No.152790

真・恋姫†無双~外史を渡る者~「蜀編Ⅲ」

蜀での生活を満喫する一刀
鍛錬、警邏、書類整理など奮闘する。

そんな中、以前戦った五胡軍がある城に居ると知らせが入る。
すぐに出陣が決まり関羽、桔梗、魏延が行くことに

続きを表示

2010-06-23 21:39:54 投稿 / 全20ページ    総閲覧数:3607   閲覧ユーザー数:2832

~一刀VS趙雲~

 

 

翠「てりゃあぁぁぁぁっ!!」

 

北「ぐっ!?」

 

一刀が蜀に身を寄せてから早くも一週間が経過。

 

一刀は今庭で翠と鍛錬をしていた。

魏とは違い、蜀には槍や戟を使う武将が多く、一刀にとってもいい鍛錬の相手が増えた。

前に霞に頼んだ事があるのだが…

『いややわ、うちが一刀をボッコシたら凪っちに怒られるやろ』

と、言われた。

 

万が一にも一刀は霞に勝てるとは思ってなかったがハッキリと言われ、その夜涙で枕を濡らした。

 

翠「もらった!」

 

北「おわっ!?」

 

翠は一刀が防戦一方に対し間合いに入れず、一刀の喉元に訓練に使う木の棒を突き付けた。

 

北「ま、参った…」

 

鈴「お兄ちゃん、ダメダメなのだ」

 

蛇茅を地に突き立てている鈴々は「にはは」と笑いながら眺めている。

 

北「俺が翠に勝てる訳ないだろ」

 

鈴「それもそうなのだ…

じゃあ翠、次は鈴々が相手なのだ!」

 

翠「良いぜ…かかってこい!」

 

鈴々は蛇茅を抜き、翠に切りかかる

翠も近くに置いた十文字槍を手に取り、鈴々からの一撃を受け止めた。

 

一刀の後に鈴々とやり合う翠を見て

何故か虚しい気分になる一刀

 

?「何あんた、また負けたの?」

 

庭に来たのは茶器を乗せたお盆を持った月と詠だ

この二人は桃香がお願いしたらしく一刀の世話をしてくれてる。

そんな事もあり、二人とは真名で呼び合う仲である。

 

月「一刀さん大丈夫ですか?」

 

北「あぁ、月…大丈夫だよ

ここ最近、桔梗さんや翠に鍛えられてるから…」

 

詠「ふん!

その割には未だに一本も取れないけどね」

 

北(べ、別に悲しくなんてないんだからね!)

一刀は月と詠が持ってきてくれた茶を片手に二人の鍛錬の様子を眺めていた。

 

 

しばらく打ち合いの後、翠の槍が鈴々の一撃で弾き飛ばされ、勝敗は鈴々となった。

 

北(よかった…

これで翠が勝ったらなんかもぅいろんな意味で立ち直れない気がしたよ)

 

北「お疲れ様

二人とも、茶にしないか?」

 

鈴「おうなのだ!」

 

翠「いてて…手が真っ赤だぜ」

 

二人は地面に腰を下ろし、茶を楽しんだ。

 

関「お前達!何をしている!!」

 

と、そこに綺麗な黒髪をなびかせ、髪とは真逆の苛立ちの表情を浮かべた関羽がやって来た。

 

関「翠、お主は騎馬隊の調練の時間ではないか?」

 

翠「うっ…」

 

関「鈴々、お前は桔梗との合同訓練ではなかったのか?」

 

鈴「はにゃ~」

 

関「月、詠

それは桃香様と朱里と雛里の茶ではなかったのか?」

 

月「へぅ~」

 

詠「う、僕としたことがしまった…」

 

関「皆!

遊んでいる暇があるならさっさと働けー!!」

 

関羽に怒鳴られ、一刀達は蜘蛛の子散らすように散開した。

特にする事もない一刀なのだが、未だに打ち解けない関羽の怒鳴り声はかなりの迫力で散るしかなかった。

 

廊下をフラフラ歩いていると、庭から一刀を呼ぶ声がした。

 

桃「一刀さーん!!」

 

その声の主は桃香だった。

天気も良好の為か、桃香は庭で書類仕事をしている。

 

北「あれ?

諸葛亮や鳳統達と一緒じゃなかったのかな?」

 

桃香の近くまで行って、その事を聞いてみると

 

桃「そうだったんだけど、朱里ちゃん達に手伝って貰う仕事が終わったから、お庭で仕事する事にしたの」

 

北「そっか

しかし、すごい量だな」

 

桃「ふぇーん

この前の戦いで荒れた所の復旧とかが山積みでね~」

 

北「なるほどな…」

 

一刀は書類の山から一枚報告書らしき紙を手にとった。

中身は警邏に関する内容だった。

北「なぁ、桃香

これなんだけどさ…」

 

警備の書類を手に改善点を述べる一刀

桃香は「ウンウン」と頷きながら、一刀の警備の改善案を聞いてくれる。

 

北「ってのはどうだい?」

 

桃「なるほど~

それいい!早速、朱里ちゃんや雛里ちゃんに相談してみるね!」

 

北「うん。一応、補助案もあるけどあの二人なら大丈夫だね」

 

桃「それで一刀さん

一刀さんはどうなの?みんなから信用取れてる?」

 

北「う~ん…ボチボチかな?

