通った道とは違うが、それこそ物心ついた時から幾度となく通った道

袁家に仕えてから暫くぶりではあるものの、彼の記憶のままに、彼の進む道はそこにある

というのに

 

(なんだこの違和感は?)

 

周りに誰もいない状況で一人ごちる比呂だが幾ら考えても頭から離れない違和感に意識せぬ内に足早になる比呂…と

 

「!?」

 

視線の先

 

少し開けた林の向こうに番いの鹿を見つける

 

まだ此方には気づいていなく、もさもさと草を貪っていた

 

(狙うなら雄の方か)

 

肉付もよく固い角も水に浸せば柔らかく、加工も出来るし何よりも薬にもなるので高く売れる

 

茂みの中ゆっくりと狙い撃つ位置取りを取ろうとしたその時

 

「!?」

 

いまその瞬間まで食事に夢中だったはずの鹿と目が合った

 

(馬鹿な!?)

 

比呂がそう感じる間もなく茂みの奥へと飛び込んでいく二頭の鹿

 

比呂はというと弓を引くまでもなくその場に立ち尽くしていた

 

静かな

 

ただ沈黙だけがその場を支配していた

 

(何が…どうして)

 

じっとりと汗の滲んだ掌を見つめ呆然とする比呂

 

音も立てず気配も消していたはずなのに

 

と自身にかかる影に空を見上げる

 

見れば

 

今の間際に飛び立ったのだろう

 

鹿の飛び込んだ茂みの奥の木々から鳥が羽ばたいたところだった

 

空に映える青に吸い込まれるように飛び去る鳥の姿に目を細める

 

 

………

 

…………!?

 

ややあって鳥を見上げていた比呂の背筋に悪寒が走る

 

どっと噴き出す汗が顎を伝い

 

手が震えているのが解る

 

その震える両手を

 

顔の目の前まで持っていき

 

”張り合わせる”

 

「…っ!?」

 

山に入ってからずっと感じていた違和感の正体に

 

ようやく気付く

 

やけに”静か”だと思っていた

 

”静かすぎる”と思っていた

 

内から込み上げてくる感情のまま

 

彼は叫んだ

 

「~~~っ!!!!!!」

 

森の喧噪が

 

自身の声が

 

何もかもが

 

(聞こえない!?)

 

森の中を歩けば草木を踏みしめる音が

 

木々の枝が風で擦れる音が

 

どこからとなく聞こえるはずの鳥の鳴き声が

 

此処は音で溢れる場だというのに

 

(何だ!?どうした!?)

 

自身の頭を締め付けるように

 

両の手で耳を押し付ける

 

(なぜ聞こえない!?)

 

再び喉が張り裂けんとばかりに叫ぶ

 

「うあああああああああああああああああああああ!!!!!!」

 

辺りに木霊する自身の声は

 

 

 

まったく聞こえてはこなかった

 

 

 

胸を押さえれば心臓がかつてないほどに早鐘を打っているのが解る

 

それすら

 

掌から伝わるだけであった

 

 

~冀州~

 

「魏軍が国境を超えてなおも進軍中」

 

朝議の間に割り込んだ一人の兵が齎した一報に議会は騒然となった

 

「…我が君」

 

麗羽の前で恭しく礼を取る悠に袁家当主、袁本初が頷き

 

「全軍!直ちに出陣の準備を!」

 

「「「はっ!」」」

 

臣下の礼を取る誰もが胸の内に抱く

 

(勝てるのだろうか?…この戦力で)

 

「…旦那」

 

不安の色を瞳に宿しながら見上げてくる猪々子の頭を優しく撫で…悠は苦笑する

 

「間に合いませんでしたね…”彼”は」

「でもっ!」

 

同じくすがる様に見上げてくる斗詩に首を振り

 

「もはや…時間稼ぎは此処までです」

 

彼は戻ってくるだろう

 

自身の親友を信じて疑わない…が

 

既に時間はない

 

袁家にも

 

そして自分にも

 

「なあに!覇王だか天の遣いだか知りませんがね…」

 

ごほごほとせき込み

 

口元を押さえた手の間から血が滴る

 

「旦那!?」

「悠さん!?」

 

駆け寄る二人を影に血を拭い

 

「俺と…比呂が…」

 

ぜいぜいと呼吸のたびに痛む胸を押さえて立ち上がり

 

(王佐の才の…俺が)

 

「…負けるわけがない」

 

その様子を見ていた一人の少年は口の端を上げ

 

「曹操殿にいい土産になる」

 

くっくっくと肩を震わせた

 

 

日が暮れ

 

辺りを夜の闇が包み

 

森の中をフラフラと足元覚束なく歩き続ける比呂

 

(なんでだ?)

 

目は虚ろに焦点も合わず

 

(何時からだ?)

 

何度も躓き

 

(俺は…俺は!?)

 

何故自分が此処にいるのか

 

此処は何処なのか

 

(解らない…解らない)

 

ふと立ち止まり空に浮かぶ月を見上げたその時

 

「っ!?」

 

やはり音も無しに背後から飛びついてきた”ソレ”を咄嗟にかわし

 

自身を襲った影の瞳がギラリと光るのを見た

 

(…囲まれている!?)

 

ハッと頭を振り周囲を警戒する

 

(七…八…否、もっとか!?)

 

闇の中に光る瞳と牙

 

「唸り声をあげても無駄だぞ…今の俺には…俺自身の声すら届かん」

 

腰元に差していた木々を払うための鉈を抜き

自身を囲む獣に殺気を振りまく

 

「…殺してみろ」

 

俺を

 

「覚ましてみせろ」

 

この夢から

 

比呂が狼の群れと対峙すると時を同じくして

 

闇に覆われた森の中を歩く人影が一つ

 

右手にはこの闇の中では心許ない明かりを手に

 

左手には大切な彼が心を壊す間際に渡してくれた人形を抱き

 

「比呂さん!」

 

目に涙を浮かばせ

 

「比呂さああん!」

 

彼の戻りを待ち続け

 

「返事を!返事をしてください!!」

 

彼を支えると決めた少女が一人

 

遠くで狼の遠吠えが木霊し

 

彼女の近くで

 

ギャアギャア!

 

バサバサと大きな鳥が飛び立った

 

「ひっ!?」

 

突然の音に思わず尻もちをつく月

 

ガタガタと肩は震え、ガチガチと歯が音を立てる

 

(怖い怖い怖い怖い…)

 

目を覆って立ち竦んでしまう

 

それでも

 

胸に抱いた人形をきつく抱きしめ

 

(詠ちゃん…劉協)

 

きつくきつく人形を抱きしめ

 

私に…勇気を頂戴

 

 

真恋姫無双~風の行くまま雲は流れて~

 

官渡の戦い~序章~

 

開幕

 

 

あとがき

 

此処までお読み頂きありがとう御座います

 

ねこじゃらしです

 

というわけで新章スタート!

 

それでは次の講釈で


 
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