桔梗さん、紫苑さん、鈴々に恋、翠にたんぽぽや月と詠には真名を預けて貰ったけど、蜀の中核にはまださ

特に関羽さんは未だに警戒心強いしね」

 

桃「そっかぁ~

愛紗ちゃんは立場上ってのがあるからなぁ」

 

北「ま、何にしても

俺は俺のやり方でやってくさ

そうじゃなきゃ、共闘してる魏…華琳に申し訳ねぇしな」

 

趙「桃香様!」

 

庭にやってきたのは趙雲だった。

 

桃「あれ、星ちゃん?

どうしたの?」

 

趙「おや、北郷殿もご一緒でしたか

物見から報告がありましてな…桃香様の指示を仰ぎたく参りました

軍師殿が軍議を開きたいと申しております」

 

桃「わかった、すぐに行くね」

 

趙「それと、できたら北郷殿もご一緒にとの事です」

 

北「俺も?」

 

趙「うむ

そなたにも関係ある話し故な」

 

北「わかった」

 

一刀と桃香は書類を片付け、急ぎ玉座に向かった。

すでに玉座には蜀の中核を担う将が来ていて、桃香が座ると軍議が始まった。

一刀は隅で邪魔にならないように軍議に参加した。

 

桃「え~と…

それじゃ、報告を教えて」

 

関「では、私から」

 

桃香が議題について訪ねると、関羽が報告が書かれた書類を片手にそれを読み上げた。

関「先日追い払った、五胡の軍勢ですがどうやら蜀の領地で今は空城になっております、近隣の今は使っていない城に立てこもっているそうです」

 

桔「使うてない城とはいえ、盗人猛々しいのぅ

ここまで来るとむしろ感服するわぃ」

 

関「桔梗!不謹慎だぞ!」

 

冗談混じりに桔梗さんが言うが、直ぐにピシャリと関羽に叱られてしまった。

 

諸「そこで桃香様

いく人かで部隊を率いて五胡残党を掃討したいのです」

 

諸葛亮は元々、それの許可が欲しかったのだろう

可愛い口調でサラッと怖い単語を発する。

 

桃「そうだねー

後々、そこを拠点に攻められても困るしね…」

 

趙「桃香様、まさかとは思いますが戦わずして解り合いたいなどと申されませんかな?」

 

桃「えぇ!?」

 

趙雲が鋭い眼光で桃香の考えを見抜いたようだ

相変わらず彼女は甘いようだ。

 

趙「我らが主はお優しいがそれは時と場合にしていただきたい」

 

趙雲は何か思う所があるのだろうか?

少々、落胆気味にそんな事を口走る。

あの趙雲があの様に話すのだ

それだけ何かあったのだろう。

 

桃「分かってるんだけどね…

私は華琳さんや雪蓮さんともうまくやって行けてるから、五胡とも…」

 

鳳「桃香様…それは違います」

 

今度は鳳統がおずおずとしながら意見を述べた。

 

鳳「五胡は蛮族です

奪い、そして平気で人を殺します

五胡は欲望のまま動いていて、魏や呉の皆さんとはかけ離れています」

 

桃「雛里ちゃん…」

 

鳳統の言葉に桃香は少々考えは変わったようだが、未だに理解しあえると言う考えが彼女にはあるようだ。

 

一刀は桃香の考えを踏まえた上で発言をした。

 

北「桃香、君の考えは立派だ」

 

そんな事を口走ったら全員に睨まれた。

北「だけどさ、みんなが分かり合うなんてやっぱり難しいんじゃないかな?」

 

桃「え…?」

 

関「北郷殿…」

 

趙「…愛紗」

 

一刀がそんな事を言うから桃香は意外な顔をする

関羽は一刀に発言を止めるように眉間にシワを寄せて呼ぶが、趙雲が関羽の真名を呼んで、それを止めるように首を横に振った。

 

一刀は趙雲がコクリと頷いたのを見て話を続けた。

 

北「十人十色って言葉みたいに人間の考えは違うはずだ

鳳統ちゃんが桃香に言うように、桃香が思うようにね」

 

桃「そっか…」

 

北「でも、いつか桃香の考え賛同してくれる人が五胡の中に出来るかもしれない

桃香はそう言う人を笑顔で迎えてあげればいいんじゃないかな?」

 

桃「…うん!

そうだね!私、私にしか出来ない事をするよ!!」

 

桃香はしばらく考えた後、一刀の考えに納得してくれたのか満面の笑みを浮かべた。

 

紫「ふふ…北郷さんも言うわね」

 

微かに笑い、紫苑さんは艶っぽく言った。

次に桃香は討伐隊を決めた。

 

桃「じゃあ、討伐隊は誰がいいかな?朱里ちゃん?」

 

諸「そうですね…残存兵ですし、まだ国の情勢も複雑ですからそんなに兵は割けないのが現状ですので…

愛紗さん、桔梗さん、焔耶さんでいかがでしょうか?」

 

関「私で良ければ」

 

桔「儂も異存なしだ」

 

魏「私は桃香様と一緒に残りたい…」

 

桔「焔耶!お主も来るんだ!!」

 

魏「えぇー!?」

 

北(桔梗さん、それ脅し…)

 

桃「焔耶ちゃん、お願いね!」

 

魏「任せて下さい!桃香様!!」

 

北「納得はやっ!?」

 

とまぁ、そんな事で討伐隊は決まったのだが…

ここで桔梗がとんでもない事を言い出す。

 

桔「朱里よ、儂から一つ提案があるのだが」

諸「はわ?」

 

桔「北郷を同行させたいのだ」

 

なんと桔梗は一刀を連れて行くと言い出したのだ

当然、桃香を始めとする面々は断固拒否する。

 

趙「桔梗、お主は北郷を買いかぶりすぎではないか?」

 

桔「そうかのぅ、星?

儂は北郷の力は使えると思うのだが」

 

趙「北郷殿、お主はどうだ?」

 

と、いきなり趙雲が一刀に話を振ってきた。

正直、一刀は今後のために五胡勢力と戦ってみたい

だけど、一刀にはまだ人を斬る事が出来ない。

 

北「…」

 

趙「桔梗、悪いが北郷殿を連れて行くのは私は反対だ」

 

桔「星…」

 

北「いや、趙雲さん

俺は行きたい、行かせてくれ」

 

趙「敵をまともに斬れないお主がか?」

 

北「う…」

 

趙「はっきり言って、お主の腕では死ぬだけだ

凪や春蘭に守られるている者が戦場とは笑わせる」

 

さらに追い討ちをかけるように趙雲は冷たく言い放った。

 

北「確かに俺は凪達に守られてるだけかもしれない…

だけど俺だって、力はある!…と思う」

 

蒲「うわぁ!

北郷さん言い方が最低~」

 

北「たんぽぽ、茶化さないで…」

 

趙「お主が行ったとて足手まといになるだけだ」

 

桃「星ちゃん!

どうしてそんな言い方するの?」

 

今度は桃香が割って入る。

 

趙「私は戦場で北郷殿の戦いを見ておりますゆえ…

凪達に先攻、自分は突破口が見えるまで待機

終いには逃げろと言う

武人にあるまじき発言だな」

 

北「…くっ」

 

確かにそうだった

一刀はいつも誰かに守られていた

誰かを守った事なんてない。

だが剣術も、元の世界に帰ってから力を付けた。

 

北「俺は行きたい

たぶん…いやきっと俺に出来る事があるはずだ」

 

趙「まだ分からぬようだな…」

 

趙雲はそう言うと隅に居る一刀の所まで来て胸ぐらを掴んだ。

趙「武器を持って表にでろ!」

 

趙雲はそれだけ言うと胸ぐらから手を離し、真紅の二又の武器を取る。

一刀は引く訳には行かず、木刀を取りに向かう

当然、桃香や紫苑さんは止めてくれたが一刀は引かなかった。

庭に出ると趙雲はすでに槍を片手に待っていた

心配して来たのだろう庭に面した廊下には蜀の将軍が集まっている。

 

趙「お主のその甘い考えを我が槍にて砕いてやろう」

 

北「俺は俺のやり方を変える気はない」

 

趙「ふっ…参る!

せぃやあぁーー!!」

 

趙雲は迷うことなく直線的な一撃を放つ

一刀はこれを弾こうと思うのだが…

 

北(ゾクッ-!)

 

一刀は弾くことが出来ず、避ける。

 

趙「おや?どうした?

ただの突きだが?」

 

北(ただの突き?

違う、あれは殺意のこもった一撃だ)

 

一刀はその殺意に当てられ避けたのだ。

 

北「マジかよ…」

 

趙「次!参るぞ!!」

 

乱発される趙雲の槍さばきを紙一重でかわす

殺気にあてられて一刀の体は思うように動かなかった。

 

殺気と剣気で趙雲の槍が二倍にも三倍にも見える。

 

趙「はい!はい!はいーっ!!」

 

北「ぐわっ!」

 

二又の間に木刀が入り、そのまま圧される。

 

桃「星ちゃん!もう止めて!!」

 

桔「お待ちなされ桃香様…今は星のやりたいようにやらせてやってくだされ」

 

桃「だけど、桔梗さん…このままじゃ、一刀さんが…」

 

紫「北郷さんだって、伊達にあの戦いを生き抜いて来たわけじゃないわ」

 

桔「ほぅ、分かるか紫苑」

 

紫「もちろんよ

それに…ほら、彼の目を見て」

 

紫苑の言う通り、一刀の目を見ると

劣勢にも関わらず、一刀の目は鋭く光を放っていた。

紫「それに星ちゃんだって、意味もなくこんなことをしたりしないわ」

 

鈴「はにゃ?」

 

桃「むー…

鈴々ちゃんと同じで私も分からない…」

 

紫苑の言葉に頭に?を浮かべる鈴々と桃香

その他にも分からない人もいたが、斬撃音に紫苑の言葉がかき消された。

 

北「ぐはっ!」

 

そんな事を話していると、一刀は趙雲から横なぎの一閃を懐に打ち込まれる。

 

趙「まだまだ!」

 

体がくの字に曲がり、一刀は吹き飛ばされるが趙雲は素早く背後に回り、無防備な背中に一撃を放つ。

 

北「がっ!」

 

前後からの強烈な攻撃に一刀はボロボロになりながら、地面に倒れた。

 

北(隙が無さ過ぎる…

一撃も入れられないのか…!)

 

趙「お主は今、二度死んだ…

立て北郷殿!

それとも、いかに自分が甘かったか、理解頂いたか?」

 

槍を地に差し、余裕の趙雲は冷たく言い放った。

 

北(スピードに立ち振る舞い…隙が無い…

…だったら…!)

 

一刀は木刀を杖代わりにしてヨロヨロと立ち上がった。

そして、ゆっくりと深呼吸をして木刀をまるで腰にぶら下げた鞘にしまうようにして腰を下ろして構えた。

 

北(だったら、俺の居合い切りの速さに賭ける)

 

趙「ほぅ…秋蘭に聞いたが、それが居合い切りか

この局面で使うと言うことはそれが北郷殿の必殺と言うことか?

…では、参る!」

 

趙雲は地面から槍を抜き、攻撃のタイミングを見計らった。

周りで見ていた面々は一気に決まるかと思ったが、趙雲はすぐには攻撃をしなかった。

 

趙(ッ!

なんと言う集中力だ…隙がまるで無い…)

 

桔「星め…勝負のつけ所を見誤ったな…」

 

桃「えっ?」

 

紫「今の北郷さんの集中力は尋常じゃありません

彼に必要なのは気迫…

下手な小細工や武や剣の型ではありません

敵の攻撃に動じず、終始揺るがない内に秘めた強さと胆力

そして、一瞬の隙を見逃さない眼力…」

 

桔「そうして放たれるのは…」

 

趙「でやぁぁぁあっ!!」

 

その時、趙雲が動いた。

間合いを一気に詰め、趙雲は一刀に槍を突き出した。

 

北(ここだ!!)

 

桔「そうして放たれるのは…魂の一撃じゃ」

 

放たれた槍を見切り、体を横に少し動かして趙雲の槍を体で受け流すようにして体を1回転させる

趙雲との間合いを詰め、一刀は彼女の胸元に木刀を半分抜いた。

 

趙「ッ!?」

 

関「なっ!?」

 

翠「星が…負けた?」

 

桔「勝負ありじゃな…」

 

槍を突き出していた趙雲は構えを解いた。一刀も彼女に向けた木刀をまた鞘に戻すようにベルトに挟んだ。

 

趙「よき一撃だった…

何か掴んだようだな?」

 

北「ありがとう、趙雲さん

今、俺に足りない何かを掴んだ気がするよ」

 

趙「星だ」

 

北「え?」

 

星「我が真名は星

よろしくな、北郷殿」

 

北「あぁ」

 

二人は力強い握手を結んだ。

 

桔「いかに強大な力を得ようとも、気迫や胆力がなくては意味はない

星め…それを教える為にこんな茶番を組んだか…」

 

星の思惑を読み取った桔梗はクスクスと小さく笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

一刀と星の一騎打ちから数日後…

 

準備を終えた関羽、魏延、桔梗、一刀の四名は馬に跨り城門前で桃香達に見送られていた。

 

関「では桃香様

これより五胡残存部隊の撃破に向かいます」

 

桃「うん!

気を付けてね、みんな」

 

桔「何、たかが雑兵の始末…問題ありますまい」

 

桃「分かってるけど、ちょっと心配だよ~」

 

鈴「お姉ちゃんは心配症なのだ」

 

翠「ま、それが桃香様のいいところだしな」

 

星「ふふっ、違いない…」

 

関「これより出立する!

皆、留守を任せた」

 

紫「任せておいて」

 

蒲「蒲公英にお任せ~!!」

 

諸「皆様、気を付けて」

 

五虎将をはじめとする面々に見送られ、四人と率いる軍は城に向かい出立した。

城には半日程で到着する予定

馬に揺れながらのんびりと過ごす一刀に桔梗があることを訪ねて来た。

桔「ん?

北郷殿、その刀はどうしたのだ?」

 

北「これか?

遠征に出る前に桃香に返して貰ったんだ」

 

一刀の腰には桃香に渡した日本刀が腰にぶら下がっていた。

 

桃『一刀さん

これ、一旦返すね』

 

北『いいのか?』

 

桃『うん!

やっぱり、戦場に行くなら使い慣れた得物がいいしね』

 

北『ありがとう

…うん!やっぱり、使い慣れた物が腰にあると落ち着くな』

 

桃『良かった~

愛紗ちゃんやみんなをよろしくね』

 

北『俺が助けて貰う方のがあると思うけどね』

 

と、言うやりとりがあったのだ。

 

馬を走らせる事、半日

城が目視出来る位置に陣を設立した。

 

関「さて…敵はおそらく籠城戦を選ぶはずだな」

 

桔「まぁ、当然だろうな」

 

北「籠城戦かぁ…作戦は?」

 

魏「完膚なきまでに叩きつぶすまでだ!

そうすれば、早く桃香様の元に帰れる!!」

 

北「そう簡単に行くかな…?」

 

地図を広げ、戦いの前準備をして

天幕であれやこれやと軍議をしていると伝令が駆け込んで来た。

 

「も、申し上げます!」

 

慌てた様子で天幕に駆け込んで来た伝令を見て関羽達は驚きを隠せなかった。

 

関「どうした!」

 

「敵軍、城から出陣!野戦の陣を設置しています!」

 

北「え、野戦?

せっかく城を盗んだのにか?」

 

桔「肝が座っていて良き事よ

まどろっこしい戦は好かんしの…

して、愛紗よ…いかがする?」

 

魏「決まっております、桔梗様!

野戦ならば我らに分はあります!一気に蹴散らしましょう!」

 

関「焔耶の言うことも一理ありだな…

だが、敵の策も否めん…」

 

北「でも、ぐずぐずしてたら敵に先手を取られるよ」

 

愛「…」

 

一刀の漏らした言葉に関羽は「そんな事知ってる」と言わんばかりに顔を引きつらせる。

 

桔「どうする、愛紗?」

 

関「…よし

野戦で来るならこちらも野戦で行くぞ!

皆、準備をしろ!」

~水計!?猛攻の五胡軍~

 

 

 

関羽の合図をもとにすぐに野戦の支度をする、蜀陣営。

 

出足を挫かれ、先手を取られると思ったのだが敵は陣をひいてからの行動があまりに鈍重だった。

 

北「妙だな…」

 

関「ん?」

 

北「いや、陣を設置したら一気に攻めて混乱を起こすってのを考えてたんだけど

あまりにも遅くてさ…」

 

関「ふむ…私もそぅ思ったのだが…

まぁ、相手は敗残兵ばかりだからな

戦のいろはを知らないのかもしれん」

 

北「なら、いいけどね…」

 

関「北郷殿はなかなか立派な慧眼の持ち主だな」

 

北「そぅ?」

 

関「うむ…

正直、私はまだあなたを信じた訳ではないが

今の言葉に嘘偽りはない」

 

北「ははっ…天下の関雲長に誉められて光栄だな」

 

関「口も上手いな…」

 

北「うぐっ…」

 

関「ふふっ」

 

仲睦まじく話していると桔梗から準備完了と声が掛かる。

 

関「蜀の勇者達よ!

牙を向く獣に教えてやるのだ!

我々の誇りと強さを!!

全軍、突撃!!」

 

関羽の号令を合図に蜀軍は五胡の軍勢に突撃していく。

野戦準備の先手をとった五胡だったが、鈍重極まりなく蜀軍に飲み込まれていく。

 

桔「我が豪天砲を食らうがいい!」

 

魏「どけっ!粉砕してくれる!!」

 

喧嘩師桔梗、力押しの魏延の前に五胡の軍はみるみる数を減らして行く。

 

関「抵抗するな!

おとなしくすれば危害は加えない!」

 

関羽が声高らかに宣言すると、五胡は城から逃げ出し、僅かに残った兵は白旗を上げた

それは戦いが始まってからすぐの事だった。

関羽の横で戦いを見つめる一刀はふと妙な感覚が頭をよぎる。

 

北(おかしい…わざわざ城を奪うなんて派手な事をして、殆ど抵抗がない…)

 

桔「なんだ?もぅしまいか…

張り合いがないのぅ」

 

魏「ふん!

白旗上げるぐらいならわざわざ城なんか奪うなっていうんだ」

 

妙な不安を抱く一刀の下に桔梗と魏延がやって来て愚痴をこぼした。

 

北「みんな無事で良かった」

 

無事な二人を見るとそんな考えは消えてしまった。

関「城の中で捕らえた敵兵をまとめ、我らは傷の手当てをするぞ」

 

関羽の指示のもと、事後処理が行われる。

蜀軍は城に入り、負傷した兵の傷の手当てや捕らえた僅かな五胡兵をまとめたりなど慌ただしく動いていた。

 

北「これで戦は終わりか…」

 

桔「まったく…もぅ少し骨があるかと思ったのだかのぅ」

 

相変わらず桔梗は納得いかないのか、一刀に愚痴をこぼしていた。

 

北「まぁ、みんな無事で何よりじゃないですか」

 

桔「あぁ…

此度の戦…お主はどぅ思う?」

 

北「…正直、妙だと思います

城を奪ったり、派手な行為をしたくせに戦になったらすぐに白旗上げるなんて…

だったらなんで城を奪ったんだって思います」

 

桔「うむ…儂もそこが引っ掛かるのだ

このまま何事もなければいいがの…」

 

だが、二人の考えを裏切るかのように城に大地を覆い尽くすほどの大軍が迫って来ているのをまだ気づいてはいなかった。

 

城内で事後処理をする指示する関羽のもとに一人の兵士が駆け込んで来た。

 

「か、関羽将軍!!」

 

関「どうした!?」

 

「敵が!大軍がこの城に押し寄せて来ます!!」

 

関「なに!?」

 

その兵士の言葉を聞いた一刀と桔梗は城壁に上がり、広大な大地に目をやると遥か彼方に砂塵が巻き上がっていた。

 

北「あれだ!」

 

桔「くっ…!

いっぱい食わされたの奴らは元々、儂等を城に誘い込むのが狙いだったのだ」

 

関羽と魏延も城壁に上がって来て砂塵の方を見ると、その敵の数に驚きを隠せなかった。

 

関「な、なんだあの数は…」

 

魏「冗談じゃない…あんなのに来られたら一溜まりもないぞ!」

 

その遥か彼方の砂塵では五胡兵に指示を与える敵将の姿があった。

 

一人は赤い鎧を身に纏う、徐晃。

もぅ一人は五胡兵が担ぐ、きらびやかに装飾された御輿に乗り面妖な衣装を身に纏い所々に割れ目の入った剣を片手に持ち高笑いをしていた。

徐「さて、獲物は釣れた…

甄姫よ、後は手はず通りか?」

 

真紅の鎧を身に纏い、腰には二本の棍をぶら下げ馬に跨る徐晃は隣で御輿に乗る甄姫と言う女性に話しかけた。

 

甄「当然ですわ!

私が役立たずの戦華さんや祇針さん、張魯さんに代わり魔王を討ってご覧にいれますわ!」

 

徐「ふん…儂はあの猛将、関羽と闘えると思うと血がたぎるわい」

 

甄「野蛮ですわね…まぁ、いいですわ

引き際を間違えないで下さいね

間違って流されでもしたら、わたくしが祇針さんに怒られてしまいますわ」

 

徐「ふむ…承知した

全軍!城に向け突撃じゃ!!」

 

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

五胡大軍の中、徐晃を筆頭に大軍から突出する部隊の姿が城に居る一刀達にも見えた。

 

北「誰か来る…」

 

関「やむを得ない…

我々は撤退する!

伝令!早馬を出して桃香様に援軍要請を出せ!!」

 

「は、はっ!」

 

伝令に希望を託し、関羽は武器を握り締め、城壁の上から兵に鼓舞する。

 

関「皆、撤退準備を!

戦える者は我が旗に集え!!」

 

「応っ!!」

 

勇ましい声が城内に響く

その声に一刀も覚悟を決め、身を引き締めるように両手で頬を数回叩いた。

 

北「よし…!」

 

桔「焔耶!

城門に群がる敵はお主が引き受け時間を稼げ!

愛紗は指揮取りつつ、第二陣として行動だ!

儂等の隊は城壁から敵を射抜くぞっ!」

 

桔梗の力強い指示に兵達は恐怖を声で消してしまうかのように威勢よく答えた。

 

桔「北郷殿…いざと言う時は…」

 

北「分かってる

俺も闘う…星さんが教えてくれた戦術での覚悟は出来てる」

 

桔「…ならば言いますまい」

 

魏「魏延隊!行くぞ!!」

 

樊城の門が開き、魏延の部隊が城門前に展開する。

徐「ほぅ…城門前に展開か…

なかなか粋な事をするわぃ

全軍!脚を緩めるな!

一気になだれ込め!!」

 

徐晃の指示でさらに突撃速度を増す五胡の大軍は陣形も何もなく、城門へと近づく。

 

桔「弓構え!…放てっ!!」

 

数を減らすため、城門に近づく五胡に向け矢を放つ桔梗の部隊

矢は命中こそするが、数は目に見えるほど減ってはいない。

 

そして、遂に五胡兵は城門前に到達した。

 

魏「魏文長の武!

その身に受けるがいいっ!!」

 

城門前で派手に巨大な鈍砕骨を震い敵を吹き飛ばす魏延

城門前まで来た五胡兵はその姿を見て身を引く。

 

徐「ほぅ…粋が良いのがおるな」

 

魏「む!?」

 

徐「我が名は徐公明!

この二本の棍棒にて、お主と合いまみえん!!」

 

徐晃が身を引く五胡の前に出て、腰から棍棒を抜く。

 

魏「ふんっ…!

そのような棍棒で我が一撃を防げるか!!

はぁーっ!!」

 

魏延は鈍砕骨に力を込め、一撃を放つ。

だが、徐晃は季衣や流琉の一撃を片手で受け止めた力の持ち主。

魏延の一撃をいとも簡単に棍棒一本で受け止めてしまう。

 

魏「なにっ!?」

 

徐「やれやれ…この程度か…

どけ!」

 

魏「がぁっ!」

 

近接状態で徐晃はもう一つの棍棒で魏延の腹部に攻撃を放つ。

魏延はまるで、突風に吹き飛ばされる枯れ葉のように飛ばされた。

 

北「魏延!」

 

桔「焔耶!

くっ…弓兵!あの赤い鎧をつけた奴を狙え!!」

 

城壁から二人の戦いを見ていた桔梗はすぐさま矢の雨を降らせるが、徐晃は矢全て打ち落とす。

 

桔「化け物か…!?」

 

関「第二陣、出るぞ…魏延隊を救う!

弓隊は援護を頼む!」

 

北「待て関羽さん!」

 

一刀の制止も聞かず関羽は徐晃の待つ城門前に出陣する。

北「クソッ!」

 

桔「北郷殿!!」

 

関羽を追うように一刀は城壁を後にした。

 

一方、魏延はまだ鈍砕骨を握り締め徐晃と対峙していた。

しかし、一方的に魏延はやられている。

 

魏「ぐっ…!」

 

徐「もう、よさぬか?

儂は弱い奴をいたぶるのは好かんのでな…」

 

徐晃はつまらなさそうにため息を吐き、棍棒で肩を叩いて余裕を表している。

 

魏「私は…弱くない!

でりゃー!」

 

徐「やれやれ…そりゃ!」

 

魏「っ!」

 

焔耶はまた攻撃を防がれ、一撃を受け吹き飛ばされてしまう。

そこに第二陣として関羽隊が出陣してきた。

 

関「焔耶!」

 

焔「あ、愛紗…」

 

関「しっかりしろ!

魏延隊!焔耶を連れて樊城に戻れ!!」

 

「は、はっ!」

 

慌てた兵が魏延を抱えて樊城に戻った。

 

関「関羽隊!

敵先陣を弾き飛ばすぞ!!」

 

徐「くっくっくっ…

ようやくお出ましか」

 

関「お主が焔耶をあの様にしたのか?」

 

青龍偃月刀を構え、関羽は徐晃に問いただした。

その声には覇気がこもっていた。

 

徐「いかにも…

我が名は徐公明!

関雲長よ!戦場に武の華を咲かせようぞ!!」

 

愛「いいだろ、徐晃!

我が名は劉玄徳が一の家臣、関雲長!

徐晃よ…いざ、参る!!」

 

間合いを詰め、力を込めて偃月刀を徐晃に振りかざす関羽。

その凄まじい一撃を徐晃は棍棒で受け止めるが、関羽の力が勝り、徐晃を押し込んだ。

 

徐「ぐっ…噂に違わぬ豪の持ち主…

ふっ…血がたぎるわいっ!!」

 

関「まだまだっ!

はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっー!!」

 

関羽の連撃の猛攻を棍棒で受け止め、防戦一方の徐晃だったが、今度は打って変わり徐晃の猛襲が始まった。

二つの棍棒を防御と攻撃に分け、関羽の連撃の隙を付き、一方の棍棒で関羽の一撃を防ぐともう片方で攻撃に出たのだ。

関羽も攻撃に転じて来た徐晃の一撃一撃を青龍偃月刀の柄などで防ぐ。

 

関(くっ…恋と同等の力…霞と同等の速さ…

流石は焔耶を片手で抑えた事はある…

棍棒の先がまるで破城鎚並みだ…)

 

徐(儂の武を見極める慧眼はあるようだが、守りに入れば脆いな…)

 

激しい攻防戦…

瞬き一つで命を刈り取られるような戦いを二人は繰り広げていた。

その最中、先に崩れたのは関羽だった

一撃の重みが青龍偃月刀を伝わり足が崩れた。

 

関「ぐっ!?」

 

徐「もろうた!」

 

徐晃は棍棒を槍の突きのようにして関羽に放った。

とっさに槍を構えるがバランスを崩した手で握る槍には力が入らなかった。

 

北「はっ!」

 

棍棒の先端が偃月刀に命中する刹那、一刀が現れ徐晃に居合い切りを放つ。

しかし、徐晃はこれを難なく避け居合い切りは不発に終わる。

 

徐「ちっ…!」

 

関「北郷殿…?!」

 

北「無事か、関羽さん?!」

 

関「面目ない…」

 

徐「はっ!

魔王自らお出ましか」

 

北「徐晃…」

 

抜いた刀を鞘に戻して、居合い切りをいつでも放てる様に身構える。

 

徐「よき面構えになったな…」

 

北「…」

 

徐(やはり、あのお方の言うとおり…英傑との出会いが奴を変えているのか)

 

一刀の真っ直ぐな目と初めて対峙した時には感じられなかった気迫を徐晃は肌で感じていた。

 

徐「お相手したいのは山々だが、儂も忙しい身…今回は退かせてもらう

全軍撤収!!」

 

棍棒を腰に収め、全軍に撤収指示を出す徐晃はいの一番に下がる

それに続き五胡の兵士も下がっていく。

 

関「退けたのか…?」

 

北「ふぅ…」

 

安心した一刀は構えを解いて安堵の表示を浮かべ、ため息をもらした。

 

関「北郷殿、大丈夫ですか?」

 

北「あぁ…うん…

安心したら力が抜けちゃったよ…」

関「まったく…無茶をして」

 

北「無茶ぐらいするさ

君が危なくなればね」

 

関「ッ///」

 

北「さて、こっちも一旦城に…

ん?関羽さんどうかした?」

 

関「な、なんでもありませぬ!

それと、その…私の事は愛紗と…」

 

北「いいの?」

 

愛「今回は助けられましたし、華琳殿が信を置くお方

私の目から見てもあなたは信じられます」

 

北「ありがとう」

 

愛紗は顔を真っ赤にして全軍に城に戻るように指示をだす。

一刀は最大の難関である関羽から信を得られた事に喜び、笑みを浮かべて城に戻った。

 

城壁に上がり、桔梗と合流すると魏延は利き腕に包帯をして壁に身を預けながら辺りを見回していた。

 

北「魏延さん、大丈夫かぃ?」

 

魏「これくらいどうと言うことはない!」

 

桔「焔耶よ、嘘を申すな…

利き腕に強打を食らい腕が思うように動かんのであろう?」

 

魏「うぐっ!?」

 

北「全然大丈夫じゃないじゃん!」

 

魏「うるさい!」

 

桔「まぁ本人がこう言っておるから問題はなかろぅ

私は下に降り、兵に支度を急がせます」

 

愛「ならば私も行こう

北郷殿、ここは任せます」

 

北「了解」

 

二人が城壁から降りると微妙な空気が流れ、一刀は気まずくなる。

 

北「…腕、痛くないか?」

 

魏「大丈夫だと言っているだろ」

 

北「すまん…」

 

魏「……謝るな」

 

北「…」

 

魏「あんな奴、初めてだ」

 

北「え?」

 

魏「徐晃と言う奴だ…あんな片手で止められなんて…」

 

北「季衣や流琉も片手で止められたって言ってたよ」

 

魏「私は武以外何も桃香様の役には立てない…

しかしこれでは…私は桃香様に顔向け出来ない…」

 

魏延はうずくまり今にも泣き出してしまいそうな声で一刀に話した。

北「大丈夫だよ

桃香は魏延をそんな風に思わないよ」

 

一刀は少し距離をあけ、魏延の隣に座る。

 

魏「…」

 

北「むしろ、心配すると思うよ

それは守る為に戦って出来た怪我なんだからさ

逆に俺が桃香に謝んなきゃな…」

 

魏「なぜお前が謝るんだ?」

 

北「桃香の大事な仲間に怪我させてごめん、ってさ」

 

魏「それはまるで私が弱いみたいではないか!

私が桃香様に謝る!」

 

北「いやいや俺が謝んなきゃ」

 

魏「私がっ!」

 

北「いや俺が!」

 

魏「私!」

 

北「俺!」

 

二人は顔を近付け、身を乗り出して言い争う

そして、二人は吹き出して笑った。

 

北「なら、一緒に謝るか?」

 

魏「仕方ない、それで妥協しよう」

 

北「よし!

じゃあ先ずはみんなで成都に帰ろう」

 

なんとか元気を取り戻した魏延に安心して一刀は立ち上がり、服を払う。

立ち上がると一刀は目眩をしたように体のバランスを軽く崩した。

 

北(なんだ…?)

 

一刀は戦場に立った事による緊張感から来た目眩だと思ってが、真っ直ぐ立ってもまだ揺れを感じた。

地面から来る揺れなので、また敵が来たかと思い周囲を見渡すと一刀は信じられない物を目にした。

 

北「おいおい…冗談じゃないよ!」

 

魏「何だ?」

 

魏延も立ち上がり、それを見ると愕然とした。

 

魏「なっ…!」

 

北「愛紗さん、桔梗さん!

すぐに兵に高い所に上がるように指示してっ!!」

 

下で兵達をまとめていた二人は急な一刀の言葉に理解出来なかった。

 

桔「高い所?何を言っている?

それよりもお主も早く撤退準備を…」

 

北「早く!!」

 

愛「どうなされた?

まさか敵が水計でもして来ましたか?

ふふっ…」

 

桔「雨もなく水計とは面白いな」

 

 

 

 

北「そのまさかだよ!!」

 

 

 

「「は?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

甄「さぁ…我が命に従い、舞い踊りなさいっ!!」

 

神輿の上で手を掲げる甄姫。

それに反応して、地面から水が湧き上がる。

その水は次第に一つの塊となって、一刀達のいる城に向かっていった。

 

甄「ふふふ…まさか妖術がこれほどまでとはねぇ…

あのお方が解読を急ぐ訳だは…」

「ゴゴゴッ!」と音と共に激流が迫って来ている

その音に気付いた愛紗と桔梗はすぐに城壁に登り、激流を目の当たりにすると顔を青ざめながら兵に指示した。

 

愛「皆の者!

高い所に…高い所に上がれーっ!!」

 

兵達も愛紗の慌てふためく声にただ事ではないと悟り、使われていない家屋や小屋の屋根に城壁に上がった。

 

桔「来るぞっ!」

 

凄まじい轟音と振動が城に響き渡る。

 

北「ぐっ!」

愛「わっ!」

桔「ぬぅ…」

魏「く…!」

 

城門を激流が破り樊に荒波が流れる。

 

「おわっ!」

 

「あばっ!…助…け…」

 

逃げ遅れた蜀の兵や五胡の兵が波にさらわれて流されて行く。

 

北「このままじゃ不味い…どうするだ?!」

 

愛「このままでは全滅は免れない…」

 

桔「すぐに撤退…だな」

 

愛「うむ

とりあえず近くに隠れて援軍を待とう

今、あの数と闘うのは無謀だ」

 

北「だけど、ここからどこへ?」

 

桔「数里行った所に以前食料庫に使ってた砦がある…蜀にも近い

そこを目指してはどうじゃ?」

 

愛「うむ…ならばそこに向かおう」

 

行き先を決め、愛紗と桔梗は残った兵に麦城行きを通達する。

そして、水の勢いが弱まるのを待った。

水の勢いが弱まると正面門を閉め、敵の城への進入と逃げたのを悟らせないようにした。

その最中、一刀は倒れたり余った劉旗を城壁に掲げた。

 

魏「何をしている?」

 

北「劉旗を残して俺達がここに居るように相手に悟らせるんだ

それなら少しだけど時間が稼げるはずだ」

 

魏「なるほど…」

 

愛「北郷殿!焔耶!

我らも行くぞ!!」

 

北「わかった!行こう魏延」

 

さっと手を差し伸べる一刀だが、魏延は一刀の手を弾き飛ばして立ち上がった。

魏「ふん…」

 

北「手貸したつもりなんだけど…」

 

魏「いらんっ!」

 

北「そーですかー」

 

鈍砕骨を背に背負い

魏延は砂埃を払う。

 

魏「ほら、さっさと行く―」

 

北「魏延っ!」

 

突然、激流に流された大木が城壁にぶつかり、激しい揺れが伝わり焔耶が城壁から外に落ちた。

 

北「くっ!」

 

とっさに一刀が腕を伸ばし焔耶の手を掴む。

 

北「離すなよ!」

 

魏「馬鹿っ!

お前も落ちるぞ!!」

 

水はあらかた引き、焔耶が水に飲まれる心配はないのだが、怪我をしてる焔耶が落ちれば一溜まりもない。

 

北「くそっ!」

 

魏「離せ!

お前も落ちる気か!?」

 

北「誰が離すかよ!

もぅ、俺の前で誰かが怪我する所なんて見たくねぇんだ…」

 

魏「お前…」

 

しかし、怪我をしている焔耶は一刀の腕を掴んでいるのが精一杯で自力で上がる事が出来ない

さらに、背負った鈍砕骨が仇となって一刀は引き上げる事が出来ない。

 

北「ちきしょうっ!」

 

刀を抜き、地面に差して魏延をひきあげようとするが、駄目だった。

 

愛「北郷殿!焔耶!」

 

北「愛紗さん!」

 

愛「しっかりしろ!」

 

愛紗の手を借りなんとか魏延を引き上げた。

緊張の糸が切れた一刀はその場に倒れた。

 

北「ふぅ…」

 

愛「二人とも大丈夫か?」

 

北「俺は大丈夫…魏延は?」

 

魏「だ、大丈夫だ…」

 

愛「二人とも、急かして悪いが

すぐに出立するぞ」

 

北「あぁ…あんまり遅くなると敵に見つかるからね」

 

一刀はサッと立ち上がり、地面に差した刀を鞘に戻す。

 

一刀は城壁から遥か彼方に見える五胡の軍団を見つめ城を後にした。

 

 

 

その後、数刻ほど進軍すると一刀達は城に到着した。


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
31
3

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